今日は、ゴールデンウィークの前半と後半を分ける平日だった。
休ませろと不満を口にする人もいたけど、特に予定の無い私はさほど気にしない。
まあ、休みになってくれるなら、それはそれでありがたいけど…
「ふぅ。」
私は一人、公園のベンチに腰掛けた。
甲高い音がする。
遠くの方で、ラジコンカーが走り回っていた。
この公園には、お姉さまとよく遊びに来ていた。
小さい頃は他のお友達と走ったりして、大きくなるにつれて相談の場になった。
元々走るのが得意なお姉さま。
昔は全く追いつけなかったけど…
不意に、足に何かがてんと当たった。
「?」
底に転がっていたのは小さな小さなタイヤだった。
前を見ると、ラジコンで遊んでいた男子が駆け寄ってくる。
「すいませーーん!!」
変形したピストルのようなリモコンを片手に、その人は側まで走って来た。
「いえいえ、どうぞ。」
手のひら大のタイヤを拾って手渡す。
「あ、ごめんなさい。ありがとうございますー。」
後ろ手で頭をかきながら、彼は受け取る。
その直後、急に動きを止めて私を見つめた。
「え?あの…?」
「もしかして…亜梨主?」
驚いた表情を浮かべ、まじまじと私を見つめる。
「…あ、違いました?すいません、人違いです。」
黙り込む私に、彼は平謝りして走り去ろうとした。
「えっと…あの!そっちはお姉さまの方です。」
「え?じゃあ妹さんの方の…えっと…」
「…慧梨主です。」
名前を告げると、彼は思い出したのか大きく頷いた。
「そう!慧梨主ちゃん!あの…俺のこと覚えてますか?」
「あ…はい。えっと…夢明希くん?ですよね。」
この人のこと、私はよく覚えている。
『ちょっと!こんなとこで紙ヒコーキであそばないでよね!』
小学校の教室、お姉さまはそう言った。
気が強い上に味方も多かったお姉さまは、数人の女子達を背に、飛行機を飛ばして遊ぶ男子達を叱りつける。
ほとんどの男子は悔しそうにしながらも、怖くて逆らう事ができない。
でも…
『うるせーなー!おまえたちの方に飛ばしてねーだろー!先生でもないくせにえらそーなこというな!』
すごむ男子達を背に、堂々とお姉さまに逆らう一人の男の子。
幼き日の柏木 夢明希くんだ。
「夢明希くん、お姉さまとはよく言い争ってましたよね。」
「そんな事もあったねー…いやぁ、ぶっちゃけ黒歴史ってことで封印してたんだけどね〜。」
黄色いラジコンカーをイジりながら、夢明希くんは恥ずかしそうにそう言った。
攻撃的だったあの頃の面影は無く、今は明るい好青年みたいな感じ。
「掃除でリーダーだったお姉さまが雑巾掛け夢明希くんに押し付けてケンカになったり、絵の具がお姉さまに飛び跳ねてケンカになったり、席替えで隣同士になったときなんて酷かったですよね。」
「あわわわ…」
顔を真っ赤に染める夢明希くん。
他にも夢明希くんが仕事をサボったり、お姉さまと仲の良い他の女子とケンカになってたり、もう事あるごとにケンカしていた。
ラジコンカーが治ったらしい。
ポーチにドライバーを仕舞い込み、4つのタイヤがキチンとついた車を見つめる夢明希くん。
「でもさ、そんなに細かくよく知ってたね。そんなに色々愚痴ってたの?亜梨主は。」
「…え?」
「だって確か、クラス違わなかったっけ?」
記憶を巡る。
でも、確かに私とお姉さまは6年間、ずっと同じクラスで過ごしていた。
クラスが変わったのは、中学校に入ってからのはず。
ほぼ一人で過ごしていた中学時代はあまり記憶にないが、小学校の頃の方は記憶に自信がある。
「私はずっと、お姉さまと同じクラスでしたよ?確か…夢明希くん、5、6年で私達とクラスが分かれたから、その時に勘違いしちゃったんじゃ…」
アゴに手を当て、少し考え込む夢明希くん。
「…かなぁ。ま、でももう卒業して6年以上も前の話だしね、覚えてなくてもしゃーなし。」
そう言ってアッサリと彼は認めた。
それから私達は、しばらくお互いの事について色々お話しした。
学校のこと、最近起こった事件などなど。
夢明希くんは今日学校をサボって遊んでいたらしい。
「まあ、規定の単位取れてれば特に問題ないしね。なんでせっかくの連休に学校来なきゃなんねーわけ?」
「うーん…でも先生とか何も言わないんですか?だって、その…ズル休みなわけでしょう?」
「大丈夫、朝に頭痛いおって電話しといたから。それなら先生なんも気にしないしね。多分5〜6人は休んでんじゃね?高専生だもん。」
平然と言ってのける夢明希くん。
「高専生って多いんですか?そう言う人…」
「んまぁ…変わり者とオタクの巣窟だからさ。授業中に隠れてオセロしたり、他の課題やったり…」
「ええ…」
ちょっとそれは…とは思ったけど、あえて口には出さない。
「でも大抵の人は要領良いしね。そんな人でも、きっちり成績とって東大に編入した人もいるし。」
「す、すごいですね…夢明希くんも、そんな感じですか?」
「あはは、まあ俺は留年しない様に頑張ってるよ。」
気がつくと、もう2時間近く話していた。
日が沈みかけて、辺りはオレンジ色に染められていた。
「ごめんなさいね、ついつい長話ししちゃって。」
「あーあー気にしないでいいよ。俺もクラスの奴以外と話したのは久しぶりだしね。」
ラジコンで目一杯遊ぶつもりだったろうに、夢明希くんは楽しそうに私と話してくれた。
男の人とこんなに楽しく話せたのは、一体何年振りだろうか。
「それじゃあ私、帰りますね。また今度…」
「あ、待って待って!」
立ち去ろうとする私を呼び止める夢明希くん。
彼の手には、iPhoneが握られていた。
「良かったらその…連絡先的な…」
急にシャイな表情を見せる。
さっきまでの彼とは対照的で、なぜかそれが私の胸を高鳴らせた。
夢明希くんも、私とのお話しを楽しんでくれていたんだ。
そう思うと、なんだか愛しさを覚えてしまった。
「いいですよ。これからもよろしくお願いします。」
私は笑顔で、そう答えた。