誤字の指摘などもよければ。
部分部分に独自解釈があります。
プログレッシブでネズハが10レベル時点でスキルスロット3つだったんですが、以前書いた通り、独自設定でいきます。
太一さん、オーフィスさん、アル@.lriaさん、ログジエルさん、お気に入り登録ありがとうございます!
2022年12月8日。
第1層フロアボスが倒されてから4日経った今日、わたし達はNPCが経営する牧場に建つ民家の2階部分を貸し切り、午後のティータイムに浸っていた。
「これ、色はピンクですけど……味は緑茶ですね」
相変わらず、変なお茶だが。
固有名《ウルバス茶》。ネーミング的にミネラルウォーターの《東京水》を思い出す。
「そうだね。僕としては紅茶が飲みたかったけど……この前飲んだ渋いのじゃなくてね」
「アフタヌーンティーかぁ……優雅ですねぇ~」
「まあ、僕の家は茶葉じゃなくてティーパック使ってたからそんなに大したものじゃないけどね」
アランさんはそう言うと苦笑した。
「――駄目だ。ピンクの色彩が俺の脳にこいつは毒だと認識させる!!」
「何言ってんですか」
思わず棘のある言い方になる。だけど、オニキスさんがアホなこと言うのに一々付き合ってはいられない。
「クラリスの反応が冷たい!?アラン!クラリスが遂に反抗期だ!お兄ちゃん悲しいぞ……」
「だ~れがお兄ちゃんですか。わたしは一人っ子ですよ」
まったく。
わたしはお茶を啜る。
『ズズズズ』
「はぁ~」
「おばあちゃんかお前は!」
「失礼ですね!!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて――」
「アランさんはどっちの味方なんですか!?」
「そこで僕に振る!?」
ふと、アランさんの茶色混じりの金髪を見ていて思い出した。
「そういえば、アルゴさんって……何でフェイスペイント付けてるんですかね?アイテム?確か、アバター作る時にタトゥーみたいなの付けたり出来ませんでしたよね?というか、わたし達みんな現実の顔になってますし」
アルゴさんとは1回目のボス攻略会議の時にもチラリと顔を合わせている。思えば、あの日プレイヤー2人に追いかけられていたのはアルゴさんだったのかもしれない。
「随分話題が飛躍したね……」
「女子高生の話題の飛躍に一々戸惑うな。慣れろ、アラン」
なんかオニキスさんがまた失礼なことを言ったような……会話の前後が繋がってないのは自覚してますけど。
「さあ?ベータテスト時代から《鼠》のアルゴって呼ばれて有名だったからなぁ……解らないよ」
アランさんは首を捻る。
「――あれ、装備の類だぞ。……RPGで言うところの《呪われた装備》みたいなもんだ」
「「え?」」
オニキスさんの呟きに、わたしとアランさんの声が重なる。
「な、何でオニキスさんが知ってるんですか!?《おヒゲの理由》を!!」
初めて会ったときに気になって訊いたのだけれど、『教えられなイ』と断固拒否されたのだ。
「それは僕も気になるな」
興味津々のわたし達に、オニキスさんは簡潔に答えた。
「俺もベータ時代に1日だけ同じの顔に塗りつけてあったからだよ」
1日だけ同じの顔に塗りつけてあった?
「でも、たぶん形状は俺のとあの人のじゃ違ったんだろうな。鏡なんて当時も持ってなかったから確認しようがなかったし」
「え、え~と……それで、何故そんなものを塗りつけることに?」
「エクストラスキル《体術》の修行過程でNPCに付けられるんだよ。見事習得できればペイントは剥がせて、無理だとそのまま。たぶんアルゴは修行途中でリタイアしたんだろうな」
エクストラスキル?《体術》?
「エキストラスキルって……!!え~とっエキストラスキルっていうのは習得条件が解らない《隠しスキル》ことなんだけど!――ベータ時代は《瞑想》以外発見されてなかったはずなんだ。つまり、オニキスはベータ時代唯一の《体術》習得者ってことだよ!!びっくりだよ!!」
ゲーマーの血が騒いだのか、何時に無く興奮しているアランさん。
わたしだって人並みにはゲームしてきたし、それがどれだけ凄いことなのかは解っているつもりだ。
でも。
「ホントですか~?デマなんじゃないですか?」
「嘘言ってどうすんだよ?……俺が唯一の習得者なのかどうかは知らないけど、俺が《体術》習得したのは事実だよ」
「な、何で習得条件公開しなかったんだよ!?」
「いや……そういうの公開した方が良いって知らなくてさ。ネタばれって嫌われるだろ?MMOもそうなんだとばっかり……」
「ああ……オニキスはゲームド素人なんだったっけ……」
アランさんが頭を抱える。
「いや、でもアランとクラリスには必要ないスキルだぞ?あれ両手塞がってると殆ど意味ないんだ。それに、戦闘スタイルが2人ともタンクだったり中距離攻撃だったりだろ?《体術》とは合わないよ」
「……確かに。それに僕のスキルスロットもう全部埋まってるけどさ……そういえば、オニキスは確か5つあるスキルスロットの内1つ残してるよね?まさか……」
「まあな。今日にでも覚えにNPCの所まで行こうと――どうしたんだよ?2人とも」
「付いて行っていいかな?」「付いて行っていいですか?」
わたしとアランさんの声が見事に重なる。
「……良いけど……俺の顔見て笑うなよ?」
◇
オニキスさんはどうやってNPCまで辿り着いたのか?
そんな疑問が頭の中でぐるぐる渦巻くくらい、《体術》を教えてくれるNPCの所まで行く道のりは困難を極めた。
広大な2層に乱立するテーブルマウンテンの岩壁をよじ登り、小さな洞窟に潜り込み、ウォータースライダーを彷彿とさせる地下水流を滑る。
これ、ちゃんと《ウルバス》まで帰れるんでしょうか……?
凄く不安になる。
「――せい!!」
「せあっ!!」
オニキスさんとアランさんがポップしたコウモリ型モンスターを倒す。
そんな感じで4度ほど戦闘もこなし、たっぷり30分ほどかけて、わたし達は目的地に到着した。
全体マップを確認すると、ここは2層の東の端。ひときわ高くそびえる岩山の頂上付近だった。
そして、眼の前には一健の小屋。
「……オニキス。どうやってこの場所を……?」
アランさんがわたしも訊きたかったことを訊いてくれた。
「RPGってさ、全マップ制覇したくなるじゃんか。……1層は既に他の奴らがマッピングしちまってたから、2層こそは!ってな。そんな感じで探検してたら、見つけた。そのせいで俺、3層以上殆ど行ったことなかったけど」
「「…………」」
絶句した。
2層は1層よりも僅かに小さいとはいえ、直径約10キロだ。
「アホですね」
「おいクラリス!最初のしおらしさは何処へいった!?」
「まあまあ……ここに突っ立ってても仕方ないし、さっさと入っちゃおうよ」
「そうですねー」
「まだ話は終わってないぞ!!」
「「…………」」
再び絶句。
NPCはこの岩を素手で割れと言うが、この硬さは……《破壊不能オブジェクト》一歩手前だ。
「これを割るんですか?……というか以前割ったんですか?」
「まあな」
そんな風に軽く言うが、並大抵の努力でどうにかなるレベルではないだろう。
しかも、オニキスさんは《敏捷値》優先でポイントを振っているのだ。
「や、止めておいた方が良いんじゃ――」
「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝には、その証を立ててもらうぞ」
わたしが言い終わる前にNPCはそう言って、道着の懐から筆を取り出すと『ビュビュビュッ!』とオニキスさんの顔に墨を塗りたくった。
「……ま、これが《おヒゲの理由》ってことだな。どうだ?やっぱ変か?」
わたしとアランさんはオニキスさんの顔をまじまじと見詰める。
別に面白くない。少し変わったタトゥーみたいだ。
「まあ、いいや。――さて、アラン君……は知らないとして、クラリス。瓦割りのコツって知ってるか?」
「え?」
何故ここで瓦割りの話になるのだろう。
「力が強いと多く割れると思う奴が大半だと思うけど、実はそうじゃないんだ。……俺がまだ小学生の頃、あるバラエティー番組で瓦を何枚割れるか?っていう企画があってさ。元ボクシングチャンピオンが予想に反して3枚しか割れなかったのに対して、インドネシア元大統領夫人が9枚割ったんだ」
「す、凄いですね……」
女性でもそれほど割れるものなんだなぁ……と月並みな感想しか出てこないが。
「そんなわけで、瓦割りは力任せにやるもんじゃない。どれだけ上手く《圧》をかけるか、ってことにコツがあるんだ――つまり」
そこまで言うと、巨大な岩をぺたぺた触り、手を止め、思い切り1点に向かって拳を振るった。
「せいっ!!」
『ドン!!』と言う効果音と共に、岩に小さいが、確かな亀裂が走った。
「うっそぉ!?」
「……僕は何と無く予想してたよ」
「――と、まあ……SAOってクリティカルポイントとか妙に現実的に設定されてるからさ、こういう一見クソ硬い《破壊不能オブジェクト》一歩手前の岩にも、《脆弱部分》が存在するんだよ。だから、そこへ思い切り圧を加えてやれば、瓦割りと同じ原理で割れるってことさ」
その数時間後、見事オニキスさんは岩を割り、《体術》を習得したのだった。
◆
夕暮れの街を3人で歩く。真ん中にはクラリスが。彼女を挟む形で左に俺、右にアラン。
クラリスを見ていると、顔は全然似てないのに、妹の杏を思い出す。
あいつに、反抗期って感じのものはなかったけど、あったらこんな感じだったのかなぁ?とか、只俺がからかい過ぎてるのかなぁ?とか、思う。
――第2層主街区《ウルバス》。
《体術》習得の帰りがてら、俺達は今晩の夕食の買出しに来ていた。
擦れ違う人々は皆明るく、街は活気付いていた。
俺達はNPC経営の商店の前で立ち止まっている。
「やっぱり醤油ってないですよねぇ……味噌もないですし。やっぱり基本洋食になっちゃいますよねぇ~」
ウィンドウを開いて食材を見ながら、クラリスが呟く。
俺は、最近ずっと思っていたことを訊いてみることにした。
「なあ……クラリスってさ、現実でも料理ってしてたのか?」
「……お母さんが検察官で、単身赴任してるんで、家にはお父さんとわたしだけしか居なかったんです。お父さんも仕事してますから、ご飯はわたしが作らないと。……だから、現実でも料理はしてましたよ。というか、自分で言うのもなんですけど、得意です」
「へぇ!」
アランが感嘆の声を上げる。
イギリスからの留学生で、寮暮らしだと言っていたアランとしては、料理上手というのは素直に凄いと思っているのだろう。
だけど、俺としては別の驚きがあった。
「お母さん検察官なのか。……俺、法学部だからさ、素直に尊敬するよ」
因みに俺の志望は《敵》である弁護士なのだが。
「……オニキスに弁護してもらうのは何か恐いね」
笑いながら言われると、カチンとくる。
「お前……もしお前の裁判になったとき、絶対有罪にしてやるからな」
「前科持ちはごめんだなぁ……」
苦笑するアラン。
こいつめ。
黙っていたクラリスが、こちらに振り返った。
「なんだか、親近感が湧いてきますね」
ふふっ、と微笑する。
思わず見惚れそうになるが、俺は彼女持ちなのだ。
明日香ごめん。……今後は戒めよう。
「さて、買い物も終わりましたし、帰りましょうか」
「そうだね」
「腹減ったなぁ~」
こうしてまた、1日が終わる。
俺達はこんな平和な日々を、どれだけ繰り返せるのだろう。
本当は、1日でも早く終わればいい。現実に1日でも早く帰りたい。
でも、こんな日が続くなら、と思ってしまう。
だけど……この平和に見える日々も、危険と隣り合わせだ。フロアボス攻略も、レイドリーダーが死亡するような状況なのだ。
それに、俺達の現実の肉体は、徐々にではあるが、確実に死へと向かっている。
それでも、願わずにはいられない。
明日も、明後日も、今日のような平和な日でありますように、と。
平和な日々が続くと良いですね。
キリトが12月4日から2泊3日で山篭りして、その2日後にオニキスが訪れます。
数時間でクリアされちゃキリト涙目ですね(笑)
次回は…決めかねてます。とりあえず2層ボス戦に参加したりしません。