『Fate/contract』   作:ナイジェッル

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本格的に魔法夫婦リリカルおもちゃ箱を書くようになったのはいいでんすけど、その分『Fate/contrast』の執筆速度が遅くなってしまいました………。
精一杯できる限り、2つの作品を両立していきたいです。


第30話 『結界内の戦争 【下】』

 ヴィータは怒っていた。他でもない、己自身に。

 ここ最近得物は逃がすは敵に捕縛されるはと本気で真っ当な活躍が皆無に等しく、むしろ醜態を晒した数の方が多い。こんな屈辱があって堪るものか。自分はヴォルケンリッターの一人、鉄槌の騎士ヴィータだ。この程度の障害で行き詰っていい者ではない。

 そんな不機嫌絶頂期に達しているヴィータの気分を逆なでする命知らずの少年が一人、自分の行く先に立ち塞がっていた。その少年の眼はここから先は通さないと語っている。

 

 「見ての通り、あたしは今機嫌が悪いんだ。怪我したくなきゃそこをどけ。魔導師」

 「はい分かりました通します………なんていうわけないだろう鉄槌の騎士ヴィータ」

 「「…………………」」

 

 無言の静けさが辺りを支配する。

 そしてヴィータは気付いた。彼はデバイスを装備しておらず、丸腰状態なのだ。

 正直、自分を舐めているとしか思えない。

 このヴィータを前にして、丸腰? これほど小馬鹿にされたことは初めてだ。

 

 「テメェ……あたしを相手に無手でこようってのか? 随分と余裕だな」

 「まったまった。変な誤解はしないでくれよ。僕はちょっと特殊で、デバイスとの相性が極めて悪いんだ。だから、仕方なくデバイス非所有でこの場にいて、君の相手をしようとしているだけなんだよ」

 「あァ? んなら戦場に出てくんなよ。デバイスの待たない魔導師なんて、唯の雑魚だ」

 

 吐き捨てるようにヴィータは言う。

 魔導師とはデバイスが有って初めて真価を発揮する。自分の持つ素質を100%使うには、自分だけの力では不可能。端末(デバイス)という補助があってこそ、魔導師は質量兵器などを持つ者と対等以上に渡り合える。それはベルカの騎士も同じだ。

 故に、目の前の少年は脅威として認識するほどのものではない。だが少年は堂々とこう返した。

 

 「デバイスを持たない魔導師が弱いなんて、いったい誰が決めたんだい?」

 

 実に清々しい顔だ。というかどこからそんな自信が湧いてくるというのか。

 自分で言うのもなんだが、彼の目の前にいるのは歴戦の騎士だ。ヴォルケンリッターの一人だ。だというのに、なぜそんな台詞を吐ける?

 果たして彼はただただ声だけは大きいビックマウスか。それともよほどの大物か。

 

 「………いいぜ。その台詞、ハッタリかどうかはすぐに分かる。ただの口先だけの魔導師だってんならそこまでだ。速攻でテメェをぶっ潰して、この先にいる蒐集損ねた白い魔導師を捕まえるだけだからな」

 「いいよそれで。僕も負ける気はないからね。さぁ、君の鉄槌は僕の障壁を破れるか?」

 「ぬかせデバイス非所有者が……だがまぁ一応戦う相手だ。名は聞いておいてやる。名乗りやがれ、魔導師」

 「騎士に名を聞かれるなんて光栄だね……では、不肖ながらも名乗らせてもらうか。僕の名はユーノ・スクライア。君のような華々しい二つ名の無い、唯の魔導師だ」

 「そうかい。それじゃ、覚悟しな。二つ名無しの魔導師さんよ」

 

 少年の名を聞いたヴィータは左手の指と指の間に四つの鉄球を召喚する。

 まずは、無造作に突っ込まず相手の力量を測る。

 

 「行けよ、シュワルベフリーゲン!!」

 『Schwalbefliegen.』

 

 ヴィータの詠唱によって四つの小さな球体に魔力が籠り、一斉にユーノに向かって疾走する。

 誘導型であるシュワルベフリーゲンは例え一度躱されようとも軌道を修正し再度襲い掛かる。鉄球に充電した魔力が尽きぬ限り追い続ける魔鉄球。

 防御するならばすればいい。障壁と鉄球がせめぎ合っている隙に大技を喰らわせてやる。そう意気込んでいたが――――、

 

 「その魔法に、防御は必要ないね」

 「なにっ!?」

 

 ユーノの対処はヴィータの想像を超えていた。

 彼はバインドを―――鉄球に仕掛けたのだ。

 

 あり得ない。バインドは本来人間や物を縛るものだ。攻撃魔法を捕縛するような使用方法なんて聞いたことがない。さらに小型で、しかも高速で飛来する鉄球を補足し捉えるなんて非常識にも程がある。それも四つ同時になんて何の冗談だ。

 

 「僕は補助魔法しか使えない。攻撃魔法を一切使うことができないんだ。だからこそユーノ・スクライアは唯一の取り柄である補助魔法を徹底的に鍛え上げてきた。小型の鉄球をバインドで捉えるのも難しくない」

 「ッ、テメェはデバイスが無い上に攻撃魔法も使わずあたしを倒す気でいたのか!」

 「そうだよ。でも舐めてもらっては困る。バインドだって、使い方次第では十分攻撃に転用できるのさ」

 

 ユーノは両手に魔方陣二つを描き、ヴィータに目掛けてチェーンバインドを放つ。その数計15本。デバイスを所持していない状態でよくあれだけの数を束ねられるものだ。

 

 「ハッ、捕まえて締め上げるつもりだろうがそうはいかねェ!! もうあたしは鎖なんぞに捕まるつもりは微塵もないッ!!!」

 

 白髪の少年に鎖で身動きを封じられ、抵抗も出来ずに呆気なく意識を刈り取られたあの屈辱。あれはもはや自分の黒歴史に刻んでも申し分のないものだった。

 故に、同じミスは犯さない。それに白髪の少年の鎖に自分が捕まったのは、奴に不意を突かれたからだ。真正面からなら恐れることは何もない。

 ヴィータは恐れずユーノに突撃する。

 更には迫りくる鎖を一本一本注意深く回避した上で、ユーノに接近していく。

 しかしそれをユーノが黙って許すわけがない。

 ヴィータに回避された鎖を全て自戒させ、ヴィータに接近戦を持ち込まれないよう高速飛行で後方に退く。また、ただ退くわけではない。

 彼は後退しながら大量の設置型バインドを生成したのだ。まるで地雷を撒くかのように―――これでは迂闊に攻められない。

 

 “流石、補助特化の魔導師というだけはある。バインドの密度が並みの十倍はありやがるな”

 

 もしあの設置型バインドに一個でも引っかかれば五分は身動きを封じられるだろう。その間、どうしても自分は無防備となってしまう。そうなれば負けは確実。奴のバインドに掛かればアウトだ。

 

 “鉄球をバインドで止めるという離れ業をやってのけれるほどのバインド捌き。自身の長所を可能な限り極めた人間………チッ、かなり癪だがしかたねぇ。雑魚と言ったのは訂正してやるよユーノ・スクライア。テメェは十分あたしの脅威に値する敵だ”

 

 戦闘が開始されて数分で、ヴィータはユーノの力を認めた。

 それは、珍しいことだ。こうまであっさりヴィータが他人を認めることは滅多にない。それが敵であり、一度自分が下した評価を改めるとなると尚更だ。

 つまりそれはヴィータがそう認めざるを得ない力量をあのユーノは持っているということ。

 

 “カートリッジは残り二つ。奴を倒すには十分な数だが、問題はその必殺の一撃を当てれるかどうかだな”

 

 どれほど強力な魔法でも当たらなければ意味はない。なにせかつて戦った強敵、ティーダ・ランスターは『強力な魔法であればあるほど隙が大きくなる』と言っていた。

 ムカつくが―――全く持ってその通りだ。

 自分の持つ最大の攻撃魔法『ギガント・シュラーク』はヴォルケンリッターの中で最も攻撃力と突破力を持っている。その分隙もそれ相応に大きい。バインドを仕掛けて発動しようにも、捕縛系魔法を熟知しているユーノにバインドが通用するとは到底思えない。

 

 “大技に頼らず、業だけを徹底して攻めていった方が確実か。くそ、あたしはそんなネチネチしたやり方は好きじゃねぇのに”

 

 辺りを注意し、隙の少ない技を繰り出し続け、執拗に追い詰める。それこそがユーノを打倒しうる確実な近道だ。例えそれが自分の性格に反した戦法であっても、反しなければ一向に決着がつかなさそうなのだから仕方がない。私情は抑え込むしかないのだ。

 

 “なんにせよ、思った以上に時間が掛かっちまう。あと少しで30ページ分の魔力が手に入れられるってのに………!!”

 

 ヴィータは時間に焦りを感じながら、ユーノ・スクライアを一刻も早く潰そうと躍起になるのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 「………私の勝ちだな。フェイト・テスタロッサ」

 

 女の凜とした声が結界内の街に響く。

 声の主シグナムは、幼い身体に一閃の跡を付けられ、気を失い地上に墜ちていくフェイトをバインドで固定する。

 

 シグナムは打ち勝ったのだ。次元管理局の嘱託魔導師の少女、フェイト・テスタロッサに。彼女の轟雷を纏った鎌が自分の首に触れられるよりかはやく、フェイトの身体に焔剣を斬りつけた。

 この決着はある意味必定だった。元より9歳の子供と自分では戦闘経験の差があり過ぎた。培ってきたモノの厚みが違い過ぎたのだ。

 フェイトの底知れぬ素質、力は認めよう。好敵手と定められるほどに。しかし、まだ自分の前に立つには早すぎた。ただそれだけのことだ。

 

 「では、蒐集を行なわせてもらう。貴様のリンカーコアは、我が主を救うために――――グァッ!?」

 

 シグナムが自身の右手を少女のリンカ―コアのある胸の箇所に触れようとしたその時、1つの閃光がそれを弾き飛ばした。

 

 「この射撃………身に覚えがある。やはり貴様があの時の狙撃手だったか……!!」

 

 痛めた右手を抑え、魔弾の軌跡を目で辿る。

 シグナムは以前この狙撃を体験したことがある。この冷徹無比な視線を感じたことがある。

 

 「ぬ、ッ――――!」

 

 シグナムの言に答えるように魔弾が彼女を襲う。

 連射性はない。全てが単射だ。しかし、その分魔弾の密度は濃く、また命中率が異常に高い。砲撃魔法のように派手さは欠けるが、その弾道は実に物静かであり秀麗。

 

 “美しい”

 

 あまりに見事な狙撃にシグナムは感嘆の声を上げそうになる。

 一射一射に淀みが無く、また澄んでいる。これほどの狙撃はそうそう出来まい。

 さらに、

 

 “あの男、私とテスタロッサを離しにかかっているな……!!”

 

 気絶したフェイトから次第に離れるよう弾道が調節されている。これでは蒐集ができない。

 

 「やるではないか、狙撃手!!!」

 

 また新たな強敵と対峙したシグナムは闘志を再熱させた。

 剣士と狙撃手。

 近接と遠距離。

 剣と狙撃銃では相性が圧倒的に悪い。

 しかし、その相性を破ってこそ剣の騎士。それを覆してこそ将。

 逆境を退け、敵を撃ち、勝利を掲げる。

 シグナムはレヴァンティンを握りしめる。これからが、正念場だ。

 

 

 

 

 

 シグナムのいる空域から数㎞離れた場所にヴァイスはいた。

 彼は負傷した身体を引きずり、フェイトとシグナムが戦っている間、狙撃手に相応しい場所まで移動していたのだ。

 エミヤから授かっていた概念武装は損失が大きく、魔力の粒子となって消えている。バリアジャケットを展開できない自分は管理局のスーツ姿というフェイト以下の紙装甲。もうヴァイスを護る武装は何もない。シグナムがここまで辿り着いたらヴァイスは完璧にお陀仏だ。だがそんなことは関係ない。元からヴァイスはシグナムの接近を許す気はない。近寄らせなければどうということはない。

 

 「調子はまぁまぁだな」

 

 倍率スコープからシグナムを捉えているヴァイスは悪くないと一人頷く。

 一刀両断されたストームレイダーは核が無事だったおかげでなんとか自己修復で復活してくれた。どこかが故障しているわけでもない。引き金の重さもいつも通りだ。

 

 「覚悟しろよ女騎士……いや、守護騎士(ヴォルケンリッター)の将シグナム」

 

 もうヴァイスは女だから撃ちにくいとか、躊躇ってしまうとか、そんな甘い感情は殺した。いくら好みの女性であろうともここまでボコされたからには容赦はしない。徹底的に撃ちのめす。泣いたって許しはしない。

 

 「あんたは俺を小兵と評価したな。ああ、確かに俺はそこいらのエースと比べれば小兵の中の小兵よ。本当に的を射ていた評価だ」

 

 ククッ、とヴァイスは自嘲する。

 己の弱さは誰よりも知っている。

 小兵と呼ばれても何も言い返せない。

 

 「だがな、よーく考えてもみなよ。もしその小兵に負けたら、アンタはその小兵以下ってことになるんだぜ? いいねぇ下剋上………良い響きじゃないか」

 

 欠陥魔導師として烙印を押された自分がエース級の騎士を打倒する。それも唯の騎士ではない。第一級指定遺失物『闇の書』を守護するヴォルケンリッターの将だ。想像するだけでも胸が踊る。そして彼は容赦なく狙い、定め、撃ち続ける。目に映る標的を討たんがために。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 「ヴィータは無事鎖から解放されたか。シグナムめ……一人で上手く事を運ばせるとは流石だな」

 

 ザフィーラは復活したヴィータの魔力反応にホッと胸を撫で下ろす。

 一時はどうなることかと思ったが、ヴィータが無事なようで本当によかった。

 

 「………まぁ、私も人の心配できる立場ではなかったか」

 

 彼は今この結界に封じ込められた街に侵入してきた管理局の魔導師の対処に追われていた。ザフィーラの後方にはシャマルが控えており、彼女を護る役割を彼は担っている。

 

 「これで11人目。いい加減諦めてくれないか?」

 

 11人目を鋼の軛で磔にしたところで、ザフィーラは退いてくれと局員に促す。

 しかし彼らは首を縦に振らない。代わりに血涙を流しながらこうザフィーラに迫った。

 

 「うるせぇよ。俺達だってなぁ、テメェみたいなガチムチ筋肉男と戦いたくねーんだよ!! あァ!?」

 「そうだとも! どうせ戦うんだったらロリのヴィータちゃんやグラマーなシグナム&シャマルさんと戦いたいんだよ!! 分かってんのか!!!」

 「そして胸タッチや股にダイブみたいなハプニングってものを味わいたかった………!! なのに、なんで…………こんな雄と!!!」

 

 悔し涙に打ちひしがれる男達。

 そんな彼らを見てザフィーラは「こんな奴らが局員で時空管理局は大丈夫なのか?」と本気で心配になった。

 

 「つーか、アンタはいいよなぁ」

 「………何がだ?」

 「言わなきゃ分かんないのか!! なら言ってやるよ!! アンタはあの美女たちの中で唯一男だろ!? 雄だろ!? 美少女美女と屋根の下で過ごしてんだろ!? それを羨ましいと思ってんだよ俺達はよッ!! いいなぁって憧れてんだよ分かったかコラァッ!!!!」

 「ハーレムな暮らししてんじゃねぇぞ手前ェ!!」

 「てか少しでもその女運分けてくださいお願いします」

 

 何を言っているかよく理解できないがとにかく気迫が凄まじい。

 殺気と嫉妬が入り混じった圧迫感がザフィーラを襲う。

 

 「それにな、テメェにやられた俺達の仲間はさぞ不憫だろうよ。女に負けるのなら本能だった奴らが、巨漢にやられたとあっちゃ無念過ぎるッ!!!」

 「………もういい。お前達全員、かかってこい。私がその溢れ出る煩悩諸共薙ぎ払ってくれる」

 「「「「スカしてんじゃねぇぞこのポチ公がァッ!! 俺達の方こそテメェをさっさと片付けて他の騎士達の相手してやるわ!!!」」」」

 「それは承諾しかねる。私は彼女達の盾だ。主の盾だ。そのようなこと、許すわけがないだろうが!!!」

 

 ………もはやどちらが悪人なのか分からない混沌とした戦場である。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 何件もの高層ビルが崩れ、廃墟と化した場所があった。その破滅的な光景から分かる圧倒的なまでの破壊痕。絨毯爆撃のような跡で地面が捲れあがれ、あらゆる鉄は溶け、コンクリートは粉々に砕け散っている。

 それを形成した者達は、たったの四人だ。

 

 クロノは額から血を垂らしており、シロウも口元から血を流している。どちらも軽傷だが、重度の疲労が蓄積されていることが良く分かる。

 

 クロノはこの空間一体に魔方陣を50ほど生成した。この魔方陣は何かの攻撃魔法を放つためのものではない。空を飛ぶことのできないエミヤをサポートするためのものだ。

 空中に乱立した魔方陣に向かってエミヤは驚異的な脚力で跳び、空中の足場として運用する。そして空中に滞在している仮面の男に刃を無くした無名の剣を持って迫る。

 

 エミヤの弱点は質量兵器しか扱えない。生身の敵に対して強力な一撃を放てない。空が飛べないことだ。

 時空管理局の魔導師であるが故に、相手を殺すことなく捕縛しなければならない。

 それでもエミヤがこれまで次元犯罪者たちを捕縛してこれたのは敵の得物を無力化してきたからだ。

 魔導師であればデバイスを破壊する。非魔導師であれば手にもつ質量兵器を破壊する。そうして敵を無力化した後で、ひっ捕らえてきた。だが今回の敵はそうもいかない。

 

 “武器を持たず、無手とは厄介な輩だ………”

 

 仮面の男達は武器を所有していないのだ。

 デバイスも、質量兵器も持たない無手で自分達に挑んできている。

 それで弱ければあまり問題はないのだが、如何せんあの仮面の男2人は非常に強い。

 手強い相手に手加減して挑むのは苦手だ。否、例え敵が弱かろうとも全力で対処するのがエミヤシロウである。ぶっちゃけこの街をさら地にするほどの気概でやれるのならここまで苦戦はしない。

 

 「エミヤ!!」

 

 後方で魔法を得意とする仮面の男と戦闘をしていたクロノからエミヤに二刀の蒼剣が送られてきた。それをエミヤは手にしていた無名の剣を破棄し、蒼剣を掴む。

 これは、スティンガーブレイド・エクスキューションシフトの蒼剣。しかも内包した魔力が普通のものより何倍もの密度で込められている。なるほど、これほどの代物であれば真っ当な剣より十分扱える。

 

 「巻き返すぞ」

 「……………ッ!」

 

 近接戦を得意とする仮面の男は後退し始めた。

 エミヤの剣技に従来の冴えが戻り始めてきているのだ。

 

 剣士としてはどこまでいっても二流な男であるエミヤだが、戦闘者となれば一流である。

 

 「ふっ………!」

 

 力の籠った一撃を放ち、仮面の男は障壁で防御したものの体勢を大きく崩す。そこで蒼剣を一度空中に放り投げ、かつての聖杯戦争で争い、戦ったサーヴァント メデゥーサの杭剣を投影した。

 杭剣の柄に繋がれた長い鎖がジャラジャラと音を発てる。その音はまるで得物を早く縛りたいという杭剣の嬉々した声を表しているかのようだ。

 鎖の部分は剣ではないので魔力の消費が激しく、本来のものより劣化しているが、それでも人一人捕えるには申し分ない。

 剣ではないとはいえ魔力消費が激しいといっても鎖自体はあまり魔力を必要としないモノ。宝具でもないので干将莫耶ほど魔力は取られない。

 それに、この杭剣はバインドを持たないエミヤシロウが重宝している長年の相棒だ。鎖捌きなどはライダーの技術を模作すれば問題ない。

 

 「シッ―――――!!」

 

 身体を大きく崩した仮面の男に向かって力強く投擲する。

 しかし、その軌跡を阻む者が現れた。

 

 「そう簡単にはやらせはしないよ」

 

 クロノと対峙していたはずの仮面の男が、鎖を魔弾で弾いたのだ。

 

 「クソッ、どうしてこうも動きが読まれる……!!」

 

 悔しさを滲ませてきたクロノはエミヤの横に並ぶ。どうやら手酷くやられたようだ。 バリアジャケットの至る所に焦げ目が見える。

 エミヤは弾かれた鎖を手放し、上空に放り投げていた蒼剣を再度掴む。

 奴らの目的は自分達の足止めだ。その証拠としてあの二人は徹底的に防衛線に徹している。魔導師としてかなり上位と思われる輩二人が足止めに徹せられたとなれば、いくらアースラ最強コンビとてそうそう容易には突破できない。

 こうしている間でも中央区では多くの魔力の波動が揺らぎに揺らいでいる。あちらでも激戦区となっているに違いない。

 そうなると、些か以上に不安が残る。

 あそこにいるのはフェイト、なのは、ユーノ、ヴァイス、武装隊の面々だ。ヴァイスと武装隊ならまだ戦い馴れているから良しとして、残る9歳児組は戦闘経験が不足している。

 なのはに関しては戦闘を続行できる身体でもなかった。フェイトも訓練などを積み重ねたり、少しでも多くの任務を受けて経験を稼いでいるが、遥か昔から戦い続けてきたヴォルケンリッターと比べれば幼稚なもの。例え戦闘力が同格だとしても、戦闘経験などで後れを取る。

 

 「…………」

 

 なんにせよ、早く中央区に戻らなくてはならない。

 だがそれには奴らをどうにかしなければいけない。

 

 「一つ聞かせろ。お前達は、闇の書の主の仲間か?」

 「「断じて違う」」

 

 即答ときた。ならばやはり、闇の書の主以外にも『闇の書』の完成を望んでいる者がいる。そして彼らは裏でヴォルケンリッターの補助に回っているのだろう。

 決して共闘などではない。仮面の男達はヴォルケンリッターと闇の書の主を利用している。

 

 「第三勢力、か。随分と引っ掻き回してくれる」

 

 苛立ちが積もる。闇の書の力を狙って群がってくる輩も想定しなかったわけではないが、こうも早く、しかも手強い敵が現れるとは運が無い。アースラ隊は闇の書の対処だけでも手一杯だと言うのに。

 

 「「「「……………」」」」

 

 四人とも動かず、睨み合いが続く。次の一手を模索し合っているのだ。

 そして、先に動いたのはエミヤとクロノだ。

 エミヤは蒼剣を握りしめ、クロノも魔方陣を展開する。

 早期決着を望む執務官と三等陸尉。延期不決着を望む仮面の2人の男。

 どちらも譲れないものがあった。そして、エミヤがまた仮面の男達に迫ろうとした時、動きを止めた。エミヤだけではない。クロノも、仮面の男も動きを止めていた。

 この場にいる者が全員気付いたのだ。膨大な魔力の奔流を。そしてエミヤとクロノはこの魔力の持ち主を知っている。

 

 「「なのは!?」」

 

 桜色の砲撃がこの街を覆っていた堅牢な結界を木端微塵に破壊した。

 それに伴い、戦闘で破壊され、壊滅された街が元の状態へと戻っていく。

 またそれと同時にこの戦線から離脱していく4つの魔力反応――――ヴォルケンリッターだ。

 

 「「………どうやら、ここまでのようだな。では、さらばだ」」

 「ま、まて!!」

 

 クロノの言葉は虚しく転移魔法を行使して仮面の男達は姿を消した。

 本来ならば今すぐにでも転移先を割り出さなければならないところだが、それよりも気になることがある。

 

 「嫌な予感がする。クロノ、中央区へ急いで戻るぞ!!」

 「ああ!!」

 

 エミヤとクロノは全速力でなのは達のいる場所まで駆けた。

 

 

 …………

 ……

 …

 

 

 中央区に戻ってきたエミヤとクロノは息を飲んだ。

 その惨状が、あまりにも悲惨だったからだ。

 フェイトは気絶した状態でバインドで磔にされ、アルフ、武装隊の面々は地面に倒れ伏し、白銀の軛で貫かれ全滅。無事であったヴァイスとユーノも大小少なからず傷を負わされている。

 そして、高町なのはがボロボロの状態で発見された。しかもリンカ―コアを摘出された跡があった。

 ユーノの証言によると、なのははユーノの補助魔方陣を自ら破戒して、一人、封鎖結界の破壊を決行したのだという。

 そして辺りに蔓延していた魔力の残留をかき集め、スターライトブレイカーを放とうとした時に蒐集された。それでも、彼女は砲撃を放った。リンカ―コアを抜かれても尚、彼女はやり遂げたのだ。

 

 「…………クソッ!!!!」

 

 なのは、フェイト、武装隊員を1か所に纏め上げ、大型の回復魔方術式をユーノと合同で発動していたクロノは自分に対する苛立ちを放つように、拳を床に叩きつける。

 

 「僕は、どうしてこうまで無力なんだ!」

 

 クロノ・ハラオウンはこのようなことを2度と、せめて自分の目の届く範囲では無くそうとするために力を付けてきたのではないのか。だというのにこの有様はなんだ? 仲間は倒れ、守るべきものも守れていない。

 

 「完敗……か」

 

 エミヤも空を見上げて、立ち尽くす。

 正義の味方と祭り上げられた自分はいったい何をしているのだろうか。

 仲間すら守れない、守れていない正義の味方とは笑わせる。

 かつてのマスターはこんな自分を見てどう思っているのだろうか。いっそのこと情けないぞと盛大に笑ってくれ。そう思わずにはいられなかった。

 

 こうしてアースラ隊とヴォルケンリッターの戦闘は、アースラの惨敗という形で幕を下ろした。

 

 




消化不良としか言えません。もう少しスムーズに話を進めていきたかったです。
シグナムとヴァイス、ユーノとヴィータ、エミヤ&クロノと仮面二人組は結局決着がつきませんでした。仮面ズはバランスブレイカーな男二人の足止め役要員として出てもらいました。
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