『Fate/contract』   作:ナイジェッル

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嗚呼、宝具設定と人物設定の続きを書きたい。更新止まりしている魔法夫婦リリカルおもちゃ箱の話も進めたいです(T_T)


第28話 『結界内の戦争 【上】』

 半壊した部屋の中で、外見年齢8歳ほどの少女が鎖によって大の字で吊るされている。そして、この空間を作り上げた張本人は時空管理局所属の三等陸尉の少年。彼の両手には質量兵器の双剣が握られており、オールバックの髪型によって鋭い眼つきが露わになっている。

 さて、この光景を目にした者はどちらが犯罪者に見えるだろうか。エミヤの弟子であるヴァイスなら断言できる。絶対に白髪男の方が犯罪者に見えると。

 

 「………今失礼なことを考えていなかったか?」

 「いえ全然」

 

 相変わらず勘の鋭い人だ。

 その鋭き鷹の目は洞察力の高さも備わっている。安易に彼の前で下手な考えはしない方が良いのだろう。

 

 「なのは………!」

 

 フェイトはヴィータが無力化されたことを確認し、すぐさまなのはの元に向かった。

 

 「フェイトちゃん………!」

 

 二人は涙ぐんで抱き合う。感動の再会という奴だ。

 ヴァイスはそんな彼女らを見て自分よりかよほど良い青春を送っていると思わずにはいられない。羨ましいものだ。

 なのはの回復に力を入れているユーノは、そんな雰囲気のなかで無心になって回復術式を発動し続けている。なかなか空気の読める少年である。少し遅れて到着したアルフも、主人の元に向かわず、一定の距離を取っている。彼女も筋金入りの主思いの使い魔だ。

 クロノはなのは達から少し離れた場所、辺りを警戒している。流石は執務官。公私はキッチリ切り分けている。だが、相変わらず可愛げがないのが残念だ。クロノも相当なのはのことを心配していたであろうに。

 彼の身体年齢ならなのは達と混ざっていても違和感がないと思うのだが……おっと、これ以上余計なことは考えないでおこう。クロノが自分を睨んでいる。声には出していないはずだが、どうしてこうも察せられるのだろうか。

 

 「………ふぅ」

 

 いつまでも無駄な思考を続けていても仕方がない。

 意識を切り替えたヴァイスは辺りを見回す。

 周囲は至って静かであり、他の魔力反応も無い。ここまで静かだと逆に不安になる。そう、台風の前の、静けさのような感じだ。

 ヴィータを気絶させても結界は解除されないところを見るに、どうやら術者関係なく起動し続けるタイプの魔法のようだ。このままでは脱出が不可能。アースラの解析を終えるまでこの場に待機しておくのも危険過ぎる。鉄槌の騎士の他にもまだ剣、盾、湖の三騎士が残っているのだからいつ襲撃がきてもおかしくはない。

 

 「投影(トレース)………」

 

 エミヤは双剣を手放し黒く、巨大な西洋弓を準備する。

 海鳴市を覆っている結界を破壊するつもりらしい。それも、本気で。

 よほど結界が強力なのだろう。

 生半可な矢では突破できないと踏んだエミヤは宝具を投影しようと――――

 

 「()―――――ッ!?」

 

 ―――した直後、焔を纏った矢がエミヤの心臓を直撃した。

 彼を守護していた魔術礼装が悲鳴を上げる。

 

 「ガッ、ア……ッ」

 

 高密度な魔力を内包した矢は絶大であり、余りの威力に彼は後方に吹っ飛んだ。

 

 「師匠!!」

 

 双剣を手放し、弓を手に持っていたエミヤにそれを防御する手だてがなかった。しかし、彼ならば飛来する矢に気付き躱すこともできたはずだ。

 なのにエミヤはしなかった。何故ならあの焔の矢を躱していたら、間違いなく後方に控えていたクロノに直撃していたからだ。それをエミヤシロウが許すわけがない。故に、敢えて必殺の矢を受けた。

 ちなみに矢を放った射手は決してこれらを計算していたわけではない。偶然後ろにクロノが待機していて、このような事態を発展させたのだ。

 そう、簡潔に言うと――――エミヤの幸運:Eは伊達ではなかった……ということだろう。

 

 「エミヤッ!」

 

 クロノは押し出されるようにぶっ飛んでいくエミヤを全身で受け止めるが、

 

 「う―――ッ、オ―――――」

 

 矢の勢いを抑えきれず、二人共々ビルの壁を何通も突き抜けてビルの外に弾き出されてしまった。そして、仕上げとばかりに容赦の無い爆発の爆風がエミヤとクロノを襲う。

 

 「シロウ!!クロノ―――!?」

 「狙撃か………!! おい、ユーノ少年!いますぐなのは嬢ちゃんを此処から遠ざけろ!!」

 

 ヴァイスは呆気にとられていたユーノに指示を送る。

 

 「了解!」

 

 ユーノは即座に頷き、なのはを連れてこの場から離れた。いくら魔導師ランクAAAとはいえ、負傷している少女がこの戦場にいては足手まといにしかならない。

 正直ユーノはエミヤ達の治療に回したかったが、クロノは回復魔法を習得している。自力でなんとかするだろう。心配はない……はずだ。

 

 「フェイト嬢ちゃん! 気を逸らすな引き締めろッ!!敵が来るぞ!!!」

 「で、でもシロウとクロノが!」

 「あの人達なら大丈夫だ! 普通の人間よか何倍も頑丈だからな。それより、自分の心配をしな!!」

 

 奴らの狙いは捕縛された仲間の救出。そして、あわよくばリンカーコアの蒐集だろう。

 この部屋にはヴィータが磔にされており、フェイトという極めて高い魔力を持つ人間もいる。この室内に侵入してくるのは間違いない。そんな中で隙を晒し、気を乱せばやられるのは自分達だ。

 

 「早速お出でなすったかッ!」

 

 白髪、浅黒い肌を持つエミヤと特徴が似ている犬耳大男といつぞやの任務で目撃した女騎士が流星と見違えるほどのスピードでこの部屋に突っ込んできた。

 厄介な人間は狙撃で排除し、陣形を切り崩したところで正面からの突入。流石は歴戦の騎士達だ。戦い慣れている。しかし、此方とてこのまま思うようにされては堪らない。

 

 「図に乗るなよ………!!」

 

 ヴァイスはすぐに引き金の引きやすい大男の頭部を狙った。

 警告なんて必要ない。現れて名乗るまでの時間すらやるつもりはない。問答無用で倒しにかかる。

 

 「ふん、小賢しい」

 

 それでも大男には通じなかった。秀麗とも言える足蹴りがヴァイスの魔法弾を蹴り砕く。しかし、それは想定内。ヴァイスとて一撃で仕留めれるなんて思っていない。

 

 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つッ!!

 

 指が弾け飛ぶ覚悟で速射する。

 自分のデバイス、ストームレイダーはティーダの持つデバイスほど高性能ではないし、多様性も皆無だ。ならば、デバイスに足りない部分を技量で補えばいい。

 いつもなら魔力密度を極限まで圧縮するが、今回は連射性を活かすために魔力の密度を何割か割く。一撃の威力は軽くなってしまうが、代わりに弾数がいつもの倍の量で放てるようになる。そうしなければ近、中距離で狙撃手はやっていけない。

 

 「ウォォォォォォッ!!」

 

 急所を惜しみなく狙った弾道を、大男は雄叫びを上げて打ち払う。

 しかし、それでもヴァイスは笑う。それも“想定内”だ。

 

 「おりゃああああああ!!」

 「なっ!?」

 

 狙撃手の真の狙いは、大男が闘争本能Max状態のアルフに気付かれないように、自分に注意を集中させること。

 

 「ザフィーラ!!」

 「行かせるかよ!」

 「――――ッ!!」

 

 割り込みを仕掛けようとした女騎士に従来の威力に再調整した魔弾を放つ。

 それを彼女は弾くことに成功はしたが、おかげでアルフの妨害は叶わなかった。

 見事に術中に嵌った大男は、アルフのタックルをモロに食らい、ビルの外に追い出された。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「クッ………」

 

 室内の外に追い出されたザフィーラは、空中にベルカ式の魔方陣を展開し、その上に着地した。そして彼は普段は見せない苛立ちを露わにした。

 あの部屋に鎖で吊るされていたのは間違いなくヴィータだ。意識が飛んでいたようだが、死んでいたわけではない。助けれられる余地はある。

 

 「小娘。そこをどけ。今の私は、女子供を相手に手加減をしてやれるほど甘くはないぞ」

 

 ザフィーラは自分を外に追いやり、今こうして目の前に立ち塞がる紺色の髪を持つ女に威圧を含めて警告する。

 彼女の額には宝玉が収められ、さらには狼の耳が見える。どうやらミッドチルダの使い魔のようだ。

 ザフィーラの警告を受けた女は退くことなく尚も立ち塞がる。

 

 「やだね。どうしても通りたいってんなら、あたしを倒していきな。盾の守護獣ザフィーラ」

 「………いいだろう。ならばすぐに貴様を片付け、仲間のもとに行かせてもらうぞ」

 「やれるもんならやってみな。そしてアンタはあたしがこれから言うことをしっかり覚えておくんだね。

 あたしは魔導師フェイト・テスタロッサの使い魔アルフ。アンタを倒す、狼の使い魔だ!」

 

 名乗り終えてた女、アルフは獣特有の俊敏性を駆使してザフィーラに接近する。

 基本使い魔は身体能力が異様に高い。それこそデバイスを扱わずとも魔導師と渡り合えるほどに。何故なら、元となった素材が獣であるからだ。獣は人に多くの面で勝っている。人間が獣に勝てているモノとなると、高い知性がせいぜいだろう。

 

 アルフの素材となった獣は狼。高い知能と身体能力を兼ね備えた陸の狩人。使い魔の中でも上等なものだ。

 当然、そんな彼女の放つ拳もそこいらにいる使い魔とは比べものにならないほど強力である。だが、ザフィーラもまた狼を素体とした守護獣(使い魔)。二匹共に同種の素体を使われ、創られた使い魔だ。素体自体の能力に比較的な差はない。

 そう、ザフィーラが普通の狼の使い魔であれば……だが。

 

 「………生ぬるいな。小娘」

 

 素体としては優劣もなく、ほぼ同等のアルフとザフィーラ。

 しかし、アルフの拳は男の肉体に当たりもしなかった。

 初撃の拳を簡単に受け流され、

 

 「ゴ―ゥ――ッ!?」

 

 アルフの頭に回し蹴りが入れられる。

 間一髪、障壁でギリギリ防いだものの勢いまでは殺せない。

 そのまま地上に吹っ飛ばされる。

 

 「ぐっ……ごほっごほッ」

 

 コンクリートの道路にアルフは直撃し、小規模のクレーターができた。

 ザフィーラも地上に降り、這いつくばってクレーターから出てくるアルフに向かって問う。

 

 「貴様はこの世に生を受けて何年になる」

 「三…年、だよ……悪いか!!」

 「悪くはない。むしろ良い、と言っておこう。その歳でそれほどの力を身につけているのだ。恥じるものではない。誇れるものだ。だが、私を打倒するというのであれば、今の貴様では些か力不足だ」

 

 戦闘経験。歩いてきた場数。それが、今アルフとザフィーラにある決定的な差だ。

 素体が同種のものでも、生きた年月が違い過ぎる。戦闘を熟してきた年期が離れすぎている。どれほど才に恵まれようとも、戦闘経験にこれほどの開きがあればアルフがザフィーラに勝てる可能性は皆無に等しい。

 経験は何物にも代えられない莫大な“力”だ。生まれ持った才能などでは決して比べものにならないほどの価値がある。

 

 「何百年と戦い続けた私と、生まれてまだ間もない貴様ではこの力の差はそう簡単に埋められるものじゃない。練度の密度が違いすぎるのだ」

 「うる…せぇ……」

 「そら、たかが一発の蹴りを入れられてその有様だ。大方獣の闘争本能に憑かれて私に挑んできたのだろうが、如何せんまだまだ青い」

 「―――フッ!!」

 

 アルフは立ち上がり、今度は加速と急停止を繰り返し、フェイントを交えてザフィーラに挑む。

 大地を蹴り上げ、フェイトを超えるほど、速く……!! 筋肉の筋が幾ら逝っても構わない。限界を超えて挑むのだ。これくらい、当然の代償………!!

 尚もアルフは限度を遥かに超える強化を肢体に施す。敵を凌駕せんと自分にあるモノを惜しみなく使う。でなければ、ザフィーラを倒すことなどできはしない。

 

 「大した技量だ。根性もある。これでまだ齢が二桁にも達していないというのは素晴らしいことだぞ。ああ、実に末恐ろしい」

 

 この女は化ける。

 近い将来、自分の良い好敵手となろう。

 

 「余裕かましてんじゃ、!!」

 

 全身全霊の拳が、大男の腹筋に捩じり込まれた。

 だが、男は直立不動のままで、倒れる気配がない。

 

 「また会い見える機会があるのなら、次は今よりさらに己を磨いて私の前に現れろ。その時は私も全力で相手してやる」

 

 躱せたであろうアルフの渾身の一撃を真正面から受けきったザフィーラは何事もないかのように喋る。障壁も張らず、肉体一つで。

 

 「故に、出直してこい小娘」

 

 呆気にとられ、隙だらけになったアルフにザフィーラはボディブローを見舞う。

 

 「がッ……ぁ」

 

 ドスンッ、と鈍い音が響き渡った。

 アルフは糸の切れた人形のように倒れ伏す。

 

 「…………」

 

 ザフィーラは倒れて動かなくなったアルフにトドメを刺さずに背を向け、ヴィータが囚われていたビルを見上げる。

 彼がまたあの部屋に向かうために浮遊しようとしたその時、

 

 「――――ぬぉ!?」

 

 長く伸びたザフィーラの蒼い尻尾を、何者かの手によって掴まれた。

 

 まさかと思い振り向けば、いつ起き上がったのかアルフが拳を振るう動作に入っていた。あのボディブローを真面に喰らい意識を取り戻したとでもいうのか。

 

 “タフさで私と張るつもりか……その若さで!”

 

 手加減したのは確かに認める。魔力すら込めていない一撃だった。しかし、そうだとしてもザフィーラの拳は並みの使い魔を遥かに凌駕する威力を持っている。いくら狼の使い魔とて、すぐに起き上れるはずがない。

 だが実際にこの女は起き上れている。それは否定しようのない現実だ。

 

 “こいつ………!”

 

 彼女の左手にはザフィーラの尻尾が握られている。尻尾を掴まれていては、躱すことができない。そしてアルフの拳に籠められている魔力の密度が尋常ではない。先ほどの十倍は密度の違いがある。恐らく全魔力を拳に纏わせているのだろう。いくらザフィーラとてあの拳を生身で喰らえば唯では済まない。

 

 「喰らいな―――あたしの、本当の、全力全開の一撃ってやつを………!!!」

 「捨て身ときたか。面白い………だが!!」

 

 放たれる拳。吸い込まれるようにザフィーラの顔面へと向かう。

 しかし、この一撃を黙って当てられるほどザフィーラも甘くはない。

 ザフィーラは身体を捻り、突き出した掌から瞬時に八本の軛を展開する。

 鋼の軛はバインドでありながら鋭い切れ味を有する攻防一体の魔法だ。

 敵を穿ち、縫い、動きを止める。

 撃ち込まれるアルフの拳を貫き縫い止めることも容易である。

 だが、アルフの拳はもう既に初速を終えている。後手に放った軛が間に合うか否かは、もはや運次第。

 

 「テオ―――――」

 「ウオ―――――」

 

 限界まで強化された拳からは音速を超える音が鳴り、白銀の軛も敵を貫かんと風を切り裂きながらアルフに迫る。

 

 「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 「リャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 二匹の魔狼の業が交差した時、コンクリートで固められた道路は盛大に砕かれ、一瞬で暗闇の街を眩い光が辺りを覆い尽くした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 主戦力であったクロノとエミヤは二人揃って吹き飛ばされ、大男はアルフと共にこの場から消え、半壊した部屋に残った人間は、たったの四人になった。

 アースラの戦力は魔導師ランクAAAの鬼才、フェイト・テスタロッサと凡俗の狙撃手ヴァイス・グランセニック。

 対するヴォルケンリッターは絶賛気絶&拘束プレイを受けている鉄槌の騎士ヴィータと仲間の危機に現れた剣の騎士シグナム。

 シグナム、フェイト両名共にAAAランク級の人物であるのだが、フェイトはシグナムに比べて圧倒的に戦闘経験が劣っている。

 戦場を渡り歩いてきた歴戦の騎士と、非殺傷設定が当たり前、殺し合いとは無縁の少女。覚悟、戦士としての技量、その他諸々が天地の差だ。いくらなんでも分が悪すぎる。

 

 「………チッ」

 

 ヴァイスは後方に控えておくべきだった、と舌打ちする。この狭い空間は、狙撃手のいるべき場所ではない。場違いなのにも程がある。

 相手はヴォルケンリッターの将、剣の騎士だ。そこいらの騎士では足元にも及ばない強力な個体だろう。さらに彼女の手に握りしめられているデバイスはカートリッジ機能搭載型。カートリッジ使用時に生み出される爆発力は前回の任務で確認済みである。いくらこの魔術礼装に覆われた身体といえど、直撃すれば一撃で沈むだろう。何よりヴァイスは狙撃手だ。干将莫耶という優れた宝具を授かっているといっても、それをエミヤのように近接武装を十全に発揮できるほど武芸に長けていない。第一に近接特化型の騎士と斬り合って勝てるわけがない。

 

 “師匠とクロノさんの無事を確認できないのは拙いな。まぁ大丈夫だとは思うけど。しっかし、念話まで絶てるとかどんだけ便利なんだよこの結界。

 局の情報提供も不十分過ぎる。長年被害を被っていたんならヴォルケンリッターの扱う魔法全て把握しとけってんだ。てかヴォルケンリッター全員の名称と一部の魔法しか知り得ていないなんて、ほんといい加減にしてくれよ、とキレられても文句言えねーぞクソッタレ”

 

 予めどのような魔法を使用してくるか分かっていたのなら、幾らでも手の打ちようはあった。アースラには頭の切れる二人の軍師がいたというのに……今現在は何処かに吹っ飛ばされて不在だけども。

 とはいえ内心で愚痴り散らしてもしょうがないし、このまま睨み合っていても埒が明かない。

 

 「そんなに不快な顔をしてくださんなよ女騎士。折角のお顔も台無しだぜ。美人なのに勿体ねェ」

 「ふん。仲間を縛られているのを見て不快にならずにいられるものか。それに、私の顔を鬼と例えるのは実に結構だ。戦士にとってそれは褒め言葉に等しい」

 「オオゥ。骨の髄まで戦闘凶みたいな人だな。んで、アンタの目的はこの後ろで鎖プレイ受けてる幼女の救出で間違いねーのね。でも遅いはなぁ。ちょっとばかし到着するの遅かったわなぁ、騎士様。ほれ見て見ろよこの幼女の姿。鎖に吊るされたまんま気絶してるぜ? なかなかマニアックだろう。ほんと、何かされてもおかしくないほどにな」

 「貴様、ヴィータに何かしたのか…………!!!」

 

 よし、ウマい具合に喰いついてきた。

 ここから丸め込めるかどうかはヴァイス次第だ。

 

 “フェイト嬢ちゃん。いつでも仕掛けれるよう準備しといてくれ。俺が彼女の気を乱し隙を作る”

 “分かりました”

 

 ヴァイスは小声でフェイトに指示し、彼女も頷く。

 

 「聞こえなかったのか!男!!ヴィータに何かしたのかと聞いている……!!」

 

 シグナムは頭に血管を浮かべながら叫ぶ。焔を操る騎士故なのか熱くなり易い性格のようだ。しかし此方としては実に好都合。冷静さを欠落した者はどれほどの強者でも仕留めやすい。

 格下の存在が格上に勝つための方法は幾らでもあるということを、教えてやる。

 

 「そんなに怒鳴らなくても十分聞こえてるって。俺はただこの幼女を鎖で縛りつけ、身動きを取れなくなったところであ~んなことやこ~んなことをしただけだ。まぁ、あまりにもハードなもんだったからこの嬢ちゃん、途中で気絶しちまったけどな―――そら、答えたぞ。ただ悪戯しただけだって」

 「この、下衆がッ!!」

 「ハッ、上等で上等 下衆で結構。それで、どうするよ。アンタの怒り、この俺にブチマケてみるか?あァ!? 騎士様よ!!」

 「当然だ! 貴様だけは容赦せん!!」

 

 シグナムは怒り狂うままに突っ込んでくる。まるで美しさも何もない、ただの突進。気迫こそはあれど、脅威として認識するまでもない。

 すでにフェイトは構えを取っている。今の剣の騎士に、フェイトのカウンターを受けるほどの思考は残っていないだろう。

 

 「――――ハァ!!」

 

 満を期してフェイトの鎌がシグナムを迎え撃つ。怒りの力はたしかに大きいが、その分哀れなほど脆いものだ。冷静な対処を行なえば恐ろしくもなんともない。

 

 「………ふ」

 「ッ!」

 

 怒り狂っていたはずのシグナムが不敵に笑う。その時には既に先ほどまで発散していた気迫もなくなっていた。

 

 “こいつぁ拙い!”

 

 狙撃手はシグナムを完璧に見誤っていた。彼女は幾つもの戦場を駆け廻ってきた騎士だ。歴戦の戦士だ。そんな存在が、いくら仲間を貶されたからといってこうも簡単に冷静さを欠くものだろうか? まだ生きて13程の青年の口車に乗せられるものだろうか?―――――そう、『冷静』に考えれば分かる。そんなことはあり得ないと。

 

 「消えた!?」

 

 フェイトの驚愕した声が部屋を響かせる。バルディッシュの魔力刃は虚しく虚空を薙いだのだ。完璧なタイミングで放たれたカウンターを躱された、いや違う。躱したなんて生易しいものじゃない。彼女は躱したどころか、姿自体を消したのだ。これは――――、

 

 「転移魔法か!」

 

 この街に展開されている結界は転移魔法を妨害する能力がある。外から結界に入るためなら転移は可能だが、結界内に入ってしまったら転移自体ができなくなる。しかしそれが敵だけにしか効果を与えず、味方は転移魔法を何の問題もなく使用できるのであれば……!

 

 身の危険を感じたヴァイスは感に従い後ろを振り向く。

 

 「気付いたところで、もう遅い」

 「ですよねー………」

 

 背後にはシグナムが剣を構えて立っていた。

 これは、完全に騎士の間合い。

 腰に装備されている干将莫耶を抜く余裕はない。

 障壁の展開も間に合わない。

 バインドも不得意故に巧くいくはずがない。

 故に、

 

 「紫電」

 「悪い!相棒!!」

 

 ヴァイスは自身の半身、ストームレイダーを剣と自分の間に滑り込ませる。

 デバイス自体の頑丈性はないが何もないよりかマシだ。

 ストームレイダーには申し訳ないと思ったが、四の五の言っていられる状況ではない。

 

 「一閃………!!」

 

 高密度な焔の塊が剣を纏い、それをヴァイスに叩きつける。

 そしてそこまで耐久性のない狙撃銃型のデバイス、ストームレイダーが受けきれるはずもなくヴァイス諸共叩き斬られた。

 耐え切れないとは思っていたが、まさか威力の減殺すらもままならないとは。

 

 「ゴ……フ………」

 

 魔術礼装で全身を固めているとはいえ、ここまで圧縮された魔力をモロで喰らってはひとたまりもない。あまりのダメージにヴァイスは膝をつく。

 

 「なかなかの演技だったぞ狙撃手。だが、私の演技の方が一枚上手だったようだな」

 「ッ、やっぱり、あの、激高は…演技……………」

 「生憎と歩んできた場数が違う。それに将たる者が小兵に欺けられては笑えんだろう」

 「小兵、すか。ハ、ハハ……的を、射てて…りゃ…」

 「しかし、小兵にしては上等な射撃だった。いつぞやの狙撃手は貴様だったのではないのか?」

 「………さ…あ……ねぇ………」

 

 シグナムの答えを返さず、ヴァイスは膝をついたまま意識を失った。

 

 

 ◆

 

 

 「もし貴様が狙撃手として力を存分に振るえる場所にいたのなら、負けていたのは私の方だったのかもしれんな」

 

 ヴァイスを賞賛し、素早くヴィータを縛っていた鎖を断ち切ったシグナム。

 

 「異常はなし……か」

 

 ヴィータの身体を見る限り、戦闘以外に何かされた形跡はない。

 やはり彼の言っていたことは自分を激高させるために作った虚言だったようだ。

 

 「起きろ、ヴィータ。いつまで寝ている」

 「………う、うう――――シ、グナム?」

 「意識が戻ったか。まったく、手間を掛けさせるな」

 「う、うるせぇ! これから!!」

 「逆転するところ、だったんだろ。分かっている。あと落し物だ。欠損部分は治しておいたぞ」

 「帽子―――ありがとう。……ハッ! あの色黒白髪男は何処だ!?」

 「色黒白髪男……ああ、その者なら初撃の矢で遠くに吹き飛ばした。一番厄介な輩だと思ったのでな」

 

 ザフィーラと特徴が似ていた少年はカートリッジ二つも使用して放った剛矢、シュトゥルムファルケンの直撃を受けた。無事では済んでいないだろう。ついでに黒い少年魔導師も一緒に吹き飛んだ。あれは嬉しい誤算だった。

 

 「ナイス直感だぜシグナム! アイツは、アイツは本当にやべぇ。強さとか、そんなんじゃなくて、本能的に本当に気色の悪い奴だった。

 機械のような、存在感。鋭い刃物のような、眼。まるで、いや……間違いなくアレは化け物の類だ。昔のあたしらより、ずっと…ずっと……!!」

 

 ヴィータは怯えるように震え出す。あれほど気強かったヴィータがここまで恐怖するとは……あの少年は一体何者だ。

 

 「落ち着け。鉄槌の騎士たろう者が心を乱すな」

 「わ、悪い」

 「とにかくヴィータはこの場を離脱した白い少女を追え。恐らくお前が仕留め損ねた糧だろう。鉄槌の騎士であるのなら、最後までやり通せ」

 「――――分かった」

 

 落ち着きを取り戻してきたヴィータはこくりと頷く。

 

 「行かせない………」

 

 シグナムが常時隙を見せないのでずっと大鎌を構えたままだった少女が口を開いた。

 目は鋭く、声色からは怒りを感じさせる。

 

 「ヴィータ。あの少女の相手は私がする」

 「いいのか。このまま二人で」

 「一人で問題ない。お前も分かっているだろう。一対一なら、」

 「ベルカの騎士に負けはねェ、か……分かったよ。ここは任せたぜ」

 「任された」

 

 ヴィータはビルの壁を破壊して、外に出た。

 これで、この半壊したビルの室内に残ったのはとうとうシグナムと金髪の少女の二人だけとなった。

 

 「貴様からは並々ならぬ怒気を感じるな」

 「貴方が、シロウを……」

 「シロウ?……まさか、白髪の少年のことか」

 「そうだ。貴方がシロウを射た………!」

 「分からんな。ヴィータが言うにはそのシロウという少年は“化け物”と」

 「シロウは、エミヤシロウは化け物なんかじゃない!!」

 

 溜りに溜まった怒りが弾けたように彼女はシグナムに突撃する。力任せの斬撃を愛剣レヴァンティンで受け止めた。実体刃と魔力刃が歪な音を発ててせめぎ合う。

 

 「………そうか。ならば、その怒りを持って私を打ち破って見せろ。私は剣の騎士、守護騎士(ヴォルケンリッター)の将シグナム。そして我が剣レヴァンティン。貴様の名は」

 「ミッドチルダの魔導師。時空管理局所属、フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ………!」

 「フェイト・テスタロッサにバルディッシュか。名を覚えたぞ。では――――その歳で私にどれほどついてこれるか、見せてもらおう!!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 戦闘の舞台となっている中央区から少し離れた場所に、二人の少年が立っていた。

 服の至る所に焦げ目がついており、頬などには火傷などが見受けられる。

 圧縮された矢を受け、遥か後方に吹っ飛ばされた上に壊れた幻想(ブロークンファンタズム)さながらの大爆発をモロに喰らったエミヤとクロノは戦闘続行不可レベルの大ダメージを受けた。

 しかし、すでに彼らの受けたダメージはクロノの回復魔法により大方が治療済みだ。いつでも前線に復帰できる状態にまで回復している。

 なのに何故、エミヤとクロノは激戦地となっている中央区に向かわないのか。

 答えは至極簡単だ。彼らは『向かわない』のではなく『向かえない』のだ。

 

 「貴様ら――――何者だ」

 「「君達の敵だ」」

 

 エミヤは二振りの双剣を構え、眼前に立ち塞がる2人の男に殺意をぶつける。

 しかし白い仮面を被った成人男性の二人組は、両手を組んで立ち塞がり、一向に退こうとしない。

 

 「敵、ね。いいじゃないか、実にシンプルな答えだ」

 

 クロノは冷徹な目を持って仮面の男を見る。

 敵とならば蹴散らすまで。ボコしてひっ捕らえて仮面引っぺがして知っている情報を残さず吐かす。

 

 「「さぁ、怪我人の君達が私達を打倒できるかな?」」

 

 仮面の男は構えを取る。両名共に隙がないことから並みの術者でないことが分かる。だが、エミヤとクロノとて並みの魔導師を遥かに越える存在。歩く武器庫とまで謳われた戦闘特化の魔術使いと、死角無しの万能型魔導師。この2人に勝てる人間は次元世界広しと言えど極少数に限られてくるだろう。

 そして後に彼らは思う。なのは達のいる中央区から離れていて良かったと。それほどこの四人の戦闘は壊滅的な破壊を周囲に(もたら)すのだから。

  

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