【完結】アリス・イン・ワンダーランド   作:さくらのみや・K

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Track.3 運命の朝

 

深夜。

あたしは家の近くにある、自販機の側にいた。

「ふぅ…」

辺りはしんと静まり返っている。

ブラックの缶コーヒーを片手に、あたしは真夜中の住宅街を眺めていた。

 

慧梨主が恋をした__________

 

今から2ヶ月くらい前、GWの時に再会した夢明希と慧梨主。

ウマが合ったのか、それ以来ちょくちょく連絡を取り合ったり、一緒に遊んだりしていた。

だから、好きになるのは不自然じゃない。

 

あたしは、夢明希のことならよく知っている。

小学校の頃は、何かと突っかかってくるうるさい奴だったけど、慧梨主みたいな弱い子には優しかった。

まだ今の夢明希と話した事は無いけど、慧梨主の様子を見る分には変わってなさそう。

むしろ、前より丸い人間になってるみたい。

 

缶コーヒーの中身が空になる。

「…量減ったんじゃないの?ケチくさいわね。」

空き缶にそう罵り、ゴミ箱に放った。

カフェインが身体を巡り、頭がすーっと冴えていく。

こんな時間だけれど。

 

慧梨主が転校して以来、彼女があたしの妹だからと男子達の的になる事も、変にもてはやされることも無くなった。

そもそも夢明希は他校の人間だから、「桜ノ宮 亜梨主の妹を彼氏にした」というのは、あいつにとって全く自慢にならない。

もし仮に自慢になったとしても、あいつはそんなものの為に付き合うやつじゃない。

 

いずれにせよ、今度は慧梨主を悲しませる事は無いだろう。

少なくとも、夢明希自身が慧梨主を裏切ることはしないと思う。

だからあたしは、黙って見守る事にした。

 

例え何かあっても、あたしはただ見守って、慧梨主を側で支えるだけにする。

今のあの娘ならきっと、多少の悲しみも糧にして前へ進めるだろう。

 

もうあの悲劇を繰り返してはいけない…

 

そう誓って、あたしは自宅へと戻った。

 

………………

……………

…………

………

……

 

「ごめんな、こんな朝っぱらから。」

「いえそんな…」

早朝。

夢明希くんが私を誘ったのは、自転車で20分程のところにある丘の上の公園だった。

「ラジコンやるのってさ、広くなきゃなんないし、人いたら危ないし…ってなるとこんな時間しかないんだよね。」

ちょっと申し訳なさそうにラジコンカーをいじる夢明希くん。

「いえ、大丈夫ですよ。私も…あまり人の多いところは、苦手ですし。それに、誘ったのは私の方ですし。」

「でも、ラジコンしてるとこが見たいって…なかなか不思議なリクエストだよね。」

こんな時間と場所になるとは思わなかったけど、夢明希くんを誘ったのは私だ。

 

きっかけは、綾瀬ちゃんのアドバイスだった。

『これは私オリジナルの方法なんだけど、相手の本性…っていうか本音を見るにはね、相手の好きな事に付き合うのが一番だと思うの。』

綾瀬ちゃん曰く、相手の趣味とか好きな事に一緒に取り組んだり、してるのを見たりしていると、その人がどんな人をか分かる…らしい。

もし断られたらそもそも信頼されてないし、一緒になれても存在を忘れられたりしたら、その人はどこかで自分を優先してたりする。

好きな事に夢中になっていても、自分を一番に思ってくれる人は、本当に良い人なんだそうだ。

 

「慧梨主ちゃんもラジコン気になるの?」

「え?いや…でも、ラジコンしてる夢明希くんが、一番キラキラしてるっていうか…その、見てて元気が出るんです。」

それを聞くと、夢明希くんはじっとこちらを見つめた。

「あ…そ…それは良かったー。あはは…」

さっと逸らしたその顔は、耳まで真っ赤にしていた。

「もしかして、照れてるんですか?」

「…だってほら、高専生ってそういうの不慣れだしぃ。」

自由奔放で明るい性格の夢明希くんは、実はいじらしいほどに純情だったりする。

それが、私の胸にキュンと響く。

 

私は、そんな夢明希くんに恋をした。

明るくて、優しくて、それにちょっと可愛いところもあって…

それに、何にも縛られていなさそうな、いかにも自由な雰囲気に、私はいつからか惹かれていた。

あの日出会って以来、夢明希くんとはいつもLINEでお話ししている。

ちょっと人と変わっていて、でもそれがすごくおもしろくて、どんな話でも聞いてくれる。

と、良いところを挙げればキリがない。

それくらい、私は夢明希くんに惹かれていた。

 

だけど、私には失恋の経験もある。

ずっと憧れ、大好きだった人。

ずっとお兄さまと呼んで慕っていたその人に、私は裏切られた。

もうあの悲しみは味わいたくない。

だから、私は夢明希くんがどういう人か、確かめる事にしたのだ。

好きな人を試すみたいで嫌だけど、デートだと思えば良いだろう。

後から傷つくよりはマシ。

 

 

夢明希くんは、黙々とラジコンカーを走らせていた。

砂地の広場に作ったコースを、夢明希くんの愛車は砂煙を巻き上げて疾駆する。

彼はそれを真剣な眼差しで見ていた。

静かな公園に響くのは、スズメのさえずりとモーターの音だけだった。

 

不意に夢明希くんがこっちを見た。

夢中になり過ぎて、私はずっと彼を見つめていた事を忘れていた。

ばっちり目が合う。

「…」

「…」

沈黙。

夢明希くんの顔が赤い。

私も、サウナにでも入れられたみたいに顔が火照る。

「…やってみる?」

沈黙に耐え兼ねたのか、夢明希くんは私にリモコンを差し出した。

「え?」

「いや…ずっと見てたから、走らせてみたいのかなーって。」

正直そんなつもりは無かったのだれけれど…

「いいんですか?それじゃあ…」

私はリモコンを受け取った。

 

操作の仕方を教わって、とりあえず走らせてみた。

大きさの割に随分速い。

しかも砂で滑って、上手くコントロールできない。

「すごく…難しいんですね。」

「そうなんだよねー。まあ慣れたらおもしろいよ。」

夢明希くんが並べた三角コーンを、私の操作でことごとくなぎ倒していく。

あっという間に散らかってしまった。

「ご、ごめんなさい…」

「大丈夫大丈夫、俺も最初はそんな感じだったし。」

「ど…どうやったらあんな風に走れるんですか?」

「練習あるのみ。」

 

 

その後、私達は交代で遊び尽くした。

「なかなか筋良いんじゃない?」

遊び終わった私は、夢明希くんの家にお邪魔していた。

彼のお家はとってもおしゃれで、まるで外国のようだった。

「そんなこと…夢明希くんの教え方が上手だったからですよ。」

電池切れになるちょっと前から、少しだけど上手く走れたというか、ただ暴れまわっているという感じではなくなった。

彼の説明は言ってる事がイメージしやすい。

「そう?でもこういうのって、説明されてできるってもんじゃないからねー。感覚とかそーゆーのが大事でね。」

 

彼の部屋は小さめで、しかもプラモデルやとか漫画とか、色々な物が置かれていた。

私はベッドの上に座らせてもらっていたけど、それでも夢明希くんとの距離が近い。

その…ついドキドキしてしまう。

 

「ね…ねぇ、慧梨主ちゃん。」

夢明希くんは、私の隣に腰掛けてそう言った。

「どうしたんですか?」

「実は…その、話があってさ…」

「…?」

さっきまではいつも通り明るかったのに、急に気まずそうにする。

そのテンションの変化を、私は不思議に思った。

「その…単刀直入に言うけど…あの…」

 

俺と、付き合って欲しい…なーって_________

 

私は少し呆気にとられた。

今度もう一度、改めて考えてから告白しようと思っていたのに、まさか夢明希くんから言ってくるなんて…

「慧梨主ちゃんといると、気持ちが落ち着く…じゃないけど、癒されるんだよね。俺のつまんないうんちくとかも聞いてくれるし。」

「…だって、おもしろいんですもの。新しい世界が見える気がするから。」

「俺さ、今まで女の子とここまで仲良くしたこと無いんだ。小学は言うまでもなくあの通りだし、中学ん時も亜梨主みたいなのとケンカしてたし。今はそんな荒れ狂ってないけど、機械科って女子いないしさ。」

「夢明希くん…」

顔を真っ赤にして話す彼。

本当に愛しい。

思えば、ここまで誰かを思った事は無いかも知れない…

 

あのお兄さまに対してさえも__________

 

私は夢明希くんの膝の上に、そっと手をのせた。

「私なんかで、後悔しませんか?」

すると夢明希くんは、私の手を握り返した。

よほど緊張したのだろう、その手は少し汗ばんでいた。

「告ってから言うのもなんだけど…俺、恋愛経験ないし…困らせたり、悲しませたりするかも…慧梨主ちゃんこそ大丈夫?」

「はい。そう心配してくれてるなら…ね。」

 

きっとこれが、三度目の正直。

今度こそ幸せになる。

 

私は、そう信じている__________

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