歌姫は恋人の側で生きていく 作:luxuria
では、どうぞ
『俺、君には届かないみたいだ』
『な、何を言って』
『そんな悲しそうな声出さないでよ。俺の恋人は笑顔が似合うんだから。だからね』
どうか、これからも笑って、俺の側にいてよ。
「懐かしい夢、だなあ」
君が側からいなくなって随分経っちゃったや。
俺、君が居ないと何も出来ないのに、いてもできるかは定かじゃないけどね。
ねえ、君は今何処にいるの?
写真たてに映る君と、画面の奥に映る君はもう別人かい?
「また、会いたいなあ」
そしたら今度は、俺が君に言うんだ。
「好きだ」ってね。初めては君だったから、今度は男らしく俺から言いたい。あの時は唐変木とか言って泣きながら笑うなんて随分と器用な事をしてたっけ。綺麗だったな、もう一回見られるかな。
「ん。今日もいい天気だ」
窓から外を見渡せばうっすらと光が差し掛かっているけれど、まだ暗い。だが空を見渡せば雲ひとつ見当たらない、きっと数時間後には快晴が拝めるだろう。
この世界のどこに、君は今いるのかな。
「おはようシルヴィア、今日がまた始まるよ」
君が居ない一日が、とは付け加えなかった。
「おはよう」
リビングに入って朝の挨拶をするも誰からも返事がこない。
親は煌式武装を作る仕事、その道のプロであるためにアスタリスクに在住、結果ここでは俺一人の生活が長く続いていた。
「今日は何にするかな。んー」
腕を組み目をつむって考えてみる。
久しぶりの夢を見てたんだし、なんか気分がいいから少し凝ったの作ってみたなあと思ったが朝にそんなの作ってどうするんだと却下、普通が一番かな、夜を少し豪華にしようと結論下して適当に料理して食べる。
今日は朝少し走ってから学校に行く、その際に木刀入れたバックも忘れずに、だ。
「木刀が役に立ったことないけど」
そもそも今時なら煌式武装を見る方が当たり前で、寧ろこっちのが見るの珍しいぐらいだからなんともいえないんだよね。
けど俺あれが筆頭に使えないしこっちのがなんか使いやすいという刃までちゃんと形がある方が使いやすくて好きだ。何処かにはあるのかな? 刀の形のままの煌式武装。
さてと、大抵の準備はできた、ジャージ着た背中にバック背負った準備万端。
「行ってきまーす」
大体10km程の見慣れすぎた道を今日も走る。
意外にも今一番続けられてるこの朝の走りは、まあ言うなればただの気晴らしだ。
夢を見なくても彼女との最後のことを思い浮かべちゃうのが朝だからそれを無くしてから学校に行こうと始めたこれもいつの間にかただ走るだけのものになってはいたけれど、それでも続けられるのは嬉しいものだ。
「だからそういうのされると困るんだけどな」
朝から何ナンパしてんのあの男、明らか相手の女の子年下ですけど、ねえ、何してんの。
あれは止めとこうかな、それになんでだろ、胸騒ぎが止まらない。
木刀をバックから柄だけを出して走る。もちろんペース配分考えてる走りじゃ無くて割とマジな走り。
「いいじゃんか、今から学校なんて行かずに俺と遊ぼうぜ」
「私は、会いたい人がいるので」
「へえ、彼氏持ち? 余計にそそるじゃん」
なんかむかつく。体が勝手に動いてる。
木刀の先端を首にから数ミリ離した状態で口が勝手に開いて、勝手に言葉を放った。
「いい加減にしてください、
……ん? 今、俺なんて言った?
「ちっ、さっさと行けよ死ね」
それだけ言ってどっかに行く不良。
ちょっとごめん今だけ帰ってきてもらえますか撤回しますからちょっと待ってもらえますか!?
ていうか俺さっき言っちゃったよ!? 俺の人って言っちゃったよ!? どうすんのこれじゃシルヴィアに顔合わせられないよ!?
いやいやまずここはテンパるんじゃ無くて後ろの子に謝罪しないと!
「ご、ごめんね? 勝手に恋人面、しちゃ……て」
振り向いて謝ろうとした筈だった。
けれど振り向いた先にはその綺麗な瞳から涙をこぼす少女。
何よりもその顔で泣く姿を見るのは久しぶりだった。
姿は違う、昔と違うけれど分かってしまう。
……なんで、ここにいるの?
「快、君」
「……久しぶりだね、シルヴィア」
「麦茶しかないけど、どうぞ」
「ありがとう」
受け取ったコップを大事そうにその手で包んで、そっと一口飲んでからコップをテーブルに置いた。
「髪、少し伸びたんじゃない?」
変装を解いた昔とほとんど変わらない彼女。まあ身長云々が変わってしまったせいかもしれないが当時も綺麗で長かった髪がさらに綺麗に長く伸びていた。
「そうかな?」
「伸びてると思うけどな」
「快君は身長伸びたね、何cmくらい?」
「174、だったかな」
「そっか」
か、会話が続かない、だと?
いかん、これはいかん、なんかないか……待てよ。
「なんでここにいるの? 君確か今アイドルやってるんじゃ」
それなりに早い時間帯とはいえ彼女は今話題のアイドルだ。
人気アイドルといえば朝から晩まで忙しいイメージしかないのだが、なんで彼女はこんなところにいるのだろう?そもそもアスタリスクからここまで「あ、いこ」程度でこれるような距離じゃないし、各地方に飛んでいる彼女がこんな場所にこれる時間を作れる筈がない。
「無理言って休みを作ってもらったんだ。快君に会いたくて」
「これでも俺3年間ほど君に会ってないけど、なんかやり残しでも?」
「! 違う! 快君はそんなんじゃ!」
彼女は必死に否定した。
あの事件のこと、別に引きずらなくてもいいのに彼女はずっと引きずってきたのだろう。元はと言えば俺が悪いのにそれを自分のせいだって思って俺の前から消えて。
けれど、彼女はまた戻ってきてくれた。
「ちょっと意地悪だった?」
「意地悪」
「即答だったかあ」
つい笑うと彼女は頬を膨らませてこちらを睨んでくる。うん、可愛い。
「俺ね、木刀持つと手が震えるんだ。他のでもそう、『防御』に使うならともかく『攻撃』に使うとなると手が震えて止まんないんだ」
「でもさっきは……」
「うん、止まってた。体はわかったんだろね、守ろうとしてるのが君だって。不思議と君の前だと手が震えないらしい」
「じゃあ、私がそばにいる必要があるね」
「そういう事らしい。いつもこの家寂しいのに、今はとても満たされてるんだ。不思議でしょ? 君がいるだけでこれだ。俺ね、君が必要みたい」
よかった、これなら言える。
あの日以降ただの一度も口にする事が叶わなかった言葉。
彼女だけに送る、彼女だけが聞く事を許すその言葉を。
「シルヴィア・リューネハイムさん。俺の、恋人になってくれませんか?」
彼女がアイドルだろうがあのアスタリスクでどれほど強い人間だろうと関係ない。
俺は『アイドルとしての彼女』も『
テレビ越しで見ていた彼女が、今目の前に、昔とその姿をほぼ変えずここにいる。なら後はあの時先に言わしてしまった言葉を俺から送るだけ。
そう、なにも難しくない。
例えこれが遠距離恋愛になろうたって俺は彼女の事を見守り続けるし、彼女の支えになる。
それが、俺のやるべき事だ。
「また、私と一緒にいてくれる?」
「こっちからお願いしたいね。今度は逃がさないけど、心の準備は?」
「怖いなあ」
けれどその顔は笑っていて、瞳からは涙をこぼす器用な姿。
「私、迷惑かけるよ?」
「君の事迷惑だと思った事、一回もないけど」
「即答なんだね。じゃあ」
彼女は自分の座っていた椅子から腰をあげてこちら側に来て隣に座り込む。
前から向き合って、次いで彼女は笑顔を咲かせ。
「君の恋人に、してください」
おかしな点があれば遠慮なく言ってください