13の後ろの人々   作:gad

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Before Chapter 0 

 すべてはあっという間の出来事。当たり前だった日常。いつしか、当然と思っていた幸せな時間。それが失われていくのはたった一日で十分だった。

 

2020年、3月1日。東京都庁にマモノが出現。

 

同日、政府は特殊組織「ムラクモ機関」に全権を委任。

以後、対マモノに関する権限はムラクモ機関へと移る。

 

同日、午後3時。ムラクモ機関による機関員選抜試験を兼ねた魔物駆除作戦が始まる。

 

同日、午後5時、緊急事態発生。ドラゴン来襲。

 

同日、東京は壊滅した。

 

 

空をドラゴンが覆い、地をフロワロが埋め尽くす。人々にとって、テレビ越しであった理不尽な暴力が嵐のように、平和だった都市へ襲い掛かっていった。

 魔物に対抗する力を持たない一般人は、精一杯家族、友人を守り、逃げ惑った。自らの体を餌にして大事なわが子を守る親、傷ついた身体を必死で動かし必死に避難所へ人々を誘導する青年。そんな風景は東京のいたるところで見られた。

 人類は、できる限りの抵抗を行ったのだ。自衛隊が何とかしてくれるという希望もあった。そんな希望を胸に持ちながら必死の抵抗を続けていた人々。

 

 だが、その努力はドラゴンには通用しなかった。必死で逃げた先に次から次へと現れるドラゴン。人々を守る盾である自衛隊の壊滅の報。そして原因不明の頭痛、吐き気。

 

 体力を奪われ、希望も失い、人類は地下へと逃げ込むことしかできなかったのだ。

 

 それから2週間の時がたった。

 

 地下へ逃げ込んだ都民たちは、シェルターの物資を爪の先をともすように節約して、何とか生活を営んでいた。しかしムラクモが当初想定していた以上の人員が逃げ込んだため、半年間は耐えられるように準備されていた物資は1か月をめどに使い果たされるのではないかという勢いでなくなっていた。

 

 この現状を打破するために、生き残りの自衛隊と共同でムラクモ機関は、物資調達を行い、地上探索に出ていた。

 

 そして、この日も魔物が跋扈する外から、物資を調達するムラクモの作業員たちがいた。

 

「よっこらしょっと」

 

 フロワロの生い茂る地上から荷物を運んできた青年は、10箱もの食糧を軽々と持ち運んでいた。ふつうの人なら持てるはずがない重い荷物。見慣れた風景ではあるが、初めて見るものは、いつもあんぐりと口をあけてしまう。

 

「さすがはムラクモの作業員。この外でも自由に動けるのはさすがだよ、お疲れ」

 

 そんな彼を出迎えたのは、自衛隊のイコマ隊員。地下シェルターの前で防衛線をはる自衛隊の幹部隊員である。突然の襲来で予備の装備などあまり準備できていない中でも、必死で東京最後の拠点を守る自衛隊の生き残りだ。

 

「そんなことはない、さっきはやばかったよ、ラビの大群に囲まれてね。必死に逃げてきたよ」

 

 地下への階段を下りながら答える青年。その言葉の通り、ラビにかまれた跡と思われる傷がちらほらその体に残る。とんでもなく痛いであろうその傷をみてイコマ隊員は驚きを隠せない。

 

「いや、よくまあ無事だったな。これ普通だとやばいぞ」

 

「そうね、私はいなかったら危なかったはずよ」

 

 その時、彼を守ったと自慢げな声が階段に響いた。セーラー服にリボン結びの黒髪。ムラクモの作業員とも思えない格好であるが彼女も、その腕に5箱もの物資を抱えている。

 

「確かに助かったけど…、なんかレンに自慢されるのは気に食わないような気がするなあ」

 

「何よ、失礼ね。ウサギにかまれて死ぬよりはいいでしょ」

 

 「まあそうなんだけどさ。だけどレン、後で何か要求するにきまってるよね」

 軽口をたたきあう2人。作業班の中ではおなじみの光景であり、シェルター前の自衛隊はもはや呆れ顔である。

 

「レンちゃん、君も一緒に出ていたのか。というか、シュウとレンちゃんはそういや同じ20班だったな。となるとナツキさんもでたのか」

 

「もちろんです。私たちが頑張ってシェルターの物資を集めているから、都庁攻略は進んでいるんですから。」

 

 その言葉とともにレンの後ろから現れた女性は、レンとは打って変わってムラクモ作業服に身を包んだ長髪。他の作業員から「頑張る作業員」とあだ名をつけられている20班班長、ナツキである。彼女も腕に大量の物資を抱えている。

 彼女もまた、ラビやブルーグラスにつけられた傷が生々しい

 

「うん、本当にお疲れ。ここは俺たちが見ているから休んで来いよ。例の連中が目を覚まさない現状、あんたら20班がいなくなると困るからね。」

 

「おう、風呂がないからシャワーしかないけど、これを倉庫に置いたら、ちょっと休むよ」

 

 

 そう言葉を残して、20班たちはシェルターの中へと入っていった。傷だらけのはずなのだが、荷物を軽々運んでいく彼ら。そんな彼らの後姿を見て、自衛隊員の一人はつぶやいた。

「あんな化け物でもA級だってよ。S級ってどんな奴らなんだよ」

 

「さあ、ガトウさんやナガレさんぐらいとんでもない奴らなんだろうな」

 

 

 そう、彼ら20班はA級の才能を認められたムラクモ作業員である。

 A級とは、一般人の有する基礎能力を大きく超えた特異の才能を持つことである。だがS級の人材と比べ、その範囲が狭い。そのためA級と評されている。

 

 例えば、先ほど10箱の箱を運んでいたシュウは、敏捷性がAランク。手際がいいのでいろいろとちょこまかしたものが得意である。

 しかし。S級の人材のようにナイフを使ってマモノを翻弄することはできない。支給された銃で相手の急所を狙って撃つことしかできないのだ。しかもそんなに打たれ強くないので、接近されたら逃げ惑うしかない。S級ならば前線で戦い続ける才能があるのだが。

 

 そしてセーラー服のリン。彼女は超感覚がAクラス。つまり超能力者である。瞬時に温度をコントロールし、どんなものでも凍らせることができる。しかし、S級のように物を燃やしたり傷を治すことができるわけではない。

 

 そして、頑張る作業員・ナツキ。彼女は20班で唯一接近戦ができる身体能力がAランク。彼女が魔物と切りあっている最中に、後ろから2人が支援するのが20班の戦闘スタイルである。十分強く見えるのだが、S級の人材のように相手にやけどを負わせたり、特殊な抜刀術を使うことができるわけではない。

 

 このようにS級ではない彼ら。ドラゴンと戦うには力不足であり、また比較的若手の部類に入る彼らは、最初の襲来地点であり、シェルターに最も近い帝竜が陣取る都庁を攻略する実戦部隊ではなく、後方支援を担当しているのであった。

 

 

 

 そんな彼らに緊急の任務が入ってきたのは、ドラゴン襲来から3週間後。この食料調達から1週間がたってのことであった。

 

 

「あなたたち20班にお願いしたい事がある。大丈夫かしら」

 

その日、彼らはムラクモ総長、日暈棗から呼び出しを受けていた。ムラクモの旗が飾られ後ろには大きなモニターがある、現在の東京の中枢。そんなところに20班は呼び出しを受けたのだ。

 

 基本的に作業班は、作業班リーダーが総長から指示を受け、班のリーダーがその指示を作業班リーダーから受け取り、任務につく。

 しかし、このときは直接総長から呼び出しがかかったのだった。ただの作業班に対して、総長が任務を伝える。これはムラクモ総長に日暈棗がついてから一度もない事態、とんでもなく異例な事態であった。

 

「はい、どんな任務でもがんばります」

 

 そんな異例の指令に対して、ナツキは内容も聞かず、即答する。頑張る作業員の名に恥じないやる気をみなぎらせている。それがいいかはさておき、その回答に満足そうにうなずくナツメ総長。

 

「それはよかった。では指令を伝えます。現在、医療品の欠乏は深刻である域を超え、絶望的である、とムラクモの情報班は判断した。そこで、後方支援部隊のあなた方にお願いがあります。」

 

ここまではいつもの指令であった。だが、ここで棗の顔が引き締まる。

 

「新宿総合病院に突入。ドラゴンなどの脅威が多数確認されているエリアです。前線の維持に必要な医療物資が絶望的な現状、生還率の低い作戦ですが、成功できた場合のメリットは莫大です。やりなさい。」

 

 お願いという名の命令、それは危険地域の中でもトップクラスの任務。ドラゴンとの交戦もありうる地域での物資調達任務であった。先ほどまで、やる気満面の顔であったナツキの顔は一見変わっていないようだが、内心驚きに包まれていた。

 

「総長、支援体制はどのような形なのでしょうか?」

 

 黙りこくったリーダーの代わりに、シュウが総長に問いかける。彼もまた驚いてはいるたが、リーダーほど衝撃に包まれてはいなかった。不可能な指令を出すほどムラクモ機関はバカではないと信じていたからである。

 

「ええと、あなたは…、確かシュウさんでしたっけ。現状ドラゴン攻略に手いっぱいの今、そんなものが出せると思います?」

 

 しかし、そんな彼の信頼は棗の言葉によって打ち砕かれた。支援ゼロでドラゴンと交戦しろと言っているに等しいことである。しかし、まったくの支援ゼロというわけでもなかった。

 

「まあ自衛隊程度なら、支援部隊を出しても攻略には関係ありませんし。私から依頼は出しておきましょう。まあ、あなたたちのうち一人でも成功できたら、作戦としては大成功になるのですから。がんばってくださいね。」

 

 

 そう言葉を残し棗は司令室を出て行った。そこに残された三人。彼らの表情は、いつもと違って硬いままであった。、

 

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