『Fate/contract』   作:ナイジェッル

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 そろそろ本編に入らんといかんなー、と焦りを感じましたので思い切って話を進めました。



第二章 【無印】
第07話 『廻り始める物語』


 ロストロギアとは古代文明の遺産、オーバーテクノロジーの塊である。その種類は大量破壊を目的とする戦略兵器から傷を癒す万能の治療薬まで千差万別。正しい使い方をすれば多くの人々の支えとなるものとなり、一歩間違えれば世界一つを滅ぼしかねない危険なものにもなる。

 

 それらのロストロギアは古代の遺産と呼ばれるだけに発掘されることが多い。そしてその発見されたロストロギアは時空管理局の護衛を付けられた輸送艦により聖王教会まで送られる。輸送途中で犯罪組織に襲われ、ロストロギアを奪われれば大事というレベルではない。物によっては都市どころか一つの次元世界をも人質にできるのだから。

 

 ――――だというのに

 

 「クソッタレが…………!」

 

 アラートが鳴り響く輸送艦《アクア》の艦長は手を握りしめる。時空管理局の専属輸送艦艦長を30年以上勤めてきた彼は今までにない窮地に陥っていた。

 

 『護衛艦三番隊轟沈! 次元を越えての攻撃……これはSランクオーバーの砲撃魔法です!』

 『総合A級傀儡兵多数襲撃! 数が多い!!対処仕切れませんッ!!』

 『クソッ! 二番隊はこれ以上持たな――――――』

 

 次々と寄せられてくる怒号と叫び声。これが若者たちが好んで見るアニメや漫画の世界ならば正義の味方が颯爽と現れるのだろう。

 

 だが現実は非情だ。

 

 そんな助けなんてものは在りはしない。救難信号を出しはしたが今の状態じゃあ救援が来るまで持ち堪えられないのは目に見えている。

 事態は深刻。救助も期待できない。踏ん張ろうにも旗艦はほぼ機能してないときた。

 ならば迅速に艦長として為すべきことをしなければならない。

 

 「乗組員に告ぐ。今すぐ持ち場から離れ脱出艇まで退避せよ。繰り返す。今すぐ持ち場から離れ脱出艇まで退避せよ」

 

 もはやこの艦を守り抜くことなど不可能だ。

 となると今自分にすべきことは部下達を生きて帰らせること。

 生き残っている護衛艦にも同じように勧告する。

 

 『艦長! 傀儡兵が侵入してきました!! 貴方もはやく!!』

 『皆、退避完了しました! あとは艦長だけですよ!!!』

 

 苦楽を共にしてきた部下達は自分にはやく来い、早く来てくれと催促する。

 だが、それは出来ない相談だ。

 艦長は最後まで艦と運命を共にする。逃げ出すようなことはできない。なにより奴らはこの艦に詰め込まれている積荷を狙っていることは明白だ。世界を滅ぼしかねないロストロギアを得体の知れない賊の手に渡す訳にはいかない。

 

 「俺はここまでだ」

 

 この命、少しでも意味のあるモノにしたいのなら取るべき行動は決まっている。

 己の人生の価値を決定づけるのは―――今まさにこの瞬間とみた。

 

 「お前達は………生き残れ。これが最後の命令だ」

 

 脱出艇を強制的に射出させる。

 部下達を乗せた救難船が近くにある次元世界へと無事脱出したことをモニターで確認した艦長は、これで一安心だと言い、仕事中では控えていた煙草を取り出し一息入れる。

 

 ――――嗚呼、うめぇな。瀬戸際の一本は格別ってか?

 

 肺を満たすこの感覚。最後を飾るには極上の至福だ。

 童貞を貫きはや50年。結局魔法使いを卒業できなかったな。

 できればいい嫁貰って子を授かりたかった。

 老後までも考えていたというのに、残念無念。

 

 一人でに黄昏ていたところ、ある信号をキャッチしたと死にかけているモニターに表示された。

 

 「………通信? なんだなんだ、最後に犯人の面ぁ拝ませてくれるたぁ気が利いてるじゃねぇか」

 

 彼は笑いながら通信を開く。しかし、どうだ。どうしたことだろうか。この時空管理局の輸送船を狙う大悪党が、どんな悪党面をした奴かと思ったら、いやはやこれはまた趣味ドストライクな別嬪さんがモニターに投影されたではないか。

 

 艶のある黒髪に露出の高い服。そして女王様バリに威圧感の出す鋭い眼光と豊満な胸。彼にとっては全てにおいて理想的な風貌だ。

 

 “悪かねーな。ちょいと熟れた肢体がたまんねぇ。すっかり枯れちまった俺でも思わず惹かれそうな大人の女だ”

 

 ついジロジロと身体を観察していたら黒髪の女性は鋭い目をさらに細くし、威圧感もデカくした。これは不満を買ったようだ。

 いやまぁ欲ダダ漏れだったのだから仕方がないと言えば仕方ないか。自分はこれだからモテなかったのかもなぁ、と死に際に悟ってしまった。

 

 『貴方が艦長ね?』

 「応とも。この輸送艦アクアの艦長を務めて30年の大ベテラン。リグレット・グレンだ……で、貴女のお名前は?」

 『………名乗る筋合いはないけれどこれも一興ね。私の名はプレシア・テスタロッサ。大魔導師よ』

 「プレシア・テスタロッサ………いい名前じゃねぇか。是非、デートにでも誘いたいものだわな。こんな状況でなけりゃあ」

 『生憎私は結婚しているの。夫以外に抱かれる気はサラサラないわ』

 

 そりゃ残念だとリグレットは笑う。

 

 『戯言は此処までよ。この輸送艦の格納庫を今すぐ開けなさい』

 「おや? そんなもの大魔導師様の魔法で力ずくでこじ開けりゃいいじゃねぇか」

 『それが出来ないからこうして話をしているのでしょう? 勿論唯でとは言わないわ。貴方の命の保証を約束してあげる』

 

 妖艶な笑みと甘い声で誘う美女。これならばそこらへんの男共はイチコロだろうよ。今まさに命を握られているのなら尚更だ。縋れば助かる。断れば死ぬ。どちらを選べばいいかなんてサルでも分かる。人の矜持を殴り捨て、生きるべき道を取ればいいだけのことなのだから。

 

 ―――だが

 

 「断る。あんまり俺を安く見んじゃねぇぞ盗人。悪党お決まりの台詞を教科書を見て読んで覚えたみてぇにベラベラと。アンタが積荷のロストロギアを狙ってんのは解ってる。そしてそれをロクでもねぇことに悪用することも火を見るより明らかだ。いくら容姿ドストライクな美人さんのお願いでもyesとは言えねーな」

 

 第一に言葉だけの口約束で『命の保証』などと信用できるものか。

 否、仮に本当だったとしても格納庫を開ける気は全くない。

 仮に悪党ごときに命乞いして生きながらえたところで何になる。男というのは時に命よりもメンツを気にする生き物だ。生き様を咲かせて散ろうとする愚かな阿呆なのだ。

 

 『吐き気がするわ。名誉欲から来る自己犠牲なんてものほど邪悪なものはない』

 「それで結構。名誉欲だろうが何だろうが石碑に英雄として名を刻まれるのは男として本望だろう? リグレット・グレン艦長此処に眠る!ってな。そして部下共が俺の武勇伝を誇らしげに語ってくれるのさ。男としてこれほど嬉しいことはあるめぇよ」

 『貴方の帰りを待つ人間はいないのかしら?』

 「残念。俺には家で待ってくれる女房も子供もいねぇ。どうせこの世で結婚できねぇんだ。天国でゆっくり良心的な女性でも捕まえるさ。外見だけのアンタと違ってね」

 

 このリグレット・グレンにも艦長としての意地がある。

 聖王教会の騎士ほど清純で、高貴なものではないが、これだけは譲れない。

 

 「生き様、死に様で己の人生の価値が決まる世の中よ。

  どちらもドブに捨てちまったら世話はないってもんだぜ」

 『―――そう。ならば、たっぷりと痛めつけて改心させるしかないわね』

 

 プレシアの狂気に染まった言葉と共に、背後の扉が爆発した。

 爆風に煽られながらもリグレットは二本目の煙草を口に加える。

 

 「おいおい良いガタイしている人形が揃いもそろって親父狩りかよ。恥ずかしくねぇのか手前らは……って人形にそんなこと言っても意味はないか」

 

 軽口を叩いている間にも煙の中からはゾロゾロと傀儡兵が現れる。

 巨大な盾に剣にランス。

 一体一体が魔導師Aランクの化け物。西洋風の騎士のような傀儡人形だ。

 魔導師の素質zeroのリグレットがどうあがいても敵う相手ではない。

 絶体絶命とはまさにこのことだろう。

 

 「―――ふう。この屑鉄共が美女だったらなぁ」

 

 煙を吐きながら溜息を吐く。

 凶器を突き立てられながらもリグレットは平然と身体を動かし、ポケットの中からある赤いスイッチらしきものを取り出した。

 

 『ようやく開ける気になったようね』

 

 それが格納庫の鍵だと判断したプレシアは勝ち誇った顔をする。

 だがそれもすぐに緊迫した表情に変わることとなる。

 

 「寝言は寝て言えよ。こいつはな、てめぇの思い通りにさせないための秘密道具だ。ある青い狸が俺に授けてくれたんだぜ? 『困ったときに使え』ってな」

 『何を訳の分からないことを――――ッ! まさか!!』

 

 リグレットが取り出したスイッチに掛かれている文字を見て驚愕するプレシア。

 

 彼女のミスは一つだけ。

 リグレット・グレンという男を侮りすぎていた。

 ただそれだけだ。

 

 『傀儡兵 奴の腕を切り落としなさい!今すぐに!!』

 「ハッ、てめぇなんぞに積荷は触らせねぇ。そして、思い通りにもさせてやんねぇよ―――大魔導師プレシア・テスタロッサ。男の花道、早々穢せるものんじゃねぇと知りやがれ!!!」

 

 恐らく生きてきた人生の中で一番のドヤ顔をかましてボタンを押す。

 そしてリグレットは静かに目を瞑った。

 今この瞬間、刹那と言える時間で思い出されるのは仲間達一人一人の顔。そして、今日まで請け負ってきた様々な任務。楽しくも苦い、充実した毎日だ。

 いや、こうして思い返すとなかなか悪くない人生だったのかもしれない。

 イイ女とは縁はなかったが、それは潔く諦めるとしよう。

 あの世、来世に期待すればいいだけのことだ。

 

 「あばよ……皆」

 

 走馬灯を体感し、満足したところで

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の身体は爆発に包まれ、音も、景色も、全て―――――消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ザザーと雑音を発てるモニターをプレシアは苛立ちを露わにしながら断ち切った。リグレットが持っていたあのスイッチは間違いなく自爆装置。輸送艦の魔力炉を故意的に暴走させたのだ。

 おかげで目的の積荷はどこぞの次元世界に全て散らばってしまった。実に不愉快だ。あともう少しで夢を叶えてくれるロストロギアを手中に収めていたものを、一人の人間にそれを阻止された。

 

 「やってくれたわね。リグレット・グレン………!」

 

 忌々しい男の名を改めて口にする。

 あの爆発の中では送った屈強な傀儡兵も恐らく全滅。リグレット・グレンも業火に焼かれ死んだだろう。

 生き恥を晒すことなく潔くこの世から消え去ったのだ。しかも自分に一杯食わして……これは勝ち逃げもいいとこだ。

 

 「忘れないわよ、貴方の名前は……!!」

 

 煮え湯を飲まされたプレシアは怨嗟の言霊を吐く。

 このまま憤っていればどれだけ楽か。

 しかしそんなことを延々としているほど自分には時間はない。

 無理矢理にでも冷静になる必要があった。

 

 「すぐに積荷の落ちた座標を特定。

  ―――フェイトを送らせるしかないわね」

 

 貴重な戦力である傀儡兵をこれ以上割くわけにはいかない。何よりこんな時の為に今まであの出来損ないを生かしてきたのだ。役に立ってもらわなくては困る。

 

 「こんなことならリニスをまだ使役し続けておくべきだったかしら」

 

 サポート系に秀でたリニスの腕を持ってするならばより円滑にことを進められていたかもしれない。だが、プレシアはその後悔をすぐに切って捨てた。

 上級の使い魔であるリニスを維持し続けられるほど今の自分に体力などない。誰になんと言われようと己の判断は正しかった。

 契約を切られたリニスは消滅したのか、それとも別の魔導師と契約して生きながらえているのか。どちらにせよ今使えないのだから考えるだけ無駄なことだ。

 そうだ、忘れるな。今のプレシア・テスタロッサには無意味なことに思考を回せるほど余裕などないことを。

 

 「………はやく特定しなければ厄介なことになる」

 

 たった今時空管理局の護衛艦三隻、輸送艦一隻を落としたのだ。時空管理局も本腰を入れて捜査する。そうなればまた一層“夢を叶える”ことが困難になってしまう。

 

 「待ってなさい、アリシア。お母さんがすぐに迎えに行くわ」

 

 子を思う母の力は絶大だ。例えそれが善からぬ方向であっても色褪せない。

 他人に卑下されようとも、否定されようともこれだけは譲れない。

 多くのリスク、犠牲を払うおうとも、歩みを止めるわけにはいかない。

 これも愛する娘の為に…………全ての行為を肯定する。たとえそれが邪悪であると罵られる茨の道であろうとも。

 

 

 

 

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