この素晴らしいダンジョンに祝福を!   作:ルコ

37 / 38
英雄の力に永遠を

 

 

 

 

 

 

辺りは静かだった。

 

時折聞こえる暴音と地響きを除いては。

 

深層にはモンスターの影が無く、残されたダンジョンと言う箱には何も無い。

 

進めば進むほど、聞こえる轟音が強くなる。

 

きっと、カズマは一人で戦っているんだ。

 

伝説とまで呼ばれる黒龍に、カズマは一人で挑んでいるんだ。

 

誰にも臆さず浮かべる笑み。

 

モンスターを諸共せずになぎ倒す強さ。

 

年相応にふやける表情。

 

小さな背中。

 

全部、全部カズマの物だ。

 

 

その全てを私たちのために、街のために捨てようとするカズマを誰が責められるのだろうか。

 

いや、責める者など居ない。

 

だからこうして、私は歩みを進めているのだから。

 

 

今度は私が、私たちが…。

 

 

あなたを助けるの。

 

 

 

 

 

.

……

…………

 

 

 

 

 

「ボロボロだね。カズマ」

 

「…は?これファッションだからね?ダメージジーンズって知らないの?」

 

「ぷーくすくす…。そうやって強がる…。私たちが来て安心してるくせに…」

 

 

先程までの激闘が嘘であったかのように、アイズの笑みに暖かさを感じる。

 

まるで身体の奥から芯を貫く硬い何かが抜けていくように、砕けた腰に耐え切れず、俺は地べたに尻餅を着いた。

 

 

「…ふん。なんだよ、おまえら。揃って着いて来ちゃってさ」

 

「ふふ。そう言うな。おまえが我々を想ってくれているように、我々もおまえを想っているのだ」

 

「……あっそ」

 

 

リヴェリアの癖に偉そうだ。

ギャグ要員がのこのこ着いて来やがって。

フィンもガレスもエロ姉妹もベートも、揃って着いて来ちゃって……。

 

べ、別に感動とかしてないからな!?

 

 

「それにしても、まさか黒龍が本当に存在したとはね…。この様子じゃカズマのエクスプロージョンも大きな効果は無かったようだ」

 

 

フィンが破壊し尽くされたダンジョン内を眺めながら槍を構える。

 

 

「ふむ。我々エルフ族の始祖が言うに、黒龍の皮膚は禍々しい闇の色に包まれている聞いていたが、本当のようだな…」

 

「…いや、最初は金色の皮膚だったからな?」

 

「むむ。…き、気をつけよ皆!奴は街をも焼き尽くす火炎を放つと聞く!!」

 

「もう火は吹かないからね?」

 

「む!?」

 

 

もう下がってろおまえ。

さて、がん首そろえてロキ・ファミリアの面々が揃ったわけだが、目の前で怒気を放つ黒龍の脅威は尚として無くなってはいない。

 

 

「…っ、フィン…。おまえが全員に吹聴したのか?」

 

「ふふ。僕は何も言っていないよ。ただ、あの日の夜に、皆んなも君の話を聞いていたみたいだ」

 

「…はぁ。死にに来たわけじゃないんだろ?何か策は…」

 

「ないよ」

 

「………は?」

 

「策は無い」

 

 

……バカが増えた。

フィンくんさぁ、昔は出来る子だったじゃぁん。

リヴェリアのバカが移っちゃてるよー。

 

 

「策は無くとも君がいる。カズマこそが僕らの策だ」

 

「怪物の方のロナウドかよ…。言っちゃアレだが、俺はもう万策尽きたわけで…」

 

万策尽きたーー!と頭を抱えて天をみあげるレベル尽きている。

俺が立ち向かうには強大すぎるモンスターを相手に、俺の力は遠く及ばなかったのだ。

 

俺が立ち向かうにはーーー

 

「……まぁ、万策ってのは俺がソロで戦うために考えたものであって…」

 

「ふむふむ?なんだい?」

 

「…。いやだからさ、まぁ、ソロでは限界があるってのはネトゲの常識じゃんか?」

 

「なるほどね。それで?」

 

「くっ!クソチビ勇者!!察しろよな!?言わせんなよ恥ずかしい!!」

 

「言ってくれなきゃ分からないんだよ」

 

そう言いながら、笑みを絶やさないフィンが俺の瞳を正面から見据える。

黒龍を前に随分と余裕なものだと笑ってやっても良かった。

だが、そんな状況にも関わらず、減らず口を叩いては顔を赤くする俺の姿も滑稽に映るだろう。

 

策はある。

 

俺だけじゃ無理だけど。

 

おまえらが居るなら。

 

「…っ。俺は…、英雄にはなれない…」

 

「…ああ」

 

「自分よりも強い敵を倒すことすら出来ない俺に、英雄を名乗る資格なんてないんだ」

 

小さくも振り絞られる言葉に、その場にいた全員がうっすらと微笑んだ。

 

以前にも言ったことがあるだろ?

 

俺に英雄を抱え込む器なんてものは無い。

 

力が足りない。

 

勇気が足りない。

 

知恵が足りない。

 

英雄になるべくして持つ能力が、俺には何一つとして足りていないんだ。

 

だからーーーー

 

 

「…助けてくれ。おまえらの力が必要なんだ」

 

 

ーー仲間が居るんだ。

 

立ち上がることさえ億劫な身体を震わせながら、俺はフィンを見据えて、いや、全員を見据えて顔を上げた。

 

 

「…っ。倒すぞっ!あのクソチートモンスターを!英雄は居ないがーーーー」

 

 

俺がいる!!!

 

 

 

「…私も居るよ。カズマ。…みんな居る。だからきっと倒せる」

 

 

アイズのどこか嬉しそうな声。

いつもいつも期待しやがって。

期待される身にもなれってんだ。

 

今日だけだ。

 

今日だけ、俺はその期待に応えてやる。

 

 

「リヴェリア!ガレス!物理攻撃への防御魔法を唱えろ!」

 

 

走り出せ。

 

災害すらをも超える黒龍の力を屈服させるために。

千里眼を使えば直ぐに黒龍の弱点は分かった。

胸元に光る魔力の供給源。

もちろん、ただ攻撃しても強固な皮膚に防がれるだけだ。

 

 

「フィン!ベート!黒龍を引き付けろ!」

 

 

誰も知らない未来

飛び込んだその時に

 

何があるのかなんて分からない。

ただ黙って頷き、俺の策に乗ってくれるバカ共は、やはり自信に満ちた笑みを浮かべて黒龍へ立ち回った。

 

俺は直ぐ様に詠唱へ取り掛かる。

 

仮定が確信に変わる。

 

黒龍の目覚めは必然だった。

 

元凶が俺なら倒すのも俺。

 

 

「ティオナ!ティオネ!黒龍から距離を取りつつ援護を!!」

 

 

輝いたアイツの瞳を感じた

 

俺の意図を読み取っているかのように彼女はーー、アイズは俺の横に並ぶ。

 

「…カズマ。黒龍を倒したら、また明日が来るの」

 

「ん。そうだな」

 

「いつもと変わらない、素晴らしい明日が」

 

モンスターが生まれる地下ダンジョンを中心に据えた街で、素晴らしい明日もクソもないだろうに。

 

だが、このモンスターを倒せば、多少なりとも明日からの日々は変化するように感じる。

 

 

「…この詠唱はあまり唱えたくなかったが、止む終えん…」

 

 

愛する神に謝罪を送る。

 

死地へと誘う黒龍への唯一にして最後の策。

 

黒龍を目覚めさした原因は何だ?

 

()()に潜む邪悪な神力だろ!!

 

黒龍は、あの邪悪な神力を嫌がり、本能から暴れだしたんだ。

 

 

ーーーアクシズ教徒はやればできる

 

上手くいかなくても、それは貴方のせいではない

 

上手くいかないのは世間が悪い

 

嫌なことから逃げればいい

 

逃げることは負けじゃない

 

逃げるが勝ちという言葉があるのだから

 

迷った末に出した答えは、どちらを選んでも後悔するもの

 

どうせ後悔するなら楽な方を選びなさい

 

未来の貴方が笑っているのかは神ですらわからない

 

ならば!!

 

 

「今だけでも笑っておけぇぇ!!!」

 

 

時間をかけた詠唱は、光となって俺の右腕を包み込む。

その光は、先の破壊神話(デストロイヤー)戦で見せたる神の右手(ゴッドブロー)の比ではない。

 

アクアの神力から生まれたあの金貨が、数千年もの眠りを妨げた。

 

なあ黒龍。

 

おまえ、この力が嫌いなんだろ?

 

この、アクアだけが持つ邪神力がよぉぉぉ!!

 

 

リヴェリア達の守りもあって長い詠唱も終えた。

 

フィン達のおかげで隙もある。

 

今なら必殺のコイツをおまえに叩き込める。

 

 

「アイズ!!」

 

「テンペスト……!」

 

 

風の力が俺に付与する。

 

俺は風の如く駆け出すや、フィン達に応戦する黒龍へと近寄りーーーー

 

 

「このくそふざけた素晴らしい世界で!!俺が祝福を与えてやらぁぁぁ!!!」

 

 

黒龍が俺の接近に気がつくも、それは時すでに遅し。

 

 

風の力で加速した俺は、黒龍の胸元に潜り込みーーー

 

 

「エリスの胸はパッドいり…….。…行くぞっ!!ーーーー

 

 

 

 

 

英雄の右手(ゴッド レクイエム)ーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。