【完結】アリス・イン・ワンダーランド   作:さくらのみや・K

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Track.8 記憶

今日は、ゴールデンウィークの前半と後半を分ける平日だ。

当然登校日だけどたかが2日、サボってやった。

 

俺はは一人で、公園の広場でラジコンを走らせていた。

念願だった京商のスコーピオンを遂に組み上げ、初走行にたどり着いたのだ。

パッと見はタミヤのグラスホッパーと同じような後輪駆動のバギーだが、プラの塊みたいなグラホと違い、スコーピオンはメインフレームがアルミ製で、カッチリ感がある。

だが、アマゾンで5千円いかないグラホと違い、こっちは3万以上もした。

プロポやらも入れて、今走らせている一台のために、長い春休みにしたバイト代の1/3が飛んだ。

 

グラウンドのような地面の上を、砂煙を上げながらスコーピオンが駆け回る。

想像以上の走りに関心していた時、突然車体がひっくり返る。

「おおっ!?」

見ると、前輪が外れていた。

脱輪してバランスを崩したらしかった。

 

タイヤは…?

辺りを見回すと、スコーピオンの細いタイヤがコロコロと遠くへ転がっていく。

そして、ベンチに座っている女子高生の足に当たって止まった。

 

うわ…気まずい…

 

「すいませーーん!!」

プロポ片手に駆け寄る。

「いえいえ、どうぞ。」

砂まみれになっているのを気にする様子もなく、彼女はタイヤを拾って渡してくれた。

「あ、ごめんなさい。ありがとうございますー。」

お礼を言いながらタイヤを受け取る。

 

その彼女を見て、俺は驚いて固まった。

「え?あの…?」

「もしかして…亜梨主?」

目の前にいたのは、間違いなくあの亜梨主だった。

小学校の頃と違い髪型はポニーテールからセミロングに変わっていたが、気の強そうな眼差しは紛れもなく奴だ。

 

が、彼女はきょとんとしてこちらを見ていた。

めっちゃ恥ずかしいが、違うらしい。

「…あ、違いました?すいません、人違いです。」

ラジコンのタイヤを拾ってもらった挙句に人違い。

あまりの恥ずかしさに、俺は平謝りしてそそくさと立ち去ろうとした。

「えっと…あの!そっちはお姉さまの方です。」

その時、彼女はそう言った。

「え?じゃあ妹さんの方の…えっと…」

「…慧梨主です。」

胸の鼓動が早まった。

彼女が、あの時の慧梨主…

「そう!慧梨主ちゃん!あの…俺のこと覚えてますか?」

俺は大きく頷いて見せ、そして自分のことも聞いてみた。

「あ…はい。えっと…夢明希くん?ですよね。」

慧梨主は、俺の事を覚えていた。

かつての片想いの相手に再会できたのは嬉しかったが、なぜかしっくりとしなかった。

 

 

慧梨主は、懐かしそうに俺の小学生時代の話をし始めた。

今は最早黒歴史として、脳内では重要機密として封印していたことをペラペラ話す。

だが彼女の口調は優しく、それはまさしくあの頃の慧梨主だった。

だが単に成長しただけなのか、どうも亜梨主っぽさが強い気がする。

 

「夢明希くん、お姉さまとはよく言い争ってましたよね。」

「そんな事もあったねー…いやぁ、ぶっちゃけ黒歴史ってことで封印してたんだけどね〜。」

スコーピオンにタイヤを取り付けながら、俺は恥ずかしさが溜まっていた。

そんな事を知ってか知らずか、とにかく掘り返す慧梨主。

「掃除でリーダーだったお姉さまが雑巾掛け夢明希くんに押し付けてケンカになったり、絵の具がお姉さまに飛び跳ねてケンカになったり、席替えで隣同士になったときなんて酷かったですよね。」

「あわわわ…」

顔がどんどん熱くなる。

まるで自分の記憶を語るように、スラスラと話す慧梨主。

とにかく今は、昔の自分を殴りたい。

 

タイヤが付いた。

ポーチにボックスドライバーを仕舞い、他に異常がないかスコーピオンを点検する。

「でもさ、そんなに細かくよく知ってたね。そんなに色々愚痴ってたの?亜梨主は。」

「…え?」

「だって確か、クラス違わなかったっけ?」

慧梨主を始めてちゃんと見たのは小学校3年生。

それまでは、亜梨主と慧梨主がどこまで似ているのかすらよく知らなかった。

帰り道、初めて慧梨主を見かけた時の衝撃は忘れない。

「私はずっと、お姉さまと同じクラスでしたよ?確か…夢明希くん、5、6年で私達とクラスが分かれたから、その時に勘違いしちゃったんじゃ…」

そんなはずはないのだが、あまりに最もらしいことを言うので、俺は考え込んだ。

「…かなぁ。ま、でももう卒業して6年以上も前の話だしね、覚えてなくてもしゃーなし。」

反論しても仕方ないので、とりあえず認めておくことにした。

 

それから俺達は、しばらくお互いの事について色々話した。

学校の話とか、最近起こった事件とか。

俺は、学校をサボってシェイクダウンしに来た事を明かした。

「まあ、規定の単位取れてれば特に問題ないしね。なんでせっかくの連休に学校来なきゃなんねーわけ?」

「うーん…でも先生とか何も言わないんですか?だって、その…ズル休みなわけでしょう?」

「大丈夫、朝に頭痛いおって電話しといたから。それなら先生なんも気にしないしね。多分5〜6人は休んでんじゃね?高専生だもん。」

俺は平然と言ってのけた。

「高専生って多いんですか?そう言う人…」

「んまぁ…変わり者とオタクの巣窟だからさ。授業中に隠れてオセロしたり、他の課題やったり…」

「ええ…」

高専生の実態に少々引き気味の慧梨主。

「でも大抵の人は要領良いしね。そんな人でも、きっちり成績とって東大に編入した人もいるし。」

「す、すごいですね…夢明希くんも、そんな感じですか?」

「あはは、まあ俺は留年しない様に頑張ってるよ。」

 

気がつくと、もう2時間近く話していた。

日が沈みかけて、辺りはオレンジ色に染められていた。

「ごめんなさいね、ついつい長話ししちゃって。」

「あーあー気にしないでいいよ。俺もクラスの奴以外と話したのは久しぶりだしね。」

本当はスコーピオンの走りを知り尽くしてやろうと思ったが、それ以上に慧梨主との話が楽しかった。

あの日以来…何年か振りに、慧梨主と二人きりで話す事ができたのだから。

「それじゃあ私、帰りますね。また今度…」

「あ、待って待って!」

立ち去ろうとする慧梨主を呼び止める。

これからはもっと話したりしたい。

俺は文明の利器の力を借りる事にした。

「良かったらその…連絡先的な…」

照れ臭さが襲うが、俺はそれに打ち勝つ。

また、長い間待ち焦がれるのは嫌だった。

 

「いいですよ。これからもよろしくお願いします。」

慧梨主は笑顔で、そう答えてくれた。

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