この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

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いつも心に虹色を

 

 

 

 

『ギャァァァぁぁぁぁっっっ!!!』

 

 

黒龍の号砲がダンジョンを揺らした。

 

まるで俺の正気を奪い去るような威圧感も、()()()には毛を逆立てた子猫がにゃーにゃー泣いてる程度の威嚇にしか思えない。

 

体の震えは武者震いだ…。

 

喉の渇きは血に飢えているだけ。

 

思い出せ。絞り出せ。生れ変れ…っ!!

 

この世界はゲームも漫画も無ければネットも繋がっていないクソ世界だ。

ただ一つ、この世界に残された狂気の娯楽。

それこそが最強にして最恐の理りじゃねえか!!

怖いもんなんて何も無い!

怖いのは自分が自分を恥じる事だ!

 

だから俺は…っ!

 

だから俺は貫くぞ!!

 

世界から弾き出された異端児であろうと、俺には誰にも負けぬ恐れない力があるんだからなぁぁぁあああ!!!

 

 

「最高じゃねえか…。最高に面白ぇよ!!見渡す限りの異世界も!美人剣士もケモミミも!バカでけぇドラゴンだって……っ」

 

 

俺が望んだ異世界転生物語。

 

願望は枯渇しない。

 

夢にまで見たシチュエーションだろうが。

 

 

「夢にまで見た厨二世界だ!教えてやるよドラ公!厨二病ってのは世界をも打ち壊すんだぁぁぁーーー!!!」

 

 

黒龍は金の鎧を持って、俺の攻撃を全て無効に弾き返す。

その装甲の硬さたるやデストロイヤーをも凌ぐだろう。

 

ただ、デストロイヤーと違って黒龍は生物だ。

 

 

『ギャァァァーーーッ』

 

 

抱合と共に向かい来る黒龍をなんとか避けつつ、俺は数多の魔剣で迎撃を行う。

もちろんその攻撃は目に見える効果が無い。

 

 

「っ!くっそっ!ぬおらおらおら!!」

 

 

基礎体力の無さが恨めしい。

無論、それを今更恨んだところで解決するものでもないのだが。

 

ジリ貧だが策はある。

 

まさか、小銭稼ぎのために作っておいた()()が役に立つとはな…。

 

 

「…はぁはぁっ…、攻略法のないゲームなんてのはないはずだ。都合良く仮説が立証されてこその異世界だろうが!!」

 

避ける逃げる、たまに攻撃をする。

そんな単純作業もクソゲーならではだぜ。

 

ただ、俺は勝機を見逃さない。

 

人間様に…、この俺に楯突いたことを後悔させてやるよ!!

 

 

そして黒龍が大きく口を開き火炎を放とうとしたときにーーーーー

 

 

「キタァァァーーーっ!とっておきの秘密兵器(仮)を食らわせてやるーーー!!」

 

 

俺は咄嗟にポケットへ手を入れる。

 

取り出したのは禍々しく光るとある物。

 

教えてやるよクソドラゴン。

俺の知ってるクソゲーってのは、案外初期の段階で、ラスボスを倒すための軌跡を残してくれるんだ。

 

ルートは外れない。

 

俺の攻略法こそが、この世界の導きだ。

 

 

「どぉぉらぁぁぁ!飲み込めドラ公ぉぉぉー!!!」

 

 

ピョーンっと放物線を描いて投げつけたソレは、キラキラと光ながら黒龍の口の中へ。

 

 

『ギャァァァーーーッ!!!』

 

 

が、それを意に返すこともなく、やはり火炎を生み出す黒龍に向かい、俺は逃げる事をやめて笑みを飛ばした。

 

 

「…ははっ…。…っ、フゥワァッハッハッハッ!!慄けドラ公!!このマッドサイエンティスト鳳凰院カズマ様の機転に!!!」

 

 

黒龍の口元に溢れ出た火炎の灯火が、淡く弱火へと変わっていく。

 

それを不思議がるような見えるのは気のせいだろうが、尚も黒龍の口からは火炎が放たれない。

それどころか、動きが鈍く、飛ぶために羽を揺らす事さえも億劫そうだ。

 

 

「…飲み込ませたのは()()()のアクセサリーだ。そのでけぇ口から、今頃体内に入っていってる事だろうよ」

 

 

ドラゴンの体内構造なんて知らんが、その黒曜石が体内にある火炎袋にでも届いてくれるなら効果はあるはず。

いや、もはや火を噴く素ぶりすら見せないことから、それは効果抜群だったのだろう。

 

 

「……黒曜石は加熱されると含有した水分が発砲する…、炎を生み出す体内の熱で発砲した水分が、おまえの腹ん中で膨らんでるはずだ!」

 

 

体内で生まれた水分に重みを感じるのは生物の弱点だ。

腹がいっぱいならドラゴンだって動きは鈍るし、水で膨れたなら火炎だって放てない。

普段から何を食ってるの分からねえが、黒曜石を食ったのは初めてだろう。

 

やがて、黒龍は飛ぶのをやめて地面へ足を付けた。

 

だがしかし、尚も戦気を失わずに威嚇を続ける。それは俺ごときの小さな生物ならば、飛ばずして、炎を生み出さずして倒せると、本能が告げているからだろう。

 

 

ははっ。舐められたもんだぜ。

 

逃げるなり負けを認めるなりして巣へ帰れば許してやったのに…。

 

あーあー、逃したね。チャンスを。

 

まぁね?その姿勢は評価するよ?

 

でもさ、往生際が悪いんじゃない?

 

……。

 

 

「…ドローでいいよ。今日の戦いは。だから帰って。……巣に帰って!!」

 

『グルルルルルゥゥ…。フゥフゥ』

 

 

魔剣の残りは数本。

 

ダイナマイトに至っては残り0。

 

そして、相変わらず崩せない金色に輝くクソ硬い皮膚……。

 

 

「…も、もうお腹痛くて帰りたいだろ!?やめようぜ、へへっ。ほら帰れって」

 

『ギャァァァーーーッ!!!!』

 

「ひっ!?」

 

 

ば、ば、ば…、万策尽きたーーーーー!!!

 

この後はどうすんだ!?

 

動きは鈍いし火は出せないって言っても、俺にはもはや攻撃の手段が無い!

 

残り少ない魔剣で特攻を仕掛けたところでその皮膚に弾かれるだけだし!!

 

 

『グルルルルル……』

 

 

そんな慌てふためく俺を見て、黒龍がニヤリと笑った。ーーー気がした。

 

そして、何かを発奮するかのような雄叫び。

 

 

『ギャァァァーーーァァァァァ!!!!」

 

 

同時に、黒龍の皮膚を纏っていた金色の装甲がゆっけりと剥がれ落ちる。

 

それは星が空から降るような、幻想的な輝きと光景を残して。

 

 

「ひゃぁぁぁぁ!!?」

 

 

光の雨が止み、纏った金が全て落ちたとき、黒龍は本物の黒の龍と成り得て羽を羽ばたいた。

 

か、か、身体が軽くなったんすね。

 

あははー、お空飛んでるーー。

 

と、と、飛んでりゅぅぅー!?!?

 

 

「ちょっ!待って!うわっ!?」

 

 

身軽になった黒龍は、闇をも切り裂く黒色の皮膚を露わに、俺へ向かって体当たりを繰り返す。

 

まだ火炎は放てないのだろうが、空を飛ぶ巨体から逃れる他に術が無い。

 

 

「バカおまっ!ちょぉぉぉぉっ!?」

 

 

悪運が尽きた。

 

今まで避けれていたのが奇跡だったのだ。

 

もはや俺の身体は逃げるための体力を使い果たし、身軽になった黒龍の羽ばたきに冷や汗を流すだけ。

 

 

それを知ってか、黒龍も勝機を焦らずにゆるりと高く舞い上がる。

 

 

ちっぽけな存在に鋭い狙いを付けて、黒龍は力強く羽を広げた。

 

 

『ギャァァァーーーッ!!!』

 

 

そして、垂直降下で俺へ向かう黒龍は、その勢いを殺す事なくーーーーーー

 

 

ドォォォん!!!

 

 

……死んだ。俺死んだ!

 

これで何度目だよ!?

 

もう何回死んだのかすら覚えてないわ!!

 

あぁ、でも。今回の死はちょっと違うな。

 

暗闇の中なのにどこか暖かい。

 

ふんわりとした甘い香りと柔らかい布に包まれているようなーーーーー。

 

そんな感じ。

 

……ごめんな。倒せなくて。

 

今度はちゃんとやるからさ。

 

こんなやり切れない死に方をしないように、次の人生はちゃんとやるから。

 

その期待に満ちた瞳に恥じないように、強くなるから…。

 

 

ーーーカズマ

 

 

…アイズ、みんな…、ごめん…。

 

 

ーーカズマ。

 

 

あぁ、ちょっとカッコ良い死に方かも。

次に生まれ変わったら、この記憶を小説に残そう。

ライトノベルとかなら売れるだろ。

 

 

ーカズマ。

 

 

……この後はどうすんだ?

早く迎えに来てよ女神様。

アクアならチェンジだけどな。

 

 

カズマ…。

 

 

「……へへ、エリス様早よ。いや、エリスティーナ!!」

 

 

「カズマ…!!」

 

 

「うぇっ!?」

 

 

「目、開けて…」

 

 

瞳を捲っていた瞼を開けると、そこに映ったのは金糸をなびかせ優しく笑う幼い笑顔。

その暖かさが肌から伝わり、以前に繋いだアイズの手の体温を思い出させる。

 

アイズだ。

 

なんだコイツ。

女神にジョブチェンジしたのか?

 

てか、まつ毛長っ…。

 

 

 

 

「…助けに、来たよ。…私の英雄様」

 

 

 

「エリス様にチェンジ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 


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