夜闇を切り裂くように、爆炎が迸った。
ガソリンのぶちまけられたようなどす黒い液体、誰のものともしれぬ赤い血、緑に芽吹いていた草木……。全てを巻き込んで、炎は舌を伸ばす。
「第2班! そっち行ったぞ!」
「第1班了解! なんとしても足止めしろ!」
だかだかと銃弾をたたき込む音。倒れる樹木。転がり落ちる薬莢。再び爆ぜ散る血肉。そして、蠢く巨体。
ここは既に、戦場だった
「有効弾着見えるか!?」
「7.62mmならなんとか怯む! それ以外は軽すぎる!」
「ふざけるな! 7.62mm一杯どれだけかかってやがると思ってる!」
炎に照らされた奇っ怪な樹木の群れ。その隂からまた、ドラムでも鳴らすかのように銃声が飛んでいく。
男はただただひたすらに引き金を絞り続けていた。
そこは小さな窪地のようになっている草地だった。木々の生い茂る上の方から、背丈の低い草で覆い尽くされた下の方と連携して窪地内に敵を誘い出して、それを撃つ。簡単に言えばそれが作戦だ。
――いや、作戦だった。
「止まる気配はあるか!」
「全くありません! こいつ、銃弾が効いてないんじゃないのか!!」
結果的に、窪地への誘因は成功した。
誤算は、敵が作戦をぶちこわすほどに強大すぎた。と言うことだけだ。
黒い体が前進する。それだけで背の低い叢が地面ごとえぐれて、そこにふせていた者の断末魔を撒き散らす。
「くそったれ……いい加減に倒れてくれ!」
そのとき、じろり。と、どこかからかねめつけられた気がした。
ぞくりと背筋に悪寒が走り抜ける。ほとんど反射的に、脊髄の命ずるまま地に伏せる。
刹那、咆哮。
草むらの中で弾かれ続ける銃弾を浴びるだけだった黒い生物が絞り出すかのように、空へと大きく吠えていた。
とたんに耳を塞ぎたくなってしまうほどの不協和音が響き渡り、それ終わったかと思うとその大きく開けられた口から、ガシャリと細長い筒のようなものを突き出した。
「……っ」
男にはそれが、戦艦かなにかの砲のように錯覚してしまって。
「その場に伏せ! その場に伏せて対爆防御体勢!! 早くしろ!」
近くでバナナ型の弾倉を銃身にたたき込んでいた歩兵のヘルメットを押さえつけながら、そう叫んだ。
伏せたまま横目で見てみると、草葉の陰で身体を丸めて、耳を塞いで、口を大きく開けた対爆防御体勢を整えているものが見えて、ほっと一つ安堵のため息をついた。
直後、轟音。
ぱらぱらとなにかの粉が降り注ぐ中、がばりと跳ね起きて状況の確認を急ぐ。
窪地の中を見ると、そこは死屍累々であった。
誰の手か誰の足かも解らないような肉片が散らばって、綺麗な死体も対爆防御体勢にしくじって目玉の飛び出たグロテスクなものばかり。
さらに、お椀でいうところの壁の部分が、おおきく陥没していたのがよく解った。
何か弾体でも撃ち込まれたとおぼしきそのクレーターをみて、男ははっと先ほどの砲口を思い出す。
「
再びあれを撃たせてはダメだ。そう直感で悟った男は敵から見つかるリスクを恐れずに声を張った。少しもしない間に、反対側の木々の隙間から懐中電灯がゆらゆらと揺らめくのが見えた。
「こっちに引くぞ! 第2班、撃ち方止め! 第1班、30秒間突撃破砕射撃!」
男が声を張る。その後ろで、伝令がちかちかと発光信号を送ってより確実に意識を伝達する。
片側だけが静まりかえり、もう片側がよりいっそう輝く。跳ね上がる銃口が光をきらきらと煌めかせた。
男のもつAK74-Uも、炎に照らされて耀く薬莢をばらばらと吐き出しながら、敵の黒い身体をめがけて飛んでいく。
誰かの撃った弾のうちの数発が、運良く緑に耀く水晶玉のような目玉を掠め、それに反応したのか、ゆったりとした動作で下腹部の灰色の腕を動かし、男たちの方をにらみつけた。
「今だ、撃てッ!」
自分の弾倉が空になって、次のマガジンと入れ替える丁度のタイミングで叫ぶ。
男の反対側の木々の隂から一際大きな光が噴出されて、眼前の怪物の身体を背中側から強く押し、くの字に曲げさせた。
「やった!」
先ほどヘルメットを抑えた歩兵が小さくガッツポーズをとりながら叫ぶ。
が、もうもうと巻き上がる土煙が収まると、そこには背中に小さくない傷を負いながらもなおも立ち上がろうとする怪物が見えた。
よだれのようにだらだらと口蓋からこぼれ落ちる黒い液体は、無念の感情を表すようでもあって。
「……宇治さん、さすがにもう撤退しねえか! 奴ももはや長くはなかろ!」
そのとき、眼下に生い茂る茂みの中から、声がした。
擦り傷だらけで、今までよく生き残ったものだと賞賛したいほどの負傷。
男は、宇治はふむと顎に手をやって考え込んだ後、こくりと頷いた。
「総員撤退! ひけ、ひけ! 撤退開始!」
その号令で、がさがさと音を立てながら男たちは撤退していく。
しかし宇治は、ふと思うところがあって、窪地のお椀のような形をした壁を下って、怪物の前まで来た。
「引導は、渡しておいてやろう」
黒い皮革の奥からどくどくと黒いオイルのような血液をたれながしつづける怪物に、そう呟く。
黒くてごつごつしたその皮に手をやる。どくんどくんと鼓動する音が手のひらを伝わってきて、こいつも生き物なのだなと物思いにはせた。
水晶みたいな眼球が、ぐりんと憎々しげに動いたような気がしたが、気にしないように目をそらし、真っ黒い皮の裂け目に銃剣と銃口を突っ込んでからパンと一つ。打ち込んだ。
怪物はびくんと一、二回痙攣したが、それきり水晶玉みたいな眼球を濁らせて、おしだまる。
それをみた宇治は、ふうとひとつ漏らして額の汗をぬぐった。
「さて、俺も早く帰らないと…………」
ふと鼻につく臭いを感じて、目を開ける。すると、先ほど死んだはずの怪物からガスか何かでも抜けるように得体の知れない気体が吹き出しているではないか。
それとどうじに、風船のように怪物の身体がしぼんでいき、ドライアイスの煙のようなものが噴き出始めた。
それが終わった後。
「…………なんだ、これ?」
そこには、一人の女がいた
戦闘描写って難しい