ソードアート・オンライン 漆黒の復讐者   作:eldest

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 初めてSSというものを書いてみました。
 感想や評価など、よかったら送ってください。
 誤字の指摘などもよければ。

 まだ序盤の序盤ですので、戦闘描写すら無しです。しかも今回は殆ど原作なぞってるだけ……。
 今後も、殆どオリジナルの登場人物しかでませんし、ソードスキルも創作です。
 それでもよろしければ、今後ともよろしくお願いします。


第1話 はじまりの日・前編

 2022年11月6日

 

 俺はバイトを終え、電車で自宅近くの最寄り駅に向かっていた。

 左手首に巻いた腕時計で時刻を確認する。

 16:20。既に、ソードアート・オンライン正式サービス開始から3時間以上が経過していた。

 

 《ソードアート・オンライン》。略称はSAO。

 フルダイブ型インターフェイス《ナーヴギア》を使用した、世界初のVRMMORPGのタイトルだ。

 2ヶ月前、俺は1000人という狭き門を潜り、SAOベータテストに当選した。

 大学生でバイトもしている俺は、いわゆる廃人プレイヤー……彼らでも2ヶ月間のベータテスト終了までに10層までしか行けなかったらしいが……の半分のプレイ時間もないだろう。

 ベータテスターで得したことは?と訊かれれば、俺は、ベータテストの経験よりも正式版パッケージの優先購入権を貰えたことだと即答するだろう。

 何故なら、大手の通販サイトは軒並み数秒で完売し、店頭販売も数日前から徹夜で並ぶ者が出るなど……もし優先権を貰えていなかったら、9割9部初回版を購入することは出来なかっただろうからだ。

 

『次は××駅~××駅~降り口は……』

 

 車内アナウンスが流れ、俺は席を立った。

 到着と同時に改札まで走ってやろう、などと子供じみたことを考えるほど俺は浮き足立っていた。

 だからだろう。

 通路近くに居た若いカップル2人の世間話など、俺の耳には入っていなかった。

 

 

「ただいま」

 

 俺は玄関で一応、自分の帰宅を知らせる。が、返ってくる言葉はない。

 当然と言えば当然だ。

 両親は町内会の旅行で帰ってくるのは今日の夜、妹はまだ部活の最中だろう。

 時刻は既に午後5時に差しかかろうとしている。

 リビングを通り抜け、洗面所で顔を洗う。

 

「ふぅ……」

 

 顔をタオルで拭いつつ、階段を上がり自室に向かう。

 

「……着替えるか」

 

 俺は着ていた服を脱ぎ、スウェットに着替えると、ベッドに横たわった。

 そして、ナーヴギアを被る。

 音声コマンドを起動。

 遅れを取り戻してやる!!

 

「リンク・スタート!」

 

 この時、俺は気付いていなかった。

 マナーモードに設定してリュックサックに入れたままのケータイに、妹と彼女からの着信が何度もかかってきていることも。

 テレビのどのチャンネルも、ネットのニュースサイトも、ある1人の狂人が引き起こした事件で持ち切りだったことも。

 

 

「おお!!」

 

 思わず歓声を上げた。

 ログインした俺を待っていたのは、活気に満ちたアインクラッド第1層《はじまりの街》だった。

 ベータテスト時は最大1000人。しかも、その全員がログインしていたわけではないので、各階層併せても常時500人いたかいなかったか、という具合だった。

 だが今は、この広場をざっと見回しただけでも1000人以上がいることが解る。

 色とりどりの髪と装備をした眉目秀麗の男女ばかりなのが若干気持ち悪いが……まあ、MMOなんてそんなもんだろう。しかし、中には好き好んで不細工なアバターを作った変わり者もいそうだ。

 

「……さて」

 

 待ち合わせの18:00までには、まだ40分少々の時間がある。

 装備でも整えようか、と思い至って武器屋へ行くために走り出そうとしたところだった。

 

「すみません」

 

 後ろから声をかけられた。明るいソプラノ声だったが、語尾が何かに脅えるように微かに震えていた。

 俺は訝しみながらも振り向いた。

 

「えーと……俺ですか?」

 

 一応の確認をする。もし相手が呼んだのは俺ではなく別の人間で、単なる俺の勘違いだとしたら恥ずかしすぎる。

 

「そ、そうです」

 

 伏し目がちにそう答えたのは、青い長髪をポニーテールにした切れ長の瞳の美女だった。これで中身が女性ですらなくおっさんだったら……俺はこいつを許さない。

 

「えーと……なんですか?パーティー勧誘なら、すみませんが待ち合わせしてる人がいるので……」

「ち、違います!」

 

 そう言うが速いか、美女は俺の胸倉を掴んで締め上げた。

 

「あなた今さっきログインしてきましたよね!?今外がどうなっているのか知りませんか!?」

「は!?」

「ですから、サーバーに不具合があるとか……!!」

「し、知らないですよ!っていうか何かあったんですか?」

 

 俺がそう言うと、美女はやっと俺の胸倉から手を離すと、ドサッと地面に座り込んでしまった。

 

「えーと……」

 

 俺が戸惑っていると、横から男が話しかけてきた。

 

「メニュー画面開いて見てくれないか?」

「……解った」

 

 戸惑いながらも言われた通り、メニュー画面を開くために右手の人差し指と中指を真っ直ぐに揃えて掲げ、真下に振った。たちまち、鈴を鳴らすような効果音とともに紫色に発光する半透明の矩形が現われた。

 

「1番下のコマンドを見てみてくれ」

 

 再び、言われた通りコマンドを見る。だが、そこで違和感を覚えた。

 ベータテストの時と何かが違う。だが、それが何かは解らない。

 俺が困惑していると、男が口を開いた。

 

「……落ち着いて聞いてくれ。本来そこには、ログアウトボタンがあったはずなんだ。僕はサービス開始と同時にログインしたんだが……その時は、確かにそこにログアウトボタンがあったんだ。でも、そろそろ夕飯にしようと思ってさっきログアウトしようとしたら……ログアウトボタンが無くなっていることに気が付いたんだ」

「なっ!?」

 

 俺はメニューを再び凝視した。

 そうだ、これが違和感の正体。《メインメニュー・ウィンドウ》の1番下に本来あるはずの《LOG OUT》――この仮想世界から現実世界に戻るためのボタン――が消失していたのだ。

 俺は絶句するのをどうにか堪え、男に問う。

 

「……GMコールは?」

「とっくにやったさ。……運営からの返答は無し。だから、彼女は君に詰め寄ったのさ。悪く思わないでくれ。君が何か知っていないかと期待していたのは、僕自身否定できないからね」

「……すまない」

「いや、謝る必要はないよ」

 

 男は俺の肩に手を置くと、励ますように笑って言った。

 

「もし何かのバグか不具合だとしても、最悪でも今日中には復旧するはずさ」

「……ごめんなさい」

 

 どうにか立ち上がった美女は、俺に向かって頭を下げた。

 

「いや、俺の方こそすみません……役に立たなくて」

「い、いえ……そんなっ」

「まあまあ、お互い謝り続けたところでさ……つーか悪いのは運営だしね。僕はアラン。2人は?」

 

 男――金髪碧眼の西洋人のイケメン――は場を和ませるように名乗った。

 

「わたしはクラリスって言います。ホントごめんなさい。胸倉掴んで締め上げたりなんか」

 

 美女――クラリスは、どうにか少し笑みを浮かべてそう言った。

 

「あはは、びっくりしたよ。俺はオニキス。これも何かの縁かもだし、フレンド登録しないか?」

 

 2人は笑顔で頷いた。

 まずアランにフレンド申請を送り、了承されたとメッセージが表示され、クラリスにも同じく送り、こちらも了承。

 

「よろしく。悪いけど、さっきも言ったけど待ち合わせしててね……何かあったらメッセージ飛ばしてくれ」

 

 俺は2人に背を向け、走り出そうとした。

 時刻は既に5時半を回り、待ち合わせまで30分を切った。

 だが、1歩踏み出したところで、再びその足を止めることになった。

 

 リンゴーン、リンゴーン。

 

 突然の大ボリュームのサウンドに、びくりと背筋が凍る。

 その音は、鐘の音のような――あるいは警報音のようにも聞こえる。

 思わず耳を塞ぎたくなるのを堪え叫んだ。

 

「今度は何だ!?」

「オニキス見ろ!!」

 

 アランが俺に負けない大声で叫び返す。自然と彼の指差す方向に視線が移る。

 

「なっ!?」

 

 俺は眼を見開いた。

 鮮やかなブルーのエフェクトに包まれたアバターが、次々と転移してくる。

 呆然とその光景を見ている間に、周囲の人口密度が極端に上がったことに気付いた。

 

「……どうやら、今ログインしている全プレイヤーが運営によってここに集められているみたいだな。あの現象は移動アイテムを使った《転移》だ。プレイヤーが使えるようになるのはここより上の層だから、プレイヤーによる転移じゃない」

「……アランはベータテスターだったんだな」

「ああ。昔から運が良いんだ、僕。プレイヤーがここに集められてるってことは、運営から何かしらの連絡があるのか……実はブラックジョークを絡めたオープニングイベントだったのかもな」

 

 ログアウトボタンが消え、ログアウトできなくなる……ジョークで許される類の冗談とは思えない。もちろんアランも解って言っているのだろう。

 

「だから……クラリスさん、大丈夫だから」

 

 蹲って震えてしまっているクラリスを気遣っての言葉だと、俺にも直ぐに解った。

 

「う、うん……そうだね、ありがと……」

 

 クラリスはそう言ったが、腰が抜けてしまったのか、立ち上がれないようだった。

 アバターの腰が抜けることなんてあるのか?と雑念が頭を過ぎるが、無視してクラリスの肩を掴み、優しく立たせる。

 

「大丈夫ですか?」

「うん……オニキスさんもありがとう」

 

 支えようか?と尋ねたが、大丈夫だからと彼女は断った。

 一先ず彼女は大丈夫だろう。俺は周囲の喧騒に耳を傾けた。

 戸惑いが徐々に苛立ちに変わり、遂に怒号が飛び交い始めた。

「ふざけんな!!」「GM出てこい!!」「早くログアウトさせろ!!」「これから夜勤なんだよ!!」などと、口々に自分の不満をモニター越しに見ているであろう運営にぶつける。

 と、不意に。

 それらの声を押しのけ、誰かが叫んだ。

 

「あっ……上を見ろ!!」

 

 俺は反射的に視線を上に向けた。そして、そこに異様なものを見た。

 

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 

 茅場晶彦によるチュートリアルを呆然と聞いていた俺は、ほとんど自動的にメニュー画面を開いていた。それは周囲のプレイヤーも同様らしい。

 アイテムストレージの1番上にそれはあった。

 アイテム名は――《手鏡》。

 ……手鏡?

 疑問に思いつつも、名前をタップしオブジェクトボタンを選択して実体化。

 鏡に映るのは、なんてことはない、俺がベータテストから引き継いで使っているアバターの顔だった。

 嫌な予感がした。咄嗟に鏡を投げ捨てたが、遅かった。

 

「――なっ!?」

 

 鏡が砕け、無数のポリゴンとなって飛散するのとほぼ同時に、視界が白い光に覆われ、奪われた。

 光はほんの2、3秒で消え、俺は振り返った。

 

「――何だったんだ?アラン、クラリスさん大丈夫……え?」

 

 服装は変わっていない。だが、明らかに2人の容貌が変わっていた。

 アランは――金髪に茶色が混ざり、碧かった瞳は翡翠のような緑色に変わっている。顔立ちは柔和な青年……恐らく俺とそう年齢は変わらないんじゃないだろうか?――そこまで大きな変化は無かった。

 だが、クラリスは同一人物とは思えない程に別人と化していた。

 切れ長だった瞳はつぶらなと形容するのがぴったりな、くりっとした二重に。ポニーテールにしていた青い長髪は肩まで伸ばした黒髪に。顔立ちも肌の色も、日本人のそれに変化していた。身長も下がり、155センチあるかないか。おそらく年齢は高校生くらい……だろうか。全体的にナイーブそうな印象だ。

 

「――だ、誰?」

 

 クラリスが戸惑ったように呟いた。

 

「……いや、オニキスだよ。――ってことは俺の顔も変わってるのか?」

 

 手元に鏡がないので確認しようがないが……俺の顔も2人同様変わっているのだろう。

 周りを見渡すと、明らかに男女比が変わっていた。女物の装備を着た男が、ここから見えるだけでも何十人もいる。顔どころか性別まで変えられたのだろうか?

 俺が首を捻っていると、アランが俺に手鏡を差し出した。

 

「……オニキスも見てみなよ」

 

 落ち着いた……いや、違う。動揺を押し殺して、なんとか平常を装っているようなアランの声に促され、俺は鏡を覗く。

 

「…………俺じゃん」

 

 俺だった。ベータテストから引き継いだアバターの顔ではなく、長めの黒髪をワックスで整え、ピアスを付けた……若干チャラい印象の現実の自分。

 

「え……ってことは、性別変わってる連中はネカマか」

「いや、オニキス……問題はそこじゃないだろ」

 

 アランは若干呆れたように呟いてから小さく苦笑した。

 張り詰めた空気が少し和らぐ。

 

「僕の顔も現実の……いや、違うな。正確には、無数に用意されていたアバターパーツを組み合わせて、現実の僕の顔に似せて作られた――」

 

 そこまで言って、アランは首を捻る。

 

「――でも、どうやって?」

 

 俺は前に読んだ雑誌の記事を思い出し、アランの疑問に答える。

 

「ナーブギアは、高密度の信号素子で頭から顔全面を覆ってるんだろ?……つまり、脳だけじゃなくて、顔の表面の形も精細に把握できるんじゃないか?」

 

 無意識に左耳のピアスに触れてから、別の疑問が脳裏を過ぎる。

 

「――このピアスは?っていうか、髪の色とかはどうやって……?」

「「…………」」

 

 2人とも答えてくれない。少し悲しい。

 居た堪れなくなり、視線が泳ぐ。

 少し離れた位置にいる、赤い髪を逆立てた男に眼が留まった。

 

「あの悪趣味なバンダナ……装飾品の類もスキャンされたってことかな……」

 

 自分で自分の問いに答えてしまった。

 

「……なら、身長や体格はどうなんだろう?ナーブギアじゃ、身体まではスキャンできないだろ?」

 

 アラン君、少しは自分でも答えを出そうか。と、若干イラッとしたが、状況が状況なだけに抑える。

 確かに全体的に見ても、平均身長は下がり、横幅は上昇している。

 ……女物の装備を着たデブの男など眼も当てられない。

 そんな中でも、俺とアランの目線が変わっていないのは、元々、アバターの身長を現実の身長とほぼ同じ設定にしていたからだろう。

 

「――たぶん……」

 

 今まで黙っていたクラリスが、か細い声で呟いた。

 言ってみて、とアランが促し、たどたどしくではあるが続ける。

 

「わたし、ナーブギア本体も、先日父に買ってもらったばかりで……それで覚えてるんですけど。初めて装着した時のセットアップステージで、なんでしたっけ……キャリブレーション?とかで、自分の身体をあちこち触らされたじゃないですか。もしかしたら、あれが……」

「……なるほど」

 

 アランは納得したように頷いたが、俺はさっぱり解らない。

 

「キャリブレーションというのはつまり、装着者の体表面感覚を再現するために、《手をどれだけ動かしたら自分の身体に触れるか》っていう基準値を測るための作業だ。それはつまり――」

 

 それはつまり、自分のリアルな体格をナーブギア内にデータ化するということに等しい。

 

「――可能だよ。現実の僕等にそっくりなアバターを作り出して置き換えることは」

「そ、そんなこと、なんのために……そもそも、なんでこんなことを!?」

 

 クラリスがヒステリック気味に叫んだ。

 前者はアバターを現実そっくりの姿に置き換えたことを、後者はそもそも何故、茅場晶彦は何故こんなことをしたのか。

 それに答えたのは、俺でも、アランでもなく、顔の無いGM……茅場晶彦本人だった。

 

『諸君は今、何故、と思っているだろう。何故私は――ソードアート・オンライン及びナーブギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?と』

 

 俺は、GMを呆然と見上げる。

 

『私の目的は既に達せられている。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はソードアート・オンラインを造った――そして今、全ては達成せしめられた』

「……答えになっていない」

 

 静かな。しかし、確かな怒りが――この状況でも、まだどこかで冗談なのではないか、と思っていた――胸に灯るのを感じた。

 

『以上で、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。――プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

 最後の台詞の残響が消えると同時に、ノイズが走り、GMのアバターは空気に溶けるよう徐々に――そして、完全に消えた。

 代わりに、今まで消えていたNPCの楽団が演奏する市街地のBGMが戻ってくる。

 美しい音色が、酷く不気味に、そして醜悪なものに感じた。

 そして――この時点に至って、ようやく。

 約1万人のプレイヤーが、然るべき反応を見せた。

 悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、咆哮。

 この世界で死ねば――現実の俺も、ナーブギアに脳を焼かれて死ぬ。

 

「――はははっ……ははははは」

 

 嗚咽のように、笑い声が口から漏れた。

 アランと涙を浮かべたクラリスが、色を失った顔でこちらを向いた。いや、2人だけではなく、周囲のプレイヤーの奇異なものでも見るかのような視線も感じるが、構わず無視する。

 

「……落ち着いて話せる場所へ移動しよう。クラリスさん、歩けるね?」

 

 俺はクラリスの顔も見ず、腕を掴んで荒れ狂う人垣を縫うように足早に歩き始めた。アランも付いて来てるのを足音で察する。

 広場を抜け、幾つもある街路の1本に入っても尚止まらず、NPCが住んでいるのだろう民家に入り、ようやく歩みを止め、振り返った。

 クラリスは脅えたように俺を見詰め、アランは咎めるような顔をしている。

 

「……ふぅ」

 

 ここで折れるわけにはいかない。

 

「2人はこれからどうする?……俺は待ち合わせ場所のNPCがやってるカフェに行くつもりだ。付いて来るつもりなら……付いて来ても良い」

 

 また無意識にピアスに手がいく。

 

「どちらにせよ、このまま《はじまりの街》に閉じこもっているわけにはいかない。宿屋に泊まるのも、食事を摂るのも、コルが必要だ。それに、あるとは思いたくはないが、PKも可能なんだ。経験値を稼いでレベルを上げれば、それだけ死ににくくもなる。……将来的には鍛冶師や商人をして稼ぐことも出来るだろうけど、現状じゃ無理だ。今は、モンスターを狩るしかない」

「でも!もしHPを全損したら!?本当に死んでしまうかもしれないんですよ!?」

「……だから、強制はしないよ。……俺は、君の生き死に責任は持てない」

 

 俺の非情な物言いにクラリスはその場にへたり込んで再び泣き出し……アランの性格から――ほんの30分で何が解るのか――殴られるのも覚悟した。しかし、予想した衝撃は来ず、俺は思わずアランの顔を凝視した。

 何かを覚悟したような、そんな表情だった。

 アランが口を開く。

 言っちゃいけない!俺は内心そう叫ぶ。

 

「なら、僕が責任を持つよ」

「……え?」

 

 クラリスが呆然とアランを見上げる。

 

「だから、僕が責任を持つよ。僕がクラリスさんを守る。……オニキスの待ち人と合流後、すぐに次の村《ホルンカ》へ向かおう」

 

 正気なのか、この男は。

 この状況で、アバターの死が現実の死となる、このデスゲームで。自分の命すら保障できないこの状況で、他人の命まで背負えると本気で思っているのか。

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、アランは続ける。

 

「MMORPGっていうのはプレイヤー間のリソースの奪い合いなんだ。システムが供給するお金、アイテム、経験値をより多く獲得できた人だけが強くなれる。今のうちに拠点を《ホルンカ》に移せば、プレイヤー同士のモンスターの奪い合いに巻き込まれることも、モンスターのリポップを探し回る必要もなくなる」

「で、でも……わたし、まだレベル1なの。オニキスさんもそうでしょ?……次の村に行くにしても、レベル上げないと無理なんじゃ……」

 

 少し冷静さを取り戻したのか――相変わらずへたり込んでしまったままだが――クラリスが問題点を指摘した。

 

「それは大丈夫。僕はベータテスターだから、道も危険なポイントも覚えてる。レベル1でも安全に辿り着けるよ」

 

 そこまで言ってから、アランは俺を見詰めた。

 

「でも、僕がアクティブモンスターから守れるのは1人が限界だ。オニキス、君は、自分で自分と君の待ち人を守るんだ。……君も、ベータテスターならできるはずだ」

 

 俺は動揺しつつも、悟られないように尋ねる。

 

「何で、解ったんだ?」

 

 ベータテスターだと、という言葉は省く。

 アランは小さく笑ってから答えた。

 

「君の言動が物語ってるよ。……僕がメニュー画面を開いてくれって言ったとき、君は慣れた手つきで開いてみせた。初めてだとあの動作は戸惑うものだよ。それに、待ち合わせ場所を決めておけるってことは、少なくともどちらかが初見ではないってことだ。この場合、待ち人ではなく、君自身がテスターだと思うべきだろうね」

「……降参だよ」

 

 俺は手を上げてみせた。

 

「さて、ここにテスターが2人もいる……オニキスの待ち人が加われば、パーティーは4人。十分イケるはずだ」

 

 アランは、クラリスに笑いかけると、彼の外見を納得させられる台詞を吐いた。

 

「英国紳士として、君の安全は保障するよ」

「イギリス人だったのか……通りで」

 

 明らかに日本人の外見ではなかったが、そもそも人種からして違うなら納得もいく……しかし。

 

「SAOは国内のみでの販売だったんじゃないのか?何でイギリス人のあんたが……?」

「僕は留学生だよ。ベータテストには、それこそたまたま当選したんだ。まあ、落ちてたとしても、パッケージは徹夜してでも買っただろうね。なにせ、世界初のVRMMORPGなんだから。まあ、結果的に言えば、買わない方が正解だったわけだけど、今更言ってもね」

 

 と、アランは苦笑した。

 

「日本に来て長いんですか?」

 

 クラリスが、そんなどうでもいいようなことを訊いた。だが、確かに気になる。訛りもなく、語彙が豊富なアランは、どう考えても来日1、2年のレベルではない。

 

「実際に日本に来たのは去年だけど、両親が日本のサブカルチャーが大好きでね……僕は日本のアニメを見て幼少期を過ごしたんだ。だから、第2の母国語レベルで話すことができるよ。別にハーフってわけじゃないんだけどね」

「「そ、そうなんですか」」

 

 それ以上の反応の仕方を、俺もクラリスも知らなかった。




 デスゲームっぽさ、MMOの理不尽さを原作よりは前に押し出すように書いていくつもりです。

 悪趣味なバンダナさんはもちろんあの人です(笑)
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