この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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この素晴らしいダンジョンに祝福を!
愛ある親に親愛を


 

 

 

「ドラゴンスレイヤーって呼ばれたい」

 

 

そう呟いたのは、昼過ぎに起きて来て、パジャマと化したジャージから着替えることなく朝食(時間的に昼食だが)を摂っているカズマさんである。

 

またですか…。と思ってしまうのは、つい先月頃に、カッコいい武器が欲しい。と呟いていた事を知っているからだ。

 

確かあの時は、魔剣クラスの性能を持つ大太刀を作るべく、ヘファイストス様の所へ赴き、材料調達のためにと深層に向かったのだ。

 

もちろんレベル3の私は、目的地である58層への同行を拒否しましたが、代わりに同行を買って出たティオナさん曰く、道中様々な事が起きたのだとか…。

 

……カズマさんの思い付きに付き合っていたら命が100個あっても足りませんよ。

 

そう思い、偶々ダイニングスペースに居合わせた私はその場から静かに離れようとするも

 

 

「よしレフィーヤ!ギルドに行くぞ!」

 

「うわぁ!…ぁぅ」

 

 

いつの間にか背後に忍び寄っていたカズマさんに抱っこされてしまう始末。

 

もう慣れっこです。

 

 

「ぅぅ。なんですか急に…。ていうか、カズマさんにはもう二つ名がありますよね?」

 

「そんなもの知りません」

 

 

あ、やっぱり下衆男(カスマさん)って二つ名は嫌なんですね。

てっきり受け入れているのかと…。

 

 

「でも、なんでギルドなんですか?」

 

「バカだなぁ、レフィーヤは」

 

「む…」

 

「まずはさ、ギルドの掲示板にドラゴン系モンスターの依頼書を貼り付けるわけよ」

 

「…はい」

 

「それでな?その討伐報奨に、二つ名、龍殺戦士(ドラゴンスレイヤー)を与えると付け加えるわけだ」

 

「え、つまり自らクエスト発注して、それを受注するわけですか?」

 

「うん」

 

「ただの自作自演じゃないですか!!それなら選挙カーにでも乗って名乗った方がまだマシですよ!!」

 

 

そんな私の抗議もどこ吹く風で、カズマさんは私を抱っこしたままホームを出て行く。

 

街中ではいい加減下ろして欲しいものですが、もう何を言ってもダメなので諦めることにします。

 

 

「やぁカズマさん、今日も子供を捕まえたのかい?」

 

なんですか。今日も子供を捕まえたって…。

 

「お、カズマじゃねえか。キャバクラの件はどうなったんだ?」

 

きゃ、きゃばくら?

 

「あらレフィーヤちゃん、カズマさんとお出かけ?仲が良いのねぇ」

 

これのどこが仲良しに見えるんですか?

明らかに拉致ですよ。

 

 

そんな風に街を歩きながら住民と何気ない会話をするカズマさん。

 

その光景に、内容云々は別として、彼は本当にオラリオの顔になりつつあるんだなぁ、と実感させられる。

 

少し前までは私よりも貧弱なレベル1だったのに、もはや背中すら見えない程に遠くへ行ってしまったものだ。

 

リヴェリア様曰く、カズマさんの実力は底が知れないらしい。

と言うのも、コボルトやゴブリン等の浅層で出くわすモンスターには一方的に負かされる癖に、深層に蔓延る恐ろしいモンスターなら片手間に倒してしまうから。

 

底が知れないって言うより、意味が分からない…。

 

 

「む?ギルドが騒がしいな」

 

「?」

 

 

すると、そんな私の考えを遮るようにカズマさんがポツリと呟いた。

 

カズマさんの言う通りに、ギルドには普段の数倍の人数は居るであろう冒険者が詰め寄り、入り口までをもその喧騒が支配していた。

 

 

「なんだなんだ?祭りでも始まるのか?」

 

「そんなわけないじゃないですか。ていうか、千里眼で人混みの奥を見てみてくださいよ」

 

「バカか。俺のエロティカル・アイはこんな所で使うようなスキルじゃない」

 

 

はいはいそうですね。

そのスキルが活用されるのは浴場と脱衣所だけですもんね。

 

私は呆れながらも、仕方なく雑踏の最後尾に居た冒険者に話を聞く。

 

 

「あの、何かあったんですか?」

 

「あ?千の妖精じゃねえか。…いやな、中でロイマンがーーーー」

 

 

ーーー曰く。

 

とある緊急クエストが発注され、そのクエストに関することで、各ファミリアの団長や副団長クラスの冒険者達が詳細についてロイマンさんから話を求めているらしい。

 

…緊急クエスト?

 

最近多いですね。

 

 

「おいおい、何だってこんな日に限って緊急クエストなんかが発令してんだよ」

 

「仕方ないじゃないですか。緊急なんですから」

 

「ロイマンの奴に文句言ってやる。レフィーヤ、魔法でこの人混みを消し炭にしてやれ。あのビームみたいな魔法で」

 

「アルクス・レイです!ていうか!こんな人混みの中に魔法を撃ったら大問題ですよ!!」

 

「おらぁぁぁ!!万の妖精ことレフィーヤ様が詠唱の準備を始めたぞボケぇぇ!!おまえら道を開けろぉぉぉ!!!」

 

「ま、万!?あ、違います!違いますぅぅ!う、撃ちませんよぉぉ!!」

 

 

 

 

ーーーで。

 

モーゼの十戒を歩いてギルド内に辿り着くや、そこには見覚えのある顔が。

 

 

「あれ?フィン、リヴェリア。おまえらもこの群衆に混ざってたの?」

 

「はぁ、外の喧騒が増したと思ったら…、やっぱりカズマか」

 

「何があったんだ?こんだけの冒険者が集まるなんて珍しいな」

 

 

呆れたように溜息を吐く団長とリヴェリア様。

 

私はペコペコと周囲に頭を下げながらも、事情を求められた団長の話に耳を傾ける。

 

 

「前代未聞の緊急クエストが発令されたのさ。その話を聞くためにこうして皆んなが集まった。…まぁ、詳細については彼に今から聞くんだけどね」

 

 

と、団長が指した人物は、苦い表情を浮かべながらもその話のバタンを受け取った。

 

 

「偏屈エルフの銭金ロイマンじゃん。なに?おまえまたウラノスに脅されて変なクエストを発令したの?」

 

「か、カズマさん…、公でウラノス様の悪評を流さないでくれまいか?」

 

「どっちにしろ、おまえが出張ってるってことはただ事じゃないんだろ?」

 

「っ!」

 

 

カズマさんの言葉に、ロイマンは冷や汗を流しながら口を結ぶ。

 

冷徹石頭なロイマンと名高い彼が、こうも取り乱すのは珍しい。

 

その姿を見るや、彼を囲って居た大勢の冒険者達も固唾を飲んで話の続きに耳を傾ける。

 

 

「…う、ウラノス様からの言伝だ…。皆、心して聞くように…」

 

 

 

そして、彼の仰々しい言葉は重力を加速させるように。

 

 

聞いたものの背筋を凍らせるような言葉と共に放たれた。

 

 

 

「…アクシズ教徒がオラリオに攻め入るとの情報を得た」

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 

アクシズ教徒がオラリオに攻め入る。

 

俺はロイマンの言葉を聞き、そんな事かよ、と腐そうとするも、周囲からダダ漏れる恐怖と忌々しさの空気に口を閉じる。

 

なんだ?アクシズ教徒が攻めて来るとどうなるってんだよ…?

 

アクシズ教徒ってのはアレだろ?

 

アクアを信仰してるとか言う頭のイカれた奴ら。

 

俺は疑問を解決するべくロイマンに問いかける。

 

 

「それが何だってんだよ?アクシズ教徒なんて全員吹っ飛ばせいいだけだろ?」

 

「……っ」

 

 

ロイマンどころか誰も答えない。

 

フィンやリヴェリアさえも俺から目を逸らして黙りこくる始末だ。

 

ロイマンを取り囲む冒険者達は高レベルの冒険者にも関わらず、俺の意見に賛同する者は居なかった。

 

 

すると、その重苦しい空気を遮るようなエセ関西弁が、雑踏を掻き分け俺の元へと届く。

 

 

「…ヤバいのはアクシズ教徒の呪いや」

 

「ロキ…」

 

 

ロキは俺たちの間をすり抜け、ロイマンと対面するように立つと

 

 

「ギルドは誰でもええから()()()()の人柱になれって言うてるんやろ?」

 

「…っ」

 

 

呪いという単語にきな臭さを感じる。

 

ましてやロキが言うと尚更。

 

こいつ、偶に真面目な顔してフザケタ事を言うからなぁ…。

 

俺はそんなロキに対して、呪いについて伺うべく声を掛けた。

 

 

「おいロキ。その呪いってのはなんなんだよ?突然出てきて呪いだとか人柱だとか、思わずクスっとしちゃうから辞めろよなぁ」

 

「ま、マジな話や!!誰かこのクズにあの話を聞かせてやり!!」

 

 

ムキーっと目を見開き、ロキは例の如く俺をクズと呼ぶ。

 

そんなロキと俺のやり取りを見て、リヴェリアが静かに語り出した。

 

 

「アクシズ教徒の呪いは、この街に伝わる三大クエストの一つに数えられている」

 

「三大クエスト?」

 

「破壊神話、ダイダロス迷宮の謎、そして、アクシズ教徒の呪いだ」

 

 

な、なんだその厨二心を擽ぐるクエストは…。

破壊神話とか迷宮の謎とか格好良すぎだろ。

 

 

「中でも、アクシズ教徒の呪いだけは他のクエストとも一線描く恐ろしさを持つ。と言うのもーーーー」

 

 

ーーーー

 

昔、オラリオには2つのファミリアがあった。

 

ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアだ。

 

乱世の現代とは少しばかり平和なオラリオで、この二大ファミリアは象徴として君臨していたのだが、その二大ファミリアが1つの派閥により壊滅することになる。

 

その派閥こそがアクシズ教徒である。

 

悪魔的に狡猾なアクシズ教徒は、信仰者を増やすために各ファミリアへ入団しては、内部で布教活動をする…、アクシズウイルスをばら撒いていたのだ。

 

アクシズウイルスの猛威は街中に蔓延り、いつしかアクシズ教徒は二大ファミリアに並ぶ、第三の派閥までへと成長してしまった。

 

熱狂的なまでの信仰者に街の住人は困らされ、挙句、オラリオを離れていく。

 

ダンジョンに蓋をするべく建造されたバベルが立つ街で、住人や冒険者が減る事は死活問題だった

 

そこで立ち上がったのがゼウスとヘラ。

 

この2神が持つファミリアが合同して、アクシズ教徒を殲滅するべく計画を立てたのだ。

 

 

その計画は見事に成功。

 

 

次第に平和と活気を取り戻し始めるオラリオは、アクシズ教徒を根絶やしにした二大ファミリアの功績を称えた。

 

ダンジョンへ赴く冒険者は増え、成長し、後世を育てる。

 

街は売商から鍛冶屋まで活気に満ちる。

 

そうしてオラリオの街は、全てが上手く回る筈だった。

 

 

ーーー筈だったのだ。

 

 

 

 

 

「アクシズウイルスの猛威は計り知れぬ。…どこぞで生き延びていた教徒が、()()()()()()()()()()()()()を覚ましてしまった」

 

 

 

そのモンスターこそが、ダンジョンの最深層で眠り続けると言われる伝説のモンスター。

 

 

黒龍である。

 

 

黒龍は長い眠りを妨げられ、自宅警備員の如く怒り散らした。

 

ダンジョンは荒れ、バベルは揺れ、オラリオは号砲に怯えた。

 

この強大なモンスターを倒せと言うのは酷な話だろう。

 

だがしかし、誰かが倒さねばこの街は、この世界は終わる。

 

そこで矢面に立たされたのが二大ファミリアであるゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアだ。

 

住人は彼ら彼女らを非難する。

 

アクシズ教徒に手を出したおまえらが悪い。

 

アレは呪いだ。アクシズ教徒の呪いだ。

 

と。

 

 

 

 

ーーーーー。

 

 

 

「お、おいおい、そんなアホな話があるのかよ?そもそも、そんな最深層に眠る黒龍を、アクシズ教徒の奴はどうやって起こしたってんだ?」

 

 

話を聞き終える前に、俺はほんの少しの恐怖心を抱きながらリヴェリアへ尋ねる。

 

 

「とある()()が目覚めの原因らしい…」

 

「は?金貨?」

 

「その金貨には、アクシズ教徒の祖である女神アクアが怨念を向ける()()が肖像されていると聞くが、その詳細は不明だ」

 

「………………」

 

 

……………………………。

 

あれ?

 

なんだろぉ〜。

 

なんだかその金貨に覚えがあるっていうか…。

 

すごく懐かしいというか…。

 

あ、あ、あ、あ、あれぇぇぇ!?

 

 

「金貨には女神アクアの怨念が込められている。その醜悪さにはモンスター達ですら近寄れない。持っているだけでモンスター除けの効果があるらしい」

 

 

はぁはぁはぁはぁ…。

 

あれ?か、か、過呼吸かな?

 

なんだかもう、この話の続きを聞きたくない!!

 

もう止めて!

 

帰ろうよ皆んな!!

 

 

「ロイマンよ。アクシズ教徒がオラリオに攻め入ると言ったな?……それはつまり、奴らは黒龍を目覚めさせると言う事か?」

 

「…あぁ。とある筋の…、いや、もう包み隠さず話そう。ヘルメス様からの情報によれば、奴らは少人数だが強気な姿勢を見せているらしい。…おそらく、恨めしく思うオラリオを陥れる策があると推測できるのだが…」

 

「その推測こそが、黒龍の目覚め…。奴らは金貨を所持していると言う事か…」

 

「…っ、金貨は間違いなく全てが抹消されたと伝えられている…っ!!奴らめ、どこに隠し持っていた…」

 

 

その言葉に静まるギルド内。

 

ざわめきすらも起きない現状が、事の深刻さを表しているような。

 

ただ、その深刻さにすら負けない深刻さを、今の俺は抱いている。

 

 

身体を震わせる俺を、ロキが不思議そうに見ていた。

 

 

「ん?カズマ、どないしてん?」

 

「…ロキ様、ちょっとお外でお話ししませんのこと?大事な話、まじで大事な話…」

 

「…?」

 

 

 

.

……

………

 

 

 

「全部僕のせいですごめんなさい」

 

「………は?」

 

 

誰も居ないギルドの裏へとロキを連れて行き、俺は地面を舐める程に頭を下げた。

 

その光景の意味を、その言動の真意を、ロキは何も分かってはいなそうだ。

 

ただ、俺は覚えている。

 

あの金貨を俺は()()()()()見せたことがある。

 

こちらの世界に転生してきた日、アクアが間違えて俺に与えた大量の謎金貨。

 

その金貨にはエリスと書かれ、ロキに聞いたところ、赤子の駄賃にもならないけったいな金貨だと。

 

あのエリス金貨こそが、黒龍を目覚めさせる金貨だと、俺は確信している。

 

そして、俺はあの金貨をーーー

 

 

ーーあの日、洞窟に全て捨ててきた。

 

 

事の顛末をロキに伝えると、例の金貨を思い出したのか、ロキはたじろぎながらも俺を睨みつける。

 

ごめん。本当にごめん。

 

俺がこの世界に来たばっかりに、その黒龍とか言うやばいモンスターを呼び起こしちゃう。

 

ぅ、うぅぅ…。

 

 

「ごめん…。俺がこの世界に転生してきたばっかりに…」

 

「…カズマ、頭を上げ。おまえが謝る事なんてあらへん」

 

「ふぇ?」

 

 

そんなロキの意外な言葉。

 

俺が涙目ながらも不思議そうにロキを見つめていると、ロキはニカっと笑いながら、そんな俺に手を差し伸べる。

 

 

「これは神の不始末や。おまえがこっちに転生してきたのも、あの金貨がアクシズ教徒の手に回ったのも、全部全部ウチら神の導きなんよ。せやから、おまえが泣きながら謝ることやあらへん」

 

「…っ、ろ、ロキ…」

 

「あんまり寂しいこと言うなや。おまえがこの世界に転生してきてくれたおかげ、オラリオは少し明るくなった。アイズは笑うようになった。レフィーヤも塞ぎ込まなくなった。全部カズマのおかげなんやで?」

 

 

優しく、暖かく。

 

柔和なロキの手が、俺の涙目をそっと拭う。

 

そっと彼女が笑うと、()()()()()()を覚えているか?と問い掛けてくる。

 

あの日……、俺がアイズと決闘して気絶させた日に、ロキと深層探索への許可の代わりに交わした約束。

 

随分と懐かしい話だと思いながらも、まだあの日から1年も経っていないことに気がついた。

 

 

そして、ロキは俺を見つめながら

 

 

 

「死ぬ気で守れ。アイズの事も、みんなの事も…、自分自身の事もな。……ウチとの約束や。破んなよ?」

 

 

 

 

 

 

 





最終章!!!!!!!

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