『Fate/contract』   作:ナイジェッル

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 実はリリカルおもちゃ箱のレイジングハートはちゃっかりリリカルなのはの漫画に登場してたりする(シルエットだけだが)。


第21話 『各々の歩み』

 「時の庭園………崩壊。突入していた局員及び、民間協力者、重要参考人全員無事です。ジュエルシード九つはクロノ執務官が全て回収。負傷者は医務室で治療を受けています。死者は――プレシア・テスタロッサ一名」

 

 その報告にブリッジのクルーの間では歓声は……起こらなかった。

 奪われたジュエルシードは取り戻し、殉職者も一人もいない。

 しかし、たった一人の人間を自分達は救えなかった。それは自分達にとっては大きすぎる過失だ。

 

 「プレシア・テスタロッサが起こした次元断層は最終的に次元震にまで落ち着き、またその影響は周囲次元世界に影響を及ぼさず、時の庭園周囲に納められました。しかし微弱ですが、次元震の余波もあります。余波が収まるまで、ここ数日はこの次元領域に停滞しておくべきかと」

 「分かりました………重要参考人であるフェイト・テスタロッサとその使い魔アルフは?」

 「帰還後、治療を受け護送室に。それと、エミヤ三等陸尉が彼女達に付き添っているそうです」

 

 通信士のランディの報告に頷いたリンディは小さく頷いた。

 

 「皆も疲れているでしょう。各員に休息を取るように。でも本部に戻るまでには、この件の資料纏めや計測記録諸々を仕上げておいてください」

 

 了解、と皆は返事を返し、この場を解散した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 医務室で一通りの治療を受けた武装隊の面々は自分達の無力さに苛まされていた。

 結局、自分達は今回の事件の主犯であるプレシア・テスタロッサを捕縛できなかったのだ。

 アースラ隊の任務はジュエルシードの回収と、プレシア・テスタロッサの捕縛だった。ジュエルシードを回収し、プレシアを法廷に立たせ、律させることだった。捕縛したプレシアを監獄の中で自分の犯した行いに後悔させ、罰させる予定だった。しかし、その罰せられるプレシアが亡くなってしまった今では、もうどうすることもできない。

 アースラの隊員達の中で「次元犯罪者は死んでしまってもかまわない」などという腐った考えなど誰一人として持ち合わせていないのだ。

 プレシア・テスタロッサに改心させる機会も、生きる機会も、全て掴み取ることもできずに、滑り落した。それが今回、アースラが遺した汚点と言えるだろう。

 

 「………悔しいなぁ」

 

 はたして誰が呟いた言葉だったのか。

 否、皆が心に思っていることを代弁したその言葉に、誰が言ったかなんて関係なかった。

 

 「俺達の力不足が招いた結果、か」

 

 ヴァイスはその誰かが呟いた言葉に続くように、心に留めていたことを口にする。

 

 時の庭園に最初に突入したのは自分達だ。プレシアの捕縛という命を受け、意気揚々と敵本陣へと赴いた。いくらプレシア・テスタロッサの魔導師ランクがSSとは言っても、此方は30名以上の人員を投入したのだ。力の差が在り過ぎたから歯が立ちませんでした、というのは言い訳にもならない。

 もし自分達があの場でプレシアを取り押さえれていたならば、此処までの事態には発展しなかった。何より、プレシア・テスタロッサを死なすようなことにはならなかった。

 

 「不甲斐ないったらありゃしない」

 

 また、あの民間協力者の子供の方が自分達より何倍も役に立っていたということにも当然ながらショックがある。

 スクライア一族のユーノはともかく高町なのはは訓練学校にも通わず、魔道もロクに習わず、ちょっと前に魔法を知ったばかりの一般人の少女だ。幾ら溢れんばかりの魔力と鬼才ともいえる才能を有していたからとって、自分達は子供の一般人より使えなかった、力に為れなかったのは紛れもない事実。

 

 ―――嗚呼、本当に情けない。

 

 自分達にもあれほどの「力」があれば、一人の命を救えたかもしれないという妄想を抱いて……悔やんでいる。

 本当に、情けないにも程がある。

 あり得もしない妄想に浸って、助けれなかった命に悔やんで、「才」ある者を羨んで劣等感に苛まれている。これでは時空管理局局員としても、人間としても失格だ。

 

 「………このままじゃ、いけないよなぁ」

 

 一人の隊員がよっこらせと立ち上がった。

 包帯や湿布を張っている男達は、その立ち上がった男に注目する。

 何も、声掛けもしていないというのに、自然と目が彼に行ったのだ。

 

 立ち上がった隊員は、静かに口を開いた。

 呆れたような、怒っているような、そんな感情が混ざり合った声で、彼は訴える。

 

 「お前らは、そのままウジウジしたままでいいのかよ? 力及ばず助けれなかったとか、才能に負けただとか、理不尽を目のあたりにしただとか思って、考えて、嫉妬して、愚痴って現実から逃げててよ」

 

 いくら思い悩んでも好転はしない。決して。

 いくら自身の非力さを嘆いても強くはならない。絶対にだ。

 

 「恥ずかしくねぇのか? んなこと幾ら言っても思っても力なんかつきゃしねぇ。死んだ奴も生き返ってこねぇ。結果も良くなんねぇ。努力した分でしか、得れるモノも比例しねぇんだ。だから俺達は、前向いて、泥臭く前進してきたんじゃないのかよ……!!」

 

 その隊員の言葉は長ったらしくて、上から目線で、ムカつくものだったが、「確かにその通りだなぁ」と皆は思った。

 こんなところで、医務室で、大の大人が落ち込んでていて何の意味がある。何の進展があるというのだ。

 

 「………そうだな。俺達は前を向いて進むしかできない。後ろを振り向くなんてのは、似合わなすぎる」

 「胸が痛くなることを言ってくれるぜ、ったくよ」

 「例え幾度となく叩きのめされても、何度も敗北を繰り返そうとも「諦め」の2文字はない。それがアースラ隊だ。それが俺達だ」

 

 そうだ、そうだと一人一人が声を零していく。

 

 諦めの悪い魔導師の集まりであるアースラ隊が、こんなところで膝をついていてはいけない。

 

 今の自分達が弱いのであれば、強くなればいい。失敗を犯したのなら、その失敗を二度と犯さないように穴を埋めていけばいい。

 

 「諦めない」限り「終わり」じゃない。

 

 ヴァイスは包帯塗れの身体を重く上げ、扉に向かって歩き出す。

 それに連れて、他の隊員達も立ち上がった。そして―――

 

 約全員:「バインド」

 

 ―――ヴァイスにバインドを仕掛けた。それも、何重に重ねに重ねて芋虫のようになるまで。

 

 予測不能回避不可能なバインドを喰らったヴァイスはバランスを崩し、盛大に転倒した。それも清々しく、効果音があれば『ビターン』と表現されるほど。

 

 「………誰か説明プリーズ」

 

 いや、本当に説明してくださいとヴァイスは本気で思った。何故この雰囲気の中このような扱いを受けなけれならないのか。そして、どうして先ほどまで落ち込んでいた連中が下衆顔で自分を見下しているのか。この医務室を覆っていたシリアスな雰囲気は何処へ行った。

 

 「ククっ。俺達としたことが変に落ち込んでたから大切なことを忘れていたぜ」

 「ほんとほんと。俺なんて腹が減ってたの忘れててさぁ」

 「おいおいそりゃ大変だなー。はやく飯食いに行かなきゃなー。食堂に行かなきゃなー」

 

 ヴァイスを除く皆は無駄に高いいつものテンションを取り戻していく。

 

 「おいコラ説明しろって言ってんだろ。なんで俺がバインドで芋虫状態にされなきゃ……なんだこの紙」

 

 地面から皆を見上げるヴァイスの眼前に、一枚の紙がひらりひらりと舞いながら落ちてきた。

 

 「これって俺達が時の庭園で壊した傀儡兵のリスト……サーチャーが記録してたのか。御丁寧に各局員の撃墜数も………ハッ!!」

 

 そのスコア表を見てやっとのことでヴァイスは自分の置かれている立場を理解した。

 

 『傀儡兵の撃破数が一番少なかった者が、今回の打ち上げの飯代全員分奢るってのはどうよ』

 

 あの乱戦の中、誰かが言ったあの賭け。それに皆は乗った。勿論ヴァイスも。

 

 そして、ヴァイスは恐る恐る自分の傀儡兵撃墜数を確認する。

 というかこの状況からしてどんな結果が待っているのかは予想できる。

 

 「………最下位」

 

 そう―――ヴァイス・グランセニックが最下位なのだ。ビリなのだ。最底辺なのだ。一番撃墜数が高いのではなくて、一番低いのだ。

 

 「やっと気づいたかい。最下位」

 「そりゃまぁ最初こそ調子が良かったんだろうが、途中から失速してんだよヴァイス君。そう、君が魔力切れを起こして近接戦を余儀なくしたその時から…ね」

 「そう落ち込むな。お前は所詮狙撃手。近接戦で戦果を挙げるのは無理があったんだよ」

 「失敗続きの鬱憤も晴らせるし、飯は無料。こりゃいいわ♪」

 「いやーっはっはっは。久しぶりのただ飯だ。後悔しないようとびっきり高いもんを食わなきゃ―――」

 「「「「損だよなぁ!!!」」」」

 

 こいつ等さっきまで偉く落ち込んでた癖に、もう完全復活しやがった。

 喜ばしいことではあるが、個人的には嬉しくない。

 

 ………嗚呼、俺の財布が薄くなるな。

 

 わっしょいわっしょいと食堂まで担がれていくヴァイスは、心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 生活に必要最低限の物しか置かれていない質素な部屋 護送室では激戦を戦い抜き、虐待と重圧にも耐え続け、さらには母まで失ったフェイトは力尽きたように熟睡している。アルフもフェイトを抱きしめるように添い寝しており、エミヤはそれを監視、というか見守っている状態だ。その片手間にエミヤは簡易的なテーブルを使い、「PT事件」の書類整理を行っている。

 

 “幼い少女の心に傷を残しかねない失態を犯し、事件は収束か。………ふん、これでは「正義の味方」としても「時空管理局員」としても失格だな”

 

 かつて「正義の味方」の代表として祭り上げられた自分が、たった二人の人間も救えないのでは笑い話にもならない。

 何が多くのものを救うだ。今回の事件で一人の人間が死に、もう一人の人間は「心」を救えていない。生前でも似たようなことが多くあったし、転生後でも幾度となくこのような失態を味わってきた。その度に思い知らされるこの無力感は嫌になる。

 

 エミヤは今回の事件の加害者兼被害者である少女の寝顔を見る。

 フェイトは最後の最後まで母親に否定され続けた。それでもプレシア・テスタロッサはフェイトの母だった。しかしそのプレシアももうこの世にはいない。二度と会えない。人が死ぬというのはそういうことだ。まだ9歳の少女には、厳しすぎる現実だろう。

 

 「………フェイト・テスタロッサは、高町なのはが救うのだろうな」

 

 何度もぶつかり合い、何度も自分の気持ちをフェイトに伝えようとしたなのはが、今のフェイトを救う希望の光となる。

 無垢であり未熟ではあるが、高町なのはは人の「体」も「心」も救おうとする人物だ。人の「命」ばかりを救ってきた自分より、適任だとエミヤは思っている。

 あの子は理想を護るために人間を助けてきた自分とは違う。人間とは「体」と「心」の二つを救ってこそ、本当の「救い」となるのだから。

 

 「本当に情けないものだな。君もそう思うだろう、マスター………」

 

 エミヤはあの透き通った蒼い霊子の海で消滅した、今は亡き最後のマスターに問いかけるように呟く。

 返事は、返ってくるはずもない。ただ無音の静けさの中で、エミヤは一人嘲笑した。

 

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

 険しい顔を崩さずクロノはアースラの通路を歩いていた。任務、特に人が救えなかった失敗を犯した時の彼はいつもそうだ。未然に事件を防げなかったこと、関係者を助けれなかったこと、後悔ばかりが胸を締めつける。

 

 「………あれは」

 

 クロノはフェイト・テスタロッサが収容されている護送室の扉の前に立っているなのはを発見した。艦長がアースラの中を見学して良し、と言うや否や何処へほっつき歩いていたかと思ってはいたが、やはり此処だったか。

 

 「あ……クロノくん」

 「まったく、動き回るのは結構だが迷子にはなってくれるなよ」

 「だ、だいじょうぶだよ。わたしは方向音痴じゃないもん」

 

 ぷくーと頬を膨らませて怒る仕草をするなのはを見ると、クロノも険しい表情を緩めた。

 

 「ねぇクロノくん。フェイトちゃんや、アルフさん。ユーノくんってこれからどうなるの………?」

 

 ―――絶対聞くと思っていたよ。

 

 「ユーノは違法ギリギリの探索法と魔法技術を勝手に一般人に教えた罪により、今回の「PT」事件の資料纏めを手伝ってもらっている。これでチャラだ」

 

 普通ならこんなものでは済まないが彼は子供で、さらにいうとこの事件の解決に貢献した協力者だ。動機も決して不純なものではなかった。それに彼の優れた情報処理能力を考えれば、資料纏めが一番適していると判断したのだ。

 

 「まぁ彼はいいだろう。問題なのはフェイト・テスタロッサとアルフの処遇だ。彼女達は首謀者プレシア・テスタロッサの犯罪行為の一旦に手を貸し、僕達に対して公務執行妨害を行ない、ロストロギアを奪取し続けた。これらの犯罪行為を重ねれば「普通」なら懲役100年は少なからず与えられる。監獄に入れられれば二度と外の光を見ることはできないだろう」

 「そんな…………!!」

 

 なのはは悲痛な声を上げる。

 それにクロノがストップをかけた。

 

 「落ち着け。最後まで話は聞くものだ」

 「は、はい………」

 「僕は『普通』ならと言ったはずだ。フェイト・テスタロッサはまだ9歳の子供で、しかも首謀者であり母親であるプレシアから虐待を受け、無理矢理犯罪の一端に手を染められていた。その証拠もちゃんとある。だから心配しなくても軽いもので済まされる筈だ。いや、済ませてみせるさ。ある意味彼女が今回の事件の最大の被害者なのだから」

 

 どんなに上層部がアレやコレやと文句を吹っかけてきても勝てる自信がクロノにはある。だから心配しなくても大丈夫だ、とクロノはなのはに言う。

 

 「本当、なの?」

 「本当だ」

 「本当に本当?」

 「何度も言わせないでくれ―――本当に、大丈夫だ」

 

 嬉しさのあまりに泣きそうになるなのはを見てクロノは困ったような顔をする。自分はこういった雰囲気は慣れてないのだ。

 

 「………ん」

 

 なのははクロノの前に右手の小指を前に出した。これはどういう意味だろうとクロノは不思議そうにその小指となのはを交互に見る。

 

 「クロノくんは左手の小指を出して」

 「? こうか?」

 

 言われるがままにクロノは従う。

 

 「こうして、こう」

 「?」

 

 なのはとクロノは互いの小指を曲げ絡み合わせた。

 

 「これは指切りげんまん。約束ごとを絶対守ってね、ていう意味があるの」

 「………ああ、分かった。この「指切りげんまん」に誓って、絶対に約束は守るよ」

 

 クロノはぎゅっとその絡めた小指にちょっとだけ力を入れた。

 

 「クロノくんって、優しいんだね」

 

 不意を突かれた。今自分の顔は真っ赤になっているだろう。

 呂律が巧く回らず、言い訳に必死になるクロノはまさに歳相応の少年の姿だった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 西洋風の美しい装飾が施された椅子に腰をかけ、優男風味の男性と包帯を頭に巻いている少女が、その秀麗な場所を台無しにするが如く沈鬱な空気で話し合っている。

 

 「そうか。プレシア女史はもう……」

 「はい。アルハザードに至れたかどうかは分かりませんが、もうこの世界には」

 「いない、か。また私の知る世界は寂しくなったよ」

 

 時の庭園で「魔導師殺し」と「アースラの切り札」を同時に相手して倒されず、生還したイヴは創造主プレシアの指示通り、ジェイル・スカリエッティのいるアジトまでボロボロになりながらも辿り着いた。そして目的の人物ジェイル・スカリエッティに時の庭園で起こったことを一部始終話した。その話を聞いた彼は腕を組み、大きなため息を吐いた。

 

 「もう少し早く薬を完成させるべきだった。病に蝕まれている今のプレシア女史が、アルハザードに辿り着けても未来は無いというのに」

 

 如何に大魔導師のプレシアと言えどアルハザードという伝説の「古代の遺産」を巧く制御し、使いこなせる保障など何処にもない。辿り着けたとしてもそこで力尽きる可能性の方が高かった。プレシア程の魔導師であればその下準備も怠ろうはずがない。しかし、彼女は未完成な計画を決行した。それほどアリシアの保存期間とプレシアの寿命が短かったのだ。ジェイル・スカリエッティであろうものがそれを見越せなかったとは、あまりにも情けない。

 

 「せめて彼女が無事アルハザードに辿り着き、アリシアを蘇生させ、自分の病を古代の技術で治療してハッピーエンドを迎えたと信じているよ。色々と苦しいがね」

 

 例えプレシアの行いがどれほど間違っていようとも、多くのものを捨て続けて叶えようとした彼女の「夢」だ。無駄死になどと考えたくはない。意味のあるものだとジェイルは思っていたいのだ。

 

 「で、君がプレシア女史が私にくれた最初で最後の「プレゼント」か。Fの遺産、金色の闇の人工魔導師とは随分と粋なことをしてくれるね」

 

 プロジェクトF.A.T.Eの技術を応用して作られた人工魔導師。それも伝説とまで謳われた金色の闇の遺伝子を基として作られた極上もの。低級ロストロギアでは釣り合わないほどの存在だ。

 

 「プレシアは私を好きなように使ってくれてもいいと言っていました」

 「ハッ、なるほどなるほど。実に私が喰いつきそうな旨い話だよ。それは」

 

 ジェイルは笑いを耐えるように手で口を抑え、蹲る。そして、息を整えて訝しげに此方を見る少女にジェイルは、

 

 「ではさっそく私の娘達、ナンバーズと交流を深めてもらおう。君は見たとこ生まれたばかり。知識も全てオリジナルの記憶頼りだろう。それでは色々と不便だ。生活面などの基本的な世話は家庭的に頼もしいリニス君に頼むとするよ」

 「分かりました。しかし、拍子抜けですね。もっとこう、ホルマリン漬けにして研究材料の一部にされると思っていたのですが」

 「………確かに私は異常者で快楽主義者だが、「生きている生命」をそこまで蔑ろにしようとは思わないさ。あくまで私は人の命の重みというものを知っているからね。まぁ、魂も命もない死体ならばお構いなく気兼ねなく解体&ホルマリン漬けにするが」

 「貴方が変人ということを再確認しました」

 「ふ、甘いよ。優れた科学者という生き物は皆等しく“変人”さ。ところでこのアジトの内部構造はプレシアから知らされているかね?」

 「はい」

 「ならばこのアジトを探検する気分で回って見たまえ。その内娘達と会えるだろう。ナンバーズは少々癖のある子が多いが、決して悪い子達じゃない。すぐに仲良くなる、とまでは言わないが過ごしていく内に自然と打ち解けれるようになるよ」

 

 席を立ったイヴにジェイルは軽く手を振りながら見送る。

 イヴが部屋を出て行ったことを確認すると、ジェイルはテーブルに置かれていたカップを手に取り口元まで寄せ、優雅に香りを味わい、淹れられていた珈琲を喉に通す。

 

 「―――うん。美味い。また腕を上げたねぇリニス君」

 「それは豆が良いものなんですから当たり前ですよ」

 

 ジェイルの影から一匹の猫が現れる。省エネモードの猫姿になっているリニスだ。

 

 「いやいや淹れ方が巧くなければ幾ら元が良くても美味くならないものだよ。使い魔として完璧な君に唯一不満を言うなら、その一線引いた謙遜した態度だ。もっと自信を持ちたまえ」

 「私は、そんな大層なものでは」

 「………ま、不満とは言えどその行き過ぎた謙遜は君の個性であり一つの魅力だ。二度も言うまいよ。ところでいつまで私の背後に佇む気かね? 影に埋もれていても面白くないだろう」

 

 ジェイルの言葉に素直に頷いたリニスは人間形態へと為り、イヴの座っていた席に座る。

 

 「………はやり、プレシアは自分の意志を貫き通しましたか」

 「ああ。内容はどうあれ、彼女は自分の行いに最後まで理念を持ち貫き通した。友である私も誇りに思うよ」

 

 どんなに非難を浴びようが、プレシア・テスタロッサの娘への「愛」は本物だった。 それだけは、否定されてはいけないものだとジェイルは思っている。

 

 「……イヴの話を聞く限り、フェイトも無事“真実”を真っ向から受け止めれたようですね」

 「ふ。これで彼女は言われるがままの「人形」ではなく独立した一人の「人間」になった。後はこれからの人生でどう生き抜き、どう成長するのかが楽しみだよ」

 「きっと素晴らしい女性になってくれます。人としても、魔導師としても」

 「それは高望み過ぎだろう。最初はもう少し低くだな」

 「いえいえこれでも低いくらいですよ?」

 

 あれやこれやと言い合いながら、二人は夜が明けるまでフェイト・テスタロッサの行く末について語り合ったそうな。

 親バカ思考に近づきつつあることを、ジェイルとリニスは自覚していない。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 次元震の余波が収まるまでの三日間、アースラでは多くの出来事があった。

 

 なのははリンディに色んな次元世界の面白い話を聞かされ、ユーノは資料室で死にもの狂いで働き、アースラ隊は宴会を楽しみ、クロノは鍛錬に励み、エミヤは仕事を両立させながらフェイト&アルフの世話をし続けた。

 そして時は過ぎ、無事次元の余波が収まり、アースラは本局へ帰還することが可能となった。フェイト・テスタロッサの護送も行われる。

 本来ならばすぐさま帰還しなければならないアースラだが、高町なのはとフェイト・テスタロッサの別れを告げるに相応しい場所を、という多くの要望から海鳴市海鳴公園で数分間フェイトに自由行動を設けさせた。当然だが、監視としてエミヤとクロノも同伴することが条件づけられている。

 

 二人の少女が選んだ別れの場所は海鳴公園。そこで彼女達は自分なりの言葉を伝え合う。すでにフェイトとなのは「親友」といえるほど深い絆が結ばれていた。せっかく友達になれたというのに、もう別れというのは子供にとっては酷な話だろう。

 特に、何度も何度も友達になろうといしたなのはは辛さの余り、フェイトにしがみ付いて盛大に泣いている。

 

 「なのは………」

 「っく…う……っ」

 「少し分かったことがある。友達が泣いていると、同じように……自分も悲しいんだ」

 「………フェイトちゃんっ!」

 「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら、また、君の名前を呼んでもいい?」

 「うん……うんっ………!!」

 「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはも私を呼んで。なのはに困ったことがあったら、今度はきっと、私がなのはを助けるから」

 

 今フェイトとなのはが互いを抱き合い、涙を流しながら別れの言葉を継げている真っ最中。アニメや漫画で言うならば名シーンに入る部類の場面だ。

 

 ちなみにアースラのツイッターではまさに最高の盛り上がりを博していた。

 

 隊員A:『いやー青春だねぇ。若いっていいねぇ。女の子同士の抱き合いって萌えるねぇ!!』

 隊員B:『これが男同士だったら砲撃。男女だったらもげろ(男だけ)と連呼する自信がある』

 隊員C:『クソッ! なぜこの場面を記録させてくれないんだ!! おかしいだろう!!!』

 狙撃手:『馬鹿野郎テメー死にたいのか? んなことすればクロノさんと師匠に殺されるぞ』

 隊員B:『実際何人もの愛すべき馬鹿な同士がやられたな。内二名が艦長とエイミィさんだ』

 隊員A:『ちなみにその二人は一週間砂糖厳禁の刑だ』

 約全員:『え、えげつねぇ。あの二人に砂糖禁止刑とかキツイいわー』

 狙撃手:『だが安心しろ。俺達には機械に頼らずともこの魂に焼き付けると言う奥義があるだろう!!』

 約全員:『おお!! 記憶に刻むぜこの光景!!! 心に残すぞこの高揚!!!!』

 

 後にこの経歴がクロノとエミヤに発見され、一日分の記憶が吹っ飛ぶほどのトラウマを植えつけられることをまだ彼らは知るよしもない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「………悪いけど、もうそろそろ時間だ」

 

 クロノは泣き合い、抱きしめ合う彼女達にタイムリミットが近づいていることを知らせる。なのはは自分の髪留めのリボンを解きフェイトに差し出し、フェイトも自分の括っている髪留めを外しなのはに差し出した。

 

 “―――なんだろう。何処かで見たような光景だ”

 

 そのやり取りを見ていたクロノは懐かしい感覚に襲われる。身に覚えがないが、何処がで行われた気がする……少女からのリボンを渡されるというこのやり取りを。

 

 “でも此処じゃない。草原が広がる場所で…一匹の狐もいて……そして、目の前には―――なのはに酷く似た少女が大泣きしながら、髪留めを………”

 

 「どうしたクロノ。呆けた顔をしているぞ」

 「――――ッ、いや。なんでもない」

 「そうか? ならいいが」

 

 エミヤの声で現実に呼び戻され、いかんいかんと頭を振って意識を切り替える。

 

 エミヤ、クロノ、アルフ、フェイトを囲む白い魔方陣が描き出される。転移装置が起動したのだ。あと少し、彼女達に時間を許してやればいいものを、とクロノは内心思う。

 ちなみにユーノ・スクライアは結局自分の世界に帰らずなのはに付き添うつもりらしい。なんでも魔法の基礎をまた教え直すとか。勿論一般市民に魔法がバレたら処罰される覚悟で。レイジングハードも今回の功績を讃え、正式に管理局に登録された。なのはもまた魔法の世界に戻ってくるだろう。これはもう、諦めて受け入れるしかない。

 

 「気を付けて家に帰れよ。なのは」

 「お世話になりました!エミヤさん!!」

 「では…なのは。また再開できることを」

 「うん。またね、クロノくん!!」

 「また会おう。なのは!」

 「アルフさんも!!」

 「ばいばい。また今度、一緒に遊ぼう…なのは」

 「うん!! 絶対だよ、フェイトちゃん!!!」

 

 転移の光が辺りを覆う。フェイトは軽く手を振り、なのはも一生懸命に手を振った。

 また次の再開があると信じて。また共に話し合える日が来ると信じて。

 

 こすいて二人の人命が絶たれ、多くの傷後を残し、次元世界を巻きこんだ「PT」事件は静かに幕を閉じた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 雪が降り積もる「夏」の今日も、冬木市は人のいない空虚な時間を過ごしていた。

 街の中央にある巨大なクレーターは街の大部分を根こそぎ奪い、その規模は巨大な隕石が落ちたかのような惨状だ。公式には「ガス爆発」が原因となされているが、その事実は未だに「隠蔽」されたままに終わっている。そしてその大規模な破壊をもたらした主犯と思われる魔術師、ダリウス・エインズワースは今日も「宝具」と「聖杯」を創るために日々独自の工房に潜り、実験を繰り返している。

 

 「キャハハハッ! 本ッ当にウチの旦那はどんだけヤバいもん作りゃ気が済むんだ? まぁそこに憧れるし痺れるんだけどねェ♪」

 「しかし今回の代物はかなり危険度が高い。単なる封印では手がつけられんし、かといって放置するわけにもいかん。破壊はできるが後々に厄介になるし手間もかかる。もう別次元の世界(・・・・・・)に飛ばすしかあるまい」

 「勿体なねぇことすんなぁ旦那は。ま、コレに対してなら……んなことも言ってらんねぇわな」

 

 ゴスロリ衣装の少女は鋸歯をギラつけさせながら、大量の封印符が巻かれている一つの箱を片手で持って、ツインテールの長身長躯の女性の後ろについていく。

 

 辺りはガラクタの山のように積もった置換しかねた宝具の失敗作や、聖杯の成りそこないが山ほど放置されている。機能こそ停止しているが、もし全て正常に動けば冗談抜きで大陸一つ吹き飛ぶレベルの代物だ。

 

 長身長躯の女性はガラクタの散乱する中央にまで来て、一枚のカードを取り出した。

 

 「今から小規模の次元の穴を空ける。そこにその箱を放り込め」

 「OKOK。てかこの失敗作のカード共が何処の世界に散らばってどんだけ被害を被らせるか……今思えばなかなかゾクッとくるなァオイ」

 「ふん、他の世界がどうなろうと……関係ない。夢幻召喚(インストール)

 

 ゴスロリ少女の戯言を冷徹な声で一蹴し、長身長躯の女性は手に持つカードに魔力を込める。

 多大な魔力の余波が周囲のガラクタを吹き飛ばし、彼女は一瞬で『黄金の鎧』を身に纏った。

 下半身が黄金の鎧で固められ、半身が露出し、線型の赤いペイントが施されている。まるで何処かの『英雄王』と酷似した姿へと変わった。更に手には円筒の刀身を持つ剣が握られている。

 

 「相変わらずCOOLなこったなアンジェリカ。てかたまにはそのカード貸してくれよ。レア度Maxじゃん」

 「何を言っているベアトリス。貴様は雷神トールのカードを所有しているだろう」

 「そうだけどよぉ」

 「駄々を捏ねるな―――そら、さっさと仕事をしろ。『エア』」

 

 小刻みに動く乖離剣が極小の穴を「空間」に空けた。

 

 「英雄王ギルガメッシュの宝具を雑用に使うのは世界でもお前だけだなぁ」

 「無駄口言ってないでさっさと放り込め」

 「あいあい」

 

 ベアトリスは無造作にその封印された箱をその空間に放り込んだ。

 

 「計七枚の小っちぇえカードの中に「英霊の劣化コピー」が内包された魔術礼装。さぁて、あれらが辿り着いた「世界」はどうなるか……楽しみだねェ」

 

 ベアトリスは虚空の空間に落ちていく封印された箱を見送り、狂気的な嗤い声を城内に響かせた。

 

 




 リリカルおもちゃ箱とプリズマ☆イリヤのネタを入れ過ぎた。でも後悔はしない!!


 



 
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