【アースラ陣営の戦力】
魔導師ランクAAA高町なのは。魔導師ランクAAAフェイト・T・ハラオウン。結界魔導師ユーノ・スクライア。執務官クロノ・ハラオウン。三等陸尉エミヤシロウ。狙撃手ヴァイス・グランセニック。
【ヴォルケンリッター陣営の戦力】
烈火の将シグナム。守護獣ザフィーラ。鉄槌の騎士ヴィータ。湖の騎士シャマル。
例え素人が見てもこの勝負、アースラ陣営の方が圧倒的有利だと一目で分かるだろう。
いくら歴戦の猛者とて、これだけの戦力差を覆すことは容易ではない。このままではじき彼らが捕縛されてしまうのは火を見るより明らかだ。
次元世界全土から見たらそれは嬉しいものだろう。ヴォルケンリッター拿捕は誰しもが望んでいることだ。しかし、例外としてそれを望んでいない者もいる。
「マズイな……このままではヴォルケンリッターが………」
「癪だが、助けに行くしかないか。今奴らに捕まられては困るのだ。私達ならせめて奴らが転移できるくらいの時間は稼げよう」
「できるのか?」
「できるできないの問題ではない―――やるんだ。“その時”が来るまで、命を賭してでもヴォルケンリッターを護るのが私達に与えられた最後で最大の使命なのだから」
「そうだな……その通りだ………!」
仮面を被った二人の男は覚悟を決めたように拳を強く握る。
彼らにはやらなければならないことがある。為さねばならないことがある。たとえどんなに絶望的な状況下でも、歩みを止めるわけにはいかない。
「何としてでもヴォルケンリッターを逃がす」
「ふ……結構無謀なことだがね」
「今なら下りられるぞ? 私一人でお前の分まで働こう」
「冗談。最後まで責務を果たさせてもらうさ」
二人は少し笑い合い、激戦が繰り広げられる戦場に決死の覚悟を持って向かった。
全ては最愛なる主の願いを叶えんがため。
◆
「テオラァァァァァァァァ!!!」
満身創痍のザフィーラは鋼の精神を持って仲間に向けられるヴァイスの狙撃、なのはの砲撃、フェイトの斬撃をシャマルと共に全て対処する。
既に死に体のザフィーラの口からは赤黒い液体が多く垂れ流れ続けている。
常軌を逸した凶悪な魔矢により脇腹は抉られ、臓物はスクランブルエッグのように掻き混ぜられた身体からは油汗が溢れ出てくる。それでも彼は死力を尽くす。それは守護獣であるが故。仲間を護ることが至上であるが故だ。
「おい、あんまり無茶はすんなよザフィーラ! そんなんじゃあ倒れちまうぞ!?」
「これくらいでは倒れはせん!!」
強がっているものの、もう彼は限界だ。その証拠に目からも流血が溢れてきた。それはもはやザフィーラの身体が遂にピークに差し迫っている証拠。
強靭的な精神力に動かされてきた肉体も負荷に耐え切れず自壊し始めている。無論、動きのキレなど全力の半分も達していない。
「悪いが――――潰させてもらう」
そんな弱り切った獣を、クロノ・ハラオウンが見逃す筈もない。
ヴァイス、なのはの射撃の対処に集中し、己自身の防御が手薄になった隙を突き、クロノは蒼い魔力刃をザフィーラの胸板に深く突き刺す。鋼の軛並みのキレ味を持つ魔力刃は背中まで貫通した。
「ご―――!?」
ザフィーラは動きを止める。それでも膝を曲げない辺りは流石と言えよう。
だからこそ、クロノも敬意を払って容赦はしない。
「キツイのを見舞う。ショック死はするなよ」
「が、あ、ぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁあああああ!?」
クロノは次々と魔力刃を生成してはザフィーラに打ちこんでいく。
その度に、激痛がザフィーラを襲い、獣の咆哮が周囲に響く。
しかしクロノは連撃の手を休めようとはしない。優越感に浸ることなく、熱くならず、ただ目前の騎士を打倒するがために、心と身体を切り離し、機械のような精密さを持ってその手を動かす。
「これが最後の一刺しだ」
計十本の魔力刃を肢体のあらゆる場所に刺した後に、クロノは一時ザフィーラから距離を取った。
「…ぁ……………ぐ」
叫ぶことも、動くこともなくなった青の守護獣。
エゲツナイと言えるほど身体中に魔力の刃が刺し貫かれた彼の姿は悲惨の一言。
「君は厄介な騎士だ。故に徹底的にその戦闘力を削がせてもらう」
もう彼が戦闘を続行できる状態ではないのはクロノも理解している。
しかし、トドメを刺さないほどクロノも甘くはない。
「―――S2U」
『Explosion.』
ザフィーラに埋め込まれていた魔力刃一つ一つがS2Uの指示と共に身体の内部で一斉に暴発した。例えるならザフィーラの身体中に仕込まれた小型の爆弾が全て起爆したと言えばいいのだろうか。
普通の人間なら間違いなく死んでいる。非殺傷設定と言えど限度というものが存在するのだから当然だ。
ここまで徹底的に肉体を苛め抜くクロノの爆破解体さながらの手際の良さは仲間であろうとも畏怖を感じさせて止まないだろう。
「まずは一人」
「「ザフィーラ!!」」
フェイトと斬撃を競い合っていたシグナムも、なのはと激闘を繰り広げていたヴィータも、無残に倒れ伏す戦友の名を口にする。そう、声を出すしか他に出来ることがなかった。
新たな力、自分達と同じ『カートリッジシステム』を組み込まれたデバイスの担い手たる少女達を一方的に屠ることができず、戦闘が拮抗していた。それ故に、窮地に達していたザフィーラを助けれるほど余裕が無かったのだ。
「見事だクロノ。これで一騎捕縛だな………ユーノ!」
「はい!」
丸焦げになり倒れ伏しているザフィーラに、ユーノのバインドとエミヤの鉄の鎖が絡みつく。今この瞬間をもって守護獣ザフィーラの無力化は完璧なものとなった。
「サイズスラッシュッ!」
『Scythe Slash.』
「おのれ…………!」
仲間を助けられずに歯噛みするシグナムだが、悔やんでいる暇はない。
眼下に迫るフェイトの猛進は以前のものとは比べものにならないほど上がっている。斬撃の切れ味は勿論のこと、スピードなんて速いなんてもんじゃない。気を抜けば首を刎ねられるだろう。
「ディバイン……バスタ―――――!」
『Divine Buster.』
「ちくしょうが!!」
それはヴィータも同じだった。
彼女は次々と襲いかかる砲撃を何とか躱し、時には鉄球を放ってその形勢の均衡を保っている。
「ぅ……く………」
ザフィーラが戦闘不能になったせいで、全てのサポートはシャマル一人に任されるようになった。
ザフィーラのように最前線でサポートする者とは違うシャマルは、一人戦場から遠のいた場所から長距離援護に徹していた。長距離から障壁を仲間を護るように展開する技術はかなり高度なものであり、また集中力と体力を半端ではいスピードで喰らっていく。如何な守護騎士と言えどもそう長くは持たないだろう。
「これは、ヤバいぞ」
「ヤバいな」
「ヤバいですね」
総じていえばヴォルケンリッターは只今ピンチ真っ只中である。
戦況は不利としか言えず、シグナムとヴィータの元にエミヤとクロノが向かえば万が一の勝ち目すらない。唯でさえなのはとフェイトとの戦闘で拮抗しているのだ。そこに彼女ら以上の実力を持つ魔導師が加われば、為す術もなく墜とされるだろう。
そして、最後に残ったシャマルを生け捕りにされれば有無も言わせぬ完全敗北が決することになる。転移して逃げようにも、それだけの隙を彼らが許してくれるとは到底思えない。
「シグナム! ヒーローみたいに颯爽と現れたんなら形勢逆転の策でも持って来いよ!」
「無茶を言うな! 私とていきなり展開された結界に気付いてなりふり構わず急いで駆け付けてきたんだぞ! こんな不利な戦況を覆す都合の良い作戦なぞ考えてもないし用意もしてない! だいたいそれはザフィーラとシャマルの仕事だ!!」
「お前それでも将か!!」
「将がなんでもできると思ったら大間違いだ!!」
シグナムとヴィータは背中を合わせ、相方に背後を任せながら口論を始める。
傍から見れば結構余裕がありそうに見えるが、彼女達からすれば本気でギリギリな状態なのである。
「………まぁ、私達の目的はお前達を助け出すことであってこの戦いに勝利することではない。逃走さえできれば我らの勝利だ」
「その逃走すら儘ならない状況だけどな。ザフィーラも助け出さなきゃならんし」
「もとはと言えばお前が散歩に行きたいなぞ言うからこんな事態になったんだぞ」
「それについては全力で謝るが揚げ足は取るな腹立つ」
そんな彼女らの会話はやはり人間味が濃かった。
とても魔法プログラムとは思えない軽妙なトーク。
人との違いが見出せない。故に、なのはは叫ぶ。
「もう止めてください! せめて、どうしてこんなことをするのか話を聞かせてください!!」
「ウッセェ砲撃悪魔!! 砲撃撃ちながら話し合いを持ちかけようとするなんぞ、古代ベルカにだって例はねぇぞ!! あァ!?」
「ほ、砲撃悪魔!? わたし悪魔じゃないもん!!」
「悪魔だろうがよ。将来二つ名に悪魔の名が付けられるぜ、きっと」
自信満々に答えるヴィータに、口元を引き攣らせるなのは。
これは、全面的にヴィータが悪い。挑発させて攻撃のパターンを単調にさせようと企んでいたにしても、あまりにも浅はかな言動だ。最近の子供は精神の成長が速い反面、結構傷つきやすいのだから。
「………もう、悪魔でいいよ。悪魔らしいやり方で聞くか…………え?」
ハイライトが消えた虚ろな瞳でヴィータ見るや否や、レイジングハートを堅く握り締め、莫大な魔力を一点に留め始めた。しかし、それを妨害したものがいた。
―――仮面を被った男の二人組だ。
彼らはなのはの肢体にバインドを巻きつけ、身動きを封じさせた。
先ほどまで収束していた魔力も霧となって霧散する。
「危ないところだったな」
「………貴様らは何者だ。何故、私達を助けた」
なのはの砲撃を止めた仮面の男らに、シグナムは警戒を解かない。何故なら自分達を助ける理由が彼らには無いからだ。
魔導師に憎まれることは多々してきたが、助けられるほどの善行をした覚えが全くない。何より、ここで恩を売って懐柔を図り、闇の書の強奪を企んでいる可能性もある。
だいたい突如として現れた魔導師相手においそれと気を許すほどシグナムも馬鹿ではない。
「私達が何者なのかはどうでもいい。それより貴様らはとっととこの場を去れ。転移するだけの時間は稼いでやる。断れる立場ではないのは、理解しているな?」
「………どうすんだよシグナム」
「正体不明動機不確かな上に、仮面を被り、素顔を晒さず名乗りもしない輩に助けられるなど恥以外なにものでもないが、ここは奴らの助けに甘んじるしかあるまい。今はプライドを優先するべき時ではないのだ」
「話が早くて助かる。なら、さっさと湖の騎士に転移の準備をさせろ。此方も命がけなのだから」
仮面の男達はそう言うや否や背後から迫る二人の少年の対処に移った。
「「―――――チッ!」」
仮面の男達はエミヤとクロノの斬撃を受け止め、押し留める。
「ブレイクインパルス!!」
『Break impulse.』
S2Uから高振動を流し込む音が発生する。
内部破壊を目的とするブレイクインパルスを真面に受ければ、いくら非殺傷設定を掛けてるからと言っても負傷は免れない。
しかし―――そう簡単にやられるほど仮面の男達も弱くはない。
「Break impulse」
仮面の男は同じ魔法技を扱い、振動を相殺した。
これにはクロノも度胆を抜かれる。
「貴様ら、本当に何者だ!!」
「答えるわけがないだろうが」
「ッ!」
長い脚から繰り出される蹴りにクロノは何とかS2Uを用いてガードする。
確かに強烈な一撃であれど、執務官なら十分対処できるレベルの一撃だ。
「油断をするなクロノ!」
「ああ、その通りだ――――Break impulse」
「んな!?」
仮面の男の足から超振動の魔力が渡り、不意をつかれたクロノはS2Uを通して体内に打撃を受ける。レジストをギリギリ間に合わせれたが、動きは確実に鈍くなった。そこに間髪入れず拳が振り上げられるが、
「だから油断をするなと言ったんだ」
「―――ぬ」
クロノが設置した障壁を足場とし、空中に躍り出たエミヤが干将を用いてそれを拒む。
クロノに迫った仮面の男の拳を弾き、追撃として莫耶が仮面に目掛けて放たれる。
「チッ、相も変わらず厄介な男だな三等陸尉」
もう一人の仮面の男が障壁を張り、エミヤの斬撃を防いだ。
十秒にも満たないどちらも引かない攻防を繰り広げ、それを茫然として見ていたなのはとフェイトだが、なんとか自分達のすべきことを思い出し急いで空を掛ける。
二人が仮面の男を相手している間に、転移して逃れようとするヴァルケンリッターを止めなくてはならないのだ。
しかし、時既に遅し。彼らはもう転移の準備が完了していた。
敗戦を思い知らされたヴィータは悔しげに唇を噛み、転移の光に呑まれて消えた。捕縛していたザフィーラも忘れられずに転移、逃がされている。
「………どうしてくれる。あと一歩のところまで追いつめたと言うのに、貴様らのせいで全てが台無しだ。落とし前はつけてくれるのだろうな」
ヴォルケンリッターの離脱を目の当たりにしたエミヤは、殺気を二倍増しにして仮面の男2人を睨む。同じくクロノもかなりご立腹のようで、頭に血管を浮かばせていた。
「落とし前は必ずつける。法に裁かれることも覚悟の上だ。しかし、今ではない」
「此方としては今すぐ法の元に裁かれに行ってほしくて堪らないな」
「逃げられると思うなよ。なのは、フェイト、ユーノ!」
クロノの怒号じみた声に、三人は若干怯えながらも仮面の男達を包囲する。
「大人げないな。たった二人だけの為にこの過剰戦力とは…………」
仮面の男2人はAAAランクレベルの魔導師三人以上に包囲されている現状に、内心冷や汗を掻く。ヴォルケンリッターを無事逃がすという目的こそは完遂できた。しかし、問題なのはここからだ。
AAAランク魔導師が二人。AAAランクオーバー魔導師二人。補助に抜きんでいる魔導師、狙撃特化の魔導師が一人だ。どう考えても逃がしてくれそうにないガチな面子である。もしかしたら一個師団に相当する戦力ではなかろうか。
『お困りのようだね』
そんな窮地に天の声が頭に響く渡る。否、成人男性と思われる念話が頭に響いた。
『………何者だ』
『あー、色々わけあって名乗れない身の上でね。傍観者とでも名乗っておこうか』
『………で、その傍観者が私達に何の用だ』
『君達からは何かしらの目的を成し遂げようとする真っ直ぐとした意気込みが感じられた。私はそういう人間が好きでね。こんなところで退場されるのは勿体ない。故に、傍観者として恥ずべき行為だが一度だけ……君達に助かるチャンスを与えようと思う。まぁそのチャンスに乗るか乗らないかは、君達自身が決めることだ』
――――真意が掴めない。
まさか綺麗事を言い、恩でも売り付けるつもりではなかろうか。
『ハッ、恩など求めていない。これは単なる気まぐれの類だ。私の気が変わらないうちに返答を求めるよ。さぁ、どうする?』
『『助けてくれ』』
全力の念話を送りつける。
もう恥もヘッタくれもない。
『OKだ』
不敵な笑い声が頭に届いた時、仮面の男達の周囲の空間に亀裂が起きた。
「「なに!?」」
エミヤとクロノは驚愕の声を上げる。
突然発生した空間の裂け目からは、一人の翼を持つ少女が悠然と現れた。
彼女のことを、三等陸尉と執務官は知っている。なんせ一度刃を交えているのだから……忘れるはずもない。
「何故だ………」
あの透き通るような美しく長い金色の髪。宝石にも勝るとも劣らない真紅の瞳。人の肌とは思えぬ純白の素肌。
そう、彼女はプレシア・テスタロッサが残した遺産。伝説の殺し屋『金色の闇』の異能を受け継いだ少女。
「イヴ………何故君がッ!」
クロノはS2Uを構え、警戒を強くする。
彼女はエミヤとクロノの両名と激戦を繰り広げ、敗れ、逃走した人間だ。
その少女が何故このタイミングで現れたのか、クロノには理解出来なかった。
「新たな主の
そう言うや否や、イヴはナノマシンで瞬時に製造した手榴弾っぽいモノを数十個をばら撒いた。仮面の男達を包囲していた魔導師は各々障壁を張り、防御の体勢を取る。
「「「「「―――――――――!!」」」」」
爆発するかと思えたその物体は、暗闇の夜を照らす強烈な光を放った。
その強烈な光は十秒ほど続き、収まる頃には二人の仮面の男もイヴも忽然と姿を消していた。
「………やられた」
クロノは舌打ちし、頭をがしがしと掻く。
相変わらず撤退の手際は一流である。
「また捕獲は望めなかったか」
イレギュラーな事態が起こったとはいえ、あそこまで追い込んでおいて逃がしてしまったショックは大きい。
だが、して無駄骨ではなかった。
今回此方には誰も負傷者が出ず、されど敵側の盾に大きな損害を与えれた。前回は一方的に被害を被られたが、今回は違うだ。それだけでも良しとするしかない。
「新たな主の
彼女は根っこからの悪人ではない。それ故に、まだ道を踏み外し続けているイヴにクロノは苛立ちを覚える。彼女の新しい主というのも気になるところだ………全く、面倒事ばかり増えてくれる。
「皆、撤収するぞ」
これ以上ここにいても何も得るものはない。
早々に結界を解除して帰宅すべきと判断したクロノは皆に撤収を呼びかける。
それに各々が了解し、この場から離脱した。
◆
海鳴市から少し離れた山奥では、一人の少女と二人の男が地面に座り込んでいた。
「………痛」
イヴは無事二人の仮面を付けた男達を助けることには成功したが、無傷では完遂できなかった――――エミヤシロウ、あの男だ。
あの男はイヴの去り際に、手に持っていた双剣を自分に向かって投擲した。閃光で目が潰されていた状態でだ。
だというのにその双剣は見事二翼の翼膜を切り裂いた。実に化け物じみている男である。
翼と痛覚がリンクしているイヴは苦痛に耐える。幸いなことに傷は浅い。あと数分待てば完全に治癒し終えるだろう。
『なんとか無事助けれたようだね。ご苦労だったイヴ。ウーノに君の好きなハンバーグを作ってくれるよう頼んだから、楽しみにしているといい』
「―――うんっ!」
傍観者の念話にイヴは純粋に喜び、頬を緩める。
仮面の男2人の救助という任務を終えたイヴは、傷のことなど忘れてさっさと帰ってしまった。
「「……………」」
残された二人の男性は、ただ無言で一人の少女が次元の割れ目に消えていくのを見送った。
『………何者かは知らんが、助かった。ありがとう』
仮面の男は未だ姿を現さぬ傍観者に対して頭を下げる。
『礼には及ばない。それでは、私は引き続き傍観させてもらう。分かっていると思うが、私は基本的に君達の邪魔はしないし、手助けもしない――――………』
念話が完全に途切れた。視線も感じない。誰も自分達を視ている人間がいないと判断した彼らは暑苦しい仮面に手をつけ、取り外した。
その瞬間、眩しい光が二人の身体を包み本来の姿にカタチを変える。
「はぁぁあ。ほんっとうに疲れる仕事だわ、これは」
「ええ。命が幾つ有っても足りないわね」
仮面を外した長身体躯の男2人は、齢16ほどの女性の体格を露わにし、頭にはネコ耳が生えている。
彼女達は時空管理局「歴戦の勇士」と名高いギル・グレアムの使い魔であり、かつて幼い頃、ただ魔力が多いだけの半人前魔導師クロノを一から鍛え上げた強者 リーゼアリアとリーゼロッテである。
「にしても、めんどくさい連中が現れたものね。特にあの念話送ってきた男………胡散臭さが半端ないったらありゃしない。まぁ、助けてくれたことには感謝するけど」
「何にせよ、お父様に報告すべきね。闇の書事件に第四勢力と数えてもいいイレギュラーな人間達が関わってきたって。男は自分のことを傍観者と名乗っていたけれど、本当に見物しているだけなのか保障できないし」
リーゼアリアは力無く項垂れる。
まさか此処にきて第四勢力と見られる連中が現れるとは思わなかった。
宿敵であるはずのヴォルケンリッターの蒐集作業を陰ながらサポートし、尚且つ友人が多く所属しているアースラ隊の妨害を行う。精神的にも一杯一杯だというのにこれ以上面倒事は増やさないでほしいものだ。下手をしたら本当に過労死してしまう。
「でも………あと、少し。あと少しなんだ。私達の悲願が叶うのは。だから」
「頑張らなきゃな、でしょ?」
「……うん」
全ては次元世界の平和のため。クライド・ハラオウンの仇を取るため。
あらゆる罪を背負い、押し潰されようとも、這いずりながらでも進み抜く。
そう、どんな険しい道のりだとしても、走破してみせる。
猫の使い魔は、揺るぎ無い眼光で海鳴市のある方角を睨んだ後、姿を消した。
◆
ジェイル・スカリエッティの研究室は資料やら機械やらで酷く散乱している。足の踏み場がないとまでは言わないが、もう少し整理しなければそのうちリニスの堪忍袋の緒が切れてしまうような惨状だ。何気なくロストロギアまで放置されているのも目にするのであまり安心できる空間ではない。
そんな室内で一人、椅子に座り満足気で寛いでいる白衣の男ジェイルはいつにも増して機嫌が良さそうである。
「………なかなか興味深いな、あの世界は」
盟友のプレシアが欲していたジュエルシードが散らばったのも第97管理外世界。
そして、次元世界を混沌へと陥れた魔道書「闇の書」が存在するのも第97管理外世界。
ジェイルは第97管理外世界に感慨深いものを感じて止まない。たかだか魔法文化0の世界で、次元世界史に残るレベルの事件が連続して発生している。なんらかの要因があるのではないかと勘繰ってしまいそうなくらいだ。
今ではフェイトを初めとし、エミヤシロウ、高町なのはなどの観察重要人物が多く住み着いている。闇の書のこともあるし、退屈させてくれない素晴らしい舞台である。
「さてさて。これから先どのようなことが起きるのやら………見物だね」
最初こそは闇の書のデータを密かに回収せんがために始めたつまらない観察だったが……予想以上に面白くなってきた。
嗚呼、これだから先の読めない人生には飽きが無い。時空管理局に飼われていた昔では絶対に味わえない感覚だろう。
―――正直言うと、もう当初の目的『闇の書のデータ回収』からこの『闇の書事件』の行く末を見届けることに変わってしまっている。もともと堕ちた夜天の書の劣化データなぞ、ちょっと使えそうだから、希少だから回収するか程度のものでしかなかったのだから別段気にすることでもない。見届けるついでに回収したらいい。
「闇の書を巡り争う確固たる『
眩しいほど己が信念に燃え、愚かしいほど愚直に己の道を突き進む人間を
人の業をその眼球が腐るほど見続け、その醜悪な姿を絶え間なく網膜に焼き付け続け、生まれた時から己自身を腐敗させ続けてきたロクでもない『存在悪』の屑男。そんな男だからこそ、人間の愚かさを知っているからこそ、人の輝く姿は他の人間よりもより一層美しく見える。尊いものだと感じられるのかもしれない。
更新を早くしたいというのに、どんどん更新が遅れてきている今の現状が情けないです。
本っ当に申し訳ございません!