ポケットの中の日常   作:柑橘 類

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セキエイチャンピオンシップ①わたしにこのてをうごかせというのか

ポケモンが姿を現してから、人間の生活は変わった。古来から共生し、身近なものであったゆえの弊害か、使役としての関係性への変化、研究のあり方はまだまだ不確かであり、今もなお、生態がベールに包まれている分野でもある。

 

各地域の研究者達は凌ぎを削り、その進歩に喜びを見出し、それと共にあらゆる技術が発展して行った。そのなかでもポケモンの進化の過程、卵の存在は君たちにとっても馴染みの深いもであろう。また幾度となく新種の発見が進み既に何百ものポケモンがこの世に存在し、なおこの進歩はとどまることをしらない。

 

これ以上は語るに長いから此処は割愛しよう、これはある男の人生のページを抜粋して綴ったものである。

いよいよ物語の始まりだ!

 

夢と!

 

冒険と!

 

ポケットモンスターの世界へ!

 

 

 ――レッツゴー!!

 

 

――――――――

 

四天王制とリーグ制を組み合わせてもう十年が経つ。そこではあらゆるドラマが生まれ、カントー、ないし全国の猛者どもが凌ぎを削り合い英雄と敗者を生み出してきた。

今年もどの様なドラマが此処から生まれるのだろうか。

 

 

 

-セキエイチャンピオンシップ-

 

 

 

セキエイチャンピオンシップとは、二年に一回行われる王者達の祭典である。

現カントー四天王、各地域のジムリーダー、一般、プロトレーナー達入り乱れたカントー屈指の大会である。

 

同時に、ポケモン協会が一番忙しくなる年が今年もやってきた。勝ち抜いてきたトレーナー達が華々しく脚光を浴びると共に、その裏で汗をかく人間も存在するのである。

 

 

泥沼につかったかのように、睡魔が我が身を襲い、書類を投げ出したい気持ちが溢れ出す。ただ彼は責任者である故に、迂闊に寝入ることも逃げ出す事もできない。

 

「マジで鬼畜の所業。」

 

赤髪ドラゴン野郎を呪いたいとブツブツ呟きながら、一つ溜め息をついて、後ろ背中に哀愁を伴いながら給湯器に向かうのは本作の主人公であるケンゾーである。

コーヒーを入れる為の一挙一動が愚鈍で、見るからに疲弊しきっているのが目に見て取れる。

 

 

まるでヨワシの群れのようにふわふわとその横を舞う書類群。

 

その横では、タクトを振るように腕を動かすサーナイトが真剣な面持ちで書類を分別して処理する。整理した書類を念力で所定の場所まで動かすまでがセットである。

 

この部屋で、書類が飛び交っているのはこの時期においては日常茶飯事のことであり、知人、友人関係者にとっては見慣れた光景でもある。

 

 

会場の準備に、周辺施設の整備、審判員の決定から日程の調整に、警備範囲の設定まで割振を、1人で決定しなければならないから、彼にとってはたまったものじゃない。

通常は四天王に就いている4人とチャンピオン主導の下、その補助役としてのポケモン協会が業務を回してるので成立しているこの体制もひとたび四天王が出払うなり、この様な現象が起こるのである。

確かに、最上を決める大会に限っては仕方がない事象であるとも言える。

 

 

代わりに多くのサポートの人が駆けつけて来てくれている事もあり、何とか運営は回っているのである。「しっかし、強いやつが偉い世界ってのも考えものだよな。戦闘狂に戦うなってるもんだしなぁ。」

そんな言葉を吐いている彼がしっかり働いているのも珍事と言われているのは言わぬが花か。

 

ひと段落ついた頃に、軽いノック音が室内に響き、彼に来訪者を告げる。「失礼します」と言う言葉と共に、入室して来たのは勝ち気な目をした青年であった。

 

 

 

グリーンは、ドアを開けた事を真っ先に後悔した。祖父の頼み事を受けて書類持参の元、向かった先は彼の兄貴分がいる部屋である。”会長室”と書かれた如何にも高級感溢れるプレートが鎮座し、その内奥に入るのは彼も初めてのことであった。

 

どうぞ、と言う言葉に促され先ず目に入ってきたのは満面の笑みの見知った顔。心の中の全俺が盛大にヤっちまったと思ってしまったのは悪くないだろう。横には書類が山のように積まれいる時点でお察しである。彼の隣にいるサーナイトもいかんせん目がキラキラしているもの。アレは姉貴が俺に頼み事(奴隷)にするのと同じ目だ。

 

 

おっと、いいところに来るではないかグリーン君。と彼から声がかかる。全くをもって白々しい。逃げるんだ俺!まだ勝機はある。彼の頭脳はすぐさま答えをはじき出す。グリーンは逃走した。

 

 

だが逃げられなかった。

 

 

ドアノブにグリーンが触れるその目の前にはテレポートで現れたサーナイト。おててに渡される山積みの書類。グリーンは崩れ落ちた。

 

 

 

 

しかし、一体先ほどの死んだ魚のような目はどこに言ったのであろうか。鼻歌を歌いながら、バトンタッチ!と委任して良い書類だけを選別して、グリーン押し付けるダメ兄貴である。サーナイトさんもここぞとばかりに席にグリーンを縛り付ける。

テーブルにはテレポートで輸送された書類が山積みだ。

主従共々いい加減な奴らである。全く。

 

 

今ではトキワジムのジムリーダーを務めるまでに成長したグリーンも彼らにとって小さい頃から面倒を見ている近所の弟分な様なものである。今は目の前で煤けているが。

マサラ市民会でケンゾーの口癖としてよくあがるのは「昔はナナミにおんぶに抱っこされていたものなのに...」であり、彼のポケモンが相槌をうち、全力でグリーンが嫌がると言うところまでがセットで付いて来る。まるで何処ぞのハッピーセットの様である。

 

いやいや、そんな昔の事って言わないでくれよって?んん?グリーン君そんな事を僕に言うのかね。キラキラした目でグリーンを揶揄う主人を尻目に、勝手に出て来たグリーンのフーディンもやれやれ、と主人を一瞥して放置するあたり薄情な奴である。まぁ何時ものことか。

結局しっかり書類仕事をきちんとやらされるグリーン。ヒィヒィ言ってる横で、うむ。素晴らしい援護であったとケンゾーは満足そうに一つ頷いて、目の前の仕事に取り組むのであった。

 

 

 

 

話を戻すと、グリーンが持って来た本題は、今大会におけるジムリーダーの配置に関する書類であるとのこと。あらかじめ連絡はあったが、以前から決定していたジムリーダー枠で、ハナダのカスミちゃんとセキチクのアンズちゃんが大会の予選に出る為、人員に欠員が出るという知らせが一つ。二つ目としては、クチバのマチスさんが警備長で、補佐としてアンズちゃんの代わりにキョウさんが回ってくれるとのこと、頼もしい事この上ない。二人共その道のプロといっても過言でないので、これ以上は望めない最高の人選である。

 

 

キョウに至っては警備だけでなく、トーナメントの運営を回して貰っているので、彼が部屋で書類を回していれば良いという形が出来上がっているのである。

 

そして、グリーンと残りのカントージムリーダーで運営の裏方に回ってもらっている為、目の前でグリーンを扱き使うのは間違ってはいない行動なのである。うむ、私は正しい。(ちなみに2年ごとにはカントーとジョウト地方でお手伝いは持ち回りである。)

そしてここに、グリーンを生贄を送って来るあたりカントーのジムリーダー達もいいかなり性格をしている。本当にカントーのジムリーダーは優秀である。間違いない。うむ、文句は彼らに言いたまえ。グリーン君よ。無知は最大の罪である。

 

 

 

冗談はさておき、世間では、緻密な構成で、若手頭脳派No.1と言われるグリーンにとって今回の大会の本命は誰なのかとケンゾーは尋ねる。ハイライトで染められた目に少し光が戻り、少し張巡してから、ワタルであろう。と返答するのは彼なりにも思うことがあるのだろうか。フーディンに書類をまた押し付けられ光が消える。グリーンの目の前は真っ暗だ。

 

 

確かに、エース格を張れるとされる龍種を何体も従えている彼は化け物である。龍種大抵はドラゴンタイプなのだが、彼らは総じてプライドが高く、大概の人は龍種を迎える時はパーティに一体、しかもリーダー格としてパーティーに迎え入れるのが一般常識であるからその異常さが際立つ。尚且つその一体一体が洗練された力を持つので尚更だろう。彼らは1対1対面に絶対的な爆発力を持つのでグリーンのいうことは余程の番狂わせがない限りほぼ間違いない。

 

 

うだうだ言いながら喋っていたら、ふと実家についての話になった。ナナミが会いたがってるらしい。自身、マサラにここ久しく帰れてないので正月にでも帰ろうかしら...と考えているあたりワーカーホリックの仲間入りである。否、この機会限定である。ただ飛び回ってるだけの間違いですからね。

 

まだ夏なんだよなぁ。季節。旅に出たいねぇ。それもこれも業務次第なんだけどねーと、サーナイトと話をする横で懇願の声をあげるグリーン。お姉様の為にも帰ってきて欲しいらしい。いったいどんなお姉さまだよ。まぁ存じ上げますけれども。

 

 

数時間にかけてカリカリ、というペンの音が室内を支配する。なんだかんだで仕事をやるグリーンの横にはなんだかんだで書類と向き合うケンゾーの姿があった。




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