Fate/hollow order   作:神凪颯

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第2話です
感想をくれた方ありがとうございます
本編とは大分離れた進行になると思いますが、幾分大筋からは離れないよう進めようと思います。


第2話「始まりの日」

魔術の秘匿

それは魔術というものが確立されてから、暗黙の了解として魔術師たちに課せられたルールである。

 

魔術は人に見られてはならない

 

そのルールは魔術協会からも厳しく管理され、その掟を破るものならば、魔術師としての生はおろか、その代で魔術師の家系が滅びる可能性まである。

また、神秘の価値を失う可能性もあるということで魔術師の間で魔術の秘匿は義務付けられている。

かつて、とある聖杯戦争に参加したマスターは、自らのサーヴァントと共に、大量虐殺を行い、魔術の行使すら人目を気にせず行った。その結果、聖杯戦争の監督役から抹殺の指示が出され、マスターとサーヴァント共々討ち倒されたという。

 

ならば、このような場合はどうだろうか

 

魔法クラスの大魔術で、時間移動に匹敵する空間転移を行った結果、一般人の衆目の中でその姿を晒してしまった場合はーーー

 

「マシュ、逃げるぞ!!」

「は、はい!!」

 

難しくはない。人々の記録に残ってしまう前に逃げる。王道かつ最もかつ最適な手段である。

彼らは全力で走り抜けた。アメリカ大陸を横断する体力の持ち主であり、ギリシャの大英雄と鬼ごっこをした彼らにとって、衆目の中を走り抜けるというのは難しくはなかった。

 

それから走り続け、街を二分する大きな橋の近くまで来たところで視線を避けたことを確認し、その足を止めた。周りに人がいないことを確認したところでようやく息が切れた。

 

「う、迂闊でした…まさか、あのような状態でレイシフトしてしまうとは…」

 

今までのレイシフトは誰もいないところにそっと出現して活動していた。しかし、今回は一般人の目の前に出現してしまったということもあり、マシュも動揺を隠せないようだ。体に疲れはないが、精神的疲労が大きなダメージとなっている。

 

『うーん。座標はちゃんと合っているんだけどねぇ

これも歪みなのかなぁ?』

 

腕につけているカルデアの通信機からダ・ヴィンチちゃんの気の抜けるような声が聞こえてくる。彼/彼女 がそんな声を出す時には、脅威や異常を観測されてない時に出る声なので、出現するタイミングは失敗しても、ちゃんとレイシフトは成功しているということを意味している。

ダ・ヴィンチちゃんによると、冬木の街に観測される魔力反応は複数。しかし、どれも敵対するのか、味方になってくれるのかは不明だとのこと。やはり、自分たちに協力してくれるかもしれない人を探すしかない。

だが、冬木の街はそれなりに広さはある。魔力反応が点在するとはいえ、一つ一つしらみつぶしに探すのでは効率が悪すぎる。

 

「ですが、たとえ手当り次第でも手がかりを探さなければ…」

 

敵意を感じないからだろうか。マシュは普段の服装に戻っている。詳しい経緯はよくわからないが、約束された短い寿命から解放された今のマシュは、今までよりも生き生きしている。なんとなくそれがとても嬉しく感じている。

 

「そんなことより、その眼鏡似合ってるね。マシュ。」

 

ふとそんな言葉が出た。サーヴァント状態の時とは違い、普段の彼女はメガネをかけている。デミ・サーヴァントとしての格好ももちろん似合っているが、メガネをかけているときにはまた別の魅力もある。

そのようなことを考えてる内に自然に声が出てしまった。訂正や否定をするつもりはない。だって事実なのだから

 

「あ、ありがとうございます…先輩…」

 

顔を赤くしながらもこちらに視線を真っ直ぐに/逸らして 返してくれる彼女に俺/私 はどう接したらよいだろうか、たまに考えてしまう。今のマシュはデミ・サーヴァントとはいえ、中身は至って普通の女の子だ。楽しいことをたくさんしたいし、美しいものをたくさん見せてあげたい。それは藤丸立香にとって本心であり願いでもあった。

 

『はいはいそこ!ラブコメは今は後だよ』

 

ダ・ヴィンチちゃんからの通信で我に返る。こんなことをしている場合ではなかった。いや、本当はもう少ししていたい気もあるが、今は特異点の探索のほうが先である。

マシュもその気持ちがあったのかもしれない。まだ顔が少し赤いように見える。本当に気の合う後輩だ。

 

『もう少し調べて見たけど、その橋を渡った向こう側に1箇所、魔力反応が集中している場所がある。そこが少し怪しいからね。危険ではあるけど、同時に重要な手がかりになると思う。まずはそこから向かってみればいいんじゃないかな?』

 

ダ・ヴィンチちゃんの提案は最もだ。話がわかる人に出会うことが出来れば、こちらとて特異点探索が少しは進むからだ。立ち止まっても仕方ない。まずは、その魔力反応が集まっている場所に向かおう。

 

マシュと共に大橋をわたる。大きな橋の割には車などの通行人は少なく、見晴らしはよかった。

ぞくり…

ふと、背中に感じた殺気に思わず立香は振り返る。

 

何もない

誰もいない

 

だけど今の気配は、完全に人を殺す気配だった。

 

「先輩…?」

 

マシュが心配そうに見ている。気付かぬ内に冷や汗をかいていたのかもしれない。いつの間にか殺気も消えている。もしかしたら気の所為なのかもしれないと思い、マシュに大丈夫と告げて大橋を渡る。

ようやく渡りきったときには殺気などの気配はまるで何も無かったかのように街に足を踏み入れる。

標識を見るに、ここは冬木市深山町というらしい。先ほどの街中は新都と言うらしい。この冬木市は新都と深山町で主に分けられているようだ。

 

閑静な住宅街。そう言い表せるほど、ありふれた街並みであった。少し坂道が多い気もするが、近くに山が見えることから、そういう地形なのだろう。あの山には以前にも行った覚えがある。でも、魔力の反応はそこからではなかった。

山の中にある龍脈の震源。柳洞寺から離れた住宅地の中にある一つの屋敷である。

坂道を歩き続け、その屋敷にたどり着いた。

この土地の主はお金持ちなのだろうか。塀伝いに歩いてもかなりの広さがあった。過去2回のレイシフトでは訪れなかった場所なので戸惑いはあったが、ダ・ヴィンチちゃんのナビもありたどり着くことができた。

そして今、マシュと立香はその屋敷の門前に立っている。

 

「先輩…やっぱりここは、正面からお邪魔した方がいいでしょうか?」

 

特異点とはいえ、今のところは異状は見当たらないし、まずは正攻法で行こうと思う。だからここは正面突破、もとい正面からお宅訪問である。

門を叩こうとしたが、マシュに止められ自分が行くという。こういうときもサーヴァントに任せてくださいと。

立香からすれば、当たり前のことかもしれないが少し過保護すぎると思ってしまう。

門を叩こうとした時、ふと横に視線を向けるとーーー

 

「あれあれ?お客さんかな?家に何のようかしら?」

 

茶色の髪、虎のようなボーダーの服、一切の悪意を感じない活発そうなその声。間違いない。

 

ジャガーマンである

 

「じ、ジャガーマンさん!?」

 

マシュが驚きの声を顕にする。立香も驚いている。特異点とはいえ、ウルクにいたあの英霊がなぜこんなところに…!

 

「ノー!私はジャガーではなくタイガー!!

冬木の美人教師藤村大河とは私のことよ!!」

「タイガー…?」

「タイガー言うなっ!!」

 

タイガー。ジャガーではなくタイガーマンだった。

そこまでにしておけよ藤村

という言葉が頭をよぎったが驚くことはそこではない。彼女からはサーヴァント反応どころか魔力の反応すら感じられない。どうやら本当に人間のようだ。こっそりダ・ヴィンチちゃんに確認するも、ジャガーマンと瓜二つの人間のようだ。

 

「し、失礼しました!」

 

マシュにつられて立香も頭を下げる。人違いならぬ英霊違いをしてしまった。彼女は人間だが

 

「あー、いいのいいの。

それで、お2人さんどうしたの?うちに何か用?」

 

英霊違いをされたにも大河は特に気にしている様子もなく話を戻してくれた。意外と話がわかる人なのかもしれない。マシュは魔術や特異点のことは話さず、大河にこの屋敷の主に会いたいということを説明した。

 

「んーわかったわ!すぐに呼んでくるわね!

お2人さん、寒いから入って入って!」

 

大河もここの家の住人なのだろう。躊躇いなく屋敷に入っていき、立香とマシュもそれに続く。

広い庭に、石製の倉、大きな本殿と思われる屋敷があり、相当なお金持ちかもしれないと緊張してしまう。

遠慮がちに歩を進めると玄関先で待って、大河は「ただいまー!」と元気に入っていってしまった。家主と交渉してくれるのだろう。

 

それからすぐ、玄関が開いて人が現れた

 

「はい。えと…どちらさまで?」

 

赤みがかった茶色の髪、若そうだが歳は立香やマシュとあまり変わらないくらいだろうか。その面持ちは、カルデアに召喚された英霊に似ているが、誰だっただろうか

 

「突然の訪問失礼します。私はマシュ・キリエライト、こちらの人は藤丸立香。あなたが、この家の家主さんですか?」

 

「え?えぇ、まぁ…一応、この家の家主…ってことになるのか?

衛宮士郎です」

 

エミヤ…シロウ…!?

この特異点に来て驚かされてばかりである。衛宮士郎と名乗るこの少年は、カルデアにいるアーチャーやアサシンのエミヤと同じ名前である。

 

「な、なんですか…人の顔じろじろと…」

 

気付かぬ間に顔を凝視してしまったようだ。

動揺するもまた謝罪し、マシュは続ける。

 

「し、失礼しました。

さらに無礼な質問をすることをお許しください。ミスター衛宮

あなたは…魔術師ですね?」

 

「……なんだあんたら…」

 

士郎の警戒が一気に強まる。無理もない。いきなり自宅を訪問されて、魔術師かどうか聞かれて警戒しない方がどうかしている。

 

「私たちは、人理継続保障機関カルデア…この時代における特異点の探索のため、この街に来ました。

この時代に詳しい魔術師、またはサーヴァントを探しています。この屋敷から、多数の魔力反応を感知しました。あなたが魔術師であるのならば、ぜひお話を聞いてほしいのです!」

 

自分たちの目的、理由、正体を簡潔に説明するマシュ

士郎は怪訝そうな顔をしながらも、何かを思い当たったのか、訝しげな顔をしながらも話を聞いてくれた。

 

「……あんた達が何者なのかはわかった。けど、簡単には信用出来ない。詳しい話を聞かせてもらおう

とりあえず、中に入ってくれ。」

 

訝しげな顔をされながらも屋敷に足を踏み入れる。ダ・ヴィンチちゃんから小声で彼が魔術師と言われてなければ、お手上げだった。

家の中に上がり、広い部屋に通された。広い和室に、大きな机が置いてあり座布団が敷いてある。奥に見えるのはキッチンだろうか。綺麗に整理されている。

 

「遠坂、悪いけど…」

「席は外さないわ、私もここで聞かせてもらうわ。少しばかり興味もあるしね?」

 

「えっ…」

 

マシュがまたも声を漏らす。当然だ。目の前にあの金星の女神、イシュタルがいるのだから

だけど、先ほどのジャガーマンの件もある。おそらく彼女も人間なのであろう。

 

マシュと立香はお互い正座して通された席に座る。マシュからも緊張している雰囲気が伝わってくる。

一応お茶を出されたが、手をつけられるような空気ではない。向かいには士郎と、イシュタル似の女性が座っている。

 

「私は遠坂凛。

あなたたち、どこの人間?カルデアなんて聞いたことないわ。

それに、どうして衛宮君を魔術師だなんて思ったわけ?」

 

当然といえば当然の質問をされる。こういう説明は立香はあまり得意ではない。マシュが任せてほしいという目を向けてくるので、任せることにしよう。

 

「突然の無礼、失礼しました。ミス遠坂。

私はマシュ・キリエライト。隣にいるのは藤丸立香。

私はこの方のサーヴァントであり、こちらの方はマスターです。」

 

「……」

 

薄々気づいてはいるのだろう。凛は警戒しながらも話を聞いてくれている。

 

「私たちは、人理継続保障機関カルデアから、この特異点を調査するために派遣されました。

私たちからすれば、ここは過去の世界。この世界にレイシフト…もとい、一時的なタイムスリップにより、こうしてやってきました。

私たちはこの特異点において、原因不明の歪みの調査、及び解決を求めてやってきました。そこで、この時代に詳しいお2人に、ぜひ協力してほしいと思い、交渉に来ました…!」

 

凛は口元に手を当てて何かを考えている。いきなり自分たちの住む世界が歪んでいるなどと言われて信用してもらえるのかは不明だが、彼らが魔術師であるのならば、何かしら思うところもあるのだろうか。

 

「どう思う?衛宮君」

「俺は…その話に乗ろうとおもう。

完全に信用しているわけじゃない。だけど、彼らが冗談を言いに来たというわけじゃないのは、遠坂もわかるだろ?」

「……そうね

でも、私は事が起きるまでは衛宮君に任せるわ。

私だって信用しているわけじゃないもの

確証がない限りは、私は関与しないわ。私は私なりに調査する、っていえばいいかしらね」

「わかった。遠坂がそういうなら、それでいい」

 

どうやら凛は参加しない、もとい別行動ということらしいが、士郎は協力してもらえるということだ。自分たちから押しかけて置いてなんだが、ここまで話を解ってもらえたというだけでも上出来だろう。

2人にお礼を言い、衛宮邸を後にしようとする。

 

「待ちなさい。二人とも、泊まるところあるの?」

 

言われてみて気づいた。二人とも文無しである。

最初から野宿する気ではあったのだが…

 

「行くとこないならここにしばらく泊まっていきなさいな」

「はぁ!?と、遠坂!」

 

士郎はもちろん反対、のようだが、凛に言いくるめられているようだ。確かに、どこの誰かとわからない人たちを見逃すよりかは、手の届く監視下に置いた方がいいのかもしれない、というところなのだろう。

泊めてもらえるというのであればこちらとて願ったり叶ったりな状況ではある

 

「…わかった…部屋は空いてるし、そこを使ってくれていい」

「ありがとうございます…!」

 

マシュと共にお礼をする。この恩のためにも、一刻も早く特異点を修正しなければと改めて決意した。




最後まで読んでくださった方ありがとうございます

マシュと立香を士郎たちとどのタイミングで接触するか、ということですごく悩みました。
昼に会うのか、夜に会うのかで内容が大きく変わるからです
ですが、FGOの通例どおり、序盤のタイミングでナビゲーターが現れるというのであればなるべく早く会わせたかったというのもありますので、このようなまさかのお宅訪問になってしまいました。申し訳ありません
次回は一日目の夜を描きたいと思います。
よろしくお願い致します

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