艦娘戦記 ~Si vis pacem, para bellum~   作:西部戦線

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色々独自設定が出てきますのでそれが嫌な人はbackをお願いいたします。


こんな駄文を読んでくれる皆様に感謝を


その少女は……

青い空を白い雲が泳いでいく。

 

時期は春頃だろうか、暖かな日差しが辺りを照らし、陽気な空気を生み出している。普段なら余りの気持ちよさに眠気を誘うであろう。

 

そう、『普段』なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらマライタ島第3駐留大隊。現在、深海棲艦からの奇襲を受け、部隊は大きな損害を被っている! 至急応援を求む! 繰り返す至急応援を!」

 

「おい! 周辺の警戒に出ていた艦娘や水歩部隊は何をしている!」

 

「とっくに海の底か、連中の腹の中だろうよ。糞が!」

 

 

 

沿岸部から上がる黒煙と火の手がまるで島全体を隠すが如く、地獄を生み出していた。

 

 ほんの数時間前までは小規模な基地を除き、リゾート地の様な平穏さを見せていたのが嘘のように此処は激戦区と化している。

 

 生き残ったトーチカや沿岸砲、陸上部隊がこの島にいる残りわずかな艦娘達と共に必死の抵抗を見せるが、焼け石に水で逆に撃った傍から十倍に上る反撃を受ける事となり、正に絶望的と言えるだろう。

 

 

 

「くそ! こんな所で死んでたまるか、俺は生きて帰って―――がぁァ!」

 

「倉田ぁ! くそ、くそ、くそ! 死にやがれ、化け物どもめぇ!」

 

 

 

 塹壕から上半身を出して小銃を撃っていた兵士が深海棲艦からの機銃掃射を受け、外へ出ていた体の部分全体が穴だらけとなり、血霧を辺りにまき散らしながら後ろへと吹き飛んだ。その様子は最早人であると判別するのが体を外へ出してなかった下半身部分のみで、宛ら穴だらけにされた紙人形を連想させた。

 

 そんな同僚の死を見てか、激昂した兵士が1人、急ぎ取りついた野砲を目標の深海棲艦――駆逐イ級――へ狙いを定め、発射。

 

爆発と破片を周囲にまき散らす。

命中した周辺に硝煙が立ち込め、視界を阻害させた。

 

しばらくして硝煙が晴れると急いで戦果確認を行う。その結果、攻撃した駆逐イ級を見事に撃破。周りも歓声を上げる。

 

 

 

「どうだ! ざまぁ見ろ!」

 

 

 

 同僚の仇を取った事に舞い上がり思わず拳を振り上げる彼であったが。

 

 ――ヒュ

 

 一瞬笛のような軽い音を聞いたと思った瞬間塹壕ごと吹き飛んだ。

 

 何の事は無い。

 砲弾が降って来ただけの事だ。尤も、降って来た砲弾は今までよりも大きなものであったが。

 

 

 

塹壕の一区画が吹き飛んだのを確認した他の兵士は破壊力の大きさに僅かばかり呆然としてしまったが、直ぐに意識を現実へと引き戻すと双眼鏡を使い撃って来たであろう敵を探す。

 

 時間にして約10秒掛かったかどうかの速さで攻撃主である敵艦を視認。兵士を絶望へと叩き落とした。

 

 

 

「馬鹿な……戦艦種だと、しかも複数。こんな小規模基地に何で戦艦をこんなに投入してくるんだ!」

 

 

 

 彼が見たもの。

 それは、黒髪をたなびかせ、病的までに青白い肌をした女性であった。しかし、普通の女性とは決定的に違う点が見受けられる。それは、両手に持つ大きな鉄の塊と海面に立っている事だ。

 

正に異端。人間とは一線を画す。

 

 

 

 

 余りにも大きな衝撃で、双眼鏡を持ったまま固まっている彼だが、視線の先にいる相手はそんな猶予を待っているほど温情ではない。双眼鏡に移る化物が手に持った鉄塊……正確にはそれに内蔵された砲塔が自分へと向けられたのだ。

 

 

 そして意識を現実へと戻した次の瞬間、彼は意識を再び手放した……永遠に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1941年 9月 ソロモン諸島

 

ここソロモン諸島戦線は現在、人類とそれと敵対する生命体、通称深海棲艦と激しい戦闘を繰り広げる激戦区となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手にやるものだ」

 

 

 

 双眼鏡に映る沿岸部の惨状を目に焼き付けながら彼女は機械的な声で呟く。

 

 普通の人間が見れば目を背けるか嘆きや悲しみの感情を口にするだろうが、残念ながら彼女にとっては今それをする意味を見いだせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて酷い……」

 

 

 

 ふと隣から声が聞こえ一瞬確認すると同じく双眼鏡を覗く少女がいる。

 

 長い黒髪にすらりとした体格。身長は小柄で、真面目そうな雰囲気を醸し出す。外見年齢は小学生高学年ないし中学生程で女学生の制服に似た服装をしている点から余計幼さを感じさせてしまう。

 

 

 その身に黒鋼の武装を施している点を除いて。

 

 

 

「朝潮一等水兵……見ているのも良いが、余計な感情を口にしない方が身の為だぞ。言葉というのは口にすると、よりその意味を強く自分へと実感させる……嘆き悲しむなら任務後にしろ」

 

 

 

 この現場慣れしていない新しい部下へ何度か助言をしているが、飲み込みは早く、反抗的ではないのに何処か抱え込み過ぎる気質らしい。

 

 有能なのは良いが、こうも気に病む性格だと此方まで気落ちしてしまう。

 

 

 そう思いつつも私はそんな気持ちを決して表に出さない。何故なら私は上に立つ立場なのだ。指揮官たる者、部下の前で無様な姿など見せられん。つまりはそういう事だ。

 

 

 

「はい……申し訳ありません……時雨少尉」

 

 

 

 これまた子犬を思わせる態度で謝罪を述べる朝潮に思わず垂れ下がった犬耳を幻視してしまうが今はそんなことをしている場合ではない。

 脳裏を過った妄想を振り払い、直ぐに戦場へと視線を向けると人型形態の深海棲艦が丁度上陸しようとする場面であった。

 

 敵はどうやら火力の要である戦艦クラス……この場合戦艦ル級4隻を海上に残したまま地上戦へと展開する様子だ。

人類側が島の奥地へと逃げた故の追撃と見られる。

 

 普通なら砲撃や偵察にもう少し時間をかけて上陸をするのが定石なのだが、深海棲艦達はそんな事お構いなく早く人類を滅ぼしたいらしい。もしくは考えなしの馬鹿と言えよう。

 

 その結果、沿岸近くに残された敵は戦艦ル級が4に軽巡ホ級16、駆逐艦イ級54だ。

 もっとも、軽巡と駆逐艦は上陸が出来ないため、留守番ついでの警護というのが見て取れた。

 

 正しく好機到来である。

 

 そう判断すると耳にかけている通信機の周波数を後方支援部隊へと変え、連絡する。

 

 

 

「こちらレイン01。敵戦力に動きあり、重巡含む人型部隊が沿岸部へ多数上陸。島奥地へと退却した友軍を追撃する模様。島近海に展開する兵力はル級4 ホ級16 イ級54 over」

 

『こちらHQ。了解した。これより作戦通り砲撃を開始する。第1射着弾観測後、修正座標を報告されたし』

 

「レイン01了解。これより着弾観測を行う」

 

 

 

 連絡終了後、しばらくしてから軽い空気音。つまり、何かが落ちてくる音が遠くから聞こえ、段々音が大きくなったと思った次の瞬間。

 

 

 爆発。

 

 水柱。

 

 爆発。

 

 水柱。

 

 悲鳴。

 

 

 その場に地獄が作られた。

 何の事は無い。敵がやった事を此方もやっただけなのだ。

 

 

 

 爆発は主に地上沿岸部や敵に直撃した事による現象で、逆に水柱は海面に当たった為に発生したものである。しかし、強い威力を持つ大きな砲弾は例え外れたとしても周りに無視しえない被害をもたらす。事実、着弾時に発生した衝撃や強い波で着弾点近くに居たイ級が少なくない損傷を受けていたのだから。

 

 

 

「レイン01よりHQへ、敵に有効射を確認するも戦艦クラスには損傷見られず。また、本隊から見て近弾が多数。誤差修正+032、024を要求」

 

『こちらHQ。了解これより後部主砲による修正射撃を開始する』

 

「了解。観測を継続する」

 

 

 

 通信終了後しばしの沈黙。

 

 時間にしてほんの1分足らず。しかし、長く感じる1分である。

 

 敵は行き成りの大規模砲撃に浮足立っており、未だに陣形を崩したままだ。それを見ると矢張り敵の練度は然程高くないらしい。

 

 そうこうしている内に再び笛を吹いたような間抜けな落下音。

 

 再びの地獄。

 

 今度は目標地点により多くの着弾を確認。どうやら修正は上手くいったようだ。

 だが、これで終わりではない。今度はより敵を追い詰めるために雨を降らせなくてはいけないのだから早く通信を再開する。

 

 

 

「こちらレイン01.敵に有効打を確認。斉射を求む」

 

『了解。これより斉射攻撃を開始する』

 

 

 

 そして再びの砲撃。

 しかし、先ほどと異なるのは今度の射撃はより正確にそしてより多くの砲弾が降り注いでいるのだ。最早虐殺と言えた。

 

 此の侭いけば敵戦力の大半を砲撃で掃討されるだろう。

 つまり、こちらに面倒な仕事は回ってこないという事だ。全くもって運が良い。これで戦果として評価されるんだから今回は美味しい任務である。

 

 

 

「しょ、少尉?」

 

 

 

 ふと、隣から声を掛けられハッとした私は直ぐに緊張を貼り付け、恐らく緩んだのであろう表情を元に戻す。

どうやら余りの嬉しさにまた何時もの笑みを浮かべていたらしい。

 いかんな、最近気が抜ける。この任務が終わったら一度休暇を申請してみよう。

 

 

 そんな甘い考えだからだろうか、この後私に天罰が下る。

 

 

 

『!? ――こちらHQ。射撃管制装置に異常発生。これより砲撃を中断する!』

 

 

 

 行き成りの通信に私はしばし固まってしまうが、このままでは不味い。敵はまだ半数は残っている。しかもル級は大なり小なり損傷しているがまだ3隻も残っていた。もし、今の状態で反撃されれば、こちらの『砲艦』が沈められてしまう。

 

 

 

「HQ、支援砲撃の再開は可能か?」

『……現状での再開は不可能。現在管制装置の応急修理を行っているが、1時間はかかる模様』

「……理解した。これより攻撃は我が隊が行う」

『了解。武運を』

 

 

 

 本部からの通信を切り思わず舌打ちをしてしまうが、愚痴を零すほどの余裕はない。

 

 砲弾の雨が止み、少しずつだが敵の混乱が収まってきている。時間は敵だ。

 

 

 

「総員、通信を聞いて理解していると思うが、これ以上の支援砲撃は望めない。よってこれより敵艦隊へ突貫を開始する!」

 

 

 

 私の言葉に皆が緊張した面持ちを持つ。

 

 どうやら自分達の出番は無いと私同様判断していたのだろう。しかし、残念ながら出番は来てしまった。もし神がいるのならダース単位で文句を言ってやる。

 

 此方の戦力は艦娘2艦隊分。つまり12人で尚且つ全員駆逐艦。

 

 対する深海棲艦はル級3にホ級5、イ級が23という絶望的な戦力差。

 損傷艦は多数居るが、それを上回るリスクの高さ。

 

 余りの絶望感に逃げ出したくなる。私は本来戦いが好きではない。しかし、やらねばならないのだ。

 

 

 

 それが軍人としての。

 

艦娘としての。

 

 そして私がこの世界で生き残るために必要な事なのだから。

 

 

 

 そうだ怯えた感情を表に出すな。

 笑え、笑うんだ。病は気からとも言うし、笑って楽しみながら遂行すれば苦しくないし怖くない。

 

 うん。行ける気がしてきた。

 よし、行けるぞ!

 

 周りが私を見てざわついているが、気にするか、さっさと敵を殲滅しなくては。

 

 

 

「総員、蛇行しながら敵に近づくぞ! なぁに、混乱した敵艦の砲弾など早々当たらん。魚雷射程圏内に入ったら扇状に全弾撃て。良いな?」

 

 

 

私の言葉に部下たちが頷く。

 その表情は怯えと恐怖で支配されているが、その意識が何故か自分にも向けられているのが解せん。

 

 まぁ良い。今は敵艦隊へ集中する。

 

 嫌な戦いだが気持ちだけでも楽しまねば。

 

 そう思い笑みをより強くする。

 

 右腕をまっすぐと皆に分かるように持ち上げ。

 

 

 

「さあ、奴らを血祭りに上げてやれ、私と諸君らで地獄を生み出せ! 全艦突撃!」

 

 

 

 振りおろし突撃を行う。

 

 さぁ諸君。

 

 地獄を創るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前方の深海棲艦に向け蛇行しながら接近する。時折砲弾が飛んでくるが、狙いが定まっていないのかどれも的外れな場所へと着弾していた。

 

 私、駆逐艦朝潮は上官であり、この艦娘艦隊の旗艦である時雨少尉の後ろを必死に付いていくが、見れば見るほど異常であると理解させられる。

 

 彼女は私たちの先頭に立ち、同じように蛇行しつつ接近しているが、回避運動とけん制射撃が精一杯なこちらと違い、一発撃つごとに確実に敵を仕留めていく。

 

 しかも鼻歌を歌いながらだ。ハッキリ言って狂っている。

 

 そもそも彼女の部下として働き始めてからその異常性を見せつけられてきた。

 

 絶望的な戦力差における敵への突貫や切込み方。そして何より戦争を楽しんでいるとしか思えないその雰囲気。

 

 先ほど行った突撃前の演説なんて笑いながら行い。まるで指揮者のように皆に突撃を命ずる。

 そんな様子を思い浮かべると……。

 

 

 

 まるでニタニタと人を馬鹿にしたようなそして狂喜を孕んだその笑顔。

 ゆっくりと勿体ぶるかのように持ち上がる手。

 そして有名な指揮者が如く振り下ろされると同時に声色が上がった状態。つまり歓声を上げる様に宣言される突撃命令。

 

『地獄を生み出せ』

 

 

 

 思い出しただけで身震いをしてしまう。

 

 恐ろしい。何もかもが狂っていた。

 

 この人は本当に同じ艦娘なのだろうか。もっと別なナニカなのでは……。

 

 

 

「魚雷射程圏内! 全員味方の位置に気を付けつつ魚雷をばら撒け!」

 

 

 

 大声で命令を発する上官の声に現実へと引き戻された私は急いで魚雷を敵艦隊へ向け、発射する。

 

 海面へ着水した魚雷が、一瞬深く沈んで再び持ち上がったと思うと浅い深度を維持したまま敵艦隊へ直進していく。

 

 

 

「うわぁああああああ!」

 

 

 

 次の瞬間後方から爆発音と悲鳴。

 誰かが被弾したんだ。

 

 恐らく魚雷を撃つ瞬間、停止してしまいそこを狙われたのだろう。

 

 一瞬後方を確認しようと後ろを振り向くと思わず悲鳴が漏れ出てしまった。

 

 左腕が無く、血だらけになり海面でもがく味方駆逐艦。

 

 最早重症なのは誰が見ても明らかだ。

 

 一発でこれ程の被害となると戦艦の砲撃が直撃したのだろう。それでは例え『シールド』があったとしても重症は免れない。一発で死なないだけ幸運と思うべきかそれとも死ねない不幸を呪うべきか。

 

 急いで助けねばと思った次の瞬間。苦しむ彼女に死の安寧を与えたのはまたしても敵の砲弾だった。

 

 被弾しその場に止まってしまった彼女は格好の的だ。

 戦艦は元より、軽巡や駆逐艦の砲撃が殺到。水柱が晴れたときには彼女が居た痕跡など何も残っていなかった。いや、僅かながら残っている。艤装の一部や彼女の肉片と思われるモノがプカプカと浮き、辺りに赤い水模様を生み出しという彼女がその場で沈んだという証明が。

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

 余りの出来事に吐き気が込み上げてくるが、口に手を当て、しかし足は止めず上官の後を必死に付いていく。

 

 今ここで足を止め、胃の中のものをぶちまけられたらどんなに楽だろうか。

 

 だがそれはできない。

 もし、そんな事をしてしまったら次にああなるのは自分なのだ。

 

 嫌だ! 死にたくない。

 

 死への恐怖を胸に必死に上官へと追いすがる。

 

 それは恐らく何かに縋る様な気持ちだった。

 

私の今の顔は酷いものだろう。

 

 隣にいる吹雪さんなど顔を真っ青にしつつ涙や鼻水を垂れ流してでも上官へ付いて行こうとしている。多分私も同じだ。それどころか漏らしている可能性もある。全くもって酷い状況だ。こんな悲惨な艦隊で平気なのは上官だけだろうか。

 

 

 

 そうこうしている内に敵艦との距離が100を切った。

 

 此方の砲撃で敵の数は少し減ったが、それでもまだ敵の方が多い。

 

 ふと上官に視線を向けると彼女が羽織っている陸軍の士官コートが何故か動いている。両手に持っていた主砲の艤装片方をしまっている点を考えるとコート内の何かを取り出そうとしているのだろう。

 

 少しして取り出したもの。それは、筒のようなもので下に何か細い棒が付いている。それを自身の持っている艤装の砲身に棒部分から差し入れ取りつける。そしてそれを敵へと向け。

 

 ポン

 

 と間抜けな音を発した。

 

 一瞬それが何なのか分からなかったが、数秒後敵に白い煙幕が立ち込めるのを見て確信する。

 

 スモーク!?

 

 しかし、何故敵のど真ん中に?

 

 そう考えている内に上官は同じ動作を4回は繰り返し、敵艦隊を真っ白に染め上げていた。

 

 混乱していると再び何かをまさぐる上官コートが動いている。位置からして恐らく腰辺りへ手を入れているのだろう。

 

 そして取り出したものは一本のナイフだ。

 

 だが、ナイフと言うには大型であり、形も刃の中ごろから湾曲しているため、ナイフと言うより剣に近い。

 

 確か上官が愛用しているククリナイフという装備だった筈。

 

 駆逐級から引きはがした装甲を材料に作り出した対深海棲艦用近接戦闘用武器。

 

 今それを取り出したという事は、敵への切込みを行うという意味。

 

 

 

「総員近接戦闘用意! 食い破れ!」

 

 

 

 上官の歓声に近い声を聞き、しかし、体は反射的に対応し、近接戦闘用のナイフを砲身へと取りつける。

 

 いつの間にか敵からの砲撃は止んでいた。行き成りの煙幕で混乱しているうえに煙が邪魔で狙いつけないのだろう。

 

 しばらくして爆発音。

 

 此方も敵と同じく誰も砲撃していない。弾の無駄だと判断したのだ。そうなると今の音は魚雷が当った音だ。少なくとも10は聞こえた。命中精度としては先ず先ずと言える戦果だ。

 

 距離が20切る。

 

 間もなく煙幕へと突入する筈だ。そうなると待っているのは視界が安定しない中での混戦。

 

 味方に当てないだろうか。逆に味方から当てられないだろうか。

 

 不安が心を再び占め、思わず銃剣を取り付けた艤装を強く握る。

 しかし時間は待ってはくれないし、敵も思うように行動してくれない。こちらが煙幕へと突入しようとした瞬間。正面から黒い影が飛び出してきたのだ。

 

 戦艦ル級!?

 

 痺れを切らして煙幕を抜けてきたのだろう。ダメージが入っており、恐らく中破相当。しかし、突入前で隙だらけな今の状況は不味い!

 

 即座に判断し主砲を向けようとすると先に行動する影があった。

 

 

 

「邪魔だぁああああああ!」

 

 

 

 興奮からか罵声を浴びせつつ、上官がル級へ切りかかる。

 

 ククリナイフを斜めから切込みそして振りぬく。

 

 一瞬の交差。

 

 それで全てが決まった。

 

 敵は立ったままだ。しかし、首から上がない。

 

 

 

 ドプン。

 

 

 

 何かが海面に着水する音が聞こえる。

 

多分ル級の首だろう。

 

 溢れる鮮血。

 

 ゆっくりと倒れる敵の体。

 

 まるで全てがスローモーションの如く流れていく情景。

 

 

 

「ばけもの」

 

 

 

 ふと漏れ出た言葉は誰が発したものだろうか。

 

 味方かもしれないし自分かもしれない。はたまた敵の心の声が聞こえたのかも。もしくはその全てか。

 

 上官がナイフを振りぬいた姿勢のまま煙幕へと突入。

 

 まるで先ほどの攻撃を何とも思っていないという様子だ。

 

 やはり恐ろしい。

 

 先程と同様に恐怖が心を支配する。

 

 だが、それは最早敵に対しての恐怖ではなかった。

 

 

 

 敵よりも私は『あの人』が恐ろしい。

 

 

 

 そんな気持ちを胸に自分たちも煙幕へと突入する。

 

 

 

 ああ、神様。どうか私を助けてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界全体が白で覆われた世界で爆音や銃声、悲鳴が木霊する。

 

 時折、何かが爆発したような爆炎が白い煙を押しのけて顔を覗かせるが、晴れてきたと思う次の瞬間には何処からともなく飛んできた発煙弾で再び白く塗りつぶされてしまう。

 

 正に混沌とした戦場とはこの事。

 

 撃ち、撃たれ、切り、切られ、殴り、殴られ、殺し、殺される。

 

 戦争における真理であり、それは深海棲艦と人類との戦いでも変わらない。

 

 

 

 

 

 一発の砲弾が煙幕を切り裂き、真っ直ぐ飛んでいく。

 

 煙幕を切り裂きつつ向かう先には何処か魚を思わせる様な形をした不気味な存在。

 黒い装甲に身を包み単眼を光らせる深海棲艦、駆逐イ級は飛んできた砲弾へ目を向け回避行動を取ろうとするが、音速を超える弾を避けられる筈もなくあっさりと装甲を側面から貫通させられ体内にて爆発。内部を破壊された結果、その身を海へ沈ませた。

 

 その近くに居た別なイ級は味方の被弾位置から敵方向を割り出し、予測位置へと砲撃する。

 

 1発、2発、3発と砲撃を繰り出すが、帰ってくるのは水柱が上がる音のみ。

 

 続いて4発目を撃とうとした次の瞬間。

 

 

 カチ

 

 

 自身の近く。正確には右側に音が聞こえ様子を伺おうとすると。

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 近距離からの砲撃。

 

 それによりイ級は一瞬にして装甲を破られ、先ほどの同型艦と同じく海へと没した。

 

 敵を完全に仕留めたことを確かめた実行犯……時雨は次なる獲物を求めその場を移動する。

 

 途中煙幕が切れそうだと思う場所へ発煙弾を撃つのを忘れない。

 

 

 

「――チッ」

 

 

 

 コート内にある発煙弾が残りわずかと知り思わず舌打ちをする彼女であるが、事態が好転するわけでもなく、一秒でも早く敵を殲滅するべく足を速めた。

 

 煙幕内での戦闘に発展してどれ位時間が過ぎただろうか。

 既に敵を20は沈めたし、ル級もあの後もう1隻始末した。周りにまだ戦闘音が響き渡っているという事は味方が未だに生存し、攻撃を続けているのだろう。

 

 そう判断した彼女は自分の周りに敵艦が居ないと分かると今度は発砲音が聞こえる地点へと進路を向ける。

 

 交戦しているという事は少なくとも敵がいる可能性が高い。敵艦との遭遇率が下がったという点も考えると殲滅までそれ程まで時間は掛からないだろうと時雨は予想できた。

 

 この視界不良である。味方同士で攻撃していないことを祈り彼女が砲撃音のする場所へ駆けつけると。

 

 

 

「お願い! あっち行って! お願い、おねがい!」

 

 

 

 涙を流しつつ複数隻のイ級へと攻撃を行う吹雪がいた。

 

 攻撃は大半が外れ、例え当たっても急所じゃ無いためか、その進撃を止めることは出来ていない。

 

 イ級は3隻。

 どれもが傷を負っているが、動きや損傷具合から見て大破なものはいないのだろう。

 

 恐らく1対1ならば吹雪も対処できたであろうが、1人で3隻同時に相手するとあって、混乱してしまい上手く対処できていないのが見て取れる。

 

 対するイ級は時折攻撃をするが、余り積極的な砲撃戦はしていない。恐らく、味方の方が戦力的に多いことから煙幕内全体を考えて流れ弾を気にしているのだ。

 

 この時、敵3隻が時雨に気づいていないと見るや彼女は相手の視界範囲外へと回り込み接近。奇襲をかけようとタイミングを見計らう。

 

 正に奇襲の好機。距離をどんどん詰め、敵に砲身を向けようとした次の瞬間。

 

 

 

「あっ! し、時雨さん! 助けて!」

 

 

 

 あろうことか時雨を視界に捉えた吹雪が大声で助けを呼んだのだ。

 

 この行為にイ級達は奇襲を理解し、すぐさま反転しようとする。

 

 対する時雨は吹雪によって奇襲をぶち壊された事に腹を立て、思わず舌打ちをしてしまうが、もたもたしている猶予は無いと判断。速力を上げ、砲撃をしつつ敵へと突っ込んで行く。

 

 相手の増速を認めたイ級は先ほどまでの消極的な砲撃が嘘のように口を開けて主砲を連射。時雨を近づけさせまいと必死の抵抗をした。

 

 右へ左にそしてまた右へと蛇行や急旋回を駆使しつつ砲撃しながら目標へと近づく彼女は、確実に敵を仕留めるべく接近を続ける。その眼には敵だけでなく、何かを待っている様なもしくは期待するような色合いが感じられた。尤も、煙幕と高速移動により、イ級達には確認することができないが。

 

 距離が50を過ぎたのを皮切りにイ級達が痺れを切らしてか、交互射撃から3隻による一斉射撃へと切り替える。つまり、数ではなく、面での攻撃に切り替えたのだ。

 

 しかし、それを見た彼女が笑った。

 口元が弧を描きニヤリと笑う。

目を輝かせながらまるで待っていましたとばかりに笑みを浮かべる。

 

 一斉射撃を確認した彼女は瞬時に蛇行を止め、直進での急加速を実施。

 

 蛇行での回避を予想した砲撃は見事に外れ、大きな水柱を上げるのみに留まった。

 

 3隻は急いで修正射撃をするため口内にある主砲を向けるが、一瞬砲撃と金属の光が瞬き、左右に展開する駆逐艦が撃破されてしまう。

 

 片方は砲撃で、もう片方はあろうことか投げられたククリナイフを口内の砲身に突き刺され。

 

 反撃されて1秒足らずで2隻が撃破された事に慌てた最後のイ級は最早形振り構わず撤退を選択。その場から退避しようとするが。

 

 

 

「逃げようとしている所悪いね。これも戦争なんだ」

 

 

 

 いつの間にか背後に回り込んでいた存在に砲身を向けられ、固まるイ級。

 対する時雨はまるで楽しそうに笑いながら目の前の存在に言葉を贈る。

 

 次の瞬間1発の砲撃音が木霊した。

 

 

 

 

 

 あっという間に3隻沈めた時雨を呆然と見やる吹雪だったが、彼女の上官がイ級の口内からククリナイフを引き抜く動作音を聞き、現実へと引き戻されると急いで近づき、礼を述べようとする。しかし、対する時雨は聞いているのかいないのか全く反応を示さず、抜き取ったナイフの状態を確かめているだけだ。もしかして聞こえてないのかもしれないと考えた吹雪はもう一度声を掛けようとした瞬間。

 

 

 

「一等水兵」

 

 

 

 ぽつりと発せられた階級。

 はじめ吹雪は誰の階級か分からなかったが、この場にいる者で該当する人物は自分しかいないと分かると直ぐに敬礼しながら返事をする。

 

 

 

「貴殿が臆病な事や敵を上手く倒せないのは良いだろう。人にはそれぞれ得手不得手があるからな」

 

 

 

 紡がれる言葉はとても静かでしかし力強いものであった。その為か、それを聞いていた吹雪は敬礼姿勢のまま思わず固まってしまう。まるで蛇に睨まれたカエルの如く。

 何故ならば言われている彼女は気づいてしまったのだ。

 その言葉に。

 

 

 

「だからな……私の邪魔はするな」

 

 

 

 怒気や殺気が含まれている事が。

 

 

 

「ヒッ――!?」

 

 

 

 自分に向けられた殺気に思わず悲鳴を上げてしまう吹雪。

 思わずガチガチと奥歯を鳴らしてしまう。

 

 殺される。

 

 目の前の存在に殺される。

 

 吹雪がそう思い思わず一歩下がった時。時雨から出ていた怒気や殺気がフッと消えた。

 先程までの様子が嘘の様にあっさりと空気が変わった事で吹雪は思わず間抜けな言葉を口から漏らしてしまい海面へとへたり込む。

 

 

 

「なにボーとしている。とっとと帰るぞ」

「え? ですがまだ敵が……」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべながら帰還を促す上官に吹雪は任務がまだ終わっていないのではと聞こうとするがふと気が付く。

 

 先程まで辺りを覆っていた煙幕が大分消えており、空には青い空が見えていた。

 

 気を取り直して辺りを見渡せば、自分と同じように海面に腰を落とす者や恐慌状態になり虚空を見つめている艦娘の姿が見て取れる。そしてあれだけ多くいた深海棲艦は見る影もなく、居たとしても海面に漂う残骸ぐらいだ。

 

 

 

 つまり終わった?

 

 思考が戦闘終了と導き出された結果、思わず涙を流してしまう吹雪。今までの恐怖や興奮状態、そして悲しさ等色々な感情が一気に押し寄せて来た為である。

 

 嗚咽を漏らし泣き出す吹雪に苦笑を漏らしつつ見つめる時雨はため息を付いた後、コートから煙草を一本取り出し口に咥えた。そして同じくコートから取り出した銀色のオイルライターで火を付けその場で一服を楽しむ。

 

 要は煙草を吸っている間は好きに泣きわめいて構わないから終わり次第出発するぞという意思表示なのだ。

 

 そんな微妙な空気が流れる場所に1人の艦娘が近づく。

 

 時雨の副官的存在の朝潮である。

 恐らく報告のために時雨へと近づいたのだろう。事実、彼女は上官の前に着くなり、敬礼をすると戦果と被害の報告をしだした。

 

 

 

「隊長! 敵の掃討完了。周辺にも敵影ありません」

「報告ご苦労朝潮一等水兵。被害は?」

「……混戦時での被害は轟沈3と大破2、私含め中破5です」

「突撃時を含めて轟沈は4隻か。少なく済んだと喜ぶべきかそれとも戦友の死に嘆くべきか……それに私以外で小破以下な者が居ないのは問題だな。後で訓練をつけてやるか……」

「……お戯れを。先の混戦で無傷で済むのは少尉殿ぐらいです」

「ふん。買い被り過ぎだよ」

 

 

 

 一通り話を付け、肺に取り込んだ煙を外へと吐き出す。

 美味しそうに煙草を吸う彼女の様子は、少女の姿でありながら実に様になっている。事実、彼女は煙草とコーヒーにはうるさく、代わりに艦娘に配られている間宮券を余り欲しがらない辺り、矢張り他の艦娘とは違うのだろう。

 

 

 

「よし、そろそろ行くか」

 

 

 

 吸い終わった煙草を海へと放り投げ皆に向き直る時雨。

 彼女の部下たちは煙草を吸い終わるまでに何とか持ち直したのか、整列して命令を待っていた。尤も皆が皆満身創痍であったが。

 

 

 

「さて諸君。楽しい戦争も終わった事だ。早急に帰還し、汚い垢でも流しながら戦闘の余韻でも楽しもうではないか」

 

 

 

 彼女の変わらない笑顔を見て部下達は頼もしいと思う反面表情に暗い影を落とす。

 

 

 

 

 やはり、彼女は艦娘などではない。

 彼女は艦娘の姿をした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 大日本帝国 首都東京 海軍省

 

 

 

 

 

「ソロモン諸島での戦線は膠着状態だな」

「はい。現場は一進一退を繰り返しており、深海棲艦を殲滅するには戦力も装備も足りていない状態です」

「北方戦線から部隊は引き抜けないか?」

「残念ながら北方方面司令部としては難しいと判断するしかない。新たに出現した北方棲姫への睨みもある。」

「西方方面と致しましてもこれ以上の戦力分散は愚行と判断致します」

 

 

 

 

 煙草の煙が立ち込める会議室で各戦線の司令官や参謀本部、そして総司令官などが今大戦――深海大戦――の戦線推移について話し合っていた。

 しかし、明るい話題は余り出てこない。

 数か月前まであった快進撃の明るい話題は何処にもなく、戦線の膠着や伸びきった補給線について頭を悩ませるばかりだ。それだけならまだ何とかなるが、問題はこれ以上戦線を押し上げる戦力が無いという点だ。

 

 深海棲艦は制圧海域を奪わない限り、無尽蔵と言える戦力回復能力を有する。つまり、長期戦になればなるほど人類側にとって不利なのである。

 

 幸い、現在は多くの拠点を奪取した結果、深海棲艦の増加速度は開戦当初よりも大幅に落ち、2、3か月で戦力を全回復させた頃程ではない。

 

 しかし、このまま戦線を維持するのも問題だ。現在の膠着状態が続けば何時か崩壊するのは目に見えている。その為早急な解決が必要なのだが。

 

 

 

「やはり他国への艦娘建造技術供用を考えるべきなのでは……」

「馬鹿を言うな。あれの技術は我が国の戦略的要だぞ。戦後を考えると秘蔵するべきだ!」

「しかし、このままでは前線が持たん。せめてドイツやイタリア等の同盟国には技術供与は考えるべきではないかね?」

「既に水歩の技術は他国でも成功している。何れは艦娘の建造技術も確約される恐れがあるなら利用価値がある内に外交取引用に使うべきでは無いかね?」

「事実アメリカやイギリスは技術供用の見返りにより一層の支援を申し出ている。それに各国が深海棲艦への戦線を押し戻せば我が国の負担は大きく下がる」

 

 

 

 現在話し合っている議題は各国への艦娘開発技術を他国へ輸出するかの可否である。

 今深海棲艦を圧倒できているのは他でもない日本が開発した艦娘と水上歩兵による賜物だ。もしこれらが無かったら戦線は既に内地まで押されていいたであろう。

 

 しかし、いくら優秀な技術とそれによって作られた兵器でも数では敵の方が圧倒的に有利な点で限界が来るのは必然である。それならばこの技術を他国と共有すれば戦線は劇的に改善できるのは目に見えて明らかであった。しかし、懸念事項もあり、先ほど出た反対意見、つまり戦後を考えるなら秘蔵した方が良いというものだ。

 

 実際に艦娘は強力な戦力であり、たった一人の少女が艦船と同等の能力を有しているのだから正にバランスブレイカーと言える。艦船より劣る点は射程が短い点と面制圧が砲艦よりも向かないぐらいで、彼女たちが戦後における戦略的存在になるのは火を見るより明らかであった。

 

 だからこそ他国への技術供用が慎重になるのは必然と言える。

 

 結局、今回の艦娘開発技術供用についての話し合いも平行線を辿ったままで終了となった。そればかりは直ぐには決められないという感じだ。

 

 気を取り直して彼らは次の議題へと話を進める。

 

 

 

「続いて前線の将兵からの提案で、艦娘や水歩兵との連携戦略と砲艦による支援砲撃戦略についてです」

「確か、前線で戦っている艦娘からの提案であったな」

「巡洋艦や砲艦、戦艦を砲兵部隊に見立て、艦娘や水歩兵は前線で戦う……正に陸軍の様な戦いだな」

「ですが、これが一番有効なのは確かです。艦船だけでは深海棲艦を倒すことは難しく、しかしながらその射程や範囲攻撃は魅力的です。ならば地上への砲撃と艦娘や水歩兵の護衛兼輸送任務中心な今よりも活躍の幅は広がるのでは?」

「各艦隊を預かる者たちは好意的だ。特に深海棲艦に苦汁をなめさせられ続けた者たちは是非全面的に採用するべきだと」

 

 

 

 報告を聞いて頭を悩ませる者もいるが、それは先程の議題に比べ圧倒的に少ない。

 何故ならば頭を悩ませる者はどちらかと言うと陸軍の真似事をする事が気に食わないだけで反対では無い為だ。

 

 この戦略は艦娘や水歩兵が前線で戦い、戦艦や巡洋艦、砲艦が支援砲撃を行うという陸上戦を海上で再現した戦い方である。事実提出された提案書には、陸軍の戦い方を参考にしたと思われる点が多々あり、群島における戦い方では、塹壕戦を思わせる物まで存在した。これを見た海軍の上層部は「何時から海軍は陸軍の真似事を?」と疑問が出てくるが、実際に有効なのだから反対も言えない。

 

 

 

「何度か試験的に行った所、前線での評価は上々です」

「つい先程入ってきた情報によりますと提案者が行った作戦では、少ない損害で大きな戦果を得られたとのことです」

「うむ。確か提案者は現在激戦区であるソロモン諸島に配属されていたな」

「はい、そうであります」

 

 

 

 報告を聞いた者たちは皆採用すべき、もしくは採用せざるを得ないという雰囲気を醸し出す。

 

 ここまで結果を出されたのでは反対する方が奇怪というもの。先程の議題と異なり、今回は逆に早く纏まった事で周りも少し拍子抜けした様子だ。

 

 

 

「それにしても。これほどまで練りこまれた戦略を生み出し、尚且つ前線で活躍する艦娘が居るとは……ぜひ会ってみたいものだ」

「そうですな、どうやら指揮官としての素質も多くある様です。将来的にはより多くの部隊を指揮してもらうのが理想かと」

「参謀本部としては彼女の戦略的見解に感銘を覚えています。是非欲しい人材です」

「しかし、報告によれば彼女は前線に好んで出撃する傾向があるらしい。そう易々と後方へ下がってくれるかね?」

 

 

 

 会議に区切りがついた為か、皆が皆今回の提案者に対して思い思いの話を始める。

 戦力に余裕がない現状、艦娘とはいえ優秀であれば、それ相応の席を用意するのが定石。未だに艦娘に対して否定的な者は居るが、ここに集まるものは艦娘を嫌うものが居たとしても侮るものは居ない。

 

 

 

「そういえば兵站担当の佐々木中佐は彼女に会った事があるらしいな」

 

 

 

 行き成り話を振られた兵站担当――今回は前線の兵站状況を説明するため上官に付いてきた――は、一瞬驚いた表情を見せるも直ぐに肯定する。

 

 この話には周りの上官たちも興味津々らしく、彼直属の上官までもが話を聞きたそうにしていた。

 

 初めは余り彼女の話に加わりたくなさそうな彼であったが、上官達からの希望とあっては、話さざるを得ない状況だ。

 

 最早逃げられないならば話すしかない。

 そう覚悟を決めた彼は、上官達へと向き直り彼女について話し始めた。

 

 

 

「失礼ながら申し上げますと。私が彼女を見た印象は決して良いものではありません」

「ほう……」

 

 

 

 彼の第一声に総司令官が思わず声を出し、眉を持ち上げてしまう。

 周りも何故という感情と続きを促す雰囲気を醸し出す。

 

 それに応えるかの様に彼は言葉を発する。

 彼の見たままの感想を。

 

 

 

「私が受けた印象……それは、彼女は艦娘の姿をした――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は笑う。戦場で

 

 彼女は歓喜を上げた。敵前で

 

 彼女は歌う。死体の上で

 

 彼女は踊る。地獄の中で

 

 

 

 

 人は常識外の存在が居るとそれを恐れる。

 だからこそ周りは彼女を恐れた。

 理解できないゆえに。

 心が分からない為に。

 

 

 

 

 故に必然。

 彼女は必然的にそう呼ばれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バケモノと

 

 

 

 

 

 

艦娘戦記――序章――end

 




皆さんの受けが良ければ続きを書こうと思います。

また今回出てきた水歩兵については次回あたりに詳しい説明を入れたいです。





※皆様の感想をお待ちしています。
 私自身誤字等見つけ次第修正しますが、ご指摘頂ければ幸いです。
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