【完結】アリス・イン・ワンダーランド   作:さくらのみや・K

1 / 21
Disc.1 慧梨主の恋
Track.1 プロローグ


あたしは最後に、地下室の扉を閉めて鍵をかけた。

どうせ、前からあたししか使ってなかった部屋。

住人は最早あたしだけなのだから、鍵を捨ててしまえばもうこの部屋を開けることもないだろう。

あたしは扉に背を向け、1階へ続くコンクリートの階段を登った。

 

“ELISU”と書かれた、ピンクと白のプレートが取り付けられているドアを開く。

薄暗い部屋の中から、猛烈な臭いが吹き出す。

錆びた銅のような臭い…

 

愛する妹から溢れ、飛び散った、赤々とした血の匂いだ。

 

そっと頬に手を当てる。

雪のように白くなった肌。

着替えた服が血まみれになるのも厭わず、あたしは妹の亡骸を抱き寄せた。

 

「あたしもすぐに行くからね…」

 

あたしは、側にあったナイフを手に取った。

妹が自らの喉に突き刺し、刃の部分は真っ赤に濡れていた。

同じナイフで死ねば、同じ所へ行けるかも知れない。

本当のところは分からないけど、どうせ死んでしまえばもう考える事もない。

 

「待っててね、エリス…」

 

あたしは、自分の喉にナイフの先を押し当てた。

 

………………

……………

…………

………

……

 

私の一日は、目覚ましの電子音で始まる。

画面に表示された停止ボタンをタッチし、駄々をこねる身体を無理矢理起こす。

午前5時。

外はまだうっすらとオレンジがかっている。

 

この家の家事は私の担当。

朝ごはんも私が作る。

正直、朝ごはんくらいコンビニで済ませても良いのだけれど、やっぱり手作りの方が健康には良い。

と言っても気の利いた料理を作れるわけでもなく、メニューはトーストに目玉焼き、それにコーンフレークかスープ。

至って平凡な朝食を、家族分作るのだ。

「いただきます。」

 

セーラー服を身につけ、その上にグレーのコートを羽織る。

教科書類が入ったカバンとマフラーを手に、私は外へ出た。

玄関の鍵をかけ、学校へ向かって歩き出す。

歩いておよそ30分。

進学がメインの、公立の普通高校だ。

いつも早めに登校し、静かな教室で読書や友達とお喋りしている。

7時ぐらいに家を出るのが一番良い。

 

大体道の中程で、いつもの友達に会う。

「おはようさくらちゃん!」

「おはよう。」

綾瀬ちゃんとは3年間同じクラス。

転校してきた時、真っ先に声をかけて色々助けてくれた。

それ以来、お互いの事を話し合う親友になった。

「さくら」というのは、桜ノ宮という私の名字から来ている。

「今日から3年生かー。さくらちゃん、なんか勉強してる?受験の。」

「いや…あ、でも参考書は買ったよ。」

「えらいじゃない!で、やってみた?」

首を横に降る。

「…まだ袋に入ったままなの。」

綾瀬ちゃんはそれを聞くと、大口を開けて笑った。

「分かるな〜それ〜。私もね、特に親が買ってきたやつなんてほとんどやってない。分かんないし。」

「うーん、参考書ってやたら難しいよね。」

こうやって楽しくお話しながら、私は毎朝登校している。

こういう他愛のない時間が、とても楽しいし何にも代えられない幸せだ。

 

私がこうやって、仲の良い友人を作れたのは、何もかもお姉さまのお陰だ。

お姉さまはとっても外向的な性格で、気さくで友達もたくさんいる。

それに勉強も得意だし、体育でも良い点を取るし、何より人気だ。

ちょっと大人しい性格の私に、お姉さまは友達の作り方を教えてくれた。

それだけじゃない。

勉強も、運動も、係や委員会の仕事を上手くこなす方法も、全て教えてくれた。

怒る時のお姉さまはちょっと怖いけど、私をここまで明るくしてくれた。

 

お姉さまは、私のたった1つの自慢。

私の憧れ。

私もいつか、お姉さまのようになりたい。

そう願っている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。