初めましての方は初めまして。お芋侍です。
今回はバトル要素は減らし、成るべく那智の心理を重点的にしてみました。
———私の提督は、変わり者だ。
私は那智。佐世保で海上防衛の任務を主としている艦娘だ。
佐世保の鎮守府に着任してもう三年にもなる。
「やぁれやれ、今日も書類と睨めっこだぁ…」
「そうぼやくな。 貴様もこの仕事の重要性ぐらい分かるだろう?」
この話している彼は、私たちの提督である
「そらそうですがね? いくら判子押しても減るどころか増えるってどういうこと? しかも大半が艤装に関する物ばっかだしよ」
「それ程貴様が信頼されている証だろう? ぼやかずに手を動かせ」
「……信頼ってよりも厄介事を任されている気がするんだが」
「…………」
「何か言ってくれよ………」
深く長い溜息をつきながら判子をポンポン押していく提督を見て、不覚にも可愛いと思ってしまう私は、既に彼から抜け出せなくなっているのだろう。抜け出す気も無いが。
着任したての当時の私は、深海棲艦を撃滅するという使命に燃えていた。彼の言葉を借りると「強迫観念レベルの、何か親しい人でも殺されたの?ぐらいのヤバさを秘めていた」だそうだ。……今考えてみれば、あまり味方にはしたくない娘だなと思う。
事実、最初は誰も関わろうとしてこなかったし、私も関わろうとしなかった。誰かと話しておくよりより多くの敵を沈めたほうが良いと考えていたからだ。
私は提督にお願いし、第一艦隊の旗艦か二番として戦っていた。誰よりも戦果を挙げ、誰よりも果敢に戦い、誰よりも前に出た。——―それが、まさかあんな事故に繋がるとは思いもしなかった。
「……おい、どうした? 何処か遠くを見つめて」
「ん、いや。少し、昔を思い出していただけだ」
「さいで」
彼はそういうと書類を置いて机から離れ、提督室にある冷蔵庫の中から、コーヒーを取出し、
「那智はコーヒーいるか? 生憎、後は麦茶しかないけど」
「……コーヒーのブラックを頼む」
「あいよ」
二つのグラスを取出して、その中に黒い液体を入れていた。微かながら、コーヒー独特の匂いもする。——―が、ここまで来て、本来なら私の仕事だったと思い出す。
「……済まない、少し考えすぎていたようだ」
「気にすんな。誰だってそんなことはあるモンだ」
提督の優しさが、少し恥ずかしかったが、私は彼が持っているコーヒーを頂き、少し飲んで舌を湿らせる。
この優しさが、あの時の私を救ってくれたのだなと思う。
着任して半年経った頃だと思う。
私はいつもと変わらず前に突出し、敵艦隊をかく乱しながら敵を殲滅していた。しかし、その時戦った敵は、いつもよりだいぶ弱かった。
それに気付かず、敵を殲滅いた私だったが、ここでアクシデントが発生した。——―私を取り囲むように敵が円陣を組んでいたのだ。
更に最悪なことに、突出しすぎていたのか、周りに味方が一切いなかったのだ。……いや、仮にいたとしても、とてもじゃないが勝ち目は無かっただろう。私は敵に反撃も許されず、敵の砲撃をただひたすら耐えるしかなかった。私の死に場所もここだと思った。
気を失う寸前に見たものは、味方の鳳翔の、必死の顔だった。
次に目覚めたのは、鎮守府の中にある艦娘用の病院の一室だった。
どうやら本当に死んでも可笑しくなかったらしく、体に無数の管に繋がれているのを見た瞬間、思わず引きちぎろうとした瞬間、激痛に襲われてようやく生きていることを実感し、涙が流れた。
しかし、鳳翔の容体が悪かった。それも、私の考えている事よりも悪い方向に。
鳳翔の怪我は左腕が最も酷く、たとえ治ったとしても、艦娘としての復帰は難しいと。本人の口から言われた。
私は謝った。泣きながら、何回も謝った。ゴメンナサイと。ゴメンナサイと。
鳳翔は気にしなくてもいい、命があっただけ儲けものだから笑いながら言っていた。
それでも私は謝り続けた。必死に。ただひたすらに。吐いてでも。
謝りに謝り続け———私は、また意識が無くなった。
気が付けば、周りは夜になっていた。鳳翔はすでにおらず、床頭台に一つの紙が置かれていた。
麻酔が効いているのか、体が痛みを感じなくなっているのか、特に痛みを感じず置かれた紙を読んだ。
書かれているのは”気にしなくていいから。体を治すことに専念するようにね?“と書かれてあった。それを読んだ瞬間、私はとある考えに至った。———私は何で生きているのだろうか、と。
今考えてみれば馬鹿らしい考えと笑ってしまう考えだが、当時の私はそんな考えですら可笑しいと思うことすら出来なくなっていた。
”これ以上、迷惑はかけられない“ そう考えた私は体に付いている管を引きはがそうとした瞬間、
「おいバカやめやめ!? それ引っぺがしたらホントに拙いっての!」
いつの間にか部屋に入っていた提督の手で押さえられた。
「何故、止め、る……!!」
「止めもするわボケ! 第一絶対安静なのになに動こうとしてんだ!?」
「何故、だと?」
提督の言葉を聞き、頭の中が真っ赤になった。
「私は、鳳翔の、艦娘としての生きがいを奪ったんだぞ!?」
「お前風情が、鳳翔の生きがいを勝手に決めんな! あいつの生きがいは戦うことだけじゃないんだぜ!?」
「だとしても! 私が鳳翔の、選択肢を減らした! こんな私の所為で!」
「選択肢なんぞ何ぼでも増やせるわ! つか暴れんな管が取れるゥ!?」
ベッド上で大声で怒鳴るわ、その所為で一部の外れたら拙い管が外れかけたり、一部の傷が開いて血が出てしまったりと、今考えてみれば、悶え苦しんでしまいそうなことだったが、その時の私は提督に強い怒りを持ってしまった。自分自身が悪いというのに、だ。
「貴様にとって、私は取るに足らない存在のはずだ! なのに、何故…!?」
「ヤダコイツ自分の変わりが何ぼでもいると思ってるタイプの奴だよ! もう何だよ自分の価値低すぎる奴多すぎるよクソ!!」
「事実、だろう……!?」
「少なくとも俺は違うわ! 第一さぁ、伊達や酔狂で第一艦隊旗艦何ぞ任せるか! 全員大切だから経験を積ませとんのじゃ!
俺はなぁ!! 全員が大切で、その中でお前も入ってんだよぉ!!」
「その中に、私が入ってるとでも……」
「当たり前だろが!! どこぞの少女みてえに変わりがいる訳ねえんだよ。ここにいる手前も! 誰も手前の代わりにはならねえんだ!!」
「……ッ!?」
「なのに手前は自分勝手に助かった自分の命を無駄にしようとしてやがる! その行動はなあ! お前を助けようとした仲間に、鳳翔に対して泥を付けてるのと同じなんだよ!」
「黙れ……ガハッ」
傷が開いたのか口から血が漏れ始める。
「だから言わんこっちゃない。ナースコールを———」
「私は———」
「うん?」
「私は、自分が正しいと、それだけを信じ、その挙句こうなった。
仲間も、私の事が嫌いだろう。鳳翔を戦えなくしてしまったのだから」
「だから私には居場所がないってか?———お前、アホはアホでもとんでもないアホじゃねえか?」
提督は片目を瞑り、溜息をつきながらナースコールを押し、
「私の事が嫌い? だったら謝ればいい。俺も頭を下げてお前の許しを請いてやる。
居場所がない? だったら俺がその居場所になってやる。 俺が手前の錨になってやる。
だからさ———泣くのをやめろとは言わん。いい加減笑ったらどうだ?」
気が付けば、私は彼に抱きつき嗚咽を漏らしていた。吐血と涙で服が汚れても、彼は頭を撫でていた。
多分、この時に、私は彼に恋をしてしまったんだと思う。
「おいおいどした? 随分顔がゆるんでるな?」
「……少し、昔のことを思い出しただけだ」
「昔、ねぇ」
「何だ貴様、ニヤニヤしだして」
「いや何、大分笑顔が浮かぶようになったなと思っただけだ」
「…笑っていた、か」
着任する前なら恐らく笑うことはあまりなかっただろうと思うと、少し感慨深いと思ってしまう。
「晩飯には鳳翔のところに行くぞ。最近新しいメニュー考えたそうだぜ?」
鳳翔は彼が気を利かせ、知り合いにお願いして小さい料理店を開いた。
美人な女将がいると噂がたち、今では行列のできる料理店となっている。本人曰く、「艦娘時代より今がすごく楽しい」とのことだ。
———その言葉を聞き、私は肩の荷が下りたような気がした。
「では、貴様と二人きりで行くとしようか?」
「んだな」
私の提督は変わり者だ。———だけど、その提督が好きな私は、もっと変わり者なんだろう。
この思いが、たとえ彼に届かなくても良い。死ぬその瞬間まで、貴方を守らせてほしい。
それだけが、私の、たった一つの願いだ。
という訳で、第一話 那智の場合が終了いたしました。
うん、前作の投稿時間から一年以上たってて本当に申し訳ありませんでした(焼き土下座)
色々と忙しく、書こうと思ったらまさか設定を全部忘れて全力で読み直している最中です。
それにしても相変わらず酷くて草も生えない。那智の心理が上手く書けてたら良いなぁ……。
誤字脱字、その他ございましたら感想欄にお願いします。
作者は感想文が出るたびに喜びます。
所で、アーケードで金ぴかで運⤴で書かれている不知火が出てきたんですけど、これレアなん?