『Fate/contract』   作:ナイジェッル

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ふふ。話を円滑に進められる文章力が欲しいっすね。




第29話 『結界内の戦争 【中】』

 乱戦と化した中央区より、少し離れたビルの屋上になのはを運んだユーノ。さらに治療と防衛の効力が施されている魔方陣をなのはの周りに展開する。

 ユーノ・スクライアが持つ少ない魔力をありったけ注ぎ込んでいる結界だ。そう簡単に破られはしない特別性である。

 

 「なのは。僕達の戦闘が終わるまで、絶対にこの結界からは出ちゃいけないよ」

 「で、でも………!!」

 

 なのははユーノの進言に不満の声を上げる。

 皆が戦っているなかで、自分は何もできない。ただ黙って見ていることなど、彼女には耐え難いものなのだ。それはユーノも理解している。

 だが、多大な負傷を負っているなのはをこれ以上動かすわけにはいかない。それに、今彼女が戦場に出てきたところで鴨にされるのは目に見えている。

 

 「欠損したバリアジャケットも再築できないのに戦闘なんてできないよ。それはなのはが一番理解しているはずだ」

 

 ユーノの指摘に、なのはは何も言えなかった。事実、ヴィータとの戦闘で破壊された上半身のバリアジャケットの装甲が、まだ回復していない。魔力のコントロールが乱れている証拠だ。

 レイジングハートもなのはの補助に回れないほど、大きなダメージを受けている。そんな状態のなのはがあと一撃でも攻撃を喰らえば、今度こそ確実に墜ちる。

 

 「……………」

 

 なのはの長い暗黙は、自分の立場を認識しているのだとユーノは受け取った。

 改めてこの結界内から出ないように、と念押ししてユーノは中央区に向かう。

 此方に向かってくる一つの魔力反応の迎撃のために。

 

 

 ◆

 

 

 アルフの放った拳は、過去最高と言っても過言ではないほどのものだった。代償として使い魔特有の頑丈な筋肉の筋が身体のあちらこちらで一気に途切れ、スペック以上の力を無理矢理引き出したせいで内臓も過負荷に耐えられず悲鳴を上げた。ザフィーラのボディブローを喰らった腹部は、もはや痛みさえ感じられなくなってしまっている。

 

 正直に言えば――――苦しかった。

 でも、それ以上に………嬉しかった。

 

 音速の壁を破った瞬間、アルフの総毛は逆立ちした。

 心に満ち溢れんばかりの悦びがアルフを満たした。

 

 これが、己の限界を超えるということ。

 これが、自分より強い獣のいる世界というもの。

 

 嗚呼―――今まで味わったことのない感覚だ。許されるのなら、あの至福の一時をもう一度味わいたいとさえも思った。

 

 「チク…ショウ………」

 

 だがそれも、もはや叶うことはない。

 アルフの拳と身体には幾つもの軛が撃ち込まれている。

 ザフィーラの軛の方が、自分の拳より速かったのだ。

 そして、自分は負けた。完膚なきまでに。

 

 隙をつき、ザフィーラより先に拳を放っていたアルフの方が圧倒的に有利なはずだった。アルフ自身も、勝利を確信していたほどだ。それでも眼前に立つ雄には勝てなかった。

 

 「その勝利への貪欲さ……見事だ―――小娘」

 

 彼は敗者であるアルフを惜しみなく賞賛する。

 アルフの拳とザフィーラの顔面は、わずか数センチの間しかない。あと少しでも、ザフィーラが鋼の軛を発動するのが遅かったなら敗北していたのは彼の方だった。

 

 アルフはその賞賛を聞き取ることを最後に、立ったまま気を失った。

 ザフィーラは彼女を貫いていた軛を自戒させ、前倒れになるアルフをそっと両手で受け止める。

 

 「主を転々とし、戦い続けて数百年。これほど勇ましく、眩しい女はいなかった」

 

 ザフィーラは再度確信した。

 この女は強くなると。

 そう認めざるを得ないほど大きな才を持ち、稀に見る強い根気を持っていたのだ。

 今はまだ幼すぎるが、これからも鍛錬に励み続ければ必ず良い戦士となるだろう。

 

 「貴様の成長が実に楽しみだ。言峰騎礼に次いで良き好敵手にならんことを祈る」

 

 既に完成品として生み出された自分とは違い、アルフは未熟であるが故に無限の可能性を持っている。

 

 「これが、若さか………」

 

 ザフィーラは若さ故の未熟に心の底から羨ましく思えた。

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 フェイトは莫大な魔力をバルディッシュに注ぎ込み、三日月を連想させる巨大な鎌を生成した。それを強化された細腕と、バルディッシュの重量軽減機能を用いて横一線に薙ぐ。

 

 「――――――ヅッ、」

 

 シグナムはレヴァンティンで魔力刃を受け止めるが、あまりの斬重に耐えきれず屋外に吹っ飛ばされる。

 まさか、スピード型の魔導師がここまで重い斬撃を放てようとは。さらにその斬撃を行使できるほどの膨大な魔力。これは、アタリだ。

 

 「………良い。実に良いぞ。闇の書の糧にするには何の申し分もない!!」

 

 シグナムは闘志を踊らせる。

 これは主を救う期間を一気に縮められる好機とみて間違いない。しかもヴィータが取り逃がした白い魔導師も合わせれば、60ページは軽く埋められる。さらに目の前の少女は唯の糧にあらず。まだ幼いながらも高い戦闘能力を持つ魔導師だ。糧ではなく敵として見るに値する者である。

 嗚呼、やっと日々の蒐集作業で渇きに乾いていた己の心が潤いに満ちてきた。

 

 蒐集するに申し分ない糧にして好敵手。

 今日まで待ち望んでいた敵が―――目の前にいる。

 

 「レヴァンティン! 久方ぶりのまともな敵だ。気合を入れるぞ!!」

 『Jawohl.』

 「バルディッシュ!」

 『Plasma.Smasher.』

 

 ビルの室内から空へと戦いの場を変えたシグナムとフェイトは一気に戦闘を激化させる。

 

 フェイトは砲撃魔法プラズマスラッシャーをシグナムに照準を合わせて放射した。その威力は落雷とも言わしめるほどのものであり、さらには電撃をも付加させた砲撃魔法だ。得物で防ごうものなら即座に感電する。

 シグナムは防ぐことをせず回避を選択。そのまま小細工などは弄せずフェイト目掛けて突っ込んでいく。

 

 “テスタロッサは遠近両方を卒なく熟せるオールランダーのようだな。ますます気に入った。さぁ、本来射撃重視の魔導師が古代ベルカの騎士である私の剣戟をどこまで捌けれるッ!”

 

 レヴァンティンの刃はまずフェイトの首を狙った。

 滑らかな軌道を描きながら、凶刃は少女の首にへと誘われる。

 

 「く………!」

 

 フェイトは柔軟な上半身を駆使して瞬時に仰け反る。

 首を狙った斬撃はフェイトの首に当たることなく回避され、剣風が彼女の前髪を揺らすだけに留まった。

 だが、たかが一度回避されただけで守護騎士の将の攻撃が止むはずがない。シグナムは即座に剣を握っている右手を天に上げ、今度は真上から叩きつけるようとする。

 少女はそれすらも最小限の動きで回避した。

 

 “ふむ”

 

 シグナムはその見事な身のこなしに感心しながらも追撃の手を緩めない。

 

 一撃二撃三撃四撃五撃六撃七撃八撃九撃…………!!!

 

 あらゆる急所、死角に斬撃を叩き込まんと剣を振るう。

 

 フェイトの持つ大鎌は見た目こそインパクトはあるが、その実あまりにも実用性に欠ける武具である。大型の武器故に小回りが利きにくく、また刃も非情に当てにい場所に添えられている。これではメリットらしきものが皆無と言っていい。

 まぁ、それもそのはず。大鎌とは即ち農具の一種だ。戦で使われるものではない。せいぜい代用として戦場に駆り出されたことがあったくらいだ。

 故に剣と大鎌が打ち合えば、間違いなく大鎌が負ける。それは必定である。

 

 「………おお」

 

 シグナムは驚嘆の声を上げる。

 

 フェイトはシグナムの放った剣閃を全て凌ぎ切り、戦に定められた絶対の法則を打ち破ったのだ。

 

 迫りくる刃を時には躱し、時には受け止め、時には受け流す。その一連の動作を彼女は何一つ欠かすことなく、扱い辛い大鎌を駆使して行った。

 

 「はぁ…はぁ……はぁ………」

 

 もちろんシグナムの猛攻を凌ぎ切ったフェイトは無傷ではない。体中に擦り傷ができ、息は乱れ、汗が噴き出ている。開始から数十ほどの打ち合いで、もう既に満身創痍の状態だ。しかしそれを差し引いても、シグナムがフェイトに落胆することはなかった。

 

 「これは、賞賛に値するぞテスタロッサ。初戦でここまで我が剣技を見切り、凌いだ者の数は限りなく少ない」

 

 期待以上の能力を見せてくれたフェイトにシグナムは歓喜する。

 それでこそ己が好敵手と見定めた少女だ。

 

 「あと少しでも時間があれば、この戦闘をもっと続けられていたのだがな」

 「時間が、あれば?………もしかして闇の書の完成にはタイムリミットがあるの?」

 「その通りだ。だからこそ我らは闇の書の完成を急がねばならん」

 「闇の書は、ただ破滅を招くだけの危険なロストロギアだ! そんなものを完成させて何をしようとしているんですか………!!」

 「破滅? 何をふざけたことを。アレは主が力を得るためのモノ。断じてそのようなモノではない」

 「………え?」

 

 シグナムの言葉にフェイトは目を点にする。

 

 「何にしても時間が無いのだ。さぁ、フェイト・テスタロッサ。構えを取れ。次の一撃は私の最高の一太刀だ。躱せるなどと甘い考えは抱かない方がいいぞ?」

 「ま、まって! まだ話を……」

 「時間が無いと言っただろう。もはや話など無用だ」

 「…………っ」

 

 ゆらりと構えを取ったシグナム。彼女から放たれるプレッシャーが増幅する。

 そしてフェイトは悟った。

 今から繰り出そうとしているシグナムの攻撃に、自分は回避できない。防御も不可能だと。

 

 恐らくシグナムが行使しようとしている魔法はヴァイスを斬り倒したあの焔剣だ。

 高魔力で作り出された焔を凝縮され、一気に解き放たれる恐ろしい魔法。その威力は並の砲撃魔法を優に上回るものだとフェイトは確信している。

 

 “やるしかない………!”

 

 なればフェイトに残された道はただ1つ。

 あの焔剣が自分に届く前にバルディッシュをシグナムに叩き込むこと。

 もはや――――その一択のみに限られている。

 

 「………ふ。意を決したか。はやり覚悟を決めた者の顔は良い」

 

 居座った眼をしたフェイトが構えを取り、それを見たシグナムは清々しい気持ちになる。

 

 「レヴァンティン」

 「バルディッシュ」

 

 レヴァンティンから噴き出る爆炎。その莫大な炎が周りの酸素を暴食的に喰らい続け、更なる火力を強欲に欲す。

 雷撃を纏ったバルディッシュも主の声に呼応して魔力刃が肥大化していく。シグナムの場所までバルディッシュから漏れている雷撃が訪れている。

 

 「…………」

 「…………」

 

 高層ビルに取り囲まれた二人の女は、互いに空中に静止して、踏み込むタイミングを探り合う。そして、ついに――――――

 

 「行くぞ」

 『Jawohl.』

 「行くよ」

 『Sir.』

 

 ―――動いた。それも、二人は同時に動いたのだ。

 武で勝っているシグナムが勝つか、スピードで勝っているフェイトが勝つか。

 2人の勝敗の行方は、決着のつくその時でしか知り得る(すべ)はない。

 

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