誤字の指摘などもよければ。
部分部分に独自解釈があります。
少々本編と矛盾が発生してる部分がありますが、そこは目を瞑っていただければ。
今回は閑話です。
ZEROさん、ユシノさん、お気に入り登録ありがとうございます!
2024年7月3日
ズルズル、ズルズルと、店内に侘しい音が響く。
アインクラッド第50層の主街区《アルゲード》。その《アルゲード》で俺の知る限り最も胡散臭い、謎のNPCメシ屋《アルゲード食堂》で俺は夕食を食べていた。
今、俺が食べているのは《アルゲードそば》。KoBの団長殿曰く、『これはラーメンではない。断じて違う』。同じく副団長殿曰く、『醤油抜きの東京風しょうゆラーメン』。つまり、決して美味くはない。
ならば、何故俺はこんな店に入り浸っているのか……。
例えるなら、裏通りに面した売れないラーメン屋。この雰囲気が、俺の琴線に触れるのだ。
数分で丼を空にして、お冷を飲んでいたところだった。
『ガラガラガラ……』
スライド式のドアを開け、ノレンを潜って客が入ってきた。
俺は思わずその客を凝視してしまった。まさか自分以外にこんな店で夕食を食おうなんて思う変わり者がいようとは思わなかったからだ――しかし。
「なんだお前か――まだ生きてたか、クライン」
「――オメエ……またンなモン食ってんのか。……暫くぶりだなァ、キリトぉ!」
入ってきたのは、SAO内での初めての友人である、野武士ヅラの刀使いだった。
クラインが俺の向かいの席に座ると、陰気な店主が曇ったコップを持ってやって来た。
「……注文は?」
「……やっぱ頼まねェとマズいのか?」
「店主のためにも注文してやれよ、クライン。……俺のオススメは《アルゲード焼き》だ」
「て……てめえ……。オレも《アルゲードそば》で――」
「何事も経験だぞ、クライン。チャレンジしてみろよ」
「メシ食うのに何で一々チャレンジしなきゃならねェんだよ!?」
「あの混沌とした味は、一見の……いや、一食の価値ありだ。物は試しだぞ、クライン!」
「なおさら要らねェよ!!店主ッ!!オレにも《アルゲードそば》一丁頼む!!」
注文が確定したのか、クラインの前に支払いのウィンドウが開く。こんな店でも現金払いではないのだ。
《アルゲードそば》の価格は500コル。1層でよく食べていた黒パンが1コルなので、それに比べると中々良いお値段だが、階層が上がるに連れて物価は上がっていくので、実は50層でこの価格は相当安い。
注文を聞いた店主が厨房へと戻っていく。
俺が知る限り、ここの店主はアインクラッドで1番やる気のないNPCだ。料理は注文してから数分は出てこない。酷い時には10分以上待たされる。
クラインがコップの水を空にするのを見てから、俺は尋ねた。
「……クライン、何しに来た?」
そう。ばったりこんな所でこいつに出会うはずがないのだ。美味いNPCレストランならともかく、《アルゲード食堂》で偶然知り合いに出会うことなど有り得ない。その確立は、もはや天文学的な数字だと言える。
「おう。忘れるところだったぜ」
クラインはコップを音をたてて卓上に置き、何時に無く真面目くさった顔をした。前にこの顔を見たのは……。
「……おめぇ、《黒の死神》って知ってっか?」
「……《黒の死神》?」
恐らく、プレイヤーの二つ名だろう。
有名プレイヤーが二つ名を頂戴することは稀にある。例えば件の副団長殿は《閃光》や……一時期《狂戦士》とも呼ばれ、団長殿は自身の使うスキル由来の《神聖剣》、情報屋のアルゴは《鼠》。俺自身も――大変不本意ではあるが――《ビーター》《ブラッキー》《黒の剣士》エトセトラ、エトセトラ……と呼ばれている。
――まさか……。
「違うぞ」
「いや、まだ何も言ってねェだろ」
「……大体想像つくよ、お前が何考えてるのか。――言っとくが、クライン。俺は他人に《死神》なんて呼ばれるような真似はしたことないぞ」
「そうだとは思ったンだがよ……一応確認しただけだ。それでよ、キリト。……ホントに聞いたことねェか?」
「ない」
俺はきっぱりと断言した。
俺が聞いたことがないってことは、その《黒の死神》とやらは攻略組ではない。となれば、ソロの俺が他人から噂話を聞くことはそうないので、知ってるわけがない。
「そうか、おめぇソロだしな」
「うるせえよ――で?まさか、そいつが俺かどうか確かめにわざわざこんな所まで来たわけじゃないだろ?」
「ああ、もちろんそうだ。もしまだ知らないンなら、一応おめぇの耳にも入れとこうと思ってな。――その《死神》はな……PKKらしい」
「PKK!?」
俺は思わず立ち上がりそうになるのを懸命に堪えた。
PKK……プレイヤーキラーキラー。MMOでは、それ程珍しい行為ではない。正義の味方や、アンチヒーローをロールして、悪者であるPKを倒すのはままある話だからだ。
だが、SAOではそう簡単な話ではない。
デスゲームと化したこのSAOでは、プレイヤーをキルすれば現実の肉体も死に至る。俺達は警察でも、ましてや死刑執行人でもないのだ。例え相手がオレンジカーソルだろうと、倫理的に、PKKは許される行為ではない。
しかも――倫理以上に大きな問題がある。
「――そんなこと続けてたら……近いうちにそいつ、殺されるぞ」
自分達を殺そうとする相手を、レッドが放っておくはずがない。圏外に出た瞬間、キルされてもおかしくないだろう。
「ああ。そいつもそこまで馬鹿じゃないンだろ……噂では、顔を隠すために白い仮面をつけてるらしい」
「仮面……?今までそんな装備見たことないけど」
「おめぇのその剣と同じでレアドロップなんだろうな。プレイヤーメイドかもしれねェが……足がつくようなモン身に着けてるとは思えねェ」
「……それは解った。だが、何故《死神》なんだ?……黒は察しがつくが」
「まあ、おめぇの想像通りだろうが、全身の装備を黒でかためてるらしい。……《死神》の由来はそいつの武器が《大鎌》だからだ」
《大鎌》。クラインが使う《カタナ》が《曲刀》から派生するのと同様、《大鎌》は《長槍》から派生するエクストラスキルだ。
しかし、《大鎌》使いはほぼ存在しないと言っていい。何故なら長所が少なく、また、扱い辛いからだ。
《長槍》の長所はリーチと装甲貫通力。だが、《大鎌》はそのどちらも殺す。
《大鎌》の唯一の長所は範囲攻撃だが、パーティーを組めば意味をなさないし、ソロ攻略でMobに囲まれれば高確率で死ぬだろう。
更に言えば、《長槍》を使い続けていたプレイヤーが、全く理念の異なる《大鎌》を使えばどうなるか……慣れない新調したての武器を使う以上に危険なことは間違いない。
「やってることもそうだが……武器からして、随分奇天烈な奴みたいだな……だけど――」
一体、何があったらそんな道を進むことになるのだろうか?
――もし……もし、サチがモンスターにではなく、プレイヤーに殺されていたら……俺も、そんな道を進んでいたのだろうか。
「なンでおめぇが暗い顔してンだよキリト!」
「……あ、ああ」
「……おまち」
まるでタイミングを測っていたかのように、店主がクラインの注文した《アルゲードそば》を持ってやって来た。
「やっと来やがったか……おっしゃ!メシだ、メシ!!」
そう言うとクラインは、卓上から安っぽいワリバシを取って割ると、ズルズルと啜り始めた。
「――はぁ……やっぱ味が薄いよなァ……」
「まあな……醤油入ってないからな」
「しょうゆラーメン食いたいなぁ……」「しょうゆラーメン食いてェ~なァ……」
互いの呟きが重なる。
俺達2人は、もう20ヶ月は口にしてない……しょうゆラーメンの味に、思いを馳せるのだった。
今回は主要3人が一切登場せず、キリトとクラインの雑談回になってしまいました(笑)
時間が一気に進みましたが、次回は一気に戻るので安心してください。
《大鎌》ですが、本編には登場しませんので、《槍》の派生というのはオリジナルです。どちらも長柄武器なので、そういうことにしました。
日時は、ソードアート・オンライン まとめwikiを参考にさせて頂きました。
それから、短い閑話をこれからもぼちぼち挟んでいきます。
次回は、はじまりの日・後編の続きとなります。
※片手曲剣→片手曲刀に変更です。原作通りにしました。