ー馬鹿な人。
目の前で蠢く蟲に呑み込まれていく貴方を見据えて吐き捨てた。
お義父様に逆らってしまったから、貴方はこうなってしまったのよ、<おじさん>
ずっと、ずっと奥深く。底なし沼に足掻く間もなく沈んでいった彼の最期を見届けた。彼の男にしては細い指が見えなくなったと同時に、後ろを向いて私は蟲が蠢く蔵を去った。
一段一段踏みしめる度、靴のコツコツという無機質な音が響いた。先はとても長かった。でも、私はきっとここで止まってはいけないのだろう。
上まであがってきた。最上階。少し疲れてしまったようで、冷たい壁にもたれかかった。まるで温度がないような、それに。
ふと、頬がなにかを伝ったようで、それが自分の涙だと言うことはすぐに分かった。止めたくても、止めたくても、 溢れてきて涙を拭いていたハンケチもあっという間に涙で濡れてしまった。
何故、私は泣いているのだろう。お義父さまが死んでしまったから?お母様や凛と離れ離れになってしまったから?きっとそうに違いない。絶対、そうなのだろう。
そうでもしなければ、止めることの出来ないこの涙に理由をつけることが出来ないから。
どうして私を置いていって死んでしまったの?ボロボロの体になってまで、わたしのお父様に逆らってまで、そうまでして守りたかったの?もう貴方はいない。話すことも笑いあうこともできない。死んでしまったら意味がないのに。何で、どうして?
<本当に、馬鹿な人>
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気づけば、ハンケチだけじゃなく、ワンピースまで涙で濡れていた。どうやら私はずっと泣いていたようで。この涙は、誰へ向けた涙なのだろう。<感情>が著しく欠如した私に向けて涙が流れているのではないか、とも思ってしまった。こんなにも泣けるのだと、例え誰の手向けに泣いていたとしても、偽善だとしても。お前は泣けるのだと、言われているような気がして。そう自分で解釈してホッとしてみれば、また涙が頬を伝った。さっきあんなに泣き腫らしたのに、また涙が流れるなんて…どうかしているのではないかと思ってしまう。ホッとして、安堵して涙を流した事は過去にないのでそれも当然なのだろうか。
でも、もうこれ以上は泣いていられない。理由のわからない、自分で理由をつけるような涙を流している暇はないだろう。何も根拠などないけれど。私は、行動を起こさなければいけないような、気がする。先の未来のためか、過去を洗う為か、それともー。