巡航艦アースラの食堂では乗組員が全員集合し、一つのパーティーを催していた。彼らは各々が管理局の制服を着用せず私服で集合している。食堂は華々しい装飾が彩られ、食卓の中心には大きなバースデーケーキがドンと置かれていた。
「「「「エミヤ三等陸尉、クロノ執務官、誕生日おめでとうございまーす!!」」」」
ビールがたんもり入れられたジョッキを片手に皆は笑顔で祝福の言葉を述べる。
何を隠そう今日はクロノとエミヤの誕生日である。更に休日ということも重なり、折角なのでこのアースラで誕生日パーティーを催すことになった。
これは毎年恒例の行事である。勿論、他の局員も誕生日になれば行われる。
こうした催しを続けることでアースラの隊員達は仲間であり、家族であるということを忘れず、絆を強めていくのである。
「ヒャッハー!肉だァ肉に肉肉だァ!!!」
「生おかわりィ!」
「うめぇ、ただ飯うめぇ!!」
まぁ、仲間の結束力を高めるなんて綺麗言をのたまっているが、この狂喜乱舞する隊員達を見れば分かるように、基本騒いで遊ぶことが大半の目的だ。
何せ益荒男の多い部隊だ。祭り、パーティーの類ほど好きなものはない。食って騒いで理性を外す。これぞアースラの催しというものだ。
「うん、流石はエミヤシェフね。この上品な味は完璧よ♪」
「いやー、師匠の料理はなんでも美味いっすね!」
「クロノ君隙あり! これいっただきー!」
「ちょ、ああ! 僕の肉が――――――!?」
………祝われる一人であるはずのエミヤはエプロンを着て料理を次々と出している。彼にとって自分以外の人の喜ぶ姿が報酬であり、出した料理を嬉々して食べてくれる瞬間がプレゼントなのだ。別に文句を言うつもりも小言を漏らすつもりも彼にはない。
「当然だろう。オレは戦闘も料理も手抜きなどしない。常に全力だ」
絶賛する声にドヤ顔で答えるエミヤ。
その顔はムカつくものだが非常に輝いている。
どんちゃん騒ぎは収まることを知らず、食卓にあった巨大なバースデーケーキは瞬く間に消えていき、代わりに次々と別の料理が投下されていく。
「エミヤさんとクロノももう14歳。ああ~、時間の流れって早いわねー」
突然リンディは砂糖がたんまり入ったビールをぐびぐび飲みながら呟いた。
「その気持ち分かりますよ艦長。あ、でも身長は二人ともそんなに変わってもないでしょう?」
「そうなのよね~。それって喜ぶべきなのか悲しむべきなのか………」
「「グハッ!?」」
リンディとエイミィの言葉の凶器は二人の少年の心を的確に射抜き、エミヤとクロノは地面に膝をつき項垂れる。
二人とももう14歳になったというのに未だ身長が156cmほどしかない。例えるなら小学三年生と同じレベルだ。
「まぁまぁ元気だしてくださいよ。師匠、クロノさん」
落ち込んでいる二人の肩にぽんと手を置くヴァイス。彼の身長は既に166cm。一歳年下の少年に10cmほどの差をつけられているという事実。年上としてこれほど悔しいものはない。
“ふ、ふふ。僕だってあと一年すればきっと170台にはなるんだ。きっとそうだ………”
“オレは最終的に180オーバーの身長を手にすることができる。だから問題はない………問題は、ないのだ”
二人は鋼の意志で立ち上がった。
「絶対エミヤより早く身長を伸ばしてやる」
「何を戯けたことを。オレが先に決まっているだろう」
酷く幼稚なライバル意識だとお互い思いながら、二人はその関係が良いものだと思えた。
余談
誕生日パーティーという名の宴会は新たな客人によりさらに賑やかになった。
輸送艦アクアの艦長リグレット・グレン、ギル・グレアムとその使い魔であるリーゼ姉妹、麻婆ラーメン屋泰山を経営するようになった言峰夫妻、ゼスト・グランガイツ率いるゼスト隊の面々が訪れたのだ。
その日、アースラの食堂は笑い声が絶え間なく続いたそうな。
代償として酔って制御不能になった高ランク魔導師達を抑えるのに苦労したとアースラ、ゼスト隊の隊員達は語る。
意識が混濁して砲撃を撃とうとしたグレアムに殺人術を存分に振るった言峰キレイ、どちらの妹が可愛いかという議論の末ヴァイス・グランセニックとティーダ・ランスターがガチ勝負を起こし、最後の砦であったクロノとエミヤも誰が酒を飲ませたのか酔って暴れ回った。
エイミィ、リンディ、クラウディアはさりげなく戦線を離脱しており、残された隊員は自身の限界を超える超過駆動で彼らを何とか抑えたという。
隊員A「あの人達マジ人間じゃねーよ。アースラが堕ちかけたぜ?」
隊員B「楽しかったが死にかけた」
隊員C「後半クロノ執務官とエミヤ三等陸尉の誕生日パーティーってのを忘れて唯の宴会になってた気がする。いつものことだからいいけど」
地の文でティーダ・ランスターを登場させました。銃型のデバイス繋がりでヴァイスと色々絡ませたいキャラですね。相性良さそうですし。