ソードアート・オンライン 漆黒の復讐者   作:eldest

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 感想や評価など、よかったら送ってください。
 誤字の指摘などもよければ。

 部分部分に独自解釈があります。

 閑話にて、《大鎌》の説明の時に《槍》の派生だと書いたのですが、《長槍》に変更しました。
 また、各話のタイトルに話数を付けました。
 
 今回出てくる《長槍》スキルも、もちろん《短剣》スキルもオリジナルです。

 少々本編と矛盾が発生してる部分がありますが、そこは目を瞑っていただければ。

 (・ω・)ノさん、お気に入り登録ありがとうございます!


第4話 墓標

 2022年11月7日

 

 眠い。瞼が落ちそうだ。

 だけど、今ここで眠ってしまうわけにはいかない。だって――

 

「何ですか?これ……ラザニア?」

「ラザニア――らしきもの、だね」

 

 わたしの疑問の声に、アランさんが答えてくれた。

 眼の前には、パンやスープなど、数種類の料理が並べられている。

 

「この突起が付いたパンは……?」

「それはロゼッタだね――形状は」

「え~と……アランさん?」

「ん?どうしたの?クラリスさん」

「何でさっきから煮え切らない言い方なんですか?」

 

 わたしがそう訊くと、アランさんは今まで黙っていたオニキスさんと顔を見合すと、2人同時に苦笑した。

 

「な、何なんですか?」

 

 2人揃って、一体何だというのだ。

 

「それがさ……SAOの料理は、プレイヤーが――と言っても、《料理》スキルの熟練度をある程度上げないと駄目なんだけど――作った料理はともかく、低層フロアのNPCが作った料理は当たり以外はすげぇ微妙な味なんだ」

「僕的にはそこまで酷いとは思わなかったけど――イギリス基準の僕の舌は信用しない方が良いよ。日本で食べた料理で、イギリス料理より不味かった食べ物は殆ど無かったからね……」

 

 オニキスさんが引きつった顔で、アランさんは苦い顔でそれぞれ言った。

 

「じ、じゃあ……このラザニアも?」

「ああ。……見た目通りの味だと思わない方がいい。――アランは2層の《タラン》で売ってる屋台売りの《タラン饅頭》って食ったことあるか?」

「あるよ。……あれ、見た目は中華まんだったけど、中身はカスタードクリームと謎の果物で――なのに、温めて売られてたんだ。噛んだ瞬間、クリームが勢い良く飛び出して、顔中がクリーム塗れになったよ」

「2層が《トーラス族》っていう牛モンスターが主のステージだったから、中身も牛肉かなんかだろって思って食ったら――」

「――まさかのスイーツだったっていうね。……そのラザニアらしき何かも、ミートソースの代わりに生クリームでも入っているのかもしれない」

 

 わたしも含め、3人の視線がラザニアらしき料理に注がれる。固有名は、《ホルンカの屋根》。

 

「そもそも《屋根》ってどういうことなんでしょうね……?」

「ラザニアは、アメリカではトタン屋根みたいに波打った生地が使われるんだ。SAOって武器とか英語読みだし……たぶん、そこから名前を付けたんじゃないかな?それに、《ホルンカの屋根》なんて名称の料理がメニューにあったら、『どんな料理何だろぉ~?』って思わず注文しそうでしょ?」

「まさしく5分前のクラリスがそうだったな」

「そうですね……」

 

 確かに、《ホルンカの屋根》?どんな料理何だろう?と思い注文したのは否定できない。

 というかオニキスさんは、たまにわたしの名前を呼ぶとき呼び捨てになるけど……たぶん年上なんだろうし、呼び捨てにするならするでどちらかに統一してほしい。でも、自分から言うのは何かおかしいよね。

 

「まあ、ここは毒見に慣れたアラン君に最初の1口を食べてもらおうかな?」

「確かに不味いとは認めてるけど、毒とまで言われるのは心外だよ!!そう言うオニキスが食べればいいじゃないか」

「じゃあ、3人で『せーのっ』で食べましょ!」

「「じゃあ、それで」」

 

 意外とあっさり2人ともわたしの提案に乗った。

 たぶん2人とも、本当は四の五の言わずにさっさと食べたいのかもしれない。わたしもお腹空いたし。

 

「――ああ、でも2人ともちょっと待って……食事の前のお祈りするから」

「「お祈り?」」

「うん、僕はキリスト教徒――クリスチャンなんだよ」

 

 そう言うとアランさんは、手を組んで瞳を閉じた。

 

「主よ。願わくは我らを祝し、また主の御恵みによりて、我らの食せんとするこの賜物を祝したまえ。我らの主、キリストによりて願い奉る。……アーメン」

 

 終わったのかな?と思っていたら、眼を閉じたまま、右手で胸の上に大きく十字を切りながら、『父と子、聖霊の御名によりて。……アーメン』と締めくくった。

 わたしとオニキスさんは顔を見合わせる。

 

「「い、いただきます」」

 

 ちゃんと手を合わせて言ったのは随分と久しぶりかもしれない。

 

「じゃあ、食おうぜ……覚悟を決めよう」

「オニキス、少し大袈裟だよ」

「あははは……」

 

 わたし達は一斉に、フォークに一口大に切った《ホルンカの屋根》を突き刺した。

 

「「「せーのっ」」」

『はむっ』

 

 思い切って口に入れた。

 

『もきゅ、もきゅ……ごくん』

 

 あれ?ラザニアってこんな味だったっけ?いや、違う。と、思わず反語になってしまうほど、わたしは混乱した。

 

「不味くはないが……絶対これミートソースじゃないよな?」

 

 と、オニキスさん。

 

「甘酸っぱい……」

 

 と、わたし。

 

「――何でラザニアの中身がクランベリーソースなんだ……?」

 

 と、唯一中身のソースの名前を知っていたアランさんは、困惑してそう言ったのだった。

 

 

 毒を食らわば皿までと、昔の偉い人は言ったもので……わたし達は、混沌とした味付けの料理を全て食べきった。1番まともだったのはロゼッタらしきパン。普通にパン以外の何物でもなかった。

 

「すげぇな、《ホルンカの宿》……全力で俺達の心を折りにきやがった」

 

 忌々しそうに呟くオニキスさん。こればかりは同意せざるを得ない。

 

「ホントですよね……宿なのに、わたし達に安息はないんでしょうか?」

 

 どうかあってください!反語じゃないでよ!と、口には出さずに祈る。

 

「……口直し、しようか」

 

 裁判官が判決を下すかのように、どこか重々しく言ったアランさんは、ストレージから例のリキュールを取り出した。

 

「なあ、このリキュールってさ……《リトルネペント》の分泌ぶ――」

 

 空気を読まないオニキスさんの口を、わたしは両手を使って物理的に閉じさせる。

 

「……止めないか、オニキス。不安になるから」

 

 アランさんも、もちろんわたしだってどうしても考えてしまう。……この瓶の中身って、青銅を溶かす――いや、止めよう。考えちゃいけない。

 『スポンッ』と音をたてて、アランさんがコルクを飛ばした。

 NPCに持ってきてもらったグラスに、リキュールを注ぐ。

 リキュールの固有名は《イエロー・リキュール》。もしかしたら、他にも赤とか青とかあるのかもしれない。

 

「あ、わたし未成年なんで――」

「心配するな、クラリス。ここのはノンアルコールだ」

「うぅ……」

 

 駄目だ、逃げられない。

 仕方がない、腹を括ろう。女は度胸だっ!

 

「じゃあ……クエストお疲れ様!それと3レベルになったことを祝して、乾杯!!」

「「乾杯!!」」

 

 アランさんの音頭で、わたし達はグラスを合わせ、鳴らす。

 グラスに口を付け、思い切って口に含む。

 ……あれ?

 

『……ゴクリ』

「――意外と、美味しいですね」

 

 これがわたしの感想だった。

 

「……甘いな。それに、何かこう……レモンっぽい風味があるっていうか」

「たぶんこれ、リモンチェッロだよ。色も黄色だし、レモンの果皮も入ってるから。因みにこれ、度数30パーセントのお酒だよ」

 

 へぇ……レモンの皮が入ってるんだ。

 ――え?度数30?

 

「確か、日本酒でもアルコール度数って15パーセントくらいだよな?」

「お酒に弱い人ならグラス1杯で酔えるだろうね」

「全然そんな感じしないのに……」

 

 わたしはグラスの中の黄色い液体を凝視する。

 

「リモンチェッロの材料は、さっきも言ったけど……レモンの果皮、ウォッカみたいなホワイトスピッツ、水、そしてグラニュー糖だ。そんなわけで、レモンの香りがして甘味もあるから口当たりは良いけど、結構キツいお酒だよ」

 

 うわわ。人生初めてのお酒(お神酒は除いて)が度数30なんていう大胆なことを……。

 

「へぇ~……アラン詳しいな。因みにリモンチェッロって何処産の酒なんだ?」

「イタリアだよ。因みにラザニアもロゼッタもイタリア料理だね。……リモンチェッロは食後酒だから、今日の夕食は見事にイタリアンだったてわけさ。料理の味はともかくね」

「……にしても、詳しすぎるよな。未成年の飲酒は駄目なんだぜ、アラン」

「そう言うオニキスはどうなのさ……言っておくけど、イギリスでは親の許可があれば子供でも合法的にお酒が飲めるんだよ」

「脳に悪影響がありそうだな」

「まあ、そうだね。だから基本的には――あれ?」

 

 

「――うにゅ……あれ?」

 

 何処?ここ。

 わたしが目覚めた場所は、いつもの自室のベッドの上ではなく、見知らぬ部屋の、簡素なベッドだった。

 ――ああ、そうか。ここは《浮遊城アインクラッド》。まだわたしは、仮想世界の中に囚われたままなのだ。

 

「――あれ……?変だな……」

 

 眼からぽつり、ぽつりと涙が落ちる。落ちた涙は頬を伝い、シーツの上に染みを作る。

 

「……おかしいな……止まら、ないよ……」

 

 手の甲で擦ってみても、涙は止め処なく溢れ、シーツの染みは広がり続ける。

 

『コンコン』

 

 静かな部屋に、ノックの音が大きく響いた。

 

「……は、はい」

 

 涙に濡れた声で、返事をしてしまった。

 

『――どうした?大丈夫……じゃないよな。部屋、入っていいか?』

 

 扉の向こうから話し掛けてきた声は、オニキスさんのものだった。

 

「だ、駄目です!……こんな汚い顔、見せられな――」

『ガチャッ』

「悪い、入る」

 

 わたしは大きく眼を見開いた。

 

「この部屋の鍵、俺が持ってたんだ。というか、君の部屋取り直した。……鍵、君が持ってたし、起こすのは忍びなかったし……鍵かけないのは無用心だからさ」

 

 そういえば……リキュール飲んでからの記憶が曖昧だ。その後、眠ってしまったのかもしれない。

 

「ああ、心配するな。夜這いとかしてないから。俺、夜明けまで外に居たし」

「なっ!?」

 

 夜這いって!?え!?――ああ、してないのか。そうだよね、うん。

 

「……泣き止んだみたいだな」

 

 そう言いながら、オニキスさんはニヤリと笑う。

 ――え?

 目元を擦ってみたが、それが最後の涙の粒だったのか、涙は止まっていた。

 

「おはよう、クラリスさん」

「……お、おはよう、ございます」

 

 泣き顔を見られたのが、今更ながら恥ずかしくなり、視線を落とす。たぶん、わたしの顔は今、羞恥で真っ赤に染まっていることだろう。

 

「……うぅ」

「どうしたんだよ?――今日は、《はじまりの街》に服買いに行くんだろ?下でアランが待ってるし、さっさと行こうぜ」

「きゃぁっ!?ちょっと、引っ張んないでくださいよ!」

「ほら急げぇ~」

 

 オニキスさんに背中を押され、わたしは部屋を出たのだった。

 

 

「さて、朝飯も食ったし、食後の運動といきますか!」

「食後の運動にしては少々ハードだけどね」

 

 俺の言葉にアランが苦笑で返す。

 

「まあ、その前にだな。……クラリスさん、槍出してくれ」

「え?……どうぞ」

 

 クラリスが《スモールスピア》を実体化し、俺に手渡す。

 俺は左手に槍を持ったまま、右手でメニューを操作して、砥石を実体化させた。

 

「耐久値回復、やっちまおうぜ」

 

 クラリスにはああ言ったが、《はじまりの街》に戻るのは、俺にとっても明確な目的がある。

 プレイヤーが最初に降り立つことになる広場のすぐ近くにある、《黒鉄宮》。その《黒鉄宮》の《蘇生者の間》へ行くことが、俺の目的だ。

 《蘇生者の間》は本来、死亡したプレイヤーが復活する場所だった。俺も、ベータテストの時は随分世話になった。

 だが現在、デスゲームと化したSAOではプレイヤーの復活は不可能だ。《蘇生者の間》も機能していない。

 ならば何故、俺はそこへ行こうとしているのか。

 今朝、結局一睡もしなかった俺達は、朝1番で《ホルンカ》へとやって来たプレイヤーに出会った。そいつが言うには《蘇生者の間》に、《生命の碑》なる物が出現したらしい。なんでも、全プレイヤーの名前が一覧になって表示されているのだという。

 明日香。彼女が本当にSAOにログインしていないのかどうか、これではっきりするというわけだ。

 

 ――突然、視界に《リトルネペント》が現われた。しかも、《花つき》。集中力に欠けていたと反省せざるを得ない。

 

「……何で、今なんだよ」

 

 俺とクラリスは《森の秘薬》クエストをまだ受注していないので、《花つき》がドロップするキーアイテム《リトルネペントの胚珠》を取っておけば、後でクエストを受けた際、即効でクリアして《アニールブレード》を手に入れることができる。

 だが、武器はストレージを圧迫する。只でさえ《鍛治セット》によって既に俺のストレージは圧迫されているのだ。この上《アニールブレード》まで入ろうものなら、《筋力値》を1《敏捷値》を5にステータスポイントを振った俺はまともに走れなくなってしまう。

 ――あ。

 そこまで考えてから、重要なことを忘れていることに気が付いた。なにも俺が持つ必要はない。クラリスのストレージに入れればいいじゃないか。買い手はそのうちゆっくり探そう。

 俺はニヤリと笑い、逆手に持った《ボーンナイフ》を腕を真っ直ぐ横に斜め下に構える。その動作でソードスキルが発動。刀身をオレンジのライトエフェクトが包む。

 ――《花つき》の触手が迫る。

 その触手をソードスキルで切り飛ばした。

 《短剣》単発斜め斬り《スラッシュ》。逆手に持った短剣で右下から左上にかけて斜めに斬り上げる技だ。

 ソードスキルによるパリィによって、俺も《花つき》も硬直を余儀なくされる――だが。

 

「スイッチ!!」

 

 その掛け声と共に、クラリスがインディゴのライトエフェクトに包まれた槍を突き出す。

 《長槍》基本突き技《プリック》。

 《スモールスピア》の槍頭が吸い込まれるように《花つき》の捕食器官に入り、爆散。

 それを見届けた俺は、クラリスを労うために振り返った。

 

「クラリスさんグッジョブ!――って、どうした?」

 

 見れば、クラリスは穂先を見詰めて嫌そうな顔をしている。

 

「……涎が……気持ち悪い」

 

 捕食器官――つまりは、口。

 確かに《リトルネペント》の見た目はキモい。女子高生にキモがられれば、デザイナーもきっと本望だろう。

 眼の前にウィンドウが開き、《リトルネペントの胚珠》がストレージに入ったことを知らせる。

 更にクラリスの後ろからも破砕音が響く。

 

「アラン君ご苦労」

「――村出てからまだ3分なのに……昨日の苦労は何だったんだ……?」

 

 アランはアランで重症だった。

 

 

「いやぁ~帰って来たなぁ~」

 

 時刻は11:20。俺達は《はじまりの街》北西ゲートに到着した。

 そもそも《ホルンカ》を出発したのが遅かったし、昨日より随分ゆっくり走ったため、着くのは昼過ぎになるかと思っていたが……俺とアランのレクチャーのお陰か、単にクラリスの筋が良いのか、或いはその両方か……クラリスが何体ものモンスターを屠ってくれたので、アランはバックに集中できるし、俺は楽できるしで、思いのほか随分早く到着できた。

 

「お疲れ様、クラリスさん。頑張る努力は見事実を結んでいるようだね」

「はい!アランさんもお疲れ様です」

 

 あれ?俺だけハブられる?マサカネー。

 

「んじゃ、さっさとクラリスの下着買って昼飯食おうぜ」

「……頑張ってるのがアホらしくなるんですけど」

 

 はぁ~、とクラリスに溜め息を吐かれる。怒られるのはともかく、溜め息吐かれるのは精神的にキツいんですよ?あとアラン、笑うんじゃない。

 

「アランさん、オニキスさんは放っておいて服屋さん行きましょ!」

「解った。……オニキス、結果はどうであれ、僕が行くまでその場を離れるなよ」

「え?結果って?」

「……後で話すよ。じゃあ、行こうか」

 

 そう言って、2人は行ってしまった。

 

「……ふっ」

 

 思わず苦笑が漏れる。

 ――腹を括ろう。

 たとえどんな結果を突き付けられても……あの2人の前では……。

 

 

 

 絶望に打ち拉がれた者と興味本位でこの場所を訪れた者とでは、たとえアバターの顔だろうと……いや、感情を上手く隠せないアバターの顔だからこそ、明確な違いがあった。

 数分後、俺の顔はどの感情に支配されているのだろうか?

 安堵か?焦燥か?――それとも、絶望か?

 

「――これが……」

 

 日が淡く差し込む、聖堂のような室内。

 その奥に鎮座する巨大な黒い矩形――《生命の碑》。

 俺は食い入るように視線を注ぐ。目当ての名前は左端、恐らく上の方。

 ――そして、有ってはならぬ名前を見つけてしまった。

 

「……そんな……嘘だ」

 

 力が抜け、その場に膝から崩れ落ちる。

 明日香が……ここに、この《世界》にいる?なら、俺はあいつを独り置き去りにして……。

 

「――オニキス」

 

 アランの声が、上から降り注ぐ。

 

「……良かった。明日香さんは、やっぱりアインクラッドにはいないみたいだね」

「な、何言って――」

 

 アランは訳が解らない、といった感じだったが、なにか納得したような顔をして言った。

 

「もしかして、オニキス見間違ったんじゃないかい?もう1度、落ち着いて見てみなよ」

「……見間違えって……だって、確かにアスカって」

「本当にそうかい?」

「……ふぅ~」

 

 俺は息を吐き出し、気持ちを落ち着けようと試みる。

 あまり変化はないが、仕方がない。

 なんとか力を込めて立ち上がる。

 俺はもう1度、矩形に眼を走らせる。だが、すぐに止まる。やはり、何度見たって【Asuna】って――ん?

 

「……ア・ス・ナ。アスナ?――紛らわしい名前付けやがって!!」

 

 相手に非がないのは明白だが、アスナ氏に1言文句でも言わなければ、この気持ちを何処にやればいいのか。近くに居ないだろうか。

 

「nとkを見間違えたんだね……にしても、1文字違いか……」

 

 俺は再びへたり込む。今度は安心したせいで腰が抜けた。

 やっぱり推測通り、明日香はログインしなかったんだ。

 

「良かったね、オニキス。不安材料が1つ減って」

「ああ……ホント、良かったよ」

 

 アランが笑顔でそんなことを言うので、俺も笑って返す。少し語尾が震えたが。

 アランは俺から視線を外すと、《生命の碑》を見詰めだした。

 笑顔だった表情が、徐々に苦々しいものに変わっていく。

 

「――【Alan】、【Clarice】、【Onyx】……僕らの名前もあったよ」

 

 それはそうだろう。全プレイヤーネームが刻印されているのだから。

 

「――まだ、デスゲーム開始から1日だ。正確にはチュートリアル終了から、まだ24時間経ってないから、1日ですらない。……それなのに、既に死亡者は3桁だ」

「……冗談だろ?」

 

 口ではそう言ったが、しかし、線を引かれたプレイヤーネームが克明に物語っている。

 ――327人。

 チュートリアルの段階で、既に213人のプレイヤーが死亡していたはずだ。……つまり、たった18時間で更に114人ものプレイヤーが死んだ。

 

「……《生命の碑》だと?」

 

 知らず、声が漏れる。

 

「……オニキス?」

 

 線引きされたプレイヤーネームの上には、死亡時間や死亡理由までもが記されている。

 ――これは、墓標だ。

 茅場は一体、どこまで俺達を馬鹿にすれば気が済むんだ。

 

 《黒鉄宮》を後にした俺達は、服屋の前で待っていたクラリスと合流して、昼飯を食うためにレストランを探す。

 クラリスが、『今度こそ美味しい料理が食べたいです!』などと言っていた。それに対してアランが何かしら返答する。

 だが俺は、2人の会話には参加せず、独り思念する。

 ――この城の頂にまで登り詰め、このゲームがクリアされるその瞬間まで、必ず生き残ってみせると。

 そして、必ず明日香と再開するんだ。




 今回は前半クラリス視点、後半オニキス視点となっています。
 時系列的には、夕食を食い→リキュールを飲み→男2人外で夜明かし(Nessun dorma)→クラリス起床です。

 イタリア料理だったのは前回の誰も寝てはならぬの作曲家ジャコモ・プッチーニがイタリア生まれだったからです。
 アランは夕食で、誰も寝てはならぬを思い出した、ということになりますね。

 まずはイギリス人のお酒事情から。
 購入できる年齢、飲酒できる年齢は18歳。バーとかパブでのサイダーとビール、かつ食事もするのであれば16歳から。
 両親が同意であれば、5歳以上の子供が「家で」お酒を飲むことは合法。
 これは世界でもイギリスだけみたいです。

 次に食事の前のお祈りに関して。
 本当は家の近くに教会あるんでそこに行けばよかったんですが・・・ネットで調べるだけに留めました。誤りがあるかもしれませんが、そこはご容赦ください。

 最後にイギリス料理についての釈明を。
 流石に毒は言いすぎです。オニキスに代わりこの場をもって謝罪しますm(_ _)m
 ですが、イギリス料理が不味いのはイギリス人も認めていることのようです。

 次回は、区切りが良いので登場人物紹介を。クラリスのイラストがあります。というか今回遅くなったのはイラスト描いてたからです。
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