ポケットの中の日常   作:柑橘 類

4 / 4
セキエイチャンピオンシップ④好きなポケモンで勝てる様にね。

今日はカリンとフスベで飲みのお約束である。

そう、常々彼女は胸をむんっとはって、夜の街に繰り出すのである。

 

何処迄も蒼い深海のような髪を靡かせ、カリンはこう言った。「勝ちたかったわね。本当。後悔はしていないけれども、幸福では無いわ。」と。ふふんと僕は笑ってこう言った。「君の想いが有限な資源であるとするならば、君のその気持ちは余剰を生み出すよ。その分はまた次回良いことになって帰って来るさ。」と。

 

御茶目な問答を返したつもりなんだがね。憂えた瞳を携えた彼女は、ほぅと一つため息をつく。彼女は勝利への想いは人一倍であった。好きなポケモンで勝つ。そこの一点。世間で広がる。種族の壁に彼女もまた、ぶつかっていた。

 

ただ彼女はつらつらと言葉を吐き出す。強烈な想いの反動はかなり大きかった。

僕には酔いが回っているのである事ない事ペラペラである。思いの丈をぶつけるは良い相手だろう。ただいかんせん飲みすぎたか。今思えば唯のアホである。酔いで頭がお花畑である。キレイハナが咲いているー。これもまた珍しいのだが、何とも言えない。まぁ人様に見せるものではないんだがお許し下さい。

 

夜の静けさと同じ様な静寂が辺りを包み人々を包み込む。目の前のキャンドルの火がゆらゆらを揺らめき、幻想を作り出す。私の真横にはあの日と変わらぬ彼がいる。いや、少しお互いに年をとったか。

 

私がいるのは無慈悲な勝負の世界である。勝者がいれば、敗者もいる。勝つか負けるかの世界。敗者としての苦渋は幾度も味わった。しかし、今回の敗戦は相当に来る。じわじわと胸を侵食し、酔いもあまり回らぬ程に。それは未だ、ヒリヒリと胸を焦がす。重い壁、大きな壁。

 

ただひたすらに言葉を吐き出す。目の前の彼はただニコニコと頷くのであった。

 

 

 

 

 

私はポツリと一言吐き出した。「結局、種族の壁は超えられないのかしら。」と。同意を求めたのだろうか。しかし、その言葉は易々と吹き飛ばされる。

 

 

「そんな事ないでしょ。全てが発展途上なのにさ、戦術も構築の概念も薄いのに。格ゲーみたいな理不尽極まりないコンボ技とかだされたら文句も言いたくなるけどさ。まだまだ力一辺倒のゴリ押しなんだって。」

 

 

 

色取り取りのネオンが光るカウンターの横で、僕はラムの身風味のビールを片手にツマミを摘む。カリンは相変わらずクラボ絞りカクテルがお好みでぐいと一つ煽り、ぐいと二つ煽るとあら不思議。容器の中身が空っぽになるのである。そしてこちらに向けるその目は据わっていた。

 

「どういう事よ。構築の概念になんですって?。」

 

お酒における剛なるものとはこの事か、まぁ俗にいう酒豪って奴である。

 

「レベルの概念もさ。最近オーキド博士によって体系化されたけど、同じレベルでも練度によって強さが違うでしょ。それと一緒だよ。まだまだ強くなれるよ。僕らは。」

 

 

 

 

今ではすっかり大人の女性であるけれども、まぁ、ダグトリオの魂はなんとやらってやつである。片手でクラボを摘みながらすっかり考えこんでしまっている。昔っからの味覚は今も変わらず、辛いものが好きなんだよね。彼女。ビール片手に塩辛とかも良く摘んでるんで、渋いなぁってのを通り越してただの親父化現象か。

 

まぁなんだかんだで、甘い物に辛いものと趣味が合うのである。

そして、彼女は勝ち負けに厳しくて勝てばそりゃもう内心すごく喜ぶし、負けたらそりゃあ落ち込む。本人は隠し切れてるだろうと思っていても、結局、昔馴染みにはすぐわかる。

普段、流麗、表情が読めないクールな女性と称される彼女も身近な人にとっちゃあただの一般人、黒いキャミソール型ワンピースに薄く白いカーディガンを羽織った彼女はやはり綺麗なもんである。まぁ酔った女性はまぁ言わずもがな、魅惑かつ官能的である。

 

 

僕らの手持ちである、エーフィ、ブラッキーは足元で2人でもう寝息をたてていた。さっきまでは仲良く遊んでいたので疲れたのだろう。

 

 

「好きなポケモンで勝てるのが一番なのにね。」っていうカリンの言葉が耳に残る。 仲が良いだけで勝てる次元に彼女は既にいないのかもしれない。

その中でも好きな子達だけで勝てて来てるのは一重に彼女の持つ才能と愛故のことであるし、それがこの一敗で否定された訳では無いが、やはり負けは堪えるらしい。結果のみの世界に生きている人間としては、当然の事であるし、自分もいざ同じ立場になるとカリンに慰めてもらうのであろう。死ぬほど悔しい。胸が張り裂けそうなくらいに、心がはち切れそうなくらいに、負の想いが身体を駆け巡るのである。それは幾つになっても中々に制御は難しいものである。それでも僕らは発展途上にいるのだから。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。