誤字の指摘などもよければ。
部分部分に独自解釈があります。
今回は2022年のカレンダーとプログレッシブを参考に日付を決めました。
本編との矛盾はないはずです!
また、原作キャラは殆ど登場させない予定だったのですが、展開上どうしても出てくるし、閑話でも思いっきり出てたんで、原作キャラの出番は今後もあります。
キルアさんお気に入り登録ありがとうございます!
2022年11月28日
微かな明かりの中、様々な色の軌跡が煌めく。
繰り広げられるのは、《人間》と《亜人》による剣戟。
鉄と鉄、剣と剣の鬩ぎ合い。その奏でる音色が、決して広くはない通路に響き渡る。
――第1層迷宮区。未だフロアボスが倒されることはなく、既に2000人近くものプレイヤーが《アインクラッド》から永久退場していた。
レベル5の亜人型モンスター《ルインコボルト・ソルジャー》が振るう、鉄板のような無骨な両刃剣を身体を捻り躱し――その体勢から反撃の1撃を叩き込む。
「はぁ!!」
「――グルァッ」
カウンターアタックを決められ、激しくノックバックする《歩兵》。
俺はその隙を逃さず、ソードスキルを発動。刀身がオレンジのライトエフェクトに包まれる。
「う……ぉお!!」
システムのモーションアシストによって身体が半ば勝手に動くが、意図的に更に動きを加速させ――《歩兵》の身体にΛの軌跡を描き出す。
《短剣》2連撃技《ラムダ・スラッシュ》。
「グラァ……」
HPゲージが吹き飛び、《歩兵》は短い断末魔を残して、青い破片を撒き散らし消滅した。
「ふぅ……お疲れ、2人とも」
俺は隣に立つアランと、背後に控えていたクラリスに声をかけた。
「お疲れ。……大分ものに出来てきたみたいだね」
アランとクラリスの視線が、俺の右手に注がれる。――いや、正確には右手で握られた《短剣》に。
《ソイルマチェーテ+3》。
3日前《ルインコボルト・ソルジャー》からドロップした、《短剣》にカテゴライズされるにしてはあまりに長い――全長48センチの、刀身の厚い片刃の剣だ。
それまで使っていた《ボーンナイフ+3》に比べ、グリップが伸び、刀身も10センチ以上長い。
――通常の短剣とは勝手が異なる山刀。そのため、落とした本人である《歩兵》を練習台に慣らしているところだった。
因みに、手に入れたその日のうちにコボルトが通常ドロップする《雑鉱石》を20個ほど使って、自ら強化した。強化パラメーターは《1S2Q》……《鋭さ》に1ポイント、《速さ》に2ポイントだ。《丈夫さ》を上げれば武器の耐久値が上がるのだが、現実のマチェーテの特性に合わせてか、元々の耐久値が《アニールブレード》よりも高く設定されてあるので、わざわざ上げる必要はない。
「……もうそろそろ、迷宮区に潜って5時間ですよ?マッピングされてるエリアとはいっても、ここのモンスター結構強いですし……いい加減帰りましょうよぉ~」
俺達がいるのは13階だが……現在、第1層迷宮区は17階までマッピングされている。そして、そのマップデータは情報屋によって纏められ、NPCショップで委託販売されている。価格は0コル。恐らく、最前線に潜っている元テスター辺りがマップデータを提供しているのだろう。実際、行く先々の村に先回りする形で既に《アルゴの攻略本》が置かれていた。アランが言うにはアルゴ本人も元テスターらしいが……。
――俺達3人は、昨日更にレベルアップしてレベル9になったが、レベル5の《ルインコボルト・ソルジャー》を決して侮ることはできない。
《亜人型》は今までの動植物型モンスターとは違い、二足歩行をして、《武器》を操る。つまり、今までプレイヤーにのみ与えられていた必殺の剣技を……《ソードスキル》さえも操るのだ。
実際、この迷宮区で多くのプレイヤーがコボルトの放つソードスキルによって命を絶たれた。
「――そうだな。随分このマチェーテにも慣れたし……腹空いたしな」
時刻は17:49。ここから迷宮区を脱出するのにおよそ1時間、1番近い最寄りの町《トールバーナ》までは走っても30分。……腹の虫が晩飯まで大人しくしていることに期待しよう。
◇
「できましたぁ~」
そう言いながら、クラリスさんが鍋掴みをはめた手で大鍋を持ってやって来た。
「今日のメニューはシチューですよ~」
エプロン姿で笑顔でそう言われると、妙な気分になってくる。因みにもう1人の同居人は、今もまだ外で僕達の装備の耐久値回復をしてくれているはずだ。
僕達がここ1週間ほど住んでいるのは、《ホルンカ》で初日に泊まったようなNPC経営の宿屋ではなく、《トールバーナ》近くのNPC農家夫妻から借りた家の2階部分だ。部屋は2つ、リビングにバスルームとキッチンまで付いて1泊120コル。宿屋の倍以上の価格だが、3人で住んでいるので実際は割安だ。
「美味しそうだね」
シチューを見た僕は、素直な感想を述べた。
クラリスさんは4つあるスキルスロットのうち、1つを《料理》スキルで埋めている。
《はじまりの街》に服を買いに行ったあの日、レストランならと昼食に期待していたクラリスさんの願いは打ち砕かれ、『もうこうなったら、わたしが自分で美味しいご飯作りますよ!!』と、レベル3になったことで新たに解放されていたスキルスロットをその場で埋めてしまった。
僕は始め反対――いや、猛反対したが、オニキスに言い負かされてしまった。
曰く、『趣味スキルは心に余裕を持たせる。しかも、俺達は美味い飯に肖れる。一石二鳥。素晴らしいことじゃないか』と。
実際、美味しいご飯は日々の戦いで磨り減った心すらも和ませてくれている。
まあ……その美味しいご飯の為に、翌日からスキルの熟練度を稼ぐため、《はじまりの街》の外周にいる《フレンジーボア》がドロップする《フレンジーボアの肉》を丸焼きにして、男2人で処理したのだが。
「――ランさん?アランさーん!聞いてますか?」
「え?……ああ、うん。聞いてる、聞いてる」
「嘘ですね」
クラリスさんがジト目で僕を見詰める。
「ご、ごめん」
打ち解けてくれた証拠なのだろうが、最近、クラリスさんの僕への態度がオニキスへのものに近づいてきているいるような……。
「え~とですね……今、迷宮区の最前線は18階もしくは19階じゃないですか」
「うん、たぶんそうだろうね」
「……そろそろ、ボス部屋が見つかるんですね」
「……ああ」
デスゲーム開始から、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。たとえ安全を期しても、数日以内にボス部屋へは到達するだろう。
しかし、ボスが倒せるかどうかは別の話だ。
「オニキスさんは、ボス攻略パーティーに志願するつもりなんでしょうか……?」
「――どうだろうね」
それは僕にも解らない。
オニキスは自分は碌にゲームをやったことがないド素人だ、と言っていたが――実のところ、彼はかなり強い。
《短剣》を使った近接戦闘、モンスターの攻撃に対する反応速度、ソードスキルの予備動作の速さもそうだが……それ以上に、やることが奇抜で僕にはとても真似できない。あのSAOのセオリーを無視したトリッキーさは、MMO初心者だからこそのものなのだろうか?……僕にはそうは思えない。
「……でも、彼にはトッププレイヤー足る実力があるよ。――もちろん、僕にもクラリスさんにもね」
自惚れではなく、僕だって伊達に迷宮区に潜っているわけではないのだ。それはクラリスさんだって同じことだ。
「ともかく、もしボス攻略レイドが組まれるとして、オニキスも参加するなら……僕も彼に付き合うさ」
SAOでは1パーティーの上限が6人、それを8つまで束ね、最大48人のレイドパーティーを作ることが出来る。デスゲームと化したこの状況で48人集まるか、そもそもメンバー募集もまだなのだが……。
それでも、僕達ベータテスターにはある種の責任がある。死んでいった2000人のためにも、《先》を示さなければならない。
「……わたしは――」
「ボス戦には参加しねぇーぞ」
突然背後から声が聞こえ、思わず振り返る。
立っていたのは、もちろんオニキスだった。
癖なのか、左耳のピアスに触れている。
「……参加しないって、どういうことだよ?」
予想外の発言に、混乱する。オニキスは、レイドに参加するつもりなのだとばかり思っていた。……ここ数日のマチェーテの修練を《亜人》相手にしていたのは、ボスの取り巻きである《ルインコボルト・センチネル》対策だと思っていたからだ。
「考えてみろよ……何事も《初めて》ってのには危険が付き物だ。確かに俺とアランは元テスターだ。だけど、巷で言われているみたいに、利己的で自分本位な連中とは違う。――前にも言ったけど、俺は他人の命にまで責任は持てない。俺は楽天家でもなければ、自信家でもないし、ましてや偽善者でもない。……何より俺は、《あいつ》に俺の死を背負わせるわけにはいかない。絶対に生きて、現実へ帰らないといけないんだ」
「それは皆同じだ!僕だって生きて帰りたい。でも……そのためには、フロアボスを倒さないといけないじゃないか。誰かがやらなきゃいけない。それは、僕達テスターが!――」
「それで、お前や俺が死んだらどうする?クラリスはどうなる?――あんたはあの日、俺には絶対言えなかったことを言ったじゃないか。『僕がクラリスさんを守る』。……誓いを果たす気があるなら、《みんな》の為の最善じゃなくて、クラリスの為に最善を尽くすべきだ。……違うか?」
「…………っ」
――そうだ。僕は、あの日誓ったじゃないか……《守る》って。あれは、《ホルンカ》までの道中限定で言ったわけじゃなかったはずだ。
クラリスさんが見る見る《強く》なるにつれて、頭の片隅に追いやっていた。でも、その《強さ》はあくまでステータスと、ゲームのテクニックが向上したに過ぎない。
彼女は今だって、僕らよりも年下の、歳相応の女の子じゃないか。
「……ごめん、僕が無神経だった」
見れば、クラリスさんは眼に涙を溜めている。
「ごめん、クラリスさん」
「……謝らないで、ください。わたし……さっき、『2人には一緒に居てほしい』って、言おうとしたんです。自分勝手ですよね。ボスなんて倒さなくていいから、一緒に居てほしいって思うなんて……」
遂に、クラリスさんの涙腺が決壊した。
僕が、彼女を泣かせてしまったんだ。
「クラリスさ――」
「せい!!」
『ビュンッ』という効果音が聞こえた時にはもう遅かった。
「――うわっ!?」
僕の腹に、《アニールブレード+4》が突き刺さった。
もちろん、ここは《圏内》だ。だから、ダメージは受けない。
――だが、剣が突き刺さったことによる《衝撃》は、《圏外》同様変わらず発生する。
『ゴトン!!』と盛大な音を響かせ、座っていたイスごと僕は引っくり返った。
「さて、クラリス。君もこの《ウィングドスピア》で腹に風穴開けられたくなかったら、その辺で止めてくれ。……自己嫌悪したって仕方ないだろ?それに、『一緒に居てほしい』って、男としては普通に嬉しいから謝らなくていい」
そう言うと、オニキスはニヤリと笑う。
全く……。
「ほら!さっさとその鍋の中身装ってくれよ。いい加減、腹の虫が限界だか――」
『ギュルギュルギュル~』
「「ぷっ……あははは!」」
オニキスの腹の虫の抗議の声に、僕とクラリスさんは同時に吹き出した。
「笑うことないだろっ!俺は2人が家の中入った後も暗がりで剣研いでたんだからさぁ!!」
オニキスは大声で抗議するが、それが寧ろ笑いを誘う。
「ごめんなさい……ぷっ……すぐ装いますね。今晩はシチューですよ~」
「ホント、格好良いこと言っても最後まで締まらないよね……はははっ」
僕は腹に刺さった《アニールブレード+4》を引き抜いてストレージに入れてから、イスを戻して食卓に着いたのだった。
それから4日後の12月2日。遂に20階への階段が発見され、1回目の第1層ボス攻略会議が開かれることになった。
アリシゼーションでは蛮刀扱いされていたマチェーテさんですが、現在でも米軍で使われている立派な武器なんですよ!っていうか剣とか槍が廃れていく中、使われ続けるマチェーテさんすげぇ!って感じで、主人公の武器はマチェーテです。
《突撃兵》や《近衛兵》がいるなら《歩兵》もいるだろ、という発想で《ルインコボルト・ソルジャー》の名前は付けました。
因みに攻略会議4日前ですから、オニキス達がいた何階か上にはあのフェンサーさんが居たっていう……。鉢合わせしなくて良かったデスネ。
そんな感じですかね。
次回は開かれる扉・後編です。あんなキャラやこんなキャラが出ます。
※矛盾はない(`・ω・´)とか言ったのにありました(汗)3人が借りてる2階部分は、借りてから2週間ではなく1週間くらいです。キリトがチュートリアル終了後《トールバーナ》到達に3週間かかってるのを見落としてました。訂正しました。