その姿は、アルマジロか、ダンゴムシか、はたまた羽根のないコオロギというべきか。
葉巻の様な胴体は鈍い銀色の甲殻に覆われ、鎌状に発達した二本の前肢と四本の歩脚を持ったその「生物」は、オレンジ色に発光する瞳を三人に向けて、前足を持ち上げて威嚇する。
首のない頭部は見るからに丈夫そうで、頑強そうな顎には大きな牙も生えている。
大きさも軽く2丈(6m)はあり、前足だけで霊夢達をペチャンコに出来そうな威圧感があった。
その風貌を見た魔理沙がポツリと漏らす。
「……コイツ、リグルの新しい家族だったりしないかな」
「絶対に違うから! こんな物騒な家族は居ないよ!!」とは後の本人談。
だが見るからに「虫」っぽい生物ではある、彼女が此処に居ればその能力を使ってみろとドヤされた事だろう。
「一先ずどうするよ、私は目眩まし位しか出来ないぞ」
「そうね。ミオンも居るし、囲まれないように移動しながら様子見ね」
目の前の一体の奥に、更に数体の「アルマジロ」が居るのを見て霊夢が言う。
彼女は幻想郷でも一の実力者ではあるが、此処では同時に唯一の戦力だ、包囲されれば2人を守り抜くのは難しくなる。
上空にはあの「蜂」が居る可能性もあるし、更に「蛾」や「トンボ」も参戦すれば状況は厳しくなるだろう。
よって、3人は地上から逃走を図る事にした。
火力のない魔理沙が先導し、ミオンを挟むように霊夢が殿を勤める。
三人は全力で走り始め、最後尾の霊夢は振り返りながら追ってくる「アルマジロ」目掛けて牽制(それでも本気で仕留めるつもり)で大量の弾幕をばら撒く。
「……見た目からして硬そうな気はしてたからね、そうだとは思った」
お札や針の弾幕はその硬い甲殻に悉く阻まれ、全く効果がないようにみえる。
さてどうした物か、と思って行動を見てみた霊夢だったが。
「え、
3人の走る速さにも追い付けず、みるみる距離が離れていく。
重装甲な分、動作が鈍いのだろうか?
「何だ? 全然追い付いてこないぞ?」
魔理沙も振り返って不思議そうに口にする。
予想以上に遅い足に、何処か拍子抜けした様子だった。
だが、霊夢は逆に不安になった。
――上空で見た時は、かなりの速さで木々が薙ぎ倒されていた。コイツ等は「アレ」とは違うのか?――
背後を見ていると、遂に「アルマジロ」共は立ち止まって、ジッと此方を見詰めていた。
その目に感情は浮かばない、が、霊夢には「執念」のような物を感じ取れた。
「……いや、まさか」
ひょっとして、と思った。
連中の本気が、「走る」事ではないとするなら――。
「魔理沙」
「あいよ」
「反復横跳びの自信はある?」
「何だいきなり」
「思いっきり横に跳ばなきゃいけないかもしれないから」
「どういう事だ」と魔理沙が振り返ると、真剣そうな霊夢の目と目が合った。
「今さっき思い出したんだけどね」
「うん?」
「最初にアイツを間近で見た時に――」
その時、霊夢の背後で「アルマジロ」の一体が大きく上体を起こした。
前足を掲げるように頭部ごと胴体を持ち上げ、いっそ不安定なほど反り返った姿勢になる。
そして――、
「アイツの「背中」にね、
「……成る程なッ!」
霊夢がミオンの体を掴み、3人は同時に横へと身を投げように跳ぶ。
その直後、彼女達のいた場所を
あと少しその場所に3人が居たなら文字通り「轢殺」されていたに違いない、それは
「ひゃー、まさか転がって攻撃する生き物とはな!」
雪から顔を上げ、通り過ぎていった「アルマジロ」の跡を見て肝を冷やす魔理沙。
それと同じくして、顔を上げたミオンが体を伸ばして止まった「アルマジロ」のある「一部」を指差した。
「っ! ぴーッ!」
「――ええ、よく気付いたわね。ミオン」
それは胴体とほぼ一体化している程に短い「尻尾」。
オレンジ色に強く発光するそこは、遠目で見ても明らかに「甲殻」が存在していないように見える。
霊夢はミオンを撫でながら、ニヤリと笑みを零した。
「おい、呑気している場合じゃないぜ……!」
冷や汗をかき始めた魔理沙が言う前で、横に避けられたのに気付いていたらしい「アルマジロ」は素早く此方へと方向転換を始める。
同時に、遠くの方に居た残りの「アルマジロ」も丸まった姿勢を作り始める。
「あの数に一気に転がって来られたら……って、霊夢!?」
魔理沙が驚く前で、横から飛び出した霊夢は目の前の「アルマジロ」目掛けて走っていく。
「アルマジロ」も霊夢を捕捉し、その大きな前足を持ち上げる。
転がるまでもなく潰すつもりだろうが、今回は相手が悪すぎた。
数多の弾幕を乗り越えてきた「博麗霊夢」を、そんな鈍い動きで捉えることは出来ない。
「ッ!」
前足の攻撃を掻い潜って、雪の上を滑るように腹へと潜り込む。
そのまま下を潜り抜けると、今度は「アルマジロ」の尻尾目掛けて弾幕を放つ。
弾幕を撃たがれた尻尾からはオレンジ色の飛沫が飛び散り、「アルマジロ」が初めて苦悶の声を上げる。
一方で、遠くの方に居た残りの「アルマジロ」達が一斉に転がって突進を始めた。
その目標は一様に霊夢に向いている。
「仲間想いね、でもそれが仇よ」
連中の習性は想定外だが、問題は全くなかった。
避けることもなく余裕の表情で、苦悶する「アルマジロ」の上に乗っかって座り込みすらしていた。
「何する気だ? あのままじゃ……」
魔理沙が心配そうに呟く中、ミオンはふと少し前の事を思い出していた。
具体的には、
「イノシシって、物凄く突進が速いのよね。生身の人間には対処できない位に」
転がってくる「アルマジロ」達を眺めて、霊夢は一枚だけ手に取った札を顔の前に掲げる。
「だからね、人間は」
「『くくり罠』って罠を張るのよ。こんな風にね」
手の中のお札が赤く光るや、
そして、直後にそれは起きた。
「うおっ!?」
「ピィィィーーッ!!」
突進する「アルマジロ」の
宛ら高速道路で乗用車が凄惨な玉突き事故を起こしたような、凄まじい勢いで「アルマジロ」が宙を舞い、バランスを保てずにひっくり返っていく。
「これは「スペルカードルール」じゃないからね、何も言わない。ただの「結界」の応用よ」
そう言って、霊夢はひっくり返った「アルマジロ」の尻尾目掛けてより強力な弾幕を撃つ。
ミオンに放ったお札による誘導弾に似ているが、一発一発の玉がより大きく、強力な力が込められていた。
敢えて霊夢は言わなかったが、「夢想封印」と呼ばれるスペルカードで放つ弾幕だった。
「魔理沙、尻尾なら今のアンタでも十分ダメージを与えられるから、思いっきり集中して撃っちゃって」
「お、おう……大丈夫かな」
という訳で、霊夢と魔理沙が二人がかりでひっくり返った「アルマジロ」が動かなくなるまで丁寧に止めを刺していく。
時間は掛かるが、此処で逃して別の場所で被害が出てしまうのは「異変解決者」としてやはり避けたい。
「……というか、やっぱりコレ。「異変」よね」
「そうだろうなぁ。見たことの無い奴らが我が物顔で跋扈してるもんな」
「「紫」は何やってるのかしら……」
腐れ縁に近い「スキマ妖怪」の事を思い浮かべて呟く。
こんな連中を幻想郷に連れ込むなんて正気の沙汰ではないと霊夢は思う。
何かしらの問題で勝手に来ているとしても、人里に危機が迫っている状態で放置しているのは一体どういうつもりなのだろうか。
あの胡散臭い「賢者」様の事だから、何かしら裏に抱えている物があるとは思うのだが。
「ま、そのうち分かるか」
「霊夢―、こっちは終わったぞ―」
「ピーッ!」
「っておい! 私の箒でソイツを殴るな! 折れる折れる!!」
魔理沙がミオンが持っている箒を取り返そうとし、ミオンが逃げ始めたので軽い追いかけっこの構図が始まる。
その元気そうな様子が微笑ましくて、小さく笑みを浮かべながら倒した「アルマジロ」の腕に腰掛ける。
久々に飛ばない戦闘を行ったのでちょっと体が緊張しているようだ、霊夢は軽く腕を回しながらリラックスするように一息吐く。
「――――ッ!?」
「巫女の勘」が動いた。
物凄くヤバイ「何か」を忘れている気がした。
――何、何がまだ残っているの……!!――
霊夢は、魔理沙とミオンの追っかけっこを眺めている。
魔理沙は、ミオンを追っかけている。
箒を、「
「二人共!!
霊夢の叫びに、きょとんとした表情で二人は彼女を見る。
その理由は、彼女達の「上」から現れた。
「ギギギィィィィィィィ……!!」
15mもの体長を持つ巨大な「蜂」。
それが、魔理沙とミオンの上に影を落としていたのだ。
「今の騒ぎを嗅ぎ付けられた……!」
札を取り出して弾幕を放とうとするよりも早く、「蜂」の口が大きく開いた。
其処から素早い動作で放たれるのは、一つ一つが霊夢の身長にも匹敵するオレンジ色の塊だ。
しかもその間隔が短い、彼女達の弾幕にも引けを取らない速さだ。
「ピィッ!?」
「うぉあぁぁぁああ!?」
下の二人が慌てたように走り出す、その後に塊が着弾する。
直後、地面を抉るような爆発が次々と起き、二人の体が大きく弾き飛ばされた。
「ミオンッ!?」
「……ぴぃぃ~っ」
霊夢は雪の中へと投げ出されたミオンの元へと駆け寄って容態を見る。
軽い擦り傷は作っているが、雪がクッションになったのもあって大きな怪我は無さそうだ。
「おい霊夢、私の心配はしないのか」
「アンタは心配しなくてもどうせ平気でしょ」
「酷い扱いだ。まぁ直撃じゃないしな」
魔理沙と霊夢はミオンを木の裏に運び、目の前の巨大な「蜂」と対峙する。
まるで神話の怪物の様な相手だが、霊夢も魔理沙も今まで以上に闘志に溢れていた。
「アレが私の八卦炉を持ってった「蜂」か」
「ええ。アレが「ボス」よ」
「蜂」の方もやる気満々らしく、長い後ろ足を振りかざして威嚇の声を上げている。
霊夢は札を取り、魔理沙は素手に魔力を込めて、何方とも言わずに宙へと舞い上がる。
付近に他の「奴ら」の姿は不思議となかった。
二人と一体は、雪の降る森の上で睨み合う。
「じゃぁ、蜂退治。始めようか」
「家屋の近くに巣を作られたら困るからね、大人しく倒されなさい」
「楽園の素敵な巫女」:博麗霊夢と「普通の魔法使い」:霧雨魔理沙(弱体化)。
対するのは「異界の首領蜂」:レイビオン、記録上の最初の「カテゴリーG」との戦闘が始まった。
さて、両者戦意十分で戦闘に突入したものの、数分も経たぬ内に早くも大勢が決まりつつあった。
「……決め手がない」
「霊夢の力って、基本的に悪霊や妖怪みたいな奴に特化してるもんな。あんな生命力だけの「化け物」は想定外だぜ」
霊夢&魔理沙コンビ、早速重大な問題に遭遇。
魔理沙が八卦炉を失っている今、火力の決め手となるのは霊夢の弾幕なのだが、霊夢の霊力は怨霊や異能力者、妖怪などの「幻想に生きる者」を相手取る事を得意とする能力である。
自らよりも高位で実力の高い「巫女」でもない限り基本的に反則級に負け知らずなのだが、実は物理的な破壊力は其処まで強くない。
つまり、今相手取ってる「蜂」のような、己の生命力だけで幻獣クラスに匹敵する「化け物」には純粋な破壊力不足となり、少々分が悪いのだ。
そんな相手に相性が良いのは寧ろ魔理沙の方なのだが、前述の通り最大火力の元である「八卦炉」は「蜂」が持っている。
そして、そんなもう一方の「蜂」はというと、「尻から大量の護衛蜂をボロボロ出し、己は離れて炸裂弾を乱射」をひたすら繰り返している。
護衛蜂は霊夢の「夢想封印」を腹のオレンジの部位に当てれば落ちる程度だが、数が多い上に矢鱈速く、口から火炎弾を吐いたりや尻尾の毒針を突き出してきて非常に鬱陶しい。
しかも親玉は護衛に動きを制限させた後に炸裂弾を機関砲の如くぶっ放して「直線」で仕留めにかかっている、霊夢達にとって長期戦が不利なのは火を見るより明らかだった。
――こんな奴に「夢想転生」は使いたくないけど、今のままじゃ私は兎も角、魔理沙が危ない。どうにかアイツに効きそうな攻撃を考えないと……――
護衛蜂に弾幕を放ちつつ、危なっかしい動きで火炎弾や炸裂弾を躱す魔理沙を見ていると、やはり八卦炉が無い立ち回りに慣れてない印象を受ける。
その上、人間の彼女(自分もだが)にとっては炸裂弾どころか護衛の火炎弾や毒針でも致命傷になりかねない。
仮に「夢想転生」を用いた長期戦を挑めば、真っ先に脱落するのは彼女だ。
今更一人で戦おうにも、「蜂」の方が魔理沙の離脱を許さないだろう。
「そうすると、やっぱり――」
霊夢が睨むのは「蜂」の口元辺り。
正確には、其処に引っ掛かっている八角形の物体である。
「アイツから「八卦炉」を奪い返して、魔理沙に「マスタースパーク」を撃ってもらうのが正攻法か」
そうすると、どうにかしてアイツに接近せねばならない。
だが前述の通り、「蜂」はひたすら遠距離攻撃を繰り返している。
「魔理沙、今良い?」
「何か妙案でも浮かんだか?」
「私があの「蜂」に接近して八卦炉を取り返す、その間にアンタは出来る限り弾幕を張って取り巻きを潰して」
「はいよ、突貫作戦だな」
霊夢は一度魔理沙と顔を合わせ、そして一直線に「蜂」へと突撃する。
周囲の護衛蜂が霊夢目掛けて集まろうとするも、魔理沙が背後から撃ちまくる弾幕に落とされ、又は阻まれて辿り着けない。
苦し紛れに火炎弾をぶっ放す奴もいるが、距離が遠すぎて簡単に見切れていた。
「後はアンタだけよ。デカブツ」
「蜂」が咆哮し、炸裂弾を乱射しまくる。
弾速も密度も幻想郷の猛者達に劣らない見事な弾幕だったが、繰り返すが相手は「博麗霊夢」だ。
「アマチュア」が、メダリストの「プロ」に挑むのと大差ない。
霊夢が弾幕を全て回避し切ってみせると、「蜂」は最後の悪足掻きと言わんばかりにその巨体で突進をかけてきた。
ギリギリまで相手を接近させた上での全力の突進。
普通の相手なら、回避する事も出来ずに木の葉のように弾き飛ばされたに違いない。
「夢想転生」
霊夢の体が淡く輝き、まるで写真のブレのように輪郭がボヤけ始める。
この世のあらゆる理から「浮く」、世界から実体を消し「
本来の「夢想転生」ならこの状態で7つの陰陽玉を展開し自動攻撃させる技なのだが、今回は目的が目的なので展開していない。
そう、あらゆる干渉を受けないこの状態なら、当然
「さて、返して貰うわね」
蜂の顎に引っ掛かった八卦炉を認め、手を伸ばして掴み取ろうとする。
どんな悪足掻きをしようが、「夢想転生」を発動した今なら腹ん中にでも入って取ってくる覚悟はある。
故に、全速力で飛んでいる「蜂」から振り落とされないようにはしつつも、ほぼ無警戒に手を伸ばしていた。
詰みの盤面だと思い込んでいた。
ガキィッ!
「なっ!?」
よもや、己の腕が
――なにコレ、
霊夢は二重の意味で驚いていた。
一つは、この
「霊力」とは、本来一部の人間など「魂」を認識できる存在が扱える素質を持つ力であり、しかもそれを現実に反映できるだけの力を生み出すのは霊夢のような「才能」が必要になってくる。
その「才能」とは「霊力に飲み込まれない意思の強さ」、つまり本来「あの世の者の力」である「霊力」を扱うにはそれだけの「高い知性」と「強い心」が必要になる。
だが、目の前の「蜂」にはお世辞でも「知性」や「心」があるとは言えない。
確かに護衛を使った戦術は高い「知能」から来るものだが、それは「本能による」知能であり、「意思による」知性とは別物だ。
だからこそ驚いたのだ、「
そして二つ目、その霊力を持ってして
この世の理全てから「浮く」夢想転生の力に例外はなく、例え霊夢自身の霊力を持ってしても干渉が出来ない代物なのだ。
それが、
これは霊夢にとっては己の「
つまり、霊夢の顔が次第に怒りと焦りの混じった形相に変わっていくのも時間の問題だった。
たかが蟲のデカブツと侮った相手に己の誇りを傷付けられた怒り、「霊力」という予想外の力で計画を破綻させられた焦り。
ギギ、と唸るこの「蜂」は、そんな彼女の心を読み取ったのか、最早恐れていないかの様に飛行速度を落とした。
だから、
ゴッッッッッッッッッ!!!!!
「ギギギィィィィィィィィィ!!!?」
「わっ!!?」
時間は少し戻って、地上で霊夢達の戦いをこっそり見ていたミオンは、どうにか彼女達を手助けできないかと考えていた。
彼女はまだ此処に来て日が浅く、出会った相手も彼女達二人しか居ない。
故に、此処で彼女達を失うのは今の「拠り所」を失うのに等しい。
「ぴ~ぃ」
でも自分には空を飛ぶ事は出来ないし、力だって大した事はない。
此処に来てからずっと足手纏いなのは当人も自覚していた。
「……、」
どうにかしたい、でもどうしようもない。
いくら学習能力や知能が高くても、そんなジレンマを処理するのには幼い心は荷が重すぎた。
自分の両手を眺め、それを軽く握る。
何も出来ない両手を見詰め、幼い彼女は産まれて初めて己の無力を呪っていた。
「ピィッ!!」
苛立ち紛れに、雪の大地に拳を下ろす。
まさにそれが
ボゴンッ!!
「ピィィィッ!!?」
拳を打ち付けた雪の、その
ぴょこっと上半身だけ起こし、何が起こったのか分からずに呆然とする。
「……、」
己の左拳をふと持ち上げる。
それを不思議そうに眺めた後、視線を少し下に落とすと真新しい雪が積もっている。
「ぴっ」
拳を雪の中に突っ込む。
すると、その拳より
ミオンは理解した。
己の拳で雪を過剰に温めると、爆発的に「体積」が増えるのだと。
その増えた「体積」が「圧力」となり、上の雪を弾き飛ばす「力」になるのだと。
水の三態、膨張、「外」の化学の項目の一つを、恐ろしい事に彼女は独力かつ僅かな時間で学び取ったのだ。
「ぴ~ぃ……」
彼女の視線は、先程「アルマジロ」に倒された「倒木」に向いていた。
この辺一体の雪では、精々あの倒木を転がすのが限度なのは理解している。
でも、彼女はもう知っている。
何も、温めるものは
「ミオンッ!!?」
離れた位置で霊夢の様子を見守っていた魔理沙が、驚いた様子で地上をみる。
見ると、ミオンは「アルマジロ」を倒した付近、
嬉しそうな鳴き声を上げた彼女は、真っ黒になった両手をかざしている。
「何したんだアイツはッ!?」
地上に落ちていった霊夢と「蜂」の事も忘れ、一目散に彼女の元へと向かう。
護衛蜂が立ち塞がる事もあったが、自分の親玉が攻撃を受けてパニックになっているらしく、以前の様な鬱陶しい素早さは見る影もない。
適当にいなした魔理沙が焦げた地面の上に降りると、ミオンがこっちに近付いてきた。
両手の平を上に向ける、その表面を「オレンジ色の液体」が流れている。
近くでよく見てみても、蛍光色のように濃いオレンジ色の液体である以外がよく分からない。
「ミオン、これを何処で手に入れたんだ?」
「ぴーっ」
ミオンが指差すのは、先程倒した「アルマジロ」の身体だった。
よく見るとその個体はまだ僅かに動いており、尻尾から全く同じ色の液体が垂らしているのが分かる。
「まさか、アイツの体液を使って倒木を撃ち出したのか!?」
「ぴーッ!」
彼女がその掌をバチンと音がなる勢いで地面につける。
直後、掌と地面の間で小規模の、だが幻想郷の火薬よりも明らかに激しい爆発が起き、ミオンの体が宙を2回転して背中から落下した。
慌てて魔理沙が抱き起こすも、彼女は笑顔でぴーぴー鳴いていた。
「無茶しやがるぜ、お前は……でも助かった」
魔理沙が撫でてやると、心地良さそうにミオンが目を細める。
その様子に魔理沙も笑顔を作る。
――あの体液、八卦炉取り戻したらこっそり集めとこう――
そんな火事場泥棒的な思想を脳裏に秘めながら。
魔理沙がミオンを連れて霊夢と「蜂」が落ちた所へ向かうと、まだ「蜂」は激しく藻掻いていた。
「遅いッ! 何やってたのよ魔理沙!」
その羽根に必死に取り付き、
受け取ると、それはずっと失くしていた大事な「八卦炉」だった。
「うぉぉぉおお! 私の八卦炉!! 会いたかったぞぉぉぉお!!」
「ぴーぃ、ぴーい!!」
八卦炉を手に大げさなリアクションをする魔理沙と、釣られてピョコピョコ跳ねるミオン。
そんな緊張感のない様子に、散々待たされていた霊夢は遂にキレた。
「んなしょうもない事してないでとっととビーム撃てやァァああああああああ!!!!」
「っと、忘れる所だったぜ」
魔理沙は八卦炉を片手に宙に浮かび、「蜂」の腹が見える位置まで移動する。
其処で八卦炉を正面に構えるや、直後に魔法陣が宙に浮かび上がる。
「八卦炉を落とさせたのはお前じゃないが、勝手にネコババしていたのはお前の罪。此処でしっかり償ってもらうぜ!」
「それ、アンタが言えるセリフ?」
「ソコうっさいぞ! 今ぐらいカッコつけさせろよ!!」
八卦炉の中央に光球が生まれ、それが次第に大きく、輝きも強くなっていく。
そしてその光が目を覆いたくなる程強まったその時に、遂に魔理沙は言い放った。
「終わりだ!! 恋符:『マスタースパーク』!!!」
眩いほどの光とともに、魔理沙の身体を遥かに上回る直径の光線が放たれる。
「弾幕はパワーだ」という彼女の嗜好を愚直なまでに示す、圧倒的な火力の席巻。
前に憚る全てを消し去る一撃は、「蜂」の胴体を絵を書いた紙のように呆気なく撃ち抜き、確実な止めを与えた。
「ギギギギギギギギイイイイィィィィィィィィ……」
最期の足掻きと言わんばかりの断末魔を上げ、「蜂」の体は遂に動かなくなる。
霊夢も魔理沙もやっと一息吐いた、その直後に「ソレ」は起きた。
「冷たっ!?」
「うぉ、スゲェ!」
「蜂」の体が一瞬で凍り付いてしまったのだ。
頑強そうだった茶色の甲殻は真っ白な霜に覆われ、今にも脆く崩れそうな印象に早変わりしている。
霊夢が冷たさに耐えかねて飛び上がり、宙に浮かぶ魔理沙の横に並ぶ。
氷のオブジェと化した「蜂」を空から眺める二人は、それぞれ何かしら疲れ切った様子であった。
「……骨が折れる相手だったわね」
「ああ……私も、少しはコイツに頼らないコツを知っておく必要を感じたよ」
取り戻した「八卦炉」を眺め、大事そうに懐にしまう。
と、
「ピーッ! ピーッ!!」
「ん? どうしたのミオン?」
霊夢がミオンに尋ねると、彼女は「蜂」の死体の側に移動し、その骸を頻りに指差す。
「ピーィピーィ!!」
「「蜂」?……あぁ、あーそうか。フフッ」
魔理沙は彼女の意図に気付き、思わず吹き出していた。
霊夢と顔を合わせ、互いに笑みを作ると。
「「良いよ、ミオン。やっちゃって」」
「ピィィィィィィイイイイイイイッ!!!」
小さな拳を思いっきり振り上げたミオンが、「蜂」の死体をガツンとぶん殴った。
それだけの小さな衝撃で、散々暴れ回った「蜂」は呆気なく、そして跡形もなく崩れていった。
――MISSION COMPLETE――
※BOSS FILE
一面ボス
名称:「カテゴリーG」レイビオン
二つ名:「異界の首領蜂」
戦術:口から吐き出す炸裂弾、腹に格納する護衛蜂「レイビー」の射出、巨体による高速移動、霊力の障壁
概要:
蜂に近い風貌の中型エイクリッド「レイビー」の親玉であり、「カテゴリーG」でも数少ない飛行型の一種。
本来は地上に作った巣穴に篭っており、外敵を近くに検知した場合のみ積極的に襲いかかるとされる。
が、今回の個体は巣に上手く定着出来ずに放浪し、非常に気が立っていた為に本来なら外敵と認めない筈の霊夢や魔理沙の騒動に乗り込んできた物と思われる。
なお、「レイビオン」が「レイビー」の支配種なのか、「レイビー」の中の数体が「レイビオン」に成長するのかは学者達の間で見解が分かれているそうだ。