【完結】アリス・イン・ワンダーランド   作:さくらのみや・K

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Track.11 瓜二つ

深夜。

目を覚ますと、繋がれた手は離れていた。

まあ当然だが。

トイレに行こうと、俺は身体を起こす。

隣のベッドを見ると、そこに慧梨主はいなかった。

別になんとも思わなかった。

彼女もトイレに起きたんだろう。

俺は立ち上がり、部屋を出た。

 

 

トイレで鉢合わせするのもなんだなと思い、俺は静かに一階へ降りた。

桜ノ宮家には一階と二階にトイレがあり、一階のは玄関へと続く廊下の途中にある。

その廊下へ向かう途中に、俺は人影を見つけた。

まさか慧梨主も一階に来てたとは思わなかった。

わざわざ降りて来た言い訳を考えていると、彼女の方から声をかけてきた。

 

「あ…夢明希じゃない。お久しぶりね。」

ニコッと微笑む彼女のその言葉を、俺は理解できなかった。

 

声も、顔付きも慧梨主本人だった。

極め付けは服装で、羽織っているカーディガン以外は慧梨主と同じ。

その彼女に久しぶりに会ったみたいなことを言われ、俺は動揺した。

 

「何よ、あたしがここにいておかしいわけ?あたしだってこの家の人間なのよ。」

奇妙に見られたことに腹を立てたように彼女は言った。

その口調から、俺の混乱している頭はなんとか目の前にいる人物を割り出した。

「え?…じゃあ、亜梨主なのか?」

それでも、やっぱり見た目は慧梨主そのものだった。

「…何ジロジロ見てんのよ。」

「だって、まあ…その…慧梨主ちゃんそっくりだなぁと。」

「だって双子だもん。もしかして知らなかった?」

そうは言われても、やはり信じることができない。

ましてや今彼女が着ているのは、さっきまで慧梨主が着ていたパジャマとなんら変わりないのだ。

万が一パジャマがお揃いだったとしても、身体的に似てるところがあり過ぎる。

「でもさ…前は結構違ってたじゃん。割と見た目ですぐ区別ついたし。」

「小学校の頃の話じゃない。今年で18になるのよ?そりゃ成長の仕方によっては似たりもするわよ。まあ、髪型変わったっていうのはあるかもね。」

彼女はハッキリと言い切った。

そこまで言われると何も言い返せなくなるが、それでも釈然としない。

「あぁ…なんで慧梨主ちゃんと一緒にしたの?」

「さあ…なんでだったかしら。単純にポニテに飽きたのかもね。結構髪伸ばしてたけど、洗うのめんどくさかったっていうのもあるかも。」

信じた訳ではないが、それ以上疑う要素もない。

別々に見てるから気付かないだけなのか。

そう考えるしかなかった。

 

「で?あんた何しに降りて来たのよ。慧梨主と寝てたんじゃないの?」

「え………あぁ…いや…だって俺んち庶民だから。トイレなんて家に一個しかねーもん。トイレしに階段降りるのは…」

さっきまで慧梨主向けに考えてた言い訳を、思い出しながら俺は言った。

「素直に言いなさいよ、忘れてたって…」

「…さーせん。」

敗北を認め、俺は素直に謝った。

すると亜梨主はそれを見て笑い出した。

「え?なに?」

「いや、あんた変わったわね。随分素直になった。」

「そうかな。」

多少自覚はあるが、そんなにだとは思わなかった。

「びっくりよ。そうだ…せっかくだし、久しぶりに色々話しましょう?」

「別に良いけど。」

「じゃあ着いていらっしゃい。ジュース奢ってあげるから。」

「あ、ありがと…」

俺は、玄関に向かって歩き出す亜梨主の後を追った。

 

あ、トイレ…

 

 

俺達は近くの公園のベンチに腰掛けた。

奢ってもらった缶コーヒーの封を開ける。

「慧梨主とはどう?上手くいってる?」

「多分ね…俺さ、慧梨主ちゃんが初めての彼女なんだよね。だから今が良いのか悪いのか…大丈夫だと思うけど。」

「あんたなら大丈夫よ。このあたしが言うんだから間違いないわ。」

随分慧梨主そっくりだが、性格はやっぱり変わっていない。

ハキハキと、そして堂々とした感じは、やはりあの亜梨主だった。

「あ、でももうちょいお洒落に気遣ったら?オタク丸出しよ?」

「高専に染まるとこーなんのよ…自覚はあるけど。」

こういう小うるさいのも変わってなかった。

 

この後しばらく世間話をしていたが、やがて亜梨主は話題を変えてきた。

「…あんたに、どうしても伝えておきたいことがあるの。」

真剣な面持ちでそう言った。

「俺に?何のこと?」

「慧梨主の、恋愛のこと。」

まだ何かあるのか…というのが、俺の正直な思いだった。

親を亡くした挙句、恋愛でも何かトラウマがあるのかと。

「慧梨主と付き合う以上、知ってもらわないとね。あんただって下手に傷に触れて、あの娘を悲しませたくはないでしょ?」

「…そうだね。」

 

 

それからどれくらい経っただろう。

亜梨主からそれはそれは壮絶な話を聞かされた。

慧梨主の出逢いと別れ。

亜梨主がどのように関わって、そして慧梨主を傷つけてしまったのか。

慧梨主と亜梨主の仲がどのように引き裂かれたのかも、全て話してくれた。

「姿も見せてくれないし…もしかしたら、この髪型にしたのもそれが理由なのかもね。」

 

何としても引き合わせたい。

慧梨主の感情も知っているが、それを口に出そうとして思いとどまった。

今はまだダメなのだ。

同じ屋根の下に何年いても分かり合えないのは、それだけ互いに負った傷が深いから。

二人が自分で決心しなくては意味がないのだ。

 

そして俺には、その時二人の架け橋にならなくてはいけない。

慧梨主を愛し、二人の心の傷を知った者としての責任だ。

 

 

帰り際。

「夢明希、約束して欲しいの。」

亜梨主は立ち止まり、俺の方を向いた。

「何?」

「今日話したことは、慧梨主には言わないで。そして、これからも大切にしてあげて。」

心の底から慧梨主を心配している、亜梨主の真剣な願いだった。

亜梨主が慧梨主そっくりなのも、もしかしたらその想いがそうさせているのかもしれない。

「もし悲しませたりしたら…」

「したら…?」

亜梨主はニコッと微笑んで、ひと言こう言った。

 

殺すわよ?_________と。

 

 

亜梨主と別れ、俺は慧梨主の部屋に戻った。

「…」

月明かりで僅かに照らされる慧梨主のベッドの上には、誰もいなかった。

 

もう、ただの妄想だと言い逃れは出来ない。

 

だが、今はもう頭がいっぱいだった。

 

俺は自分の布団に潜り込み、目をつぶって眠ることに努めた。

何事も無く、明日の朝が訪れる事を祈って。

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