――21世紀、幻想郷――
幻想郷、それは世界から隔絶された箱庭。
忘れ去られた者達の集う最後の楽園。
妖怪、神霊、妖精、異能者、ありとある幻想に生きる者達の避難場所。
日本の内陸、深い山脈の何処かにあるこの場所は、その地形もあって、冬になればその一帯に雪が積もるほど寒くなる。
更に、冬に関する妖精や妖怪がはしゃぎ回るので、時として軽い吹雪になる事すらもある。
師走、年の瀬の12月ともなれば、更に酷くなるのも想像に難くない。
だから、この「異変」が何時から始まっていたのか、実は誰一人として分かっていない。
後に「
幻想郷の地形の大半は森林地帯だ。
人の手による開発が進まないのもそうだが、森を住処にする妖精や妖怪も多く、そもそも誰も開発する気などないのだろう。
広葉樹林が多いのもあり、夏場よりも見通しは良い木々は、数日前から降り続ける雪ですっかりコーティングされている。
今も吹雪く手前の勢いで降る雪の勢いを見ても、晴れるのはまだまだ先のようだ。
「……う~、寒っ」
そんな森林の上を少女が一人
何の装備もなしに生身の少女が飛ぶ、「外」の物理学者が見れば卒倒しそうな光景だが、これが幻想郷の「常識」という奴の一つである。
彼女の名前は「博麗霊夢」。
平たく言えば、幻想郷の治安維持者の一人、代表格というべき少女である。
10台半ば位の身長とややスリムな体型、現実の物より肌の露出、特に肩から上腕にかけての露出が酷い赤い巫女服の上に、今は厚手の半纏を纏って防寒兼防雪対策としている。
長い黒髪に結んだ大きな赤いリボンは、今なおも降り積もる雪が乗っかり、やや形が崩れていた。
地面と並行な体勢で飛ぶ関係で、彼女の背中の辺りにも軽く積もっているが、それを払い除ける余裕は無さそうだ。
というのも、胴の下に下げている彼女の両手は、かなり大きめな風呂敷の結び目を掴んだまま、寒さで鳥肌を立たせているからだ。
「何時まで降るのよ、この雪……雪女でもとっちめれば止むかしら」
鼻水が出そうになるのを啜りながら、忌々しそうに呟く。
流石に半纏一枚では(そもそもの格好もあるが)寒いらしく、微かに声も震えていた。
因みに、幻想郷における「雪女」は文字通り「冬」そのものを操る能力を持っているため、彼女が八つ当たり気味に恨むのはそれが理由でもある。
さて、そんな風に冬を恨む彼女が、凍えながらも外で大きな荷物を運んでいるのは、わりと重大な問題が原因である。
幻想郷は「外の世界」と分断された世界なので、当然ながら食料品の流通は(例外を除いて)安定せず、特に冬場は殆ど滞る。
よって、秋の中盤から食料をある程度備蓄し、冬場は家に篭って過ごす、という江戸時代のような生活が主流だ。
霊夢もそれを分かっており、ある程度準備した状態で冬に入っていた。
日用品の購入も含め、1~2回程度の多少の補充さえすれば十分冬を超えられる筈だった。
「……この雪のせいで、家の蔵の屋根が落ちて食料が全部パーになったのよ。見かけたら撃ち落としてやる……」
つまり、そういう事だった。
例年を遥かに超える積雪によって霊夢の食料庫だった蔵が崩壊、雪であらかたの食料が湿って計画はご破産。
修理するにも食わないとやってけないので、なけなしの資産を投げうって人里で食料を集めたという訳だ。
因みに、霊夢は余り金銭を持たないタイプである。
日用品程度なら最悪自力で何とか出来るのだが、普通に里で買った方が楽なので、冬が明ければ暫くは守銭奴モードに入るだろう。
という訳でご機嫌斜めの真っ只中、十分な量を集めて回るのにかなり時間も掛かり、既に辺りも暗くなり始めている。
「外」と違って明かりも無く、挙句雪のせいで一段と視界の悪い中での飛行は、身体その物は「人間」の博麗の巫女にとっては結構危険な事だ。
もっとも、それは妖怪に襲われるという事ではなく、視界が悪すぎてどこぞの闇妖怪のごとく木に激突するという事だが。
寒いのもあるし、霊夢は無駄口を叩くのを辞め、出来る限り急いで飛び続ける。
この分なら、日が落ち切るギリギリで辿り着く筈だ。
そう思っていると、やがて視界の奥の方から、森林の真ん中に少しだけ開けた場所が近付いてくる。
木造の建物に雪が積もって白くなった立派な石瓦、石造りの参道には大きな鳥居も建っているのが見える。
目的地であり霊夢の居宅。
彼女の姓と同じ名を持つ、「博麗神社」だ。
幻想郷の東端、「外」との境界上に建っているこの神社からは幻想郷中を一望でき、「楽園の巫女」たる霊夢が過ごすにもピッタリの位置。
唯一不満があるとすれば、中央の方にある人里から遠すぎる所為で参拝者がほぼ無く、賽銭が絶望的という事ぐらい。
此処まで来れば迷わないだろう、と思った彼女は僅かにペースを落として、急いで飛んだ影響で風呂敷の結び目が緩んでないかをふと確認する。
その視線の動きが無ければ、きっとこの物語は始まっていなかったに違いない。
「……ん?」
霊夢が声を上げる。
手元を確認するために目線を動かした、その端で
前進を止めて宙に停止し、今度はゆっくりと視線を動かす。
今彼女が浮いているのは神社の本堂へと続く石造りの階段の中腹、その上空だった。
そして彼女の見た「へんなもの」は、彼女の真下の階段から更に十数段登った先にあった。
「何か、光ってる?」
階段の右端の方に、オレンジ色に光る「何か」が転がっている。
段差の境が霞む程に暗くなってきた中でも、その光だけはハッキリと見える程強く輝いている。
それ以上はこの位置からでは分からない。
興味を惹かれた霊夢は、側に降りてその「何か」をまじまじと眺めてみる事にした。
「……人?」
霊夢の声には微かな驚きが含まれていた。
オレンジ色の光の正体は、雪に埋もれるように倒れた
淡い赤色の髪の間から微かに見える体からも、恐らく背丈はこの付近に住む妖精達と変わらない程度だろうか。
よりしっかり見ようと周囲に積もった雪を掻き分けると、その小柄な身体が全て明らかになった。
というか、
「っちょ!? 何でこの娘「裸」で寝てるのよ!?」
何とこの寒い雪の中で、「素っ裸」で倒れていたのだ。
慌てて霊夢は少女の肢体を抱き起こそうとする。
が、その体に触れた瞬間に、更なる衝撃が彼女を走った。
「……
かなりの間は此処に倒れていた筈だ。
なのに、何も身に着けていない少女の体は、まるで風呂上がり直後の様に温かい。
特に不思議なのは、
そして、起こしてみて初めて気付いたが、少女の体の下になっていた石の表面が
自然な現象ではないのは火を見るより明らかだ。
改めて、霊夢は抱き起こした彼女の身体を見下ろす。
「妖気や霊気は感じない。どちらかと言えば人間っぽいけど、何か違う気もする……何だろう?」
首を捻る、今までで一度も感じたことのない雰囲気だった。
だがそれよりも、今はこの娘の容態の方が問題だ。
「流石に参道で倒れられたら、神社の巫女として放っとけはしないからね。……一先ず家に連れてくか」
持ち上げてみると、見た目の割に結構重い。
でも背中に背負えば持っていけそうだった。
霊夢は一先ず羽織っていた半纏を少女に着せ、背中に背負うと足元に風呂敷を片手に再び宙を舞う。
「……あ、凄く温かい」
その背中から伝わる心地よい熱気と淡いオレンジ色の光に後押しされて、彼女は足取り軽く参道の向こうへと飛んでいった。
「一先ずは、これで良いか」
家にたどり着き、釜戸で湯を沸かす合間に自分の寝間着の予備に着変えさせ、沸かした湯に手拭いを浸して少女の体を拭き、身体に傷がないのを確認した後に再び寝間着を着せて来客用の布団に寝かせる。
一連の処置を終わらせ、居間の片隅に敷いた布団で穏やかに眠る少女から目を放し、霊夢は少し遅い食事の準備を始める。
食事や就寝準備の合間にもちょくちょく覗いていたが、穏やかに眠っている様子だった。
「明日には目を覚ますかしらね。起きたら、色々問い詰めないと」
一息吐いた霊夢は、自身も就寝する事にした。
「......んん?」
物音で目を覚ますと、まだ外は暗かった。
起き上がる事なくじっとしていると、ガタガタという音が再び聞こえた。
少しくぐもって聞こえる、部屋の外からだ。
起き上がり、傍らにあった札や針を握って、音を殺しながら居間方面の襖を開ける。
居間に敷いてあった布団を見ると、少女の姿がない。
「全く......」
小さく呟いて周囲の様子を見ると、台所の方へと続く廊下の障子が空いている。
ここで三度目の物音、明らかに台所から聞こえた。
......何か、物凄くイヤな予感しかしなかった。
「……参道で行き倒れていたのよね、食事なんて録にしていない筈よね……」
忍び足で廊下にでて、こっそり台所を覗く。
其処には、時間も時間だったので明日の朝に片付けようと、昨日買ってきた食料を風呂敷に纏めて置いてあった筈だった。
だが今見ると、風呂敷は既に引剥されて食料が散乱し、そしてその直ぐ側で、明らかに目立つオレンジ色の物体が屈んでいた。
考えるよりも早く、霊夢は廊下を飛び出した。
「人の食料を勝手に食うなぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」
「ピィィィィーーーーーーーーーーーーーッ!!?」
霊夢渾身の叫びに飛び上がって驚く少女、オレンジ色の髪が舞い上がり、振り返った先で髪と同じ色の瞳が霊夢を捉える。
一方で霊夢は一切の遠慮なく突進、最早少女を捕縛して洗い浚い聞いた後に蹴り出すつもりだ。
だが、結論を言うと、霊夢は少女を捕らえられなかった。
理由はというと、
「はっ!?
この少女、霊夢から逃げ出すために台所の壁を蹴って天井に張り付き、ゴキブリもかくやという物凄い速さで廊下へ逃げていったのだ。
人間というか、人型の生物がやっていい動きではなかった。
霊夢自身も完全に虚を突かれて、呆気なく取り逃がしてしまった。
だが、それで当然終わる訳がなく、
「待てぇぇぇぇええええ!!!」
「ピィィーーーーーーーッ!!」
襖をこじ開け、押し入れを蹴上がり、障子を突き抜け、凄まじい追いかけっこが始まった。
周囲に一切配慮しない、仮に博麗神社が人里に有ったら確実にワーハクタクの頭突きを喰らうレベルの大騒動であった。
だが霊夢の気持ちも分かって欲しい、半日かけて必死にかき集めた食料を無断で食われたのだ、誰だってプッツンするに決まっている。
「ッチ、すばしっこい!!」
家の中では流石に弾幕をバンバカ撃つ訳にはいかないので、小規模の
一方で少女は少女で、何故か外に飛び出す様子もなく、只管家の中をグルグルと回っているようだ。
――……出ていかない? 行く宛がないって事?――
試しに足を止めてみる。
と、数m離れた位置に少女が降り立ち、四つん這いの姿勢でじ~っとこっちを睨んでくる。
表情からも、警戒心がアリアリと伝わって来た。
オレンジ色の髪もウェーブがかったように跳ねて、先と比べて光の強さが増している気がする。
その姿勢、その態度、それは人間がやる動作というよりは、
「
「……ピィーッ」
先程から人の言葉を喋らず鳴き声の様な声を上げているのも、全く
妖怪や神霊の類はその性質上、人間と関わり合いが強い筈、ここからも少女がそういった存在ではない事は伺える。
つまり、これ等から推測するに、この少女の正体は、
「
別の言い方に直すなら、「人間に捨てられた異能力者」という所か。
人間にはない特異的な力、恐らく彼女ならその髪の発光と身体能力、「発熱する程度の能力(仮)」を持って生れたが故に恐れられ、幼くして捨てられた赤子の事。
それが奇跡的に自然界で生き残り、偶然幻想郷に流れ着いた、彼女はそういう娘なのだろう。
何処か人間らしくないと感じるのも、
そして、この仮定から導ける彼女が此処を出て行かない理由は、
「……此処は私の家よ、
「ピィィーーーーーーッ!!!」
今度の声は、明確に敵意を示していた。
だが圧される訳にはいかない、此処で引けば神社を彼女に奪われる。
「教育が必要ね。アンタの生まれには同情するけど、それとコレは別」
手に持っている武器で使えるのは御札程度。
だがそれでいい、それで十分だ。
「夢符:『二重結界』」
霊夢のスペルカードの宣言直後、四つん這いの少女の真下に赤い円陣が出現。
異変を感じた彼女が飛び上がるも、天井に辿り着く前に
パニックになったらしい彼女が起き上がるや前後左右に無茶苦茶な突進を掛けるも、全て赤い円陣を抜ける直前に謎の斥力で「反転」、結果的に内部に引き戻される。
「悪いけど、その結界は霊力や妖力のないアンタには抜けられない。「
霊夢の周囲では、足止めに使って床や壁、天井に張り巡らされた「お札」が赤く光り輝いていた。
単純に足止めをするだけでなく、それを起点に既に結界陣を張っていたのだ。
「さて、と」
霊夢は改めて少女を見る。
結界から出られないことを悟ったらしく、じっと此方を睨む少女は恐らく彼女の見立てでは「人間」だ。
「妖怪退治」や「異変解決」を生業にする彼女でも、流石に「人間」を成敗するのには多少躊躇いが有る。
かと言って、此処まで引っ張って看病した少女を今更蹴り出すのも何だか釈然としない。
とするなら、最も適当な解決は、
「食べられた分、人里で調達するついでに寺子屋か寺にでも押し付けてくるか」
あの連中なら恐らく彼女の面倒を見てくれるだろう、と適当に考える。
と言っても今直ぐは流石に無理だし、第一この結界を解除した瞬間に暴れられたら堪った物じゃない。
と、その時だった。
ぐぅ~っ……。
「……アンタ、まだお腹空いてるの」
「……ピィ~っ」
何だか一気に力が抜けてくる感じがある。
お腹を押さえて力無く鳴く少女を見て、毒気をすっかり抜かれた霊夢は少しだけ考えた末に。
「眠るにも目が覚めちゃったし、いっか。ちょっと待ってなさい」
「ピ?」
そう言って、台所へと姿を消す。
そこから暫く時間が経って、霊夢が六個のお握りを盆に盛って居間の方に現れた。
居間に出したままだった炬燵に近付き、対面に三つずつ分けて用意する。
そうして配膳が終わった所で、霊夢が少女の方を見た。
「次暴れたら今度こそ蹴り出すわよ、良いわね?」
そう言って、少女を囲った「二重結界」を解除する。
「……、」
恐る恐る、と言った感じで宙に手を伸ばしたり、ゆっくりと動いたりしている少女から目を離し、霊夢は炬燵の片側に座って夜食のお握りを食べ始める。
少女も此方の様子を伺いながらゆっくりと反対側に移動し、お握りの方へと手を伸ばす。
直ぐに掴むかと思いきや、まるで子猫がやるように掌でペチペチとお握りを叩き始めた。
ちょっと気になった霊夢が無意識に食べる手を止める。
すると少女もピタッと動きを止め、霊夢の様子を伺う。
そのまま一分程、互いに止まっていた。
やがて再び霊夢が食べ始めると、少女の方もペチペチを再開した。
――早く食べなさいよ……――
そんな事を思っていた霊夢だが、自身が三つ目を食べようとした時に、遂に少女もお握りを掴み取った。
遂に食べるのか、と何となく緊張し始めた霊夢を他所に、少女はマジマジとお握りを眺め、そしてそれを口にした。
「っ!!」
瞬間、ビコーンという音がなる様な勢いでオレンジ色の髪が一瞬ブワッと持ち上がり、少女の目が真ん丸に見開かれた。
相当なカルチャーショックを受けたらしい、直後に次々にお握りをつかみ取り、あっという間に残りを平らげてしまった。
あからさま過ぎるその反応がやはり相応に嬉しいのか、霊夢も頬を綻ばせて最後のお握りを食べた。
と、少女がじーっと霊夢を見詰め始めた。
視線に敵意は無く、何かを訴えるような印象が感じ取れる。
何が言いたいのかは今の霊夢には直ぐにピンときた。
「今はこれだけよ、また起きたら作ってあげるわ」
そう言った霊夢を少女は最初は不思議そうに見ていたが、言葉を悟ったのかいそいそと居間の布団の方へ戻っていく。
炬燵の上を拭き、盆の後片付けをし終えた霊夢が台所から戻ってみると、布団の上で身体を丸めた姿勢で少女は再び眠り始めていた。
先程の大暴れで疲れていたのかもしれない。
そう思うと、霊夢自身も何だか眠気と疲れが込み上げてきた。
「もう一度寝るかな」
そう呟いて、彼女も自分の布団へと戻っていった。
これが、初日の事だった。
それから二週間は経過した今はどうなっているかというと。
「ぴ~っ」
「ん、みかんありがと」
「ぴぴぃーっ」
「ほら、剥いたからアンタも食べなさい」
一緒に炬燵に入ってみかんを分け合うレベルに仲良くなっていた。
本当に何があったのか聞きたくなるレベルの変わりっぷりである。
特に霊夢、初日の時点で人里に押し付ける気満々だった彼女が、既に二週間も同棲を続けている。
「ほんっと、アンタの体って温まるわよね。っくぅ~~~~~~~ぅ」
「ぴぃ~~~~~~~い?」
子犬を抱える様に少女を膝の間に入れ、背中から抱き付く格好でだるーんと目を細める霊夢。
少女側も全く嫌がる素振りがない、それどころか間延びした霊夢の言葉を声真似しながら、分けてもらったみかんを大人しく頬張っていた。
こんな殺伐の欠片もない光景になっているのは、初日では分からなかった彼女の「能力」が関係している。
つまり、最初は単純に「熱を放つ程度の能力」ぐらいに認識していたのだが、実はそれは本質ではなかったのである。
「名付けるなら、「熱を生む程度の能力」って所かしらね。うぅ~~ぅ、触っているだけで内側から温まるぅ~~~~」
「熱を生む程度の能力」、別名を「人間湯たんぽ」。
触っているだけで体の芯から温まる少女の身体に、すっかり霊夢は虜になってしまったのだ。
そして、「少女」の事も色々分かってきていた。
「ぴーぴーっ、ぴーぴぃっ」
「ん~? お茶が欲しいの?」
「ぴーッ!」
「はいはい」
この少女、かなり頭は良いらしく、発音こそまだ出来ないが既に人語をほぼ完璧に理解できていた。
更に霊夢と二週間という期間を経た影響か、鳴き声のイントネーションで霊夢との意思疎通もある程度出来始めていた。
その上学習能力も高く、霊夢の日課の掃除や食事の準備などを手伝える位には成長している。
「はいどうぞ」
「~~~~~~~っ、ミォォォヲン」
「……毎回毎回、本当に変な溜息吐くわねアンタ」
また熱いお茶が大好きで、飲むと変な溜息を出す事も分かった。
元々熱い物なら何でも積極的に食べようとはするのだが、特に熱いお茶が好きらしく、よく霊夢に強請るようになっていた。
因みに、今の彼女の姿は霊夢のお古の小さくなった「巫女服」を暫定的に着ている、というかそれしかサイズが合うのが無かった。
傍から見れば巫女の先輩と後輩が駄弁っている様にも見えるかもしれない。
「......
「ぴ?」
そして
この湯たんぽ娘との生活に夢中になる余り、すっかり頭から外れていた。
「ねぇ、カレンダー持ってこれる?」
「ぴーぃ」
膝から一旦離れ、少女は壁から日捲りカレンダーを持ってくる。
既に12月も下旬、年末が近付いている。
忘年会と称した宴会の準備が始まっている位の時期である。
「なのに、
そう、年末の忘年会をやるのは大抵は「博麗神社」、つまりこの場所だ。
神社で酒飲みが集うのも変な話だが、元々当の霊夢すら何を奉ってるのか分からない程信仰の薄い神社である。
挙げ句に霊夢の人柄もあって、良く此処は妖怪の溜まり場になっていた。
そんな訳で、気楽に妖怪も人間も集まれる場所としては最適なのだが......。
「普段は「前飲み」とか言って集まるのに、二週間も来ないなんて......」
珍しいというレベルではない。
平時でも一週間もすれば誰かが(主に友人の白黒魔法使いが)やってくるレベルなのだが、この季節で二週間も無いのは逆に怖いくらいだ。
「……まさか、ね」
思い出すのは、時たま此処に出入りする「鬼」の事。
あの鬼は一度、自らの能力で
彼女が再び元凶だと確信するわけではないが、この状態、趣向が似通っている気もしないではない。
少し考え込む霊夢。
膝の間に自ら戻った少女が、頭越しに不思議そうに見上げてくる。
「ま、紫も出てきてないし。問題無いっしょ」
「ぴーっ?」
そんな風に結論付けて、霊夢は再び少女でヌクヌクする余暇に戻っていく。
所で、霊夢は普段から危機感が薄い性格だ。
自らの神社の祀った神様を知らなかったり、不思議なくらい誰も来ないのを奇妙と思いつつ放置したり。
動き出せば苛烈な位に行動するが、幻想郷の「異変解決者」、つまり「治安維持者」としては総じて消極的な部類になるだろう。
だからこそ、もっとじっくり考えるべきだったのかもしれない。
「
※「熱を生む程度の能力」
使用者:忌み子の少女
概要:触れている物体「その物を」発熱させられる能力。