【完結】アリス・イン・ワンダーランド   作:さくらのみや・K

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Track.14 滅びの序章

4月の半ば、彼女もキャンパスライフに慣れ始め、俺も来年に控えた就職活動を向けて少しずつ進路を考え始めた。

 

慧梨主と付き合い始めて、もうすぐ一年になろうとしている。

相変わらず仲は良いが、関係が深まれば深まるほどに不安になる。

 

 

あの夏の夜、慧梨主と全く同じ格好をした亜梨主を見た_________

 

あれ以来、同じようなことはなかった。

そして、しばらく勘繰っていた俺だが、最近はそのことに関して目をそらすようになった。

 

慧梨主と亜梨主が同一人物であること。

もしそれが本当で、俺がその真実に触れてしまったら…

その瞬間、俺と慧梨主の関係は崩れ去ってしまうかもしれない。

慧梨主の傷ついた心の平穏を壊してまで、知りたい真実など無かった。

 

二人の正体は、開けてはならないパンドラの匣なのだ_________

 

俺はそう自分に言い聞かせた。

 

それでも俺は、ついつい考えてしまう。

もし本当なら、“もう一人”はどこにいるのだろうか。

 

あの広い桜ノ宮家のどこかに隠れているのか、

違う土地で別々に暮らしているのか、

 

あるいは_________

 

 

たとえ真実がなんであれ、俺は祈るしかなかった。

慧梨主との長く長く続く幸せを。

できることなら、パンドラの匣が開かないうちに彼女と結ばれることを。

 

………………

……………

…………

………

……

 

夜。

今日は、私が大学生になって初めてのお泊りだった。

夕飯も食べ終え、今は私の部屋で二人並んで座っていた。

「GWのドライブさ、泊まるとこショボいけど良い?」

夢明希くんが私に尋ねた。

「やっぱあそこは混むわ〜。ホテルでそこそこのとこは全部埋まってた。」

「連休ですものね。私は全然構いませんよ、夢明希くんが一緒なら。」

好きな人とするお出かけなんて、楽しくないはずがない。

夢明希くんとなら、野宿でも怖く無かった。

「ンフ…ありがと。高いとこならあるにはあったんだけど、クルマ買っちゃったから金無いんだよね。」

「じゃあ、新しい車でお出かけできるんですね!楽しみです!」

「ま、中古だけどね。マニュアルだからエンストしたらごめんね。」

 

 

しばらくして、夢明希くんは家族で出かけたときの色んな話をしてくれた。

「一番ビビったのはGWに山越えた時だなぁ〜。父さんのグラツー夏タイヤに交換してたのは良いんだけど、セミスリックで溝あまりなくってさ。それで峠越えようとしたら上の方アイスバーンでつるっつるさ。」

「えぇっ、それで大丈夫だったんですか?」

「なんとかね。でも5、6台事故ってたよ。マジ後ろ乗ってて死ぬかと思った…」

その話で、私は自分達がその1台の中にいるのを想像して怖くなった。

「今年は大丈夫でしょうか…」

「予報だと結構暖かくなるらしいね。安心してよ、スイスポはラリーにも出てるしね…って関係ないか。」

夢明希くんの頼り甲斐のある表情を、私は信じることにした。

 

「慧梨主ちゃんはそういうのないの?家族とお出かけとか…」

夢明希くんはそこまで聞いて、バツが悪そうな顔をした。

「あ…ごめん…」

「いえ、良いんです。大丈夫ですよ。」

もちろん、死んでしまった二人の事を思い出すと悲しい。

けれど、家族の思い出は楽しいものばかりだった。

 

「小さい頃はよく行きましたよ。動物園とか、遊園地とか。もちろん、夢に出てきたところも。4人で手を繋いで歩いて、色んなものを見て周りました。」

あの頃が一番幸せだった。

お母さまがいつも元気に仕切っていて、お父さまと私達姉妹がそれに着いて行く。

自然に囲まれた公園の中で遊ぶ私とお姉さま、それをベンチに座って笑顔で眺めるお父さまとお母さま。

平和なひと時だった。

 

だけど両親が死んでからは、お出かけすることもなくなった。

車を運転できる人もいないし、しばらくしてお姉さまも姿を隠してしまった。

 

「最後にお出かけしたのは、高校に入ってすぐでした。」

付き合い始めたお兄さまと、どこかへ遊びに行こうと約束した。

どこへという訳ではなかったけれど、久しぶりの、それも好きな人との初めてのお出かけ。

私は嬉しかった。

「ふーん…それで、その人とは結局どこに行ったの?」

夢明希くんが尋ねた。

「えーっと確か…」

私は記憶を呼び出そうとした。

 

……

 

…あれ…

 

思い出せない………

 

「私、どこに行ったんだろう…あれ?全然思い出せない…」

心拍数が上がる。

お出かけした事だけじゃない。

お兄さまと約束してから後のこと、私がどのように裏切られて、転校して、綾瀬ちゃんと仲良くなったのか…

夢明希くんに出会うより少し前からの記憶しかなかった。

 

「慧梨主ちゃん?そんな無理して思い出さなくてm」

 

「私はどこに行ったの?ずっと何をしてたの?思い出せない…何も、何も覚えてない…!」

 

急に全ての記憶が霞んで行く。

 

家族との楽しい想い出も、綾瀬ちゃんと仲良く過ごした高校生活も、そして夢明希くんと育んだ幸せな記憶も…

 

全てが遠のき、真っ暗闇に消えていく。

 

私は誰?

 

「慧梨主ちゃん!どうしたの!?慧梨主!!」

「いやッ!!」

 

パニックになった私は、夢明希くんを突き飛ばして部屋を飛び出した。

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