誤字の指摘などもよければ。
部分部分に独自解釈があります。
2024年7月6日
「はぁ……!!」
「止めろォ!!」
コートの男が握った《大鎌》が、オレンジプレイヤーの首を刈り取る。
――これで4人目。全て倒した。
本来のターゲットは今回もいなかったが、それならそれで問題はない。
コートの男……《黒の死神》が少女を助けたのは、只の気まぐれではなく、PKに襲われていたからだった。
死神にとって、PKは全て敵だ。
「――あ、あの!お礼を……」
少女は畏怖と恐怖を感じつつも、死神に歩み寄る。
「……必要、ない」
仮面から漏れる、曇もった冷たい声。
それだけ言うと、死神は忽然と姿を消した。
《隠蔽》スキルを使ったのだろう。
先ほどいた草原から少し離れた位置に、死神が顔を出した。……顔ではなく仮面だが。
死神の出で立ちは、全身を覆う黒い皮のコートに、顔には白い仮面。190センチ近い身長と、白い長髪。
「――あ゛ぁっ」
頭が痛むのか、額を押さえ、膝立ちになる死神。
「はぁ……はぁ……」
――死神の指が仮面に触れ、取り外されると……白い長髪が抜け落ち、本来の黒髪が現われ、体格も変わった。
その仮面の名は《幻惑の仮面》。随分昔にモンスターからレアドロップしたアイテムだった。
死神はウィンドウを開くと、装備画面を操作して、コートと仮面をストレージに収納し、普段着に着替えた。
そして、ポケットから転移結晶を取り出す。
「……転移《フローリア》」
呟くように、小さい声で囁かれるが、システムは命令を正確に認識した。
次の瞬間、死神の身体は青く輝き、今度こそこの階層から姿を消えた。
◆
転移門を使って俺が降り立ったのは、第1層《はじまりの街》だ。
ここに、アランとクラリスはいるはずだ。
俺はクラリスが泊まっている宿屋に向かって歩き出すが――その途中で、見知った人物を見かけた。
「……アラン」
アランは、クラリスとは別の宿屋から出てきたところだった。
「――オニキス。……久しぶりだね」
現実とは違い、顔に変化はないが、声に疲れが感じられた。
「ああ。……その後、クラリスはどうなんだ?」
――あの日、記憶を失ってから、クラリスは宿屋に引き籠ってしまっている。
精神的に、大分参っている様子でもあった。
アランはクラリスを看病すると決め1層に留まることを選び、俺は色々思うところがあって、前線を張り続けている。
「……解らないよ」
「何だって?」
「……会ってないんだ、最近。こっちは全部覚えてるのに、クラリスさんは何も覚えてなくてさ……」
「……そうか」
すると、アランは苦笑して話し始めた。
「――知ってるかい?SAOでは倫理コードを解除すれば、性行為も可能なんだ。……レストランや酒場で引っ掛けた女性と最近は遊んでるよ。……今もやってきたところだ」
「……アラン」
「軽蔑してくれよ!!」
アランが苦しげに叫ぶ。
「……頼むよ。僕は……最低だ。クラリスさんを守れなかったどころか、こんなっ!!」
「……それは、俺だって同罪だよ。……それに、俺だって他人を責められるような――っ」
「ど、どうしたんだ?」
「いや……最近寝不足で、頭痛がするんだ。変だよな、ゲームの中なのにさ」
ニヤリと、随分久しぶりに笑う俺。
「ほら、行こうぜ。クラリスの見舞い」
◆
俺達は、クラリスが閉じ籠る宿屋の部屋の前までやって来た。
扉に向かってノックする。
「クラリス……オニキスだ。アランと2人で会いに来たんだ……開けてくれないか?」
数秒待つ。
『ガチャリ』
応答は無かったが、鍵を開けてくれたようだ。
「入るぞ」
扉を開けると、ベッドに腰掛けた部屋着姿のクラリスが居た。
「ひ、久しぶりだね……クラリス」
アランの笑顔が硬い。それも当然といえば当然だが。
「ご無沙汰してます。……アラン、さん。……オニキス、さんも」
「おう!元気だった――わけないか。……何か、思い出せたか?」
俺は極力表情を変えないように、努めて明るく尋ねる。
「……ええ」
少しの沈黙の後、クラリスは短く答えた。
「……親の名前、日常的な記憶は殆ど……。でも、この《世界》のことは相変わらず、何も」
「そ、そうか……焦る必要はないよ。ゆっくり、思い出せばいいよ」
一瞬声が引き攣るが、どうにかそう言ったアランは、ベッドの近くに置かれた椅子に座った。
「なあ……俺、立ちっぱなしなわけ?」
なんとも居心地が悪い。
「クラリス……隣、座って良いか?」
「駄目です」
即答だった。
「何でだよ!?良いじゃんか隣に座るくらい!」
「……馴れ馴れしいんですよ。……あなたみたいな遊んでそうなヒト、隣に座らせたくないです」
「――なっ」
記憶は無くしてもたまに出る毒舌は消えないのか!?
いや、でも。このノリで話し続ければ……もしかしたら。
「もし、オニキスが何かしたら、ハラスメントコードでバン出来るから大丈夫だよ」
アランは一瞬苦い表情になりながらも、どうにか苦笑めいた表情を作ることに成功した。
クラリスはアランが言ったことの意味が解らないんだろう、首を捻っている。
「ひでぇ言い様だな、2人して。つーかクラリス。『見た目に騙されちゃいけない』んじゃなかったのかよ?お前が言ったんだぜ」
「……そんなこと、わたし、言った覚えありません」
……駄目か。
「――でも」
ん?
「……でも、オニキスさんが、アホだってことは何と無く覚えています」
「何でそんなことは覚えてんだよ!?」
「きっとあれだよ。深く刻まれた記憶は思い出しやすい、とかあるのかも。……つまり、クラリスさんは日常的にオニキスをアホだって思ってたっていうことじゃないか?」
アランが推測するが……もし、それが本当なら、遺憾の意を表明したい。
……あれ?何かデジャヴってないか?
って、俺が既視感感じてどうする。
――本来のクラリスなら、ここで笑うなりしたのだろうが、今のクラリスは完全に冷めていた。
「……それで、あなた達は今日は何をしに来たんですか?……独りにしてほしい、って……前にも言いましたよね?」
怒気すら孕んだ声で、クラリスはそう呟いた。小さくて、耳を疑ったが、聞き間違えではないだろう。
「……見舞いだよ。決まってるだろ?」
「……頼んでません」
「……っ」
アランの顔が、遂に耐えられなくなったのか、苦渋に染まる。
「そ、そうだ!!」
俺はストレージから、色んな種類の花々を取り出した。
「……ここへ来る前に、47層で摘んできたんだ。お前、花好きだったろ?」
俺が取り出した花を呆然と見詰めていたクラリスだったが、小さく口を開いた。
また、『頼んでない』とでも言われるのかと思ったが、違った。
「……あ……ありが、とう」
ありがとう。
小さかったが、絶対間違ってない。
「よかった……アラン、そこの花瓶に水入れてきてくれ」
俺は、棚の上に置いてあった何も入っていない花瓶を指し示した。
「……解った」
アランはそう言って、花瓶を手に取ると、部屋を出ていった。
……これで、少しは落ち着けばいいが。
「――……あの」
「ん?」
クラリスから声をかけてきたのは、今日初めてじゃないだろうか。
「……どうして、あなた達は、こんなわたしに優しくしてくれるんですか?……わたしが、あなたか、アランさんと以前恋仲だったとか?」
「ははは……違うよ。俺、彼女いるし」
「そうですか……なら、どうして?」
そうだなぁ……。
どうして、優しくするのか、か。
「……クラリスが女の子だから。男が女に優しくするのは当然だろ?」
「…………」
この答えでは不服そうだ。
なら。
「俺達は友達って感じでもないんだよな……何つかーさ……《仲間》なんだよ。仲間に優しくするのも、見舞いに来るのも当然だ」
「……クッサいですね」
『くすっ』
「――え?」
クラリスの顔を凝視するが、相変わらずの仏頂面だ。
でも……確かに、俺はクラリスの笑い声を聞いた気がした。
◇
「馬鹿ですね……」
独りになった部屋で、少女は掠れた声で呟く。
「……全然、思い出せない」
余計なことは思い出せるのに、大切な、大切だったはずの……あの2人との思い出は取り戻せない。
「……何で?」
涙が零れる。
『馬鹿』なのは誰だ?彼らか?あんな態度しかとれない自分か?
――でも、もうすぐそれも変わるかもしれない。
そんな予感が、クラリスにはあった。
《黒の死神》関連はシリアス気味になりますので、本編で多少緩みます。
《黒の死神》がPKを狙う意味。それが、少し今回で解りましたかね?
閑話 復讐者の日付を2024年某日から2024年6月某日に変更しました。
次回はフロアボス戦となる予定です!