「八卦炉」を取り返した一行は、一先ず神社へと戻って来た。
道中に「トンボ」や「アルマジロ」が襲って来ることはなく、トラブルは何一つ起きなかった。
あの「蜂」を倒したことで一時的に恐れをなしたのだろうか、詳細は分からない。
時刻は3時頃だろうか、そろそろ日も落ちる頃合いだ。
「霊夢」
「何?」
「着いたら風呂入れさせて貰っていいか? 結構身体が汚れちまって、このまま帰る気分になれないぜ」
「自分で沸かしてくれるなら良いわよ、ただ泊まっていくなら寝具はないわ」
「うーん、流石にこの寒さで雑魚寝は嫌だし、大人しく帰るかな……」
魔理沙が少し躊躇う様に言っている理由は、今回遭遇できなかった「蛾」の事が理由だろう。
少なくとも「蜂」並の巨体がもう一体いるのだ、次は油断しないとはいえ独りで戦う時を考えたら心細いのだろう。
「……霊夢」
「次は何よ」
「あのさ、率直に聞きたいんだけど……あの「蜂」や「蛾」みたいな奴、まだ他にも居ると思うか?」
「……さあ、実際に会ってみないと分からないわ」
そう返した霊夢だったが、心の底の方で漠然と「多分居る」と思っていた。
ただ飽くまで答えを濁らせたのは、そう発言する事で「居ないかも」と思いたかったのかもしれない。
ただ、その答えを聞いた魔理沙は何故か顔を俯けてしまい、表情を隠してしまう。
魔理沙らしくないその様子を霊夢は怪訝に思った。
「魔理沙、何かあったの?」
「……実は、ちょっと前にな――」
そう魔理沙が言いかけた時だった。
「ぴーっ!」
「ミオン?」
「ぴいっぴー!」
魔理沙の箒の後ろに乗っていたミオンが前方を指差した。
霊夢がその先を追うと、前方に博麗神社の境内が見えてくる。
最初は単純に「着くよ」って教えてくれているのか、と思ったが……。
「――あれ、あの娘は……」
指先はより正確に、
霊夢と魔理沙はその人の方へと少し進路を修正して飛んでいく。
向こうも、空から向かってくる此方に気付いたようだ。
「霊夢さん、お待ちしてました」
「「橙」、アンタが来たのね」
「
猫又の妖怪であると同時に、「八雲紫」の式である「八雲藍」の式、という結構面倒くさい存在である。
要は「紫」からすれば「部下の部下」という立場であり、実際そんな感じで「紫」の使いっ走りをしていることもある(最も、猫の妖怪なので身のこなしが軽く、そういう意味の適材適所ではあるが)。
「アンタの主人達は来てないの?」
「藍しゃまと紫しゃまはご用事で手が離せないのです。なので私が代理で来ました」
「用事? 何かあったの?」
「……ごめんなさい、お答えできません」
霊夢は訝しむように眉を顰めた。
紫と藍の二人共が手を離せず、しかも理由を教えられないという。
どう考えてもただ事ではない、トッチメてでも聞き出そうかと霊夢は考え始めていたが、それを遮る様に魔理沙が霊夢の肩を叩いた。
「まぁ、取り敢えず中入ろうぜ。4人で態々寒い外で話す事じゃないだろ」
「ぴーぃー」
「あれ? その子は?」
「あぁ、この娘はミオンだ。ちょっと前から霊夢が保護してた娘だよ」
「霊夢さんが?」
「そうよ、境内で行き倒れてたから拾ったの」
橙はマジマジとミオンを見つめる。
正面を向き合うと、ミオンと橙の身長はそう大差ないように思える。
が、見た目の年齢が近いからと言って直ぐに仲良くなれるわけでもなく、ミオンは直ぐに魔理沙の背中に隠れてしまった。
軽いショックを受けた橙が涙目になる、その様子をミオンは魔理沙の背中越しに顔を出して見ているが、目が会うとすぐに引っ込んでしまう。
「まぁコイツ、最初は私でもこうだったんだ。とは言え、少しすれば慣れてくるから気にすんなよ」
「そうなんですね、ならそうさせて頂きます」
魔理沙のフォローを受け、ちょっとだけ残念そうな橙はミオンから目を離した。
その後ろで玄関に向かって歩いて行く霊夢は、引き戸を開けながら3人に振り向いた。
「じゃ、中で話ししましょうか」
「――で、アンタの用事は? 大体あの「化け物」の事だろうけど」
「あははは……。帰ってきたお三方の姿で、そんな気はしていました」
炬燵に入った4人は、出されたお茶で一息吐きながら話し始める。
四角の内の対面に霊夢と橙が座り、ミオンが霊夢の膝の間(定位置)、魔理沙が霊夢から左の面に座っていた。
「簡潔に言いますと、あの「怪物」達、「エイクリッド」は「外の世界」、それも
「ち、ちょっと待ってくれ。「別世界の宇宙」だと?」
魔理沙が驚きを隠さずに口を挟む。
橙は魔理沙の方に視線を向けて丁寧に答える。
「そうです。あれは人ではありませんが、
「存在しない筈の生き物……」
「「エイクリッド」、ってのがソイツ等の名前なのね。……で」
霊夢が橙の顔を覗きながら言うと、橙は緊張したように唾を一回飲んでから答え始めた。
「はい。何故
そう言って、橙は懐から「何か」を出して炬燵の上に置いた。
3人が覗き込むと、それは長方形の金属の板のような物体で、しかもかなり傷んでいる様子だった。
橙はその縁の辺りを触れ、何かのボタンを押す。
すると板の表面に「白い球体」が映し出され、更にその左右に文字の羅列が生じ始めた。
どれもこれも霊夢や魔理沙には読めない文字で、首をひねっている彼女達の様子を見た橙は説明を始めた。
「これがエイクリッド達の故郷、「EDN-3rd」という星です」
「エイクリッドの、「故郷」……」
魔理沙が息を飲む一方、霊夢は「ふーん」と鈍い反応だった。
「随分と白い星ね、まるで雪が積もっているみたい」
「実際、この映像を撮られた段階ではそうだったみたいです。極寒の惑星って奴です」
「……エイクリッドってのは、随分と物好きな奴なんだな」
嘗て幻想入りしてきた地球儀を触ったことがある魔理沙が呟く。
地球なら南国と言われる場所でさえ真っ白で均一であり、相当な寒さなのが容易に想像できる。
彼女は炬燵に足を突っ込んでいるにも関わらず、無意識に身を縮めるように肩を抱いていた。
「で、それがどうして「存在しない事」になるんだ。この星がアイツ等の「故郷」なんだろ?」
魔理沙が素朴な疑問を口にする。
それに答えようと橙が口を開いたが、その前に霊夢が割り込んだ。
「
「……その通りです、霊夢さん。紫しゃまが「EDN-3rd」があるという座標、星系を「見て」確認してきましたから間違いありません。この星は、
宇宙に存在しない星。
それを映し出した謎の機械と、其処から来たらしき謎の生物。
其処から考えられる要因は、凡そ突拍子もない事にしかならない。
「だから、
「……、」
「この機械も恐らく、エイクリッドの大規模な転移に巻き込まれた産物なのだと考えられます」
橙が更に画面を障ると、映像が変わり、奇怪な生物達の画像が映し出される。
どれも地球上の生物と似て非なる禍々しさを持ち、見るからに相容れなさそうな風貌を持っていた。
指でスクロールしていくその中には、「アルマジロ」や「トンボ」、「蜂」の姿も記録されていた。
「機械に使われている言語は「私達の世界」の英語と完璧に一致する、つまりこの機械の持ち主は
「エイクリッドっていう名前も彼等が?」
「はい、彼等が名付けた呼称です」
少なくとも完全な「未知」ではないのは救いでした、と橙は霊夢の質問に答える。
「エイクリッドに大きな目的意思があるとは思えません。このデータを参照しても、凶暴ではありますが知性的ではないのは明らかです」
「つまりこの「異変」は、「エイクリッドという外来種が大量に雪崩込んだ為の混迷」という事なの?」
「はい、ある意味一番「質の悪い」異変ですが、同時に一番「対処が簡単」な異変です」
ポータブル端末の電源を落とし、橙はそれを懐にしまった。
そして霊夢、魔理沙を順に見渡し、こう言い切った。
「
暫し静寂が訪れる。
目を瞑った霊夢は今の話をもって己の考えを纏め出し、魔理沙も先の戦闘からどれ程の「戦力」が必要になるか無意識に概算する。
そして、ただ独り呑気にお茶を飲んでいたミオンが、「ミォォォォヲン」と変な溜息を放った。
それがキッカケになり、目を開けた霊夢が口を開く。
「……で、それを実行する策はあるの?」
「八雲の名を使って協力を仰ぎます。先んじて人里の警邏には伝えたので今は被害は少ないですが、今後がどうなるか分かりませんし、時間の勝負です」
「人里に先に伝えてたのか? なら何でその時に他も回らなかったんだ」
「純粋に手が回りませんでした、
魔理沙の質問に、橙が答える。
その内容も、橙の申し訳無さそうな態度も、全てが「紫の用事」を余計に霊夢に気にさせていた。
――アイツは一体何をやっているの? こんな重大な事を私よりも先に人里に伝えるだけで「精一杯」なんて――
「結界の維持に問題でも起きたのか」と喉元まで出掛ける。
でもそれなら尚更、霊夢にすら伏せる理由が分からない。
表情で悟られないように悩んでいた霊夢の方へ、橙が姿勢を正して向かい合った。
「霊夢さんには、その時のご同行をお願いしたいのです。道中は既に多くのエイクリッドが徘徊してますし、奴らは人を見れば率先して襲いにきます。……恥ずかしながら、私一人では心許ないのです」
「分かったわ。私もあの「デカブツ」と戦って、厄介さは身に染みている。この「異変」の解決の為なら動かざるを得ないわね」
「有難うございます」
即答で引き受けた霊夢に、橙は炬燵越しに深く頭を下げる。
その背へ、横で聞いていた魔理沙も笑顔で声をかけた。
「私も同行するぜ。此処まで聞いたらもう乗りかかった舟だ、それにあの「デカブツ」なら私の方が相性良いしな」
「ぴーぃー」
「……そうね、ミオンも連れていた方が良いか。連中が「神秘」を解さない「化け物」なら、何れは此処も危ないだろうし」
この場の全員が満場一致で同行を決意する。
橙は初対面のミオンにすら丁寧に頭を下げると、改めて何かを炬燵の上に取り出した。
「では、明日から動き出すとして、回るべき場所がこんな感じです」
それはこの幻想郷の一帯の地図で、図の上に既に何箇所か赤丸で印を打たれていた。
「紅魔館、命蓮寺、永遠亭、妖怪の山、守矢神社、地霊殿、それと此処は……」
「地図の記載はありませんが、「太陽の花畑」です」
「本当に猛者達の居場所をピンポイントね、仙人共の方はどうするの?」
「何処かで連絡をつけます。で、先ずは何処から回るのか此処で予定を……」
「ピィッ!!」
「って、え?」
ミオンが地図のある一点を指差した。
その箇所へと3人の注目が集まる。
「
「ミオンは其処が良いの?」
「ぴーッ!」
彼女の意思は永遠亭のようだ。
だが子供のようにはしゃぐミオンの様を見ていると、単純に旅行気分なのかもしれない。
魔理沙と霊夢は苦笑しながらミオンの髪を撫でた。
「ミオン、私達は結構真剣に考えてるんだ。ちゃんと連れてってやるから、今はちょっと大人しく――」
「いえ、有りかもしれません」
「えっ」
諌めていた魔理沙が仰天して振り返ると、真面目な顔の橙が地図を睨んでいた。
「この先、どれ程のエイクリッドの襲撃、戦闘があるか分かりません。そんな環境で一番重宝されるのは「医療施設」、つまり「永遠亭」です」
「……、」
「それに妖怪の山との交渉は時間がかかる、恐らくその間に麓の守矢神社の交渉は出来るでしょう。すると一番最初に「永遠亭」を抑え、人里の「命蓮寺」、反対方向の「太陽の花畑」、山の手前の「紅魔館」、「妖怪の山」の交渉待ちで「守矢神社」、「妖怪の山」、最後に「地霊殿」というのが一番効率が高いのかもしれません」
橙は指で地図をなぞりながら話す。
言われてみると確かにそんな気もする、が、魔理沙は納得がいかない表情で言う。
「確かにそうだが、「永遠亭」といえばあの「月の連中」が居るんだぞ。只でさえあの面倒な竹林の中に、エイクリッド対策の罠を張っているかもしれないぜ? それよりゃ「紅魔館」の方が近いし、言い方が悪いかもしれんが「楽に済む所から地盤を固める」のも大切だぜ?」
「「紅魔館」の交渉が楽かどうかはこの際置いといて、余力のある内にリスクが大きくてもメリットの大きい物を取るのも手の一つです。それに、紅魔館よりも人里に近い「永遠亭」は最悪の事態に備えられる「避難場所」の一つにもなります。「命蓮寺」への声がけを第二しているのもそれが理由です。……最も、「命蓮寺」の皆さんなら声がけしなくても里の危機には動きそうですが」
「確かに、そうだがなぁ……」
うーむ、と魔理沙は考え込んでしまう。
理屈では理解しているようだが、何か引っ掛かっているものがあるように見える。
「何か問題があるの? 魔理沙」
彼女を覗き込む霊夢は、嫌味ではなく純粋に訪ねている様子だ。
暫し魔理沙は周順したのだが、ゆっくりと話し始めた。
「私の勘違いかもしれないんだがな……実は、最初に「蛾」に会う前にな――、」
続けた魔理沙の言葉を聞いた橙は、ハッとした表情で直ぐ様あの「機械」を取り出して操作し出す。
二人が見守る中、目的の項目を導いたらしい橙が、ゆっくりと顔を上げて言った。
「尚の事、「永遠亭」に行くべき「理由」が増えました」
そして時間は少し経ち、此処は博麗神社の風呂場、もとい嘗ての騒動で湧いた温泉である。
その脱衣所付近で、橙はキョロキョロと頻りに周囲を見渡している。
誰かを探している、と言うよりは
「……ミオン、って娘は居ないわね。よし」
少し前、「せめて替えの服だけでも取りに帰らせてくれ!」という魔理沙の懇願で、霊夢と魔理沙が二人で魔法の森に出掛けていくのを見送っている。
そして「ミオン」という娘と二人でお留守番をしていたのだが、彼女が炬燵で眠ったのを見計らって急いでやって来たのだ。
「あの子を一人にするのは可哀想だけど、二人が帰って来るまでにせめて湯浴みだけでもしないと」
イソイソと服を脱ぎ、温泉の中へと入っていく(尚、式は防水モード(一時的)にした模様)。
寒いこの気候でも地熱で温まっているこの温泉は暖かく、その心地良さは格別と言って良い。
橙も肩まで浸かって、リラックスしたように目を閉じた。
――……言わなくても良いのかな、本当に――
ふとそんな事を思ってしまう。
勿論、式として主の命に背くつもりはないが、それでも考えずには居られなかった。
――エイクリッドの「活動エネルギー」、それが齎す「作用」、そして「変遷」……――
藍様は「時期が来れば、必ず自ら話す」と仰っていたが、本当にその「時期」は訪れるのだろうか。
それ以前に
本当に――、大丈夫、なんだろうか――。
「……藍しゃま」
考えている内に、ポロポロ涙が出てきてしまう。
今なおも
大切な二人に残された猶予は、そんなに残ってないはずだ。
それなのに、今自分は呑気に温泉に入っている。
それは正しいのだろうか。
本当なら、今直ぐにでも
……いや、それが「間違い」なんて事は初めからわかっている。
主を信じ、主の命を忠実に果たしてこそ「式」。
この「心配」は、この「不安」は、主を信じ切れない「己の弱さ」その物だ。
「橙は……式、失格です……」
「ぴーぃ? ぴっ!」
「うぅ、ぐず……手拭い、有難うござ――――、」
「ぴーっぴ!」
「ひゃぁぁぁああああああああああああああ!!!?」
橙は温泉の中で真っ逆さまにひっくり返って沈んだ(そして危うく式が外れかけた)。
なんせ、目の前で真っ裸の「ミオン」が心配そうに此方を覗いていたからだ。
「ミ、ミオンさん!? い、一体どうして……というか何時の間に!?」
信じられなかった、いくら温泉で物思いに耽っていたとしても、目の前に現れるまで全く彼女の気配を悟れないなんて。
橙が実力的には未熟な妖怪であるとしても、妖獣としての感覚や勘には自信があった故に、これはかなりのショックであった。
「と、取り敢えず上がらないと……いや、その前に貴方が上がって下さい!」
「ぴぃーぴぴ?」
「「何でさ?」って、ひ、人は裸を見られるのは恥しがる物なんですよ! だから早く!」
「ぴぃぃィッ、ピィィーッ!!」
「ちょっ、何で抵抗するんですかこの子!? 私も直ぐ上がりますから順番なんですよーッ!!」
何だかえらく焦りながら、訳の分からない理屈を捏ねて橙はミオンを温泉から出したい様子。
で、ミオンもミオンで異常に出ることに抵抗している、謎の意地でも発揮しているのだろうか。
橙は無理やり背中を押してでも温泉から上げようとするが、ミオンはその細身の体の何処に力があるのか、縁の岩に指が食い込むレベルで必死に堪えている。
最早何だかよく分からない押し合いが繰り広げられる中、
「その娘はただ、私の「言い付け」を守っているだけよ」
その声は、彼女達の「上」から響いた。
「え……」
「ここの温泉、雪がずっと降っている所為なのかちょっと普段より水温が下がっちゃっててね。温泉に入る時はミオンの能力で少し温めて貰っているのよ。そして、出る時は必ず「
橙が見上げると、其処には全裸にタオルを巻いた霊夢と魔理沙が並んで浮かんでいた。
二人は温泉の中に空から入るという中々シュールな入浴スタイルで入ると、橙の両肩を其々掴んだ。
「不思議だったのよね~。最初は寒さ対策で「レギンス」履いているのかと思ったけど、その下に「ハイソックス」まで履いてたからなんか変だなーって。だから事前にミオンに「橙が温泉に行ったら追っかけて一緒に入りなさい」って伝えてはいたんだけどね」
「別にやろうと思えば服ぐらい自分の魔法で作れるしな、それより普段から獣臭い橙が今日に限って
「あ…………あぁ」
極楽の筈の湯の温度が、地獄の釜の熱さに感じるのはきっと気の所為じゃない。
先とは違う意味で涙を流す橙を温泉に引きずり込み、左右から非常に「良い」笑顔を向ける霊夢と魔理沙は、口々にこう言った。
「まぁ、此処は温泉。大人数で入ってお喋りするのも一興よ?」
「だから、ちゃんと語り合おうぜ?」
「「
湯越しにわかるだけでも、かなりの傷跡が付いていた。
首から足先まで完膚なきまでに火傷跡が残り、その上から幾つもの裂傷が、特に腹の真一文字の傷は肉が抉れてるのではと思うほど深い跡になっていた。
所々治療の後があり、縫合跡からは今でさえ微妙に血が滲んでいるように見える。
特に表情を変えずに普通に浸かっているものの、実際かなり滲みている筈だ。
霊夢や魔理沙ですら目を覆いたくなる程の凄惨な傷を全身に負っている橙は、見られてしまった辺りで観念したのか、俯きながらもぽつりぽつりと話し始めた。
「……あはは、お見苦しい物を、見せちゃいましたね」
「……何があったの」
先程の笑顔から一転し、炬燵を囲んだ会話以上の真剣さと緊張感を二人は露わにする。
「いくらアンタが未熟だからって、そんな傷跡を残すまでボロボロにされるなんてまともな事じゃないでしょ!?」
「それにお前の主達が黙っちゃいないだろ。……何なんだ、「奴ら」はどんな隠し玉を持ってやがるんだ!?」
彼女のこの傷跡、そして紫と藍の「手が離せない」用事。
それが最悪な「関連性」を持って繋がる、そんな嫌な予感が二人を苛み続けていた。
「……「アレ」は、
絞り出すような橙の声が響く。
「どの「エイクリッド」にも、「カテゴリーG」にも似ていなかった。あれは……「悪魔」だった」
自分を抱き締めるように両手で肩を掴む、その手が、身体が、ただ純粋な「恐怖」に震えていた。
「弾幕を放っても、妖力を使っても、スキマ送りにしても、「アレ」は止まらなかった。……「次元を超えた」、なんて空想を信じざるを得ない程、あれは「規格外」を超えていた」
「スキマ送りでも、止まらない? それは――」
「……
瞳孔が開きかけ、息を吐くのさえまともに出来ない。
それでも必死に、己を削るように言葉を紡いでいた。
「「マヨイガ」と「幻想郷」を隔てる「
「……
「――
霊夢も魔理沙も、それしか言えなかった。
あの大妖怪の最大の能力を簡単に打ち破る、そんな存在なんてまるで想像がつかなかった。
ただ、間違いなく、そんな事が出来る存在が居るなら、それは「神」か「悪魔」かのどちらかでしか有り得ないとも確信していた。
「……お二人が来られない理由は、その
小さく消えそうな言葉なのに、嫌になる程耳に残る響きを持っていた。
呪いの言葉のような、異質な力を持っているような雰囲気が漂っていた。
「アレが幻想郷を蹂躙しないように、その為に、紫"様"と藍"様"は己を削りながら時間を稼いでらっしゃるのです。……これが、「全て」です……」
言い切った事で何かの線が切れたのか、急に橙の身体から全ての力が抜けた。
二人はその身体が完全に沈み切る前に慌てて支え、ミオンが背後から抱き締めるようにして役を引き継いだ。
ガクリと俯いた橙の顔は青ざめ、瞳孔が開き切ったまま中を泳いでいる。
どれ程恐ろしい体験をしてきたのだろうか、慰める様にミオンが彼女の背中をなでていた。
「……とんでもない事になってきたわね」
「スキマを超える「悪魔」……出来ることなら、会わないままくたばってて欲しいぜ」
霊夢も魔理沙も動揺を隠せてずにいるが、それでも言葉を何とか紡いでいた。
叶わない願いと知りながら、それでも願わざるを得なかった。
そうしなければ、今すぐでも此処に現れそうで恐ろしかった。
「……紫"様"は」
橙の最後の言葉は、後の本人自身も言った記憶が無いという。
「……藍、身体は、まだ動く?」
「問題ありません。……しかし、まだ動きますか。
「困ったものね。
「自力で宇宙に飛び出し、星を跨いで繁殖できる生物……嫌な想像をしてしまいますね」
「その
「仰せのままに、最後までお供致します。……それに、アレが何故
「あら、主思いの従者を持った私は幸せものね……なら私も、優秀な式の主らしい振舞いを見せましょうか」
「紫様」
「ええ、向こうも此方に気付いたみたいね。……もうひと踏ん張り行くわよ」
「……あの悪魔を、未知の「
※現在ステータス(随時更新)
人物名:「ミオン」
種族:人間(?)
二つ名:迷い込んだ「忌み子」の少女→博麗神社の人間湯たんぽ→はしゃぎ回る生体ボイラー;new!
能力:「熱を発する程度の能力」→「熱を生む程度の能力」
→捕捉、少なくとも布の発火点までの瞬間加熱が可能