小説って難しいな
宇治は防弾ベストをはずすと、どさりとコンクリートの硬い床の上へと放り投げた。
そしてそのうえにバンダリアをなげて、さらにその上にそっと銃を横たえる。
胸ポケットから日の丸のように見える大きな赤丸の描かれた柄のたばこの箱を取り出すと、その中から一本抜き取って咥えた。
「……」
ベッドの縁に腰を下ろしたまましばし呆然とした後、火のついていなかったことを思い出してオイル式のライターを取り出す。
「…………で」
ふうとひとつ紫煙を吐き出してから、誰に言うわけでも無く漏らした。
「こいつをどうするか。だよなぁ……」
ちらりと横を見る。
正確には、横でぼろっちいベッドに寝そべって幸せそうに寝息をかいている少女を。である。
はあ。大きくため息をついてから、また紫煙をくゆらせ始めた。
「どう説明したものか……」
怪物を殺したらなぜかいた。なんて話すと狂人扱い待ったなしである。
「どう扱ったものか……」
血気盛んな野郎連中ばかりのここで、少女が一人いる。すると事が起こるのは必然である。
「なんで持って帰ってしまったんだ俺は……猫を飼うって話じゃねえんだぞ」
思わず頭を抱えた。がしがしと髪を掻き毟り、はあとまた大きくため息を吐き出した。
そのまま再びたばこをくわえ直すと、呆然と遠くを見たままもう一つ、おおきく紫煙混じりに嘆息した。
「……ごほっ」
すると、少女が苦しそうに咳き込むのが聞こえた。その咽せる声にはっとなり、ぼそりと申し訳なさそうに悪かったなと呟いて、携帯式の灰皿でタバコの火を消してやる。
寝ているとはいえ、女子の前でタバコを吹かすのはさすがにデリカシーも思いやりもくそもなかったか。
「…………寝てるか?」
ふと気になって、少女の方をみた。
セミロングの黒い髪に、黒いセーラー服をまとった彼女。控え目に見ても比較的無くはなさそうな胸の膨らみとやわらかな腰のラインが嫌でも女性であることを認識させられ――
「…………待て待て、とりあえずは落ち着け」
予期せぬ女っ気に少々混乱しているようだ。
そう結論づけた宇治は少し夜風に当たりに行こうと部屋の出口へと歩き出した。
「宇治さん! いらっしゃいますか、宇治さん!」
「どうした?」
すると、丁度良いタイミングで下から階段を駆け上がりながら呼ぶ声がする。
「またあの黒い奴が。さっきの死に損ないの仲間かもしれません!」
火急の件のようで、時々に口ごもりながらも伝令は語ると、すぐに集まるようにと口伝てたあとどこかへ走って消えていった。
「どうした、ものかなぁ……」
AKを取りに行く時間が惜しいと思った宇治は、とりあえずホルスターに一丁拳銃があることを確認して、そっと部屋を抜け出した。
宇治が廃ビルの外へと飛び出してみると、幾人もの武装した男たちが待ち構えていた。
先ほど伝令で来た男が前に出ると、宇治に叫ぶ。
「宇治さん、あの黒い奴がここを目指して近づいてきてるらしいです、どうすれば!?」
「……詳細な情報を言え」
大の男がそろいもそろってこの体たらく。腹立たしげにひとつ吐き捨てると、比較的若いその若者は焦ったように報告をまとめ始めた。
「えっと……距離はだいたい西に500程。あいつの歩きぶりからすると、1時間と半分ほどでここに」
「まだ使える奴らはどこにいる?」
「とりあえず、病室代わりの部屋以外から叩き起こしてきた奴らはこれで全員です」
じろりと睨みつけるようにして広場を見渡した。
各々に銃を手にしたがたいのいい男たちが、そこここでたむろしているのが見えた。
ちっと舌打ち。今回の戦闘では確かに犠牲は大きかったが、無傷の野郎どもが10人もいないなんて事は無いだろう。
「無事な奴らはおおかた、ここに帰る前にどこかへと逃げ出してまして……」
敵は強く、時間は足らず、士気も低い。しかもこちらには人手も足りない。
頭が痛くなってくる話だ。
「とりあえず、7.62mm以上を持ってる奴は挙手」
緑に浸食されたビルの合間に開けた土地で炎を炊く彼らのうちの半分ほどが手を上げた。残りも西側のそれなりの銃で、けして拳銃一丁と言うことは無かった。
今回当たってみて解ったが、黒い怪物に対しては貫徹力に優れる7.62x39mm弾でも少し怯むくらいで殺せはしない。
つまり、対戦車兵器が必要だ。
「…………RPGは後何本ある」
「えっと……2本ですね」
RPG-7はこのご時世でなくても仕入れが難しい。それは解る、解るが。
「……使えないな」
「あ、すみません…………」
ぼそりと毒づいた宇治の言葉に、隣に立ってあれこれ説明していた若者がじぶんのことのようにとらえたのか軽く頭を下げる。
「擲弾筒や手榴弾。その他対戦車兵器は?」
「
帳簿通りにあるとは限らないのが、非正規部隊の辛いところだ。そういわんばかりの恨めしさを込めて、若者は宇治を睨みつける
「あ、あと、C4が……ここを一つ吹き飛ばせるほどなら」
それでもあるだけましだ。宇治はニヤリと口角をつり上げた。