『Fate/contract』   作:ナイジェッル

19 / 63
 第二部が終盤を迎えてきたので、この辺で第三部について検討中。
 今の時点ではプリズマ☆イリヤの特殊な魔道具を入れてみようかと思っています。


第19話 『未来へと向かう意志』

 クロノ・ハラオウンはプレシア・テスタロッサの暴走を見るや否や、間髪入れずにブリッジから飛び出して行った。そして、先ほどまで映っていたサーチャーの映像も今はプツンと切れ、艦内は警報の音だけが鳴り響く。

 残った者は、まるで事切れたように呆然とするフェイトに視線を向けていた。

 

 「…………っ」

 

 なのはは倒れたフェイトを見て、何を言えばいいか分からないでいた。彼女だけではない。ユーノも、アルフも、アースラのクルー達も皆、無言だった。あれほどの仕打ちを受けたフェイトにかけるべき言葉が見つからないのだ。

 

 「リンディ艦長。オレは、フェイト・テスタロッサを医務室まで連れて行く。あと彼女と話がしたい。少し時間をくれないか?」

 

 その中で、エミヤは口を開き、フェイトを抱いて、皆に背中を向ける。

 彼にしては珍しい判断だ。そう、アースラのクルーは思った。

 効率よく人を救うことを主にしていた男が、世界の危機に直面している今、一人の少女を優先しているのだから。

 

 「………いいわ。でも、今はかなり深刻な状況よ。人手も足りない。こういうのも野暮だけれど、手短にお願いね」

 「有難う御座います………お前達はどうする。此処に残るか、それとも行くか」

 

 リンディの言った通り、今は棒立ちになっている時ではない。プレシアの行おうとしている行為は地球を巻き込み、辺りの次元世界全てを巻き込む大災害へと発展する。

 次元振を超える次元断層。

 その被害は、この付近にある次元領域全ての生きるモノを消滅しかねないものだ。

 本来ならエミヤもすぐにプレシアを止めに向かわなければならない。

 しかし、彼にはその前にやるべきことが出来た。

 そんな中、なのは達は一体どう動く。どのような決断を下す。

 

 「………っ」

 

 フェイトと友になりたいと言ったなのははレイジングハートをギュッと握り締め、

 

 「私は………フェイトちゃんのお母さんを止めに行きます。エミヤさん。フェイトちゃんを、お願いします」

 

 ………他力本願だな、となのはは思った。友達になりたいのだと言っておきながら、自分はフェイトに対して何もできない。

 でも、ただ立っているだけでは何も始まらない。それに、プレシアを止めなければ地球は終わってしまう。そうなれば家族も、友達も、皆消えてしまうのだ。

 リンディが人手不足というのなら、自分が力に為らなくてどうする。何より、なのはは信じている。フェイトが“こんなところで立ち止まる筈がない”、と“必ず立ち直ってくれる”、と。

 その思いに、根拠も理屈も在りはしない。

 

 「なのは程じゃないですが、僕も微力ながら力に為れます―――行かせてください」

 

 ユーノも時の庭園に突入することを望む。

 

 「………あたしも行くよ」

 

 フェイトの使い魔であるアルフも、同行の意志を表した。

 

 「意外だな。君はテスタロッサの傍に居てやるべきではないのか?」

 「そりゃあ傍にいてやりたいさ。でもね。駄目なんだよ………あたしじゃこの子の傷を、癒す力になんかなれやしない。本当に、情けないったらありゃしないよ」

 

 アルフは血が滲み出るほど拳を強く握り締める。

 

 「でもね、これだけは言えるんだよ―――フェイトが何者であろうと無かろうと、フェイトはフェイトだ。あたしの御主人は、フェイトだけだ。鬼婆に何言われようが、あたしはフェイトのことが大好きだってことがね………これ以上、あたしがフェイトに言えることはないよ」

 

 その言葉に“フェイト・テスタロッサは良い使い魔を使役している”とエミヤは言い、それに対してアルフは“当然だよ”、と誇りの籠った顔で答えた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 クロノは待機モードにしていたS2Uを手に持ち、転移室まで急ぐ。

 今、一人の大魔導師が行おうとしていることは実に愚かなことだ。在るかどうかも定かではない幻に縋り、あれほど尽力していたフェイト・テスタロッサを捨て、次元断層を発生させようとし、何兆何億もの人々を犠牲にしようとしている。

 過去のやり直しを夢見るのはいいだろう。現実から逃げるのも、立ち向かうのも個人の自由だ。だが、自分勝手な悲しみに、無関係な人間まで巻き込んでいい権利などどこの誰にも在りはしない。決して在りはしないんだ。

 苛立ちの積もる感情を剥き出しにして全力で赤く点滅する通路を走っていると、やっと転移室の扉が見えた。

 

 「…………!!」

 

 クロノは勢い余って転移室に飛び込んだ。そして、クロノは酷く驚いた顔をする。

 

 「待ってたっすよクロノさん」

 「ようやくクロノ隊長のお出ましか。もうヴァイス隊長(仮)についていくのは嫌だぜ………」

 「そうだよなぁ。やっぱヴァイスが隊長とか似合わな過ぎる」

 「執務官と三等陸尉に比べてこの一等陸士ときたらホントにもう……」

 「………テメェら後で覚悟しとけよ」

 

 クロノが見たものは、先ほどプレシアの捕縛に向かい、手酷く返り撃ちを受けたアースラの隊員達の姿だった。

 

 「ヴァイス……それに、お前達………どうしてこんなところに居るんだ! 怪我はどうした!?」

 「どうして、ね………ハハッ、愚問っすね。プレシア・テスタロッサを止めに行くんでしょ?」

 「それじゃあ俺達ものんびりしてはいられないってもんですわ。次元世界の危機だし」

 「それに、心配しなくとも重症な奴らはバインドで括りつけて置いてきました」

 「ここにいる連中は軽傷か無傷。足手まといにはなりませんよ」

 「まぁぶっちゃけ先ほどの失態を取り返したいってのもありますし………何より―――」

 

 隊員達は皆勇ましい顔で、「せーの」という掛け声をいい、

 

 「「「「「俺達諦めが悪いんで」」」」」

 

 ―――嗚呼、そうだ。アースラ隊は、一度の敗北で根を上げるほど軟な人間はいないんだった。

 クロノは自然と口元が緩んだのを自覚した。

 

 「本当に、大丈夫なんだな?」

 「心配し過ぎっすよクロノさん。それに、少年少女が頑張ろうってのに年上が根を上げたら笑えたもんじゃないっすからね」

 

 ヴァイスはクロノの背後を指で指した。クロノはハッとして背後を振り返る。

 

 「まったく、君達もか」

 

 そこには高町なのは、ユーノ・スクライア、アルフの姿があった。

 何故来たんだ、と言うのも野暮だろう。

 

 「私達も、連れて…行ってください!!」

 「普段なら危険すぎる! と言いたいところなんだが、今はそうも言ってられないな」

 「それじゃあ………!」

 「ああ。皆で止めに行こうか。プレシア・テスタロッサを……ところでエミヤは?」

 「………フェイトちゃんを医務室に連れて行ってます。それに、少し話がしたいって」

 「そうか。なら心配はない。僕達だけで行こう」

 

 クロノはエイミィに通信を繋ぐ。

 

 『転移座標の準備は出来ているか?』

 『ふふん。準備OK何時でも来いさ!』

 『ならさっそく頼む』

 『了解!!』

 

 念話が終わると同時に転移室が青く光る。

 これから自分達が挑むのは城塞と化した時の庭園だ。守護に魔導師ランクAクラスの傀儡兵が百を優に超える数で護りを固めている。

 それでも彼らには、絶望という文字も、諦めの文字もない。あるのは、唯任務を成功させることだけだ。

 此方は多くの次元世界の存亡を背負っている。失敗するなどと最初から頭になど入れてどうする。

 今は、目の前の事態を解決する。ただそれだけを心に籠めて行けばいい。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 プレシアは玉座の間を破棄し、時の庭園の最奥区に移動していた。辺りは美しい宝飾も、優雅な装飾も一切飾られていない瓦礫で出来たような場所だ。

 ジュエルシードの暴走によりさらにその内装の醜さを露わにしている。本当に屋内にある部屋なのか疑いたくなるほどだ。

 

 「懲りずにまた来たわね時空管理局。どこまで私達の邪魔をすれば気が済むのかしら……」

 

 自身のデバイスを折ってしまいそうなほど彼女は手に力を込める。今ここで転移砲撃を行なえたらどれだけ楽なことか。病がこの身体を蝕んでいなければどれだけ苦労せず済んだことか。

 忌まわしい。自分に降りかかってきた不運が憎たらしい。自分とアリシアの時間を、未来を奪ったあの日を呪いたい。何より、ここまで自分を駆り立てた運命を恨まずにはいられない。

 

 「………イヴ。傀儡兵と共に奴らを迎え撃ちなさい」

 「了解しました」

 

 プレシアはフェイトに変わる主戦力イヴをこの場所に直結する空間に配置することに決めた。

 

 イヴは金色の闇の遺伝子を用いて製作されたクローンであり、トランス能力も完璧に引き継いでいる。欠陥としては、記憶の移植が曖昧なところだが兵器として扱えるのなら別段問題はない。

 

 「先に言っておくわ。イヴ、貴方もこの戦いが終われば用済みよ。元より時の庭園も、此処周辺の次元世界も、私の夢の礎になり消えるのだから」

 

 イヴは何も反応しない。フードの下に隠された顔は無表情のままだ。

 

 「だから、貴方は頃合いを見計らってジェイル・スカリエッティの元へと向かいなさい。あらゆる面で面倒を見てくれるはずだわ」

 

 これは情によるものではない。これは、最後の親友に贈る最後のプレゼントだ。あのジェイル・スカリエッティが伝説の殺し屋“金色の闇”を基にして作ったクローンを贈られて喜ばない筈がない。

 今ではだいぶ腑抜けたように見えるが根本的なモノは変わっていないはずだ。彼は探究心は自分をも凌駕すると認めるほど狂気的な科学者。命がなんだ、クローンがなんだという綺麗言を本来吐けるような人物ではない。

 

 「分かったわね?」

 

 プレシアの言葉に対してイヴはただコクリと頷いた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 雷が鳴り響く時の庭園内部。そして、プレシアを護るは魔導師ランクA級の傀儡兵。半身が昆虫のように出来ている空戦型や、ガッチリとした巨躯を持つ重装備型、騎士をモチーフにした軽装型など様々な機体が護りを固めている。盾も装備されており防御力も高そうに見える。

 

 クロノ達はそれらの傀儡兵と対峙していた。皆デバイスを手に、構えを取っている。まさに一触即発の状況だ。

 

 「クロノさん。ここは俺らに任せて先に行ってください。こんな奴らに無駄玉は勿体無いっすからね」

 

 ヴァイスを含む武装隊がクロノの前に出る。ここはクロノ、なのは、ユーノ、アルフ。この四人を先に行かした方が効率が良いと判断したのだ。隊長のクロノとてそれは理解している。

 ………民間協力者に世界の存亡などという重いものを負わせたくはないが、今は私情を挟んではいられない。

 

 「敵の攻撃は非殺傷設定じゃない。直撃を喰らえば致命傷だ。皆、気をつけろよ」

 「何年この時空管理局に所属していると思ってるんすか。分かってますよ、そんなこと。むしろ上等だと思えるね」

 

 ヴァイス達は不敵に笑う。これまでにも幾度となく命のやり取りを経験してきたのだ。今更確認されるまでもない。否、心配される方が心外だ。

 

 「済まない。じゃあ………此処は頼むよ」

 「はいよ。どんと任せてください」

 

 ヴァイスはストームレイダーに銃口に魔力を溜め、他の武装隊員も己のデバイスを傀儡兵に狙いを定め、魔力を充填させる。

 それと同時に傀儡兵も動き出した。鋼の身体から鳴る駆動音を響かせ突撃してくる。全機接近戦装備であり射撃兵装は装備されていない。

 

 「ハッハッハ。いくら魔導師ランクが高かろうと、相性っつうもんがあるんだよポンコツ共!!!」

 

 ヴァイスの怒号により武装隊のデバイスから多量も魔弾が掃射された。

 射線上に存在していた傀儡兵は皆スクラップになり、道が開かれる。それに乗じてクロノ達はその道を全力で駆けた。彼らの侵入を阻止しようとする傀儡兵はヴァイス達の射撃により即撃破されていく。

 

 「よぉし。クロノさん達は無事突破できたな」

 

 彼らの侵入を見届けたヴァイスは尚も撃ち続ける。魔力が少ないので一体一撃。その技量はAAAランク級といっても差し支えなかった。

 

 「傀儡兵の撃破数が一番少なかった者が、今回の打ち上げの飯代全員分奢るってのはどうよ!」

 

 乱戦と化した戦場で、一人の隊員が大声で賭け事を吹っかけてきた。

 

 「良いぜ。その賭け乗った!!」

 「こりゃ負けられないな」

 「アースラ隊全員分ってなると金額が凄いことに」

 「負けた奴は財布の中身が空っぽになんぞ」

 「「「上等じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 あらゆる場所で小規模の爆発が起きる。上空も、地面も、人と機械の戦闘により激しく火花を散らす。

 

 あれだけ大口叩いておいて、プレシアに一矢報いれなかった自分達の無力さに苛まされながらも、彼らはその鬱憤を晴らすが如く暴れ回る。

 

 ――――傀儡兵に、容赦は無用。

 

 ヴァイス達はあらん限りの怒りを傀儡兵にぶつけ続けた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ヴァイスと武装隊の奮闘により道が開かれ、クロノ達は時の庭園最奥部に向かって進んでいた。床のあちこちに黒い穴が開いており、その穴からは不気味な放電音が聞こえてくる。

 なのははレイジングハートを両手で強く握り、不安に押し勝つように足を動かしていく。

 

 「その黒い空間には気を付けて。絶対に落ちちゃいけないよ」

 

 危なっかしいなのはを見かねたクロノが走りながら説明をする。

 

 「虚数空間。あらゆる魔法が一切使えなくなる空間なんだ」

 

 魔法が使えなくなる。厳密に言えば魔力の生成を遮断し、発動を無効化される。どれほど魔導の才能に恵まれようと、百戦錬磨の大魔導師であれろうと等しく無力と化す。それはつまり、

 

 「飛行魔法もデリートされる。もし落ちれば重力の底まで落下して……」

 「落下して………?」

 「二度と上がってこれなくなるよ」

 「き、気を付ける!!」

 

 クロノの薄気味悪い説明になのはは軽く怯えた。

 つまり、虚数空間とはいくら魔力があろうと、魔力制御が出来ようと落ちれば意味を為さなくなるということ。そして無抵抗のままに重力の底まで落下する。

 光も届かない闇へと飲み込まれ、待っているのは……死しかない。

 

 「坊主。アンタ良い性格してるね。もう少し優しく解説できないのかい?」

 「坊主っていうな。それに、優しく言ってどうするんだ。危険なものには包み隠さずハッキリと言っておかなければ後から痛い目に合うのは彼女だ。甘やかす道理はない」

 

 彼女達の命は自分に預けられている。中途半端なことを教える気はサラサラない。命に関わることとなれば尚更だ。

 

 「扉が見えたよ!」

 

 ユーノの指す方向には大きな扉があった………どうして時の庭園の扉は無駄にデカいのだろうか。逆に不便じゃないか? とクロノは思いながらその扉を蹴り飛ばす。アースラ隊は犯罪者の扉に容赦はしない。

 

 『『『『『■■■■』』』』』

 

 開けた先には多数の傀儡兵が待ち伏せていた。一体どれだけの金がこの傀儡兵達に注がれているのだろうか。これだけの魔導師Aランク級の傀儡兵があれば軽くL巡航艦十隻以上は建造できる。

 もし自分達の元で整備されれば時空管理局の人手不足も解消されてウハウハだろう。

 

 「アルフ。君の情報にはこれほど膨大な数の傀儡兵は知らされてなかったんだが? おかげで此方はグレンさんの自爆で全滅しているかと思っていたぞ」

 「グレンって誰さ。大体あたしだって知らなかったよ。時の庭園にこんな趣味の悪い傀儡兵を隠し持っていただなんて」

 「………知らなかったなら仕方がないな。というか僕としてはこの傀儡兵中々カッコいいと思うんだけど。特に細見の騎士型がなかなか」

 「なんか初めて気があったねクロノ。僕も秀逸なデザインだと思うよ。この傀儡兵達。特に飛行型」

 「え~………私は怖いだけだと思うけどなぁ」

 

 ここで女子と男子の感性の違いがよく分かった………果てしなくどうでもいいことだけど。

 

 『■■■!!』

 

 侵入してきた輩を蹴散らすために重装型の傀儡兵が彼らに向かって斧を振り下ろす。例え相手が子供だろうとなんだろうとお構いなしだ。人の情を持ち合わせていない辺りが、機械兵の利点なのだろう。感情の傾き加減によって戦闘力が損なわれることがないのだから。

 

 「ブレイクインパルス」

 

 当然、人間ではない傀儡兵にクロノも容赦することはなかった。

 振り下ろされた斧に向かってクロノは掌底を当て、その大斧と手が触れる一瞬を狙いブレイクインパルスを見舞った。

 放たれたブレイクインパルスの超振動が傀儡兵の斧から腕へ、腕から本体へと伝わっていき、爆散した。あまりにも手ごたえがない。執務官を相手にするのなら性能不足だ。

 

 「此処から二手へと別れる。君達は最上階にある駆動炉の封印を!」

 「クロノ君は!?」

 「プレシアの元へ行く。それが、僕の仕事だからね」

 

 S2Uを傀儡兵の軍勢に向ける。

 

 「今から道を作る。後は分かってるね!」

 「うん!」

 

 なのはが頷くと同時にクロノはS2Uの先端部分に魔力を収束させ、

 

 『Blaze Cannon』

 

 S2Uの自動詠唱により蒼い収束された魔力が熱線となって放たれた。

 

 蒼い砲撃は立ち塞がっていた傀儡兵を一掃する。その熱線には軽装型でも反応できなかった。

 

 ブレイズキャノンとはなのはが使うディバインバスターと同系統の直射型砲撃魔法。違いは瞬間放出を巧く制御して放出中の隙を無くしたことと、弾速がディバインバスターより『速い』こと。いくら軽量型といえど速度と威力の合わさった砲撃は簡単には避けられない。さらに集団として動いていたことから、その俊敏性を十全に発揮できなかったこともある。

 

 「クロノ君! 気を付けてね!!」

 「ああ。気をつけとくよ!!」

 

 アルフ、ユーノと共に駆動炉へと飛んで向かうなのはを見送る。

 

 「……さて、と」

 

 なのは達の姿が見えなくなると、彼はS2Uを構え直した。その眼光も先ほどより鋭いものとなっている。

 

 「出てきなよ。隠れているのは分かっている」

 

 傀儡兵の残骸の山に問いかける。するとその残骸の山は風によって吹き飛ばされたように宙に舞った。

 その中から現れたのはジュエルシード9つを奪っていった者。フードをかぶった小柄な人間だった。

 

 「………何時から、気付いていたのですか」

 「この部屋に入った時からだ」

 「気付いていて無視していたとは中々いい趣味を持っていますね」

 「よく言われるよ。で、君は差し詰め女王を守護する門番かい?」

 「その通りです………私の名はイヴ。アースラの切り札クロノ執務官。御手合わせ願います」

 「……………!!」

 

 フードを脱ぎ捨てたイヴはその姿をクロノに晒す。

 長い金髪に朱い目。人形のように整った顔立ち。所々はフェイト、アリシアの特徴と似ているが、彼女は二人と細部の作りが『違う』。

 

 「………アリシアのクローン、ではないな」

 「はい。私は“金色の闇”のクローンです。アリシア・テスタロッサとは関係ありません」

 「金色の闇って………度肝を抜くようなことを平然と言ってのけるね」

 「? 私はヴァイスと呼ばれた少年と一度交戦しています。その際に正体を見抜かれましたので、てっきり知っているものかと」

 「………初耳だ。ヴァイスめ、取得した情報の報告を怠ったな」

 「彼はうっかり者なのですね」

 「ああ。そうらしい」

 

 イヴの言葉にクロノも苦笑しながら頷き―――魔力弾を放った。

 蒼い魔弾はイヴに目掛けて一直線。それを彼女は何気ない動作で払い落とす。

 素手で弾いたのか、と思ったが、彼女の手を見ると西洋風の剣へと変わっていた。

 

 「トランス能力…成程、金色の闇のクローンというのは本当らしい」

 「不意打ちしといて偉く清々しい顔をしますね」

 「生憎、僕は聖王教会の騎士ほど清い精神なんてものは持ってないんだ」

 「確かに命のやり取りの中、そのようなモノは不要ですね。学ばせてもらいました」

 「いやそんな要らないこと学ばなくていいから。清い精神も大事なんだよ?」

 「―――行きます!!」

 「展開が速いな。まぁ、此方も時間がないから有り難いか!!」

 

 彼女がここを守護する門番ならば、この先に必ずプレシア・テスタロッサがいる。なれば、押し通るしか道はない。

 

 イヴとクロノ。

 ロストスキル保有者とアースラの切り札による戦闘が今、幕を開ける。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 医務室にフェイトを抱え、連れてきたエミヤはフェイトをベットに寝かせる。9歳の精気のない眼を見るのは、実に痛々しかった。

 

 「フェイト・テスタロッサ。君はいつまで殻に閉じ籠っている気だ?」

 

 エミヤは壁に持たれ問いを投げかける。

 しかし、返答は返ってこない。

 

 「………確かに、君はプレシアに真正面から拒絶された。本物の娘でもないことも本当だ。それは紛れもない事実。変えられない現実だ」

 

 その言葉を聞いたフェイトの瞳が涙に濡れる。

 泣けるのなら、まだ感情があるという証明だ。悲しめるのなら、完全に心を閉じていない。

 

 「事実は覆せない。大切なのは、それを受け入れた上でどうするかだ」

 

 人の体ばかり救い、心まで救おうとしなかった男の言葉が届くのか分からない。

 自己満足のために人を救ってきた男の言葉に重みがあるか分からない。

 自分さえも救えなかった男が言う言葉に意味があるのか分からない。

 人が不幸にならなければ存在意義を見出せない男の言葉に、彼女は耳を傾けてくれるか分からない。

 分からないが………何もしないよりかはマシだ。

 

 「君が今まで何を支えに生きてきたのかは分かっている。しかし、それが失われた今、君がすべきことは一体なんだ。 ここで寝ていることか? このまま終わることか……?」

 「…………っ」

 

 この時エミヤは見逃さなかった。フェイトの目に、精気が戻っていくのを。

 どうやらこの子は自分のような男の救いなど必要なかったらしい。

 

 「私は…私の人生は、まだ始まってもいなかった……」

 

 小さいが、ハッキリした声で、彼女は呟いた。

 そして先ほど発せられたその言葉は、決闘の前に高町なのはがフェイトに対して放った言葉だ。なのはという一人の少女の頑張りが今こうして身を結んでいるのをエミヤは感じた。それに彼は嬉しく思う。

 

 「始まっていなかったらどうする。 始まらないまま終わるのか?」

 

 不敵な笑みを漏らすエミヤの問いに、彼女は上半身を起こして、エミヤに向けてこう言った。

 

 「終わり…たく……ない。まだ、始まってもいないのに……終わりたくない!!」

 「いい答えだ。なら終わらない為に、本当の自分を始める為に、君はどうするべきなんだ?」

 「私は………今までの自分を終わらせるために…母さんの元に行きたい…………!」

 

 瞳を濡らして、今までの声とは比べものにならないくらいの大声で、彼女は答えた。

 母に伝えるべきこと。自分との決着。多くの感情が含まれた声が、執務室を反響させる。

 

 「そうか………それが君の、答えか」

 「――――――ッ」

 

 エミヤは持たれていた壁から背中を離し、フェイトの近くまで寄る。

 そして、彼はいきなり彼女の首元に剣を置いた。一ミリでも動けば、皮膚が切れるだろう。何よりその手に持つ剣は、宝具。常人なら気絶する圧力を放っている。

 

 「君の覚悟はよく分かった。しかしここで最大の難関が立ち塞がる。君は魔力を抑えられる手錠を掛けられており、魔導師の命であるデバイスもオレが預かっている。そしてオレは局員だ。君をアースラから出すわけにはいかない。さぁ、この場合君はどうする」

 「貴方を倒して、母さんの元へ、アルフの元へ、高町なのはの元へ向かいます」

 

 刃を突きつけられ、宝具の威圧感をものともしないように彼女はエミヤに言い放つ。

 先ほどまで死人のような瞳をしていたのに今では決意の籠った眼をしている。これで確信した。彼女は決して自暴自棄になってはいない。

 

 「………もう、心配はなさそうだな」

 

 エミヤは剣を自戒させ、フェイトの手錠を外し、バルディッシュを渡した。

 バルディッシュを受け取ったフェイトはすぐさまバリアジャケットを身に包んだ。バルデッシュも鎌へと展開する。

 

 「行くぞ。後悔だけはしないようにな」

 「―――あ、あの」

 「………なんだ?」

 「二度も助けてくれて…ありがとうございました………」

 「気にするな。あれは………性分みたいなものだからな」

 

 フェイトの礼を何かはぐらかすように答え、エミヤは転移結晶を発動させた。

 運命の名を持つ少女と紅いブリキの騎士は、一足遅れて時の庭園へと向かう。




 感想お待ちしています!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。