ソードアート・オンライン 漆黒の復讐者   作:eldest

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 感想や評価など、よかったら送ってください。
 誤字の指摘などもよければ。

 短剣のソードスキルは完全オリジナルです。青オオカミの名前も勝手に付けました。
 部分部分に独自解釈があります。
 例を挙げれば……いえ、できれば気にしないで下さい。無理がないように配慮はしたつもりです。
 少々本編と矛盾が発生してる部分がありますが、そこは目を瞑っていただければ。

 4o1さん、なっとんさん、お気に入り登録ありがとうございます!


第2話 はじまりの日・後編

 19:03。俺達は足早に待ち合わせ場所だったNPCカフェを辞した。

 1時間近く待ったが、俺の待ち人であるプレイヤー名【Asuka】は現われなかった。

 3人で導き出した結論は、そもそも、アスカはSAOにログインしていない、というものだった。

 

「――すまない。……ログイン前に、メールの1つでもやり取りしとくべきだった」

「ケータイのマナーモード解除し忘れてたんですよね?メールどころか、着信がきてても気付かなかったんじゃないですか?」

 

 クラリスがジト目で俺を見上げる。

 

「……テレビかニュースサイト……何でも良いけど見聞きしてれば、君は本来ここにはいないよね」

 

 隣を走りながら、アランが苦笑する。

 

「なにせ、デスゲーム宣告の僅か10分前にログインしたんだからさ。――全プレイヤー中、1番不幸かもしれない」

「……ひでぇ」

 

 泣きたくなるのを堪えるために、走るのに集中する、が。

 

「いーですね、ヴァーチャルデート。……遠距離恋愛かぁ~」

 

 クラリスのこれは、妬みなのか、それとも野次ってるだけなのか。

 

「…………」

 

 アスカ……本名は美崎明日香。高校時代から付き合っている同い年の恋人。

 高校を卒業後、俺は地元の国立大学へ、明日香は上京して東京の大学へ、それぞれ進学した。

 いわゆる遠距離恋愛、という形になってしまったわけだが、毎日のようにネット回線を使ったビデオ通話をしたり、長期休暇中は地元に帰ってきて2人で遊んだりと関係は問題なく続いていた。

 そもそもSAOベータテストに応募したのも、ゲーム好きの明日香に付き合ってのことだった。

 なのにベータテストに当選したのは、小学生の頃に携帯ゲーム機で少しやってたくらいの俺だけ……。

 それを聞いた明日香はモニター越しに『何でレベリングのやり方も碌に知らない圭介がベータテストに当選して私が落ちるのよ!?』とえらく憤慨したものだ。

 その後『初回ロットは絶対手に入れてみせるから!』と息巻いていた明日香だったが、宣言通りネットショップで予約購入してみせた。それはもう、物凄い執念だった。

 そして、SAO正式サービススタート前夜、お互いバイトを空けられなかった俺達は、18:00にNPCカフェ――赤い看板が目印――で待ち合わせすることにしたのだった。

 

 どうしてこうなった。と、こうなるに至った経緯を脳内で回想していた俺だったが、改めて結論付ける。

 明日香は、いや、【Asuka】はこの《浮遊城アインクラッド》に存在しない。

 バイト先で世間話程度に聞いたのか、テレビのニュースか、或いはウェブサイトなのかは知らないが……おそらく、明日香は茅場の犯行を事前に知ったのだろう。

 そもそも、あの時間にログインしておいて何も知らなかった俺の方がおかしい。というか知ってたらログインしてない。

 

「……ふぅ」

 

 考えていたら余計に悲しくなってきた。

 SAO内の酒で酔えるなら、今夜は自棄酒に興じていただろう。……残念ながら酔えないが。

 

「着いたよ!」

 

 明るく言ってアランが立ち止まった。

 俺達がやって来たのはNPC経営の武器屋だ。

 だが、看板が無いどころか、屋内ですらなくおっさんが独りいるだけの露店。そのためか、俺達以外周囲にプレイヤーは見当たらない。

 VRMMOの特性上、店が極端に混雑しないように、同じような店が幾つも点在している。つまり、この露店も見た目はともかく立派な武器屋だということだ。しかも価格も品揃えも《はじまりの街》全店同一。

 

「……見た目に騙されちゃいけないんですね」

 

 クラリスが教訓めいたことを呟いた。

 

「あはは……僕は《片手直剣》に《盾》持ちのタンクを目指すつもりだ。2人はどうする?」

 

 これからこの3人でパーティーを組むなら、役割分担が必要だ。と、言いたいんだろう。

 

「わたしは、槍が良いかな……」

「その心は?」

 

 俺は冗談めかして訊いてみた。

 

「えっ?こころ?……ん~……リーチが長いから、モンスターに近づかなくてもいいかなって、思って」

 

 なるほど。

 

「解った。じゃあオニキスは――その顔は、もう何を買うのか決まってるね?」

 

 アランの問いにニヤリと笑うだけで答えず、俺はNPCに話しかけた。

 

「武器買いたいんだけど」

「にいちゃんらっしゃい!ナンにする?」

 

 おお。通常のショップ店員とは明らかに異なる言い回し。流石露天商のおっさん。

 

「さて……」

 

 俺は表示されたウィンドウを眺める。

 《はじまりの街》で買える武器は、各スキルにあわせた初期装備だ。

 俺は、全プレイヤーがスタート時点で所持している《スモールソード》を売り払い、投げナイフなどの消耗品を除いて、最安値の装備を選択し、購入した。

 最初から持ってる所持金1500コルから、先ほど道具屋で買った回復ポーションと解毒ポーションの代金も合わせて引いても、金にはまだ余裕がある。

 

「まいどあり!!」

「……元気いいな、このおっさん」

 

 俺は呆れ半分、感心半分に呟いた。

 

「クラリスさん先にどうぞ」

 

 レディーファーストってやつですか、アラン君。

 

「え~と……品物見せてもらえますか?」

「嬢ちゃんらっしゃい!今日も別嬪さんだね!おじさんサービスしちゃうよ!!」

「「は!?」」

 

 いくらベータテスターでも、そんな台詞がNPCから出てくるとは予想もしていなかった。

 

「え?えっ!?」

 

 言われたクラリス本人が、1番テンパっている。

 

「と、とりあえずウィンドウ見てみなよ。――ホントに割引されてたら、僕のもついでに買ってくれ。代金は後でちゃんと払うから」

「おい」

 

 だとすれば、俺だけ損をしたことになるだろうが。

 

「……あれ?」

 

 言われた通りウィンドウを眺めてたクラリスは、首を捻る。

 

「ん?」

 

 アランがクラリスの横から――いや、上から覗いて、そのまま俺の方は向かずに訊いてきた。

 

「オニキス――《スモールスピア》の価格は?」

「490コル」

 

 即答した。

 

「「割引されてない……」」

「まあ、そんなに世の中甘くないよな」

 

 

 装備を整えた俺達は《はじまりの街》北西ゲートを抜けて、夜の帳に包まれた広大な草原を走っていた。

 時刻は午後8時半。普段なら夕飯を食べてるはずの時間だ。

 おそらく、もう速い連中――十中八九テスターだろう――は《ホルンカ》に辿り着くだけではなく、《森の秘薬》クエストもクリアしている。

 俺はともかく、アランは絶対に《アニールブレード》は手に入れておくべきだ。あの片手直剣は強化すれば3層まで使えたはず。

 ――不意に。眼の前にモンスターがポップし、こちらがターゲットしないうちに飛び掛ってきた。

 プレイヤーの多くが青オオカミと呼ぶ、そして、プレイヤーが初めて相対することになるアクティブモンスター《フィアスウルフ》。

 

「くっ――はぁっ!!」

 

 武器屋最安価の《スモールナイフ》を正眼に腕を引いて構え、一気に腕を伸ばす。

 その一連の動作によってソードスキルが発動。刀身をビリジアンのライトエフェクトが包み、システムのモーション・アシストによって身体が半ば勝手に動く。

 《短剣》基本突進技《スターブ》。威力は低いが、突進と共に突きを繰り出し、走る勢いを殺さず放てるの特徴だ。

 急所である眼を貫いたお陰だろう。青オオカミは、視界の端に【CRITICAL】と表示しきるのも待たずに、HPが0になり青い破片を撒き散らして消滅した。

 技後硬直は直ぐに解け、俺は殆ど止まらず、そのまま走り続ける。短剣のソードスキルは全般的に技後硬直が短い。

 眼の前に、今倒した《フィアスウルフ》のドロップアイテム《フィアスウルフの牙》、獲得コルと経験値が表示される。

 

「GJ!!」

 

 最後尾のアランの労いに、振り向かずも「サンキュ」と短く返す。

 視界の左端には、3本のHPバーとプレイヤーネーム。

 俺が倒したオオカミの経験値とコルはパーティー3人に自動均等割り。ドロップアイテムはパーティー間でのストレージに格納され、後で手動で分配する。

 更に2体、俺達を挟むようにして、《フィアスウルフ》がポップした。

 まだ、《スターブ》の冷却時間は終了していない。

 急ブレーキをかけ一気に止まり、砂埃を舞い上げる。

 《フィアスウルフ》が俺に向かって飛び掛る。

 《スモールナイフ》を逆手に持ち、肘を曲げて切っ先を上に向け掲げる。刀身をクリムゾンのライトエフェクトが包む。

 ――間に合うか?いや、間に合わないなら!

 モーション・アシストに身体が押されるが、更に、自身の運動命令によって速度をブーストさせる。

 

「はっ!!」

 

 短い気合いと共に、刀身が脳天に、根元まで突き刺さり――爆散。

 《短剣》初級突き技《ゴアー》。威力は《バーチカル》以上だが、発動前の隙が大きく、技後硬直も今使えるスキルの中では1番長い。おまけに自分の身長よりも高い位置に、相手の頭があると決まらないという、非常に扱い辛いピーキーなスキルだ。

 背後から、同じく硝子を割ったかのような破砕音が聞こえる。

 再びウィンドウが表示され、2体分の経験値とコルを獲得したことを知らせる。ドロップアイテムは牙と《フィアスウルフの眼球》……レアドロップだろうか?

 一時止まってしまったが、硬直が解けると同時に走り出す。

 左端に眼をやる。

 盾によるガードを貫通したのか、アランのHPバーが僅かに削れたことを除けば、俺達はここまでほぼ無傷だ。しかし、油断はできない。

 既に2桁の青オオカミを狩ってるが、3人ともレベル1のまま。未だに危険な綱渡りをしていることに変わりはない。

 

「2人とも大丈夫か!?」

 

 前を見据えたまま、後ろに声をかける。

 

「わたしは大丈夫です!」

「僕も大丈夫だ!そろそろ森の入り口が見えるぞ!!」

 

 アランのその声が合図だったかのように、ようやく森が視界に現われた。

 

 

 森に突入してから《ホルンカ》までの道中、この辺一帯に生息してるはずの植物型モンスターには遭遇せず、代わりに数名のソロプレイヤーと擦れ違った。半ば予想通り、先に来ていたプレイヤー達によって、周辺のMobは狩り尽くされたのだろう。現在はリポップ待ちというわけだ。

 

「ここが《ホルンカ》……思ったより小さいですね」

 

 クラリスさんの素直すぎる感想に、思わず笑みがこぼれた。

 

「そりゃ、村、だからね。さっさと入っちゃおう」

 

 僕達はなんとなく、横一列になって村に入った。

 身体全体が村の敷地内に入ったところで、視界に【INNER AREA】という紫色の文字が浮かび、安全圏内に入ったことを告げる。

 流石に入り口に固まっていると邪魔なので、狭い広場の中央まで歩いて行く。

 

「「「……ふぅ」」」

 

 張り詰めていた空気から解放され、3人同時に溜め息を吐いた。

 《ホルンカの村》は、民家と商店合わせても十数棟しかない小さな村だ。《はじまりの街》とは比べるべくもないが、片手剣士には重要なクエストを受注することができる。

 だが、Mobのリポップまでまだ時間があるだろうし、アイテム分配などを先に済ませてしまおう。

 

「えーと……アイテム分配はどうしよう?」

 

 2人に尋ねる。

 キョロキョロ辺りを見回していたクラリスさんがこちらを向いた。

 

「わたし、殆ど2人に戦闘まかせてしまっていたので、アイテムなんて受け取れないですよ」

 

 そこまで気にすることはないと思うが……確かに、クラリスさんは僕とオニキスが倒し損ねたMobに一突きして止めを刺す、という役割だったので、本格的に戦闘に参加したわけじゃない。

 でも、それを言うなら僕だって……。

 

「なら、僕も受け取れないよ。《短剣》なんていう、武器の中では1番リーチが短い武器を使った超近接戦闘をこなしたヒトがいるからね。しかも殆ど1人で片付けちゃったし」

 

 僕はタンクとして、前方を2人に任せて背後を警戒していた。しかし、基本的にポップするのは前方だけだったので、タンクの僕が楽をしてしまった。

 本来は……というかベータテストの時は、横やそれこそ背後から襲われることも多々あったのだが、既に1度狩り尽くされていたせいか、ポップする量がそれ程多くなかった。

 

「それに、2人にはこれから《森の秘薬》クエに付き合ってもらうからね」

「なら今回は、俺の総取りってことで」

 

 そう言うとオニキスは、悪びれもせずにパーティー間でのストレージから、自分のストレージに全アイテムを移動させた。

 

「さて、お二人さん。これから10分間の自由行動にしないか?」

「オニキスさん、遠足じゃないんですよー」

 

 クラリスさんが冗談めかして突っ込んだ。

 

「で、2人はそこの武器屋見るなり、アランに付き合ってクエスト受注しに行くなりしてくれ」

 

 だが、オニキスは全く意に介さない。

 やれやれ。

 

「つまり、オニキスは、独りにしてほしいんだね?」

 

 彼は、《スモールナイフ》を買った時と同じように、悪ガキのようなニヤリとした笑みを浮かべている。……一体今度は何を企んでいるんだか。

 

「アラン君は理解が早くて助かる。では10分後にまたここで!さらばだ!」

 

 言うが速いか、そう広くはない村を入り口から見て左側へ走り、何処で曲がったのか、直ぐに姿が見えなくなった。

 

「……何がアラン君だよ、歳も背もそう変わらないのに」

 

 僕は苦笑して、取り残されたもう1人を見た。

 

「じゃ、僕等はクエスト受注しに行こうか」

「あ、はい!」

 

 武器屋を後回しにしたのは、ここで売っている武器全般に言えることだが……《ブロンズ》を冠した装備は、さっき通ってきた森に湧く《リトルネペント》という植物型モンスターが吐き出す腐食液に弱いのだ。これから受注しに行く《森の秘薬》クエの途中で、耐久値が全損してしまうだろう。

 

「あの……アランさん」

「どうかした?」

 

 僕が尋ねると、彼女は微笑んで話し始めた。

 

「わたし、チュートリアルを聞いてるうちに、重圧に耐え切れなくなって、潰れてしまいそうだったんです」

 

 それは、僕だって同じだ。あの《空気》に、汚染されるところだった。色々と無理がくる寸前だった。いや、彼は僕の強がりに気付いているようだったが。

 

「――折れそうになるたびに、オニキスさんが突拍子もないこと言い出して……『ってことは、性別変わってる連中はネカマか』とか、いきなりピアスの話始めたり。それで呆気にとられてたら、自分で答え言っちゃうし」

 

 僕も思い出して苦笑する。あれは狙ってやってるのか、それとも天然なのか。

 

「――いきなり笑い出したのも……正直言って、凄く怖かったんですけど……あれって、わたし達の気を逸らしてくれてたんですよね」

 

 《デスゲーム》から、という言葉は飲み込む。

 

「……ならますます、彼にばかりタゲを取らさせるわけにはいかないね」

「そ、そうですね。わたしも、が、頑張る努力をします!」

「うん、その意気だよ」

 

 先ほどの疾走とは正反対に、ゆっくりと歩く。

 眼の前には1軒の民家。ここのNPCから、《森の秘薬》クエストを受注できる。

 

 

「ふふふふっ」

 

 思わず笑い声が漏れる。

 

「手に入れた、手に入れたぞ……ふふふふっ」

 

 徹夜明けのような妙なテンションになっているのを自覚しつつも、笑いを抑えられない。

 最後に狩った《フィアスウルフ》からドロップしたアイテム、《フィアスウルフの眼球》が、なんと15000コルで売れたのだ。実に初期の所持金の10倍。

 もしかしたら、というかそうなんだろうが、希少な強化素材だったのかもしれないが、今は目玉よりも目先の金だ。

 予想以上の副収入を得て、俺が向かった先はNPCが経営する雑貨屋。

 そこで俺は、あるアイテム一式を購入した。

 結構な値段だったが、今後のことを思えばあって損はないし、必要なくなればプレイヤーに売るなり譲るなりすればいい。

 

「いや~良い買い物だった」

 

 俺は右手を振ってメニュー画面を出し、スキル画面をタップした。

 解放されているスキルスロットは2つ。2レベルに上がることで1つ増え、次は5レベル、その後は10レベル、20レベルと10レベルごとに1つずつ増えるのだが……今は既に片方が《短剣》で埋まっている。否!まだ片方空いている!

 俺は躊躇せずにあるスキルで残り1枠を埋めた。

 

「ふふふふっ……くははははっ!――何やってんだろ、俺」

 

 急に精神が現実に戻ってきた。

 

「明日香今何やってんだろ……?杏も……。父さんと母さん、そろそろ家に着いたかな……?」

 

 10分遅ければ、俺がこのデスゲームに囚われることもなかったんだよなぁ……たぶん。

 でも。

 

「まあ、俺と明日香が逆よりは良かったかな。待ってるだけなんて気が気じゃないだろうし」

 

 さて。

 テンションを入れ替えるように、再び笑い出す。

 

「2人の驚く顔が眼に浮かぶぜ!」

 

 

「クエストはちゃんと受けられたか?」

 

 2人に合流した俺は、開口1番そう尋ねた。

 

「大丈夫だったよ。他の人が受注中は受けられない、とか酷い変更されてなくて安心したよ」

 

 それは確かにぞっとしない。

 

「そうか……因みに2人とも、武器の耐久値回復はもうやっちゃったのか?」

「いえ、まだですけど……?」

「そうか!」

 

 俺はニヤリと笑う。

 ウィンドウを開いて、更にアイテムストレージをタップ、そこから《あるアイテム》を実体化させる。

 

「こ、これは!?」

 

 アランはもちろん知っていたのだろう、驚きの声を上げた。

 

「……何ですか?それ」

「フッ……《鍛治セット》だ」

 

 もちろん鍛治セット、などという名称のアイテムではない。

 鍛治に用いる《ブラックスミス・ハンマー》、《鉄床》、《炉》の3点と、《研ぎ石》を合わせて便宜上プレイヤーはまとめて《鍛治セット》と呼んでいる。

 つまりこれらを用いることで、NPC鍛治屋に金を払わずとも耐久値回復も、強化も、《武器製造》も行うことができるのだ。

 因みに俺が雑貨屋から購入したのは、《鍛治》スキルが0でも使える初心者用の《スモール・ハンマー》、同じく《スモール・アンビル》、そして携行型の小さめの炉とシンプルな研ぎ石だ。

 露店を開くための《ベンダーズ・カーペット》というアイテムも売っていたが、商いが目的ではないし、そもそも高いのでスルーした。

 

「ドヤ顔で言われても困るんですけど」

 

 おお、女子高生の反応はなかなかドライだ。

 アランがクラリスに用途を端的に説明した。

 

「――というわけで、この段階で《生産系スキル》を取ったオニキスはアホだってことだよ」

「……なるほど」

「おい」

 

 酷い言われようだ。

 

「お金を節約したい気持ちは解らないでもないけど、もっと取っておくべきスキルがあるだろ?《隠蔽》はともかく、パーティー組んでても《索敵》はなにかと重宝するし……」

「……金を節約したい?冗談じゃない。それだったら《鍛治セット》買った時点で大赤字だ」

 

 元を取るには一体何回強化と耐久値回復をすればいいのやら……。

 俺がこれらを揃えたのは決して金の節約が目的ではない。というか、強化と耐久値回復はおまけだ。

 

「なら――」

「まあ、実演してやるよ」

 

 俺はアランに被せるようにして言った。

 

「――《インゴット》だけが武器の素材だと思ったら大間違いだぜ」

 

 俺はストレージから《フィアスウルフの牙》を10個ほど実体化、それらをそのまま炉の中へぶち込む。

 炉の設定はもちろん、製造モードだ。

 紅いライトエフェクトが牙を包み、準備完了。

 俺はヤットコで赤熱した牙を取り出し、鉄床の上に移動させた。

 次に《スモール・ハンマー》をタップし、メニューを開いて、次々と選択肢を決定してウィンドウを消す。

 そして、設定を終えた《スモール・ハンマー》――ホームセンターチェーンに売ってる金槌っぽい――を掲げ、打つべし。

 カァン!カァン!とハンマーが小気味の良い音を奏でる。

 そのまま、数十回ひたすら打ち続けた。

 ――すると、遂に。

 赤熱し砕けた牙が、一際まばゆい白光を放った。

 粉々だった牙が輝きながら1つにまとまり、じわじわとその姿を変えていく。前後に薄く延び始め、次いで鍔と思わしき突起が盛り上がっていく。

 

「「おお……」」

 

 それらの工程を眺めていた2人が、小さく感嘆の声を上げた。

 数秒でオブジェクトのジェネレートが完了し、1本の剣――というにはいささか頼りない長さの――がその姿を現した。

 《短剣》カテゴリー《ボーンナイフ》。

 骨が材料なだけあって、その質感は金属武器とは異なっているが、特有の光沢がある。

 大きさも、折りたたみ式だった《スモールナイフ》の2倍になり、刀身は片手直剣と同じように、鞘に収めることになる。

 俺は事前に同じく雑貨屋で買っておいた小さめのシンプルな鞘を実体化させ、穴へ刀身を滑らせ収めた。

 それから《鍛治セット》の実体化を解き、ストレージに格納。

 そこまでやってから、俺はニヤリと笑い2人を見る。

 

「さて、アラン君。何故この村で武器を新調しない方が良いのかな?」

「――《ブロンズ》を冠した装備は、《リトルネペント》が吐き出す腐食液に弱いからだよ」

「では、クラリス。何故《ブロンズ》を冠した装備は、腐食液に弱いんだ?」

 

 『よ、呼び捨て……別にいいですけど……』と前置きしてから、さも当然のように言った。

 

「もちろん、腐食液が金属を溶かしちゃうから――あ」

 

 クラリスも気付いたようだ。

 

「その通り。正確には《青銅》を溶かす液体なわけだけど、あの腐食液に《骨》は溶かせない」

 

 俺はメニュー画面を開き、《装備》をタップして装備欄を表示させ、《スモールナイフ》を解除して、代わりに《ボーンナイフ》を装備した。

 たちまち俺の右足に取り付けてあった《スモールナイフ》が消滅し、新たに左腰に《ボーンナイフ》がぶら下がる。

 

「《ボーンナイフ》の攻撃力は《ブロンズナイフ》より上、《スモールナイフ》に比べれば耐久値は若干落ちるけど、腐食液無効化のお陰で十分おつりがくる」

「……結構考えてるんだね」

 

 アランが感心したように呟いたが、それはつまり、俺が考えなしの馬鹿だと思っていたということだろうか。遺憾の意を表明したい。

 

「本当は2人の武器も作れれば良かったんだけど、生憎《牙》が足りない。それと、悪いが俺の《スモールナイフ》が1番弱かったから優先させてもらった」

 

 しっかりと誤解を生む前に弁明しておく。

 

「まあ、僕は別に構わないよ。《アニールブレード》を手に入れとけば、3層までは武器を新調する必要なくなるし」

「わたしも問題ないですよ。……というか、あの100均で売ってるようなナイフで戦ってたら危ないと思いますし」

 

 言われてみれば、確かに《スモールナイフ》の見た目は100均に売ってそうなナイフだ。……俺は、オオカミ相手に100均ナイフで戦っていたのか。

 

「顔、青いですよ」

「――いや、うん。大丈夫だ、クラリスさん」

 

 大丈夫だ。むしろ、100均ナイフで無傷に《ホルンカ》まで辿り着いた自分を讃えよう。

 

「――じゃあ、オニキスも大丈夫そうだし、そろそろリポップすると思うから、2人には悪いけど《森の秘薬》クエ、付き合ってもらうよ」

「はい!」

「おー」

 

 アランの呼びかけに、適当に相槌を打ちつつ、俺達は元来た森へと踏み出した。

 

 

 クエストのキーアイテム《リトルネペントの胚珠》は、《花つき》のネペントからしかドロップできない。そして、《花つき》の出現率はベータ時代から変更されていなければ、1パーセント以下だ。

 それを証明するかのように、先ほどからポップする《リトルネペント》は件の《花つき》ではない。

 もう既に、倒した《リトルネペント》は3桁に達しようとしている。

 そして眼の前には、《リトルネペント》の《実つき》。

 

「ちょっと危ないけど――オニキス!クラリスさんを守ってくれ!!」

「解った!!」

 

 同じように《リトルネペント》の相手をしているオニキスは僕が何をしようとしているのか察してくれたのか、大きな声で叫び返した。

 よし。僕も腹を括ろう。

 《実つき》のツル攻撃を左手の《ウッドシールド》で強く弾き、戦闘を寸断させた。そして、右手の《スモールソード》を大きく頭上に振りかぶる。その動作でソードスキルが発動。刀身をライトブルーのライトエフェクトが包み、モーション・アシストによって身体が半ば勝手に動く。

 《片手直剣》単発垂直斬り《バーチカル》。それによって、ネペントの捕食器の上で揺れる《実》を粉砕――パアァァン!という凄まじいボリュームの破裂音が森を揺らす――そのまま捕食器をも断ち切り、無数の破片を撒き散らして《実つき》は破砕音と共に消滅した。

 しかし、《実》から溢れたシーグリーンの煙は空気中を未だ漂い、鼻を突く異様な臭気も消えない。

 ――狙い通り、視界に幾つものカラー・カーソルが出現した。

 右にも。左にも。そして後ろにも。煙に引き寄せられた《リトルネペント》達だ。このエリアにポップしていた個体が、残らずここへ集まろうとしている。

 本来なら、これは危険極まる行為だ。ベータ時代は、《実》を誤って割ってしまった、とある4人パーティーが、離脱もままならず壊滅した。因みに僕はそれを近くで見ていた。しかし、乱獲によってそもそもの個体数が減少している今はそんなことにはならないはずだ。

 

「オニキス!クラリスさん!僕と背中合わせに立ってくれ!!」

「「了解!!」」

 

 視界に、遂に目当ての《花つき》が現われた。

 僕達なら――この先も生き残れる。いや、この先も絶対生き残ってみせる!!




 何故か本編よりも明るく感じますが、3人の精神的危うさが少しでも伝わっていると幸いです。

 キリトがクエスト受注したのが午後7時、胚珠を手に入れたのが8時頃。村に戻ったのが9時です。

 アランとクラリスがクエスト受注した頃、彼は2階でまだ泣いていたのかもしれません。
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