艦娘戦記 ~Si vis pacem, para bellum~   作:西部戦線

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本作をお読みいただきありがとうございます。

ようやく完成したので投稿します。



第一話「新兵時代」

 

 

 

 

 

 

科学技術に優先するものは人間の正しい思想だ。技術を持つ人間が、それをどのように利用するか、世の中に貢献するか、しないかで、その価値が決まる。

 

――本田宗一郎――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生という言葉を知っているだろうか。

 

 要は死した者が再びこの世に生を受ける事であり、仏教圏での思想と思われがちだが、意外と西洋にも昔からある概念である。大まかに分けて転生型、輪廻型、リインカーネーション型の3つに分けられると言われているが、今はどうでも良い。

 つまり死んだ存在が『どの様な形であれ』再び生を受ける事が転生と思ってくれ。

 

 ところで何故私がこの様な事を突然言い始めたのか疑問でしょう。

 

 『それ』には深い事情があるのです。

 それは……。

 

 

 

 

 

 私自身が転生したからだからだ。

 更に付け加えるならば過去の日本へと。

 

 

 以前の私なら何を馬鹿な事をと鼻で笑い、言った人間を黄色い救急車で搬送させていたが、当事者となった今では最早笑えない。

 しかも死んだ理由は更に笑えないもので、勘違いした女に後ろから刺されて殺されるという惨めなものだ。

 死んで学んだ事は、女という奴は少し優しくしただけで、肉体関係や恋愛関係にも発展していないにも関わらず、突き放したら刺す様な存在だと再確認出来た位である。

 

 全くもってついていない。

 折角上司が列車事故で死んでポストが空き、愈々私の時代だと思った矢先であった。

 まぁ、だが転生も百歩譲って『ある意味』悪くないと言っておこう。なにせ一度しかない人生を再び謳歌できるのだ。そう、『普通に第2の人生』が送れれば問題ない。そうだ問題ないはずなのだ。普通の人生ならば。

 

 

 

 

 

 足らぬ信仰心云々で私を転生させた神……否、神モドキに言おう。

 

 死ね。もしくは死んでくれ、せめて殺されろ。いやそれよか私が殺す!

 

 

 

 

 

 私が生まれたのは貧しい農村地帯……だったらしい。

 らしいというのは私に当時の細かい記憶が無いからで、気が付いたら養子として出されていたからだ。

 当時は近代文明を西洋から多く取り寄せ、列強に追いつけと躍起になる我らが大日本帝国であったが、地方。特に田舎はそんな事は関係ないとばかりに貧しくそして昔ながらの風土が色濃く残っていた。

 

 そんな土地で生まれたものだから養子に出されたのは不思議な事ではなく、逆によく口減らしとして殺されなかったものだと感じたよ。

 尤も拾われた家にも問題があり、私は女性で尚且つ子供のころから容姿が良い方であった。

 

 そう、察しの良い人間には直ぐ分かるだろうが、私は大きくなったら男を相手に商売をしないといけないらしい。

 

 それが分かった瞬間この世を呪い、同時に何か回避する方法は無いかと必死に模索した。

 女に生まれ変わってそれなりになるが、男に抱かれるなど真っ平御免だ。今は下働きとして家の雑用を押しつけられている程度だが、恐らく15歳を過ぎればアウト。私は目出度く風俗な女にジョブチェンジである。

 

 色々と家に役立つ様に有能である事をアピールし続けているが、結果は思わしくない。

 否、ある程度事態は改善した……家の5男坊に嫁として結婚させられるという改善結果が。

 

 恐らく低い身分な血筋とは言え、有能だから自分の家族として迎い入れたいのだろう。この時代では良くある事だし、尚且つ見た目が悪く、変態気質、5男の嫁が決められるのだ。ある意味家を守るものとして妥当な考えと言えた。しかも件の5男坊は私に色目を使ってきて乗り気である。

 

 ここで私の考えは冗談ではないというものだ。

 誰が好き好んでブ男に嫁いで股を開かねばならない。

 此処にきて私はこの家では逃げ場がないことが判明。

 荷物をまとめ出ていくことにした。

 

 無論、唯出ていくだけでは、直ぐに連れ戻され、尚且つ逃げられないように監禁されるのがオチだ。

ではどうするのか。

 

 答えは簡単。

 軍に志願するのだ。

 

 この世界が私の前世における過去ならば無理であったろう。しかし、国家としては不幸でも私としては幸運な事にこの世界は前世と似た別世界である。

 

 何故分かるかだって?

 

 それはこの世界は3流映画の如く人類外的な侵略者によって危機に瀕している世界だったのだ。

 

 

 

 

 私も初めは信じられなかったが、家人が読んでいた新聞を盗み見て事実を知った時、大きな衝撃を受けたと同時にチャンスだと思った。

 

 深海棲艦という未知なる侵略者により、海の平和は乱され、それに対する対抗策として艦娘と呼ばれる存在が奮闘する。記事を見た時、正に私が逃げる道筋を見つけた瞬間であり、この好機を逃したらもう後がない。

 そう考えるしかなかった。

 尤もこの案も賭けに近いモノで、艦娘適正が無ければどのみち無理である。その為、軍に志願し、無理ならば着の身着のまま逃亡という形振り構っていられない計画を実行する事となってしまう。

 しかし、この時私は半ば確信めいた自身があり、艦娘適正については問題ないという考えだ。何故ならば艦娘適正のある者は『とある』共通点があるらしい。そして新聞に載っていた写真を見て私は『適正者』の可能性が高いと判断した。

 

 此処までの判断材料があれば自ずと分かるというもの。

 そう、私は容姿が似ていたのだ。

 かの駆逐艦型艦娘である時雨に。

 

 そうと分かればこんな家さっさと出て行く。

 私は少ない荷物を纏め、一応の置手紙を残し、軍門を叩いたのだ。

 結果、直ぐに検査を受け予想通り。駆逐艦時雨の適正ありと認定。晴れて時雨6番目適合者となる。

 

 

 

 

 

 此処で艦娘について説明しよう。

 艦娘とは、特殊な艤装を身に纏い、深海棲艦を倒すための戦乙女である。

その能力は正に圧倒的で、艦船と同じ防御力と攻撃力を兼ね備え、歳を取らず、尚且つ特殊な施設、通称「入渠施設」を使用すれば、内臓破裂や欠損といった超重症も直す事が可能。

 最早人間なのか疑問だが、軍の講義で説明された内容だと、可能にしているのは『妖精』という特殊な存在が適正者の体を作り変えた結果らしい。

 細かい点は軍事機密という事で教えられなかった為、残念ながら知り得なかったが、私はこの艦娘に晴れて成れた。

 まずは自由のそして安寧な生活への第一歩を踏み出せたのだ。

 

 

 正に幸運、正に好機。

 軍人となり、上へと目指すこれぞ我が道と心得たり。

 この時代の軍人は花形職。さらに人類の存亡を賭けた戦いが起き、人手は幾らでも欲しい。尚且つ艦娘は大変貴重な戦力だ。

 

 唯一の不満は命の危機だが、現在世界各国が協力して対応している点と艦娘技術により深海棲艦を押し返している。そう考えると人類滅亡の可能性は少ないだろう。ならば、今のうちにキャリアを積み上へと昇る。

無論、未来知識を活用する事に私は下手な悪影響を及ぼさない範囲では惜しまない。

要はこの世界にとって毒薬となる可能性がある先進的理論や思考は仕舞い込む。私の命と昇進の為にもね。

 

 これこそ我が人生の設計図。

 

 

 貴重な職種で

 未来の知識で

 そして勝てる戦争で

 

 キャリアを積む。

 

 全てが良い方向へと転んだ。

 少し前までの風俗もしくは強制結婚に怯えていたとは思えないほど良く廻った。

 良い……実にいい。

 

 

 これぞ我が明るい人生。

 今から未来が楽しみでしょうがない。

 

 

 そう思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日私は嬉々として艦娘専門の軍学校へと入学。

 

 模範的な艦娘として勉学や軍事訓練に励み。

 反発されない範囲の先進的論文を書き。

 常識的な交友関係を周りと結び。

 軍事的な後輩指導を心がけ。

 模範的優等生になり続けた。

 

 

 

 結果、卒業後新兵が、一般的に配属される筈の各種鎮守府正面海域には配属されず。私はなんと将官や軍令部の方々から直々に辞令を頂く。

 

 どうやら私の戦意と戦術を高く評価した結果らしい。

 聞いた当初は舞い上がる思いだった。

 正にエリート街道まっしぐら。

 このまま評価されれば、後方の安全な場所で優雅な生活と地位を手に出来るのだ。

 

 正にわが世の春。

 嬉しさの余り、明るく、やる気ある雰囲気で辞令を受け取った私は、思わず鼻歌交じりで自室へ向かい、着いた瞬間、居ても経ってもいられず封筒を素早く開け放つ。そして笑みを浮かべながら詳しい内容を確認すべく、中に入っている辞令へ目を通すと私は一度辞令を折りたたみ目元を揉み解す。

 

 おかしい。今、変な単語が見えた。恐らく疲れているのだろう。

 

 そうして意を決して再び確認した後、しばらく呆然としてしまい、内容を理解した後に思わず絶句した。

 

 

 曰く、新戦術のテストを実戦で行う為、最前線で尚且つ激戦区であるラバウル方面へ向かえと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦娘専門学校。

 

 軍に志願し、艦娘の適正がある者達が学び、経験するための場所。

 

 歴史は艦娘が生み出されて1年後。つまり今から7年程前で未だに浅い。

 在学期間は1年間で、1か月で基礎を学び3か月で肉体強化訓練。そして8か月で各種戦場や訓練について学ぶ。

 無論これで一人前という訳でなく、卒業後は深海棲艦が少ない海域へ配属され更に3か月の実戦経験を積む。

 そして今までの記録や点数を元に最終的な配属先が決まるのだ。

 つまり、1年3か月での教育後には晴れて正式な兵士として戦う事となる。

 普通なら兵士を育てるのに最低2年は必要と言われているが、艦娘では当てはまらない。

 何故か。

 

それは、前線へより早く人員を派遣したいという余裕の無さも関係するが、一番大きい点は、艦娘は『艦娘に成った』時点で、ある程度の艤装使用知識や戦術、その他艦娘における情報を刷り込まれるからだ。

 

 妖精という存在の力を借り、生み出された艦娘は各種装備を刷り込まれた知識により使用できる。その為、使い方の講義等は軽く流す程度しか教えられない。初めの基礎学習も、知識に抜けが無いかの確認と刷り込みでは入りきれない戦場での常識を学ぶことが主な為、短期間学習で済む。

 逆により時間をかけて学ばされるのが連携や戦術、敵に対しての知識である。

 その為、訓練における模擬戦や軍議以外は、どちらかというと大学の講義に近い情景と言えた。

 事実、講義後は、レポートの提出を求めたりと、大学キャンパスを思わせる授業風景だ。建物も海沿いの学校施設を改修した建物である為(警備や校内施設は全然異なる)より一層大学と思わせてしまう。

 

 

 

 そんな艦娘学校の職員室。つまり教官達が詰めている場所でレポートを嫌々見る士官がいた。

 彼は、艦娘へ戦場での作戦組み立てや戦略的観点でどう戦場を見るかを教える為の教官であり、今回自分が受け持つ者達に課したレポート内容を見ていたのだ。

 実戦経験のない彼女達から提出されるレポートは、大半はどこか考えが足りなかったり、教科書通りもしくは支離滅裂な内容が大半で、1つずつ確かめる作業はある種の拷問を思わせた。しかし、中には重要なアイディアが隠されている可能性も捨てきれないし、何より点数を点けない事には彼女達の配属選定に差し支えてしまう。

 

 

 

 何本目か分からない煙草を灰皿へと押しつけ、レポートの確認作業を続ける彼は、ふと視線を未読ものの山へと向けた。

 高さが1メートル近く有ろうと思われる山は、体に鞭打ち仕事を行う人間にとって、ヤル気を削ぐものでしかない。

 思わずため息が漏れるが、それでレポートが減るわけもなく、漸く作業を再開させた。

 

 

トン

 

 

 作業を再開して直ぐ。何か軽い衝突音がして、次の瞬間には、バサバサと複数の紙が床へと落ちる音が室内に響く。

 ぎくりとした動作で一瞬肩が上がった男は、見たくないものでも見るかの様にゆっくりと視線を先程の書類の山へと戻す。するとそこには、案の山が崩壊し、雪崩を起こしたレポート達が床へと散乱している。

 それも見事に1つのレポートを残して全てが。

 

 

「ああ、くそ。やっちまったか!?」

 

 

 慌てて片づけるが、何枚か付箋が外れてしまった為か、ページがバラバラに混ざり合い、どれがどのレポートか分からない状態へとなってしまっていた。

 これには最早脱力するしかなく、頭を思いっ切り掻き毟った後、ふて腐れた様子で椅子へと座り込む。

 脱力し、背中当てに体重を掛けて座る姿は、仕事を投げ出している様だ。事実半ば当たっており、彼の口から「今日はもう止めようかな」と小さな声が漏れ出ていた。

 要は諦めである。

 

 口からやる気のない声を意味なく出すと同時に煙草の煙を曇らせる。ふと机に残る1枚のレポートへと目を向けた。

 机の上に置かれた1つだけ無事だったレポート。

 見る人によっては、先程の偶然といい、まるで読むのを催促している様だ。

 題名と提出者名が自己主張する表紙を手に取り、恐らく唯残っていたからという適当な理由だが、それから読むことを再開した彼は煙草をくわえたままページを開く。

 

 文章を目で追いつつ紙が捲れる音が響く中、彼の表情が変わった。

 先程までのやる気無い顔から一転、彼の眼は見開かれ、ページを捲る音も力が籠ったものとなる。時にはひとつ前のページへと戻り何度も内容を確認する点から、より詳しく理解しようと努力しているのが見て取れる。

 

 しばらくそうしていると職員室の扉が開く音が勢いよく開き、誰かが教材片手に入ってきた。

 

 

「お疲れ、まだやってんのか……って、床に書類ぶちまけて片づけもせず何してんの?」

 

 

 職員室へと入ってきた同年代と思われる男が、落ちた書類を片づけもせず、一心不乱に何かを読みふけっている様子を見て驚く。

 恐らく講義後だったのだろう。室内に入った男は疲労を感じさせる溜息を一つ付くと教材を自分の机へ置き、落ちたレポート片づけを手伝う為、嫌々近づいた。

 

 しかし、近づく最中、先程から同僚が微動だにせず、未だにレポートを凝視している姿に気づくと怪訝な表情を浮かべる。その姿は何か鬼気迫る雰囲気を感じさせるもので、もしこの場に第三者が居れば、異様な雰囲気を即座に感じ、職員室を出ていきたくなるだろう。だが、手前で立ち止まった男は、逆に同僚をここまで夢中にさせる原因が何か気になっている様子で、原因たるレポート用紙を凝視する。

 

 ふと先程までレポートを読んでいた男の気配が少し落ち着いたものへと変わった。多分読み終ったので雰囲気を軟化させた様だ。

 

 

「何? 何か気になる書類でもあったのか?」

 

 

 話しかけるタイミングが到来した事で、好奇心を刺激された男は、足早に同僚へと近づくと今度は近くから声を掛ける。すると疲れか、それとも別な理由からか、目頭を抑えてマッサージをしている同僚は、顔を上げると男へと向けた後、無言でレポートを突きつけた。

 

 

 黙ってこれを読め。

 

 

 無言だがハッキリとそう意味を込めて男へと視線を向けるその姿は流石に馬鹿らしいと考えたのか、男は自然と呆れた表情を見せてしまう。そして黙って受け取ったレポートの表紙を少しの間凝視した後、意を込めて読み始める。

 

 再び室内を満たす紙を捲る音。

 その流れは先と同じく、初めはゆっくりと。しかし、後半には何度も前後させ確認するものとなる。無論男の表情もまるで同じだ。

 

 

 

 時間にして15分ほどだろうか、一通り読み終った男はレポートを目の前の人物へと返し、深いため息を付く。

 疲れた様などう表現すれば良いか分らないといった表情は次の瞬間には真剣なものへと変化していた。

そして息を吸うと。

 

 

「提出者は?」

 

 

 簡潔にしかし多くの意味を乗せて聞く。

 

 

「時雨2等水兵。10期生の方だ」

 

 

 聞かれた側は、打てば返す楽器の如く、ハッキリ述べる。

 彼自身既に聞かれると分かっていたのだろう。その瞳の眼光は力強い。

 

 

「彼女は……戦争を、いや、世界を変えるかもしれない」

「俺もそう感じたよ」

 

 

 互いに確認し合った2人は急いでレポートを彼らの上司たる校長へと持っていく。

 これの価値を見出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レポートの題名にはこう書かれていた。

 

 

『深海大戦後における国家間における戦争及び艦娘の活用事項』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は1つ間違いを犯してしまう。

 艦娘の能力を人類と深海棲艦両方の戦争に広く活用できると上層部は既に考え、教官達も思い描いていると。事実、艦娘技術を他国へ輸出したがらない姿勢や講義内容を見て、その考えを確信させた彼女はこう判断した。

 

『ならば現大戦である深海大戦のみを題材にしたレポートよりも戦後を題材にした内容もしくは両方に対応できる戦術等の方が目に留まってくれるのでは?』と。

 

 実際にその思考は間違っていない。

 上層部は艦娘が次の時代における戦略的要になり、戦争を変える物だと理解。よって、その技術を他国へ渡すのは不可能もしくは一部に限るのが好ましいと思っている。無論教官クラスでも同様な思考を持っているだろう。

 

 

 

 では何が不味いのか。

 

 

 

 話は変わるが皆さんは飛行機を知っている筈だ。

 天高く飛び、人や物を高速で運ぶ便利な乗り物。

 そしてそれは軍民問わず今では欠かせないものだ。

 しかし、登場した当時は懐疑的な意見が多く、その有用性が示された後も試行錯誤の連続であった。

 

 軍事的に大々的な投入が成されたのは登場してから約11年後……第一次世界大戦の頃である。

 結果、飛行機は偵察から対空戦闘、爆撃そして連絡と多様な戦術を編み出せたのだ。

 しかし、この時期でも飛行機は未発達な存在で、恐竜的進化を遂げる第二次世界大戦まで約20年を要してしまう。これは性能的な問題もあるが、運用方法は試行錯誤の連続なのも起因する。

 

 

 再び話を変えるが、彼女の提案していた内容が、もし航空機に関するものならば、その時代の技術に合ったモノを提出し、尚且つ先進的過ぎた技術は逆に今後の技術発展を邪魔する可能性があると思い至ったであろう。

 

 

 では此処で一つ有りえない仮説を設ける。

 もし、技術は現代だが、戦術は全くもって未発達な時はどうアドバイスをすればよいのだろうか。

 普通ならば有りえないチグハグな情景。

 技術と戦術は片方が多少追いついていない事があるが、完全に引き離される事は先ずない。正に有りえない仮定と言えた。

 

 しかしもし、有りえたなら如何するか。当然ながら行き成り現代戦に合わせずスピードは速めだが、段階に教えていく筈だ。

 行き成り革新的な戦術を与えてもそれは劇薬に過ぎない。

 下手をすると国家戦略に大きな歪を生むことになる。

 他国に漏れようなら目も当てられない。

 

 

 これが艦娘の場合はどうだろう。

 艦娘は言うなれば技術が最初から発達し、尚且つ初めから操作方法が提示されたある一種の完成兵器である。

 技術は完成しているのに戦術は完成していない。

 その為、現場は試行錯誤を繰り返し、今回の様に教官達が必死に訓練生からもレポートを求め生かそうとしているのだ。

 

 

 そんな所に現代戦の知識やそれらの知識に裏打ちされ、今ある時代で再現かつ効果を期待できる戦術を提示したレポートが出てきたらどうなるだろうか。

 

 

 

 艦娘の能力を駆使して輸送機からの降下を行うといった作戦方法の数々。

 特殊部隊構想とゲリラ戦における細かい戦術の多く。

 艦娘を艦隊的な運用ではなく、陸軍に近い猟兵的な活用法。

 そして今後各国が艦娘を運用してきて尚且つ戦争に発展したときの推移予想。

 

 

 

 前世の書類作成技術とプレゼンテーション能力を遺憾なく発揮したそのレポートは大変分かり易く、どれもこれもが再現可能かつ理解可能な――劇薬だった。

 

 

 

 彼女の不幸は、兵器の発展状況と戦術の発展状況をある程度比例して考えてしまった事であり、尚且つ艦娘となり、戦う方法を自然と身に着けてしまったからこそ他も同じと感じてしまった点だ。

 

 

 

つまる話、彼女は現世の技術を理解しつつ、情勢も分かってはいたが、艦娘については分かっていなかった。

 

 

 

 ハッキリ答えるとつまり。

 

 やらかしてしまったのだ。

 




時雨「どうして、どうしてこうなった!?」


水歩兵についての詳しい説明書けなかった……






今作も読んでいただき誠にありがとうございます。
文章の書き方や段の開け方を少し変えてみましたが、どうでしょうか?
もし、前のほうが良い場合はご意見ください。

今後はストックも一応ありますが一週間ごとの更新を目途に連載したいと思いますので、どうか気長にお待ちください。(筆が乗ればもっと早くできるかも)


誤字や脱字、その他ご意見お待ちしています。

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