みんなで叶える「鬼の」物語   作:ベイシア太郎

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まだ変身しませんでした。まだ拙さの残る文章失礼します。


一之巻:崩れる日々

「穂乃果ちゃんお疲れ様にゃ!」

「ち、ちょっと凛ちゃん、生徒会室に入るときはノックしなきゃダメだよ」

 

 入学式を無事に終え生徒会室に戻ると、星空凛と小泉花陽がやってきた。μ'sは解散してしまったが、スクールアイドル部は健在で、花陽は部長を務めている。新年度に入ってから、会う機会が極端に減ってしまっていたが、それでもこうして定期的に顔を出してくれるのは嬉しいものがある。もっとも立場上は不法侵入者のため、海未に追い出されるのが恒例になってしまっているのだが。

 

「ありがとう二人とも!」

「おや?真姫の姿が見えませんがどうかしたのですか?」

「なんか理事長のところに行くって」

 

 しかし今日はいつもと違い、μ'sの後輩メンバーそろい踏み、というわけではなかった。作曲を担当していた西木野真姫。スクールアイドルの活動の影響もあってか、少しずつではあるが学園になじみ、友達も増えているらしい。

 

「お母さんのところに?」

「本当は3人で来るつもりだったんだけど…急に駆け出して行っちゃって…」

「少し心配だにゃ」

 

 突然ことりの携帯が鳴る。

 

「えっと…お母さん?」

「う、噂をすれば、ですね」

「待ってください。変ではないですか?ここは校内ですし、普通は放送を用いるはずです」

 

 頭に浮かぶハテナマーク。μ'sは幾度となく理事長室に呼び出されてきたが、それらは海未の言った通り放送によるものであった。どうして今日に限って?ここにいる誰もがそう思ったが、真姫が理事長室に行ったのと関係があるかもしれない。一抹の不安を残したまま、画面を通話に切り替える。

 

「もしもし?」

『こ、ことり!今すぐ理事長室に』

『ちょっと、逃げるんじゃないわよ!あんたのせいでこんなことになってるんでしょ!!』

『に、西木野さん、お願いだから少し落ち着いて…!』

『…ちょうどいいわ。ことり、皆そこにいるわね?全員ここに連れてきて』

 

 電話が切れた。普段冷静な真姫が、電話越しでもわかるくらいに感情を露わにしている。つまりただ事ではないということだけは、即座に理解することが出来た。

 

「行こうみんな」

「し、しかしHRが始まってしまいます。新学期早々これでは…」

「ごめん海未ちゃん。穂乃果、あんな真姫ちゃんを放っておくことなんてできないよ」

 

 こんな穂乃果の表情を見たのはいつぶりだろう、と海未はこの時思った。確かあれは、最初のライブの時だった。誰もいなかった講堂、あきらめかけていた私たち。そこに凛や花陽が駆けつけてきてくれて…そこで見た、決意の表情があった。いつだってそうだった、穂乃果が「やろう」と言うだけで、私たちも一緒に強くなれた気がした。穂乃果から、また何かが始まる瞬間に私たちはいるのだろうと、海未は半ば自嘲気味に自分を納得させた。

 

「きっと、理事長に呼ばれてたって言えば、先生も許してくれるはずにゃ!」

「そうです!今はとにかく真姫ちゃんのところに」

 

 走り出す。もう今ここにいる6人が、同じ道を進むことは無いと思っていた。でもそれは勝手な思い違いだったようだ。みんながみんな変わらずに、こうしてメンバーのことを思っている。

 

「だって物語《パーティー》終わらない、ですか」

 

 以前はただ恥ずかしいだけであったはずの詩は、今ではそれぞれが思い出の結晶、μ'sの歌となって私たちの背中を押してくれている。思わず口ずさんでしまう程度には、誇りを感じていた。風を切って走る肌に、まだ冬の冷たさをはらんだ風が触れた。

 

「失礼します」

 

ノックも挨拶もなしに中に入る。大体予想通りの惨状、今にも喉元にかみつきそうな勢いで理事長に掴みかかる後輩の姿が、そこにはあった。

 

「真姫ちゃん!」

「かよちんそっちおさえて!」

 凛、花陽が真姫を羽交い絞めにする。

「凛たちは一回外に出て、真姫ちゃんに話を聞くから」

「真姫ちゃん、何でこんなこと…」

「花陽、それにみんなも…。来てくれてよかったわ、もう少し遅かったら、わたしは…」

 

 少し落ち着きを取り戻した真姫は、ばつが悪そうに呟く。

 

「真姫ちゃん、お母さんが一体何をしたの?」

「…ほら、あんたの口から言いなさいよ」

 

 そういって理事長を一瞥し、部屋から出て行った。友人の母親に掴みかかるなど、常識人であるはずの真姫には考えられない異常事態である。何か必ず理由があると、当然思っていた。しかし理事長の口から告げられた理由は、あまりにも唐突で、残酷なものであった。

 

「高坂穂乃果さん」

「は、はい!」

「あなたのお父さんの怪我は、私に責任があるわ」

「…え?」

 

 実は穂乃果自身、父親の怪我の原因は分からなかった。病院も母親も教えてくれなかったからだ。しかし穂乃果の父親は、寡黙なうえに裏での仕事が主の職人であるため分かりにくいが、心身ともに健康で、なかなかに筋肉質であった。おいそれと怪我などで入院するような人ではないと、実の娘である穂乃果も疑問に思っていた。

 

「どういうことですか?」

「私は、あなたのお父さんに無理をさせすぎてしまったの」

「話が見えません」

「ちょっと穂乃果」

「海未ちゃんは黙ってて」

 

 とはいえ入院してしまったことは事実だし、意識が戻っていないことも現実で起きたのだ。日頃の会話こそ少なかったが、穂乃果は父親を尊敬していたし、家族として愛していた。その家族がもしかしたらいなくなってしまうかもしれない。そう思ったときに、この不安と怒りを向けるべき相手は誰だ?無論、ここにいる犯人であるらしき人物。今の穂乃果に、正常な思考を保つことは不可能だった。

 

「穂乃果ちゃんごめんなさい!ことり何にもわからないけど、ごめんなさい!!」

 

 ことりはすでに大粒の涙をこぼして穂乃果に謝罪している。

 

「ことりちゃんは悪くないよ。きっと本当に何も知らなかったんだろうから。それに穂乃果は、ちゃんと理由が知りたいだけなんだ。どうしてお父さんがあんな風になったのか。お願いです理事長、ちゃんと教えてください」

「…はい。こうなってしまった以上、私は皆さんにすべてを話す責任があります。順を追って説明しますから、落ち着いて聞いてください」

 

 そういって理事長は、3人を応接間に案内し、話し始めた。

 

「皆さんは最近、新聞やニュースなどで、謎の行方不明事件、殺人事件が多数発生していることはご存知ですね。そしてその犯人は未だ捕まっていない」

「はい、私達生徒会にも、下校中は十分気を付けるよう通達されていますし、この前の全校集会でも、穂乃果が全校生徒に呼び掛けていましたね」

「残念ながら、この音ノ木坂学院の生徒にも、行方不明者が出てしまっています。警察もお手上げの状態です。その理由を私たちは知っています、魔化魍と呼ばれる一種の妖怪たちの仕業だからです」

 

 妖怪、そんな単語を聞くのは小学校の時にやった肝試し以来だ、なんてのんきなことを考えてみる。穂乃果はオカルトには疎いが、それを差し引いても、いきなり妖怪のせいだといわれて、そうなのねとはならない。普通はなるはずがない。

 

「彼らは人間ではありません。ごく普通の兵器では太刀打ちが出来ない。『清めの音』を発生させる兵器でないと魔化魍は倒せないのです。これを音撃と言い、その音撃を操る者のことを音撃戦士と言います。あなたのお父さんは、その音撃戦士だったのです」

 

 何を言っているのか分からない、これが一般人の正しい反応であろう。キヨメノオトとはいったいどこの国の言葉なのだろう、この平和な時代に戦士など、ヒーローごっこをする歳はもうとっくに過ぎている。なにより今まで自分の父親は和菓子職人であると信じて疑わなかった。当たり前である、一番身近に父親を見てきたのだから。その今まで積み上げてきた父親像が音を立てて崩れ去ろうとしている、それを自分自身が拒んでいるのが分かった。

 

「高坂さんの家である和菓子屋『穂むら』は仮の姿。音撃を研究し魔化魍から人間を守るために作られた組織『猛士』の関東支部が本当の姿なの。私はその中で王、指揮官を担当しているわ。そして今お父さんが入院している西木野総合病院、西木野さんのご両親も猛士の一員で」

「ちょっと待ってください、そんな話、簡単に信じられるわけないじゃないですか」

「穂乃果」

「海未ちゃんはどうして素直に受け入れられるの?お父さんの怪我の原因が聞けると思ったら、余計にわからなくなったんだよ?そんな漫画みたいな話、いきなりどう信じろっていうの!!」

 

 激昂する穂乃果、理事長室は、今まさに地獄絵図と化している。しかしその中で海未は、不思議と落ち着いていた。私には、穂乃果を納得させられる自信と理由があったから。

 

「私も、音撃戦士だからです」

 

 新たな物語の始まりは、あまりにも切なく、そして冷たく感じられた。

 




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