幻想凍厳鄕 ~Home Spring~   作:B.O.A.

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第0話 「Lost Planet」

――遠い未来、宇宙の遥か彼方で――

 

 

 

 人類が自らの故郷(地球)を旅立って、どれ程の時間が過ぎたのだろうか。

 いや、その故郷(地球)すら、本当の意味で「故郷」ではない者達も少なくはないのだろう。

 今は文明は止め処なく進み、星を捨てて見果てぬ宇宙を旅する事も最早「稼ぎが良い仕事」の一つに数えられる時代。

 遠い昔に地平線の先を夢見た航海士や、彗星から欠片を持ち帰る事を「奇跡」と呼んだ科学者がいた、「未知への浪漫」に溢れたあの一時は既に過去の遺物に成り下がった。

 それでも尚、嘗ての「故郷」から悉くを絞り尽くした人類の欲望に底はなく、アスファルトに生える雑草の様に星々に根を下ろす節操の無さは、最早当の人類ですら歯止めが効かないのかも知れない。

 無数の辺境、廉価の未知、宇宙に光る星々はネオンの煌めきを艷々と示す。

 そこから手頃な星を見定めては、開拓し、資源を喰い潰し、用済みになる前に次の場所を見定める。

 最早それは「霊長の長」などと言った昔の姿とは程遠い、略奪と繁殖のみを繰り返す「寄生虫」の所業。

 或いは、故郷の環境から離れ、間違った進化をし続ける「癌細胞」といった所か。

 

 

 

 ならば、何時かこの宇宙すらも、人類は滅ぼすのだろうか。

 

 

 この始まり(終わり)は、きっとその答えに「希望」を残すものであっただろう。

 

 

 

 

 

 

・後実験年代A.T.12年、惑星「EDN-3rd」。

 

 

 

 地球より遥か彼方の星、其処で戦う「人間」が居た。

 無限に広がる宇宙に飛び出しても、数多の星から搾取しても、結局「人間」は戦っていた。

 確かにその中には、「現住生物(エイリアン)」の様な「障害」との生存競争も多くあっただろう。

 だがそれでも「人間同士で殺し合う」愚行を止められないのは、この時代による「平和」その物への最大の皮肉なのかもしれない。

 この星でもそうだった。

 入植を始めて既に20年は経とうとしているが、強靭な「現住生物」達よりも開拓組織を悩まさせるのは、専ら彼等から離反した「入植者」達だった。

 激動ではあったが四半世紀も経たない時の合間に、離反者達は地域差で複雑な社会を構成し始めており、その勢力は開拓組織にも勝るとも劣らないものであった。

 

 彼等は、嘗ては雪と氷で覆われていたこの星の環境を元に、「雪賊」と呼ばれる。

 今此処で、使い古したアサルトライフルを握る彼もまた、その一人であった。

 

――GPSからの信号を確認 衛星砲の照射システムにアクセス!――

 

 彼が聞いている通信は、遠く宇宙の彼方から通じるものだ。

 具体的には、「EDN-3rd」の衛星軌道上に浮かぶ巨大なレーザー砲の管制塔から発されたものだ。

 彼の所属する「雪賊」の兵器ではない。

 そもそも「雪賊」の勢力がどれだけあろうが、宇宙への通路を握っているのは「開拓組織」――この惑星では軍事企業「NEVEC」と呼ばれる――だけである。

 つまり、発信してきているのは本来は敵である筈の人間だ。

 それが何故、彼に対して兵器の稼働状況を、それも味方に伝えるように教えるのか。

 

 答えは、彼の「目の前」にある。

 

――カウントダウン! 5 4 3 2 1 ファイア!!――

 

 一言で言えば、()()は「星その物」だった。

 惑星の「現住生物」、呼称を「AK(エイクリッド)」とする「生命」、その全てを内包した存在だった。

 人間の概念で表現するなら「創世神」というべきか。

 膨大な「サーマルエナジー」――この星の生命活動の要とも言える資源――を取り込み、最早「生きるエネルギー体」となったその姿は、溶岩の様な光と熱量を放つ巨大なアメーバ(単細胞生物)としか言えない異形。

 自分が産まれた意味も、それが齎す「破滅」さえ知らず、本能すら有るのか分からない。

 赤子が空を掴むかのように伸ばした身体を蠢かせる、そこに今、衛星砲から大出力のレーザーが落とされた。

 

「……ッ!!」

 

 一瞬、全てが真っ赤に染まる。

 直後に、一瞬で膨張した空気が生んだ衝撃波に彼の身体は弾き飛ばされて、直後に背後にあった棘のような形状の物体に何とかしがみ付く。

 レーザーの照射は本当に一瞬だが、それでも1分は暴風が吹き荒れた気がした。

 

「弾着を確認。()()()()()()活動停止!」

 

 聞こえてきたのは、先程の声とは違うものだ。

 彼が後ろを振り向くと、全身を物々しい戦闘アーマーにフルフェイスヘルメットで包んだ兵士が通信機に叫んでいた。

 この兵士の所属は言わずもがな、軍事企業「NEVEC」である。

 実際は少々複雑な勢力図があるのだが、少なくとも今は、この兵士は彼の「味方」であるのは間違いない。

 兵士の脇には彼とはまた異なる「雪賊」が、「傭族」と呼ばれる「雪賊」に肩を貸している。

 当然彼等だけではない、此処には少なくとも4つの勢力が集まり、共同戦線を張っている。

 目的はただ一つ、「オーバーGエイクリッド」の成長を止める事。

 

――T-ENG(サーマルエナジー)反応増大! バリアフィールドも再生し始めている……!――

 

 通信越しに息を呑むような声を出すのは、暫定的に彼等の指揮を取っている「NEVEC」の司令官だ。

 無理はない、「NEVEC」の戦力の虎の子であったレーザー砲のコア()への直撃を喰らって尚、「オーバーGエイクリッド」の生命活動は衰えるどころか、急速に身体の修復を始めているのだ。

 ピキピキと言う異音が響いて、彼が慌てて己の掴まっていた物体を見ると、植物の成長の早回しビデオを見るかのように「棘」が伸び、弧を描くように中央へと向かっていく。

 更にその向こう、彼の背後の方で次々と棘が生じて伸び始め、中央の「コア」を覆う様に向かっていく。

 

 

 そう、「オーバーGエイクリッド」とは目の前の「コア」の名前ではない。

 彼の足元、さらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、「オーバーGエイクリッド」なのだ。

 

 

――全戦力を投入しろ! 撃て! 撃ちまくれ!! バリアを閉じさせるな!!――

 

 司令官の悲鳴じみた怒声が聞こえる。

 バリアフィールドが閉じてしまえば、ただでさえ耐えきられたレーザー砲の威力が完全に遮断されてしまう。

 それはすなわち、彼等の敗北を意味する。

 

 

 

 「雪賊」や「NEVEC」だけではない、「人間」、それも「この星を故郷とした者達」の敗北だ。

 

 

 

――……一か八かだ GPSの座標にランディング(墜落)する!――

 

 衛星砲からの通信も、最期の悪足掻きに近い自棄糞だった。

 上空を仰ぐと、バリアで遮られつつある空に、既に肉眼で見える大きさの衛星砲が確認できる。

 少し見ているだけでも、みるみる内にそのサイズが増していく。

 余り時間はない。

 閉じていくバリアの根本の方へ、彼等は全力で退避し始める。

 通信機越しで、退避しろと怒鳴る司令官の声を耳に、我先にと駆け抜ける。

 

「――――っ」

 

 だが途中で、彼の歩みが止まった。

 中央のコアがまだ見える位置で立ち止まり、後ろを振り返る。

 その時、中心部まであと僅かまで伸びたバリアを背景に、回復したコアを伸ばした「オーバーGエイクリッド」は鎌首を擡げるように真っ赤なコアを彼に向けた。

 その姿勢のまま、不自然な程動きを止める。

 まるで、産まれて初めて「人間」という生き物を「認識」したかような仕草だった。

 彼もまた「オーバーGエイクリッド」のコアから目を離さず、物音一つ立てずに立ち止まる。

 実際には、十数秒の間隔だっただろうが、まるで五分は見詰められていたように彼は感じた。

 

「……叫び?」

 

 その静寂を破ったのは微かに聞こえてきた奇妙な叫び声だった。

 見上げると、三葉虫とアロマノカリスをくっつけた様な奇怪な生き物が、渡り鳥の群れのように集まってオーバーGエイクリッドのコアへと向かって飛んでいく。

 「トライリッド」と呼ばれる、非力な小型エイクリッドだ。

 それだけではない。

 周囲をよく見ると、いつの間にかダンゴムシのような「ドンゴ」や、カマキリのような「クラッティス」、クモとノミを合わせたような「セパイア」も集まり、普段なら容赦なく襲いかかる彼に脇目も振らずに中央へと駆けていく。

 真上の視界を覆い尽くす程の距離にまで降りてきた衛星砲に対し、トライリッドは自らが衝突で粉砕されるのも気にせずに次々に突進をかけていく。

 地上に居るドンコやクラッティウス、セパイアは我先にと「オーバーGエイクリッド」のバリアやコアの表面に取り付き、身を屈めるようにして動かなくなる。

 

「……守ろうとしているのか?」

 

 呆然と彼が呟く。

 その直後に、ついに閉じかけたバリアの端を突き破って衛星砲がコアへと突き刺さった。

 ドンゴやセパイアの集団をバラバラに砕いた衛星砲は、直後にその物が起爆する。

 レーザー砲の直射よりも激しい衝撃波をまともに浴びた彼の足元の間隔が一瞬で消える。

 視界も真っ白に染まり、ほぼ同時に彼の意識も消えた。

 

 

 

 

 

 その閃光は、星の反対側にも届かんとする勢いで広がった。

 彼と同じように退避していた者達全てがその閃光に包まれた。

 

 

 

 だが、意識を呑まれるその瞬間。

 

 ()()()()G()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を目にしたのは、最も近い位置に居た彼だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、星は死んだ(Lost Planet)

 

 そして、これはその時、有ったかもしれない物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遥か遠く、忘れ去られた者達の楽園に、

 

 

 最も「過酷な」冬が、訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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