一人の戦士が、前方を走る妖魔を追い、山を駆けていく。
しかし、その動きに繊細さは無く。どこか鈍く感じた。
戦士は妖魔を狩りに村に向かっていた。妖気の反応からして3体の妖魔が、村に巣くっていたのだ。
数からして数日もしたら、村はもの家の殻になるだろう。
数の上では、1対3と戦士が不利で、妖魔はそのまま、村に残っているだろうと戦士は考えていた。
そして、その考えが外れてしまったのだ。
何を考えたのか、妖魔たちは村から逃げ山へと向かったのだ。それに気づいた戦士は、後を追うしかなかった。
それから、数刻。
妖魔を追う戦士の体はだんだんと重くなっていく。
3体いた妖魔の内2体は殺すことができた。あと、一体。なのに、妖魔との距離を詰められないでいた。
途中で二手に別れたことも関係していた。このままいくと……。
その時、前方にいた妖魔の妖気が消えたのだ。
「中々お些末ね。お隣さん?」
木々の間から現れたのは一人の戦士であった。
それは、隣接する地区を担当する……一桁ナンバーの戦士である。
気づいたら、地区の端まで来ていたらしい。そして、そのことに気付いた隣の戦士が、わざわざ出向いたようだ。
「お隣の好だし、ちょっとレッスンしてあげましょうか? ラエストでしたっけ?」
アリアは少し笑みを浮かべ、ラエストにそう言ったのであった。
No.47 終わりのラエスト 序章
生き残るだけで必死だった。
握る大剣の柄を構えながら、目の前にいる妖魔を狩る。
相手が動くその瞬間、相手よりも一足"早く"……切裂く。その動きはまるで、妖魔の動きが事前に分かるように。
太刀筋は、妖魔の右肩から左腰まで綺麗に一閃を描く。
妖魔の断末魔と共にラエストはふっと肩の力を抜いた。
パチパチッ。
森の中、小さく響く場違いな拍子の音。
「何時からそこにいたんですか、オルグさん」
「ついさっきだ。下手に近づいたら、妖魔に殺されてしまうからな」
オルグと呼ばれた組織の黒服は、ニヤリと笑みを浮かべ木々の間から現れた。
妖魔を倒すまで近くで潜んでいたらしく、オルグは倒れた妖魔を一瞥する。
「フム、中々の良い切断面だ。まあまあ、様になったようだな。すぐ死ぬかと思っていたが」
オルグは周りに倒されている"5体"の妖魔を確認して目を細めた。
「それは、どういう意味ですか?」
明るい金髪……本来なら、半人半妖になると色素が消えるはずなのだが、ラエストの髪は金色に輝いていた。
色付き、戦士の出来損ないとも呼ばれ、ラエストは辛うじてナンバーを与えられた戦士である。
No.47 最初期に配置された女戦士の最下位。それが、ラエストの実力である。
「……まあ、いいです。何か御用時でも? 一緒に村まで行って差し上げましょうか」
「剣の腕だけじゃなく、口も少しは達者になったな……本題だが、良い話があるんだが」
「何ですか、それは……」
ラエストは予想外な返答が返り、眉を顰めた。
黒服が現れて、良いことなんてあまりなかったようなっとラエストは心の中で思ってしまった。
「No.43へ昇格だ。おめでとう。これに伴い、配置換えが起きる、一度スタフに戻れ」
「へっ? それは、どういう」
「No.47卒業だ。他に意味はない。思ったよりも早かったな。うまくいけば、No.30代までいけるかもな」
オルグから告げられたその言葉。
全戦士最弱のNo.47を卒業。
それは、色付きでありながら、自身の力を組織に認めさせたということである。
ラエストは他の戦士よりも劣っていると感じたいた。なので、その熱くなる想いを胸に秘めながらもラエストは、表情を変えなかった。
しかし、それは……ラエストが繰り上がる分仲間の戦士が死んだということでもある。
「意外と冷静だな……そういえば、話は変わるが、リフルが死んだ」
オルガはまるで、世間話をするかのように何気なくラエストに伝えた。
「えっ!? な、No.1のリフルが?」
「そうだ。たしか、同期だったよな」
しかし、オルグの言葉を聞いたラエストは今度こそ目を見開きながら驚いた。
ラエストの脳裏に浮かぶのは、一人の華奢な少女。しかし、配属後間も無くしてNo.1に上り詰めた戦士である。
リフルはラエストの訓練時代、そして、最終試験の際の同期でもある。同期なだけで、特に親しくした中ではないが、それでも、あの華奢な体ながら感じる圧倒的なプレッシャーを今でも覚えている。
明らかに他の同期とは一画を画す存在だったのを覚えている。
「話は以上だ」
オルグは話終えると、そのまま立ち去ろうとする。
いきなり現れたり、消えたりと黒服たちは慌ただしい。
「か、覚醒したってことですか?」
「……どうだがな」
ラエストの問い掛けに、一瞬だけ歩みが止まるオルグ。
そのまま回答をせず、オルグは行ってしまった。
何が起こったのだろうか。それを、ラエストが知るすべはなかった。
大陸極東 スタフ。
組織本部に戻ったラエストは、自身以外にも戦士がいて10名ほどおり、少なからず驚いた。
「あら、ラエストじゃない。もしかして、ラエストもナンバーが上がるの?」
戦士としては珍しい、温和で親しみを感じる声。ラエストが振り向くと、隣接する地区を担当する戦士……アリアがいた。
色付きであるラエストに声を掛ける戦士は少ない。アリアは温和そうな声と変わらない性格で、ラエストに話しかける数少ない戦士の一人である。
「も? アリアも上がったの?」
「ええ、そう。No.6に昇格したわ」
元々No.9にいたアリアは今回でまたNoを上げたらしい。
妖気探知を得意とし、その力は全戦士中No.1。仲間内では俯瞰のアリアと呼ばれているらしい
あまり親しくする戦士がいないラエストは、アリアの二つ名を本人から聞いたのである。
「おめでとう」
「ありがとう。ラエストは?」
「No.43」
「もうすぐ40代脱出ね」
ラエストはアリアと当たり障りのない会話をしながら、周囲を伺う。
そして、特に監視をされていないことを確認したら……。
「アリア、リフ……」
「シッ。ここじゃ駄目よ」
ラエストが口を開いた瞬間、ラエストは人差し指をラエストの唇に当てた。
そのあと、二人は久々に再開する友人として会話を弾ませながら、スタフ内を歩き、人がいない場所まで移動した。
「リフル。幼くしてNo.1に上り詰めた戦士。知り合いだったの?」
「最後の試験の時、一緒に受けたの」
「そうなの……だから、受かったのかしら」
アリアの表情がサッと変わったような気がしたのを
「えっ?」
「何でもないわ」
「リフルは、覚醒して組織を去ったわ。残念ながら、討伐隊を作って追ってを放つ余裕もないし……だから、組織は覚醒ということ自体隠ぺいしようとしているの」
「隠蔽?」
「そう。戦士が覚醒してしまうのは、避けられない。だけど、覚醒して離反するのは出来るだけ避けたい。だから、覚醒して、離反するのではなく、戦いで散ったことにする」
「それって、意味はあるの?」
「上位Noの離反は、組織に少なからず影響を与えるの。男の戦士についても、箝口令が出て、これから数代もすれば、男の戦士がいたことさえ、忘れ去られるでしょうね。上位Noはともかく下位Noにはある程度効果あるんじゃないかしら」
ラエストはアリアの話を聞くが、どこか納得してないようななんとも言えない表情になっていた。
「あんまり考えすぎない方がいんじゃないのかしら……じゃあ、私は行くわね。また、どこかで会いましょう。今度は一人で頑張るのよ」
「ええ」
ラエストはアリアと別れを告げ、新たな№を得、新たな地区へと向かうのである。
最下位№47から昇格する色付けの戦士がいると、少なからず戦士の中で話題に昇るようになっていく。