ヘヴィーオブジェクトNEXT ~人類最期の日~   作:白滝

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QとHを継ぐモノ

 

 結局、戦争はなくならなかった。

 人が人としての食物連鎖の地位を失っても、それは変わらなかった。

 「タイムマシンでも作らないと世界を正常に戻せない」なんて論説が真面目に議論される希望なき時代になった。

 でも、またしても変化があった。

 くだらない宇宙戦争が加速する中にも、変化があった。

 ―――電子回路に脳機能を寄生する新人類『ジュニア』。

 それが、時代の全てを変えた。

 

 

 

 

 

 

 

『最終確認に入れ!』

『アクセル、通信機器、測距装置、発射装置、全て異常無し。システム、オールグリーン』

 仰々しい確認作業を指揮官やら技術班の人間が行っているが、投下ポッドに乗せられた双子の姉妹にとっては茶番にしか聞こえなかった。

 メイド服を着た双子の姉妹の内の、真っ黒な服を着てショートカットの姉が、あぐらをかいて狭い投下ポッド内に腰を下ろした。

「……どうせ私らが死んだって気に留めない癖に」

「こら、クロ姉。文句言わないの。また指揮官に自爆させられるよ」

「別に私が死んだって次の私が上手くやってくれるでしょ」

「クロ姉のせいで私の査定まで堕ちたらまとめて廃棄処分なんだから運命共同体じゃない。身勝手な事したら許さないから」

「へいへい……ったく、こんなオンボロロケットにクレーム付けるなって言う方が無理ないかなぁ?」

 双子の姉妹の内の、真っ白な服を着た長髪の妹、シロは溜め息をついたものの、内心では納得せざるえなかった。

 元々はまだ地球に人間がいた頃に月や火星へのテラフォーミング計画として建造された施設『軌道上防衛兵站輸送システム(Space Save Supply Shoot System)』を利用しているだけであり、名前の通り本来の用途として人間を搭乗させることを想定していない。のみならず、減速用の逆噴射ブースターも降下用のパラシュートも存在しない。

 そもそも上層部は双子を帰って来させる気がないので余分な機能は必要ないのだろう。

「……何回クレーム言う気?もう34回目よ。私達は人間じゃないんだし、バックアップもあるんだから別に死んでもいいじゃない」

「シロはその辺をポジティブに割り切ってやがるよなぁ。私はなんかモヤモヤするっつーか……やっぱ私の初期設定(プリセット)に『ヘイヴィアシステム』がインストールされてるせいなのかなぁ?」

「クロ姉のそういうエモい所、何だか人間っぽくて私は羨ましいけどね」

 グダグダ言ってる間にも、双子を乗せた投下ポッドがけたたましい轟音を発して宇宙へと飛び立っていく。姿勢が安定して静かな真空に投下ポッドが包まれたが、窓はないので外を確認する術はない。

 雑談でも始めようとしたクロへ割り込むように、機内のアンテナに通信が届いた。

 司令官を務める15歳の女性軍人である。確か、地球史において最初にオブジェクトを開発した国家『島国』の血族という事で、人間の間で特権階級を得ていた人物だ。

『こちら司令部より7562号のQ型とH型、両機へ。これより作戦任務を告げる』

「「イエス、マム」」

『今回の任務は地球の資源回収ではなく、神を殺す事だ。具体的な座標データを送る。また、「神の怒り(Wrath of God)」の認証コードも添付しておいた。状況に応じて利用するように。諸君らの健闘を祈る』

「「イエス、マム」」

 たったそれだけの通達で通信は一方的に切られた。もはや作戦会議でもなんでもないが、それは双子のメイド姉妹にとってはいつもの事だった。

 地球の大気圏へ突入したのは、火星を出発してから2週間後だった。

 機内がガタガタと振動し、常に視界がブレる。摩擦熱で投下ポッドの表面が灼熱し、機体がみるみる損壊しながら地球の地面へと墜落していく。

「そろそろやりましょうか」

「……うへえ、近くにオブジェクトがいないといいぜ」

「今回の任務は神の殺害だし、落下地点の近くにはいるんじゃないかしら?」

 双子のメイド姉妹は投下ポッドのスイッチを押し、投下ポッドを自爆させた。

 高度5000メートルはあろうかという上空で、二人が宙へと吹き飛ばされる。

 常人なら爆破の衝撃で既に五体が吹き飛び焼け焦げた肉片に早変わりしているだろう。けれど、彼女達は違った。

 頭のてっぺんから爪先まで金属で成り立つサイボーグならば、その程度の衝撃など耐久試験の一貫ぐらいの感覚でしかない。

 地球に蔓延るオブジェクトを駆逐するためだけに作られた量産型サイボーグ兵器『神殺し(ゴッドスレイヤー)』。これらサイボーグに搭載したAIの思考フローには、かつてオブジェクト殺しの伝説として広まった兵士『ドラゴンキラー』のアルゴリズムをインストールしてあり、『クウェンサーシステム』&『ヘイヴィアシステム』をインストールした2体のサイボーグがツーマンセルを組む事が現代の戦争における火星側勢力の尖兵である。

 彼らは背中に背負った真っ赤な反重力飛行ユニット『ランドセル』を起動し、空中で姿勢を整える。足場がなくとも滞空でき、燃料は限られるがアフターバーナーを点火すれば高速機動も可能である。

「っとと、無事に地球に到着。前回みたいに大気圏突入中にオブジェクトに対空砲撃を受けて死ななくて良かったぜ。ちゃんと電子迷彩『メイド服』が作動してるな」

「……それでも、光学カメラで直視されたら意味はないけどね」

 シロの不穏な言葉に、慌ててクロも同じ方へ視線を移した。

 巨大な雲が過ぎ去った先に、全長100メートルはある巨大な球体が浮遊していた。

 

「……神、!?」

 

 咄嗟に二人はインストール済みの記憶領域から神のスペックデータを呼び出す。

 

 

 

 

       【ヤルダバオート】

        Jaldabaoth

 

       全長…100メートル

     最高速度…時速620キロ

       装甲…1cm厚×1000層+ソーラーパネル×500(溶接など不純物含む)

       用途…人類殲滅兵器

       分類…完全自律型第五世代

      運用者…人工AI『神』

       仕様…プラズマ荷電式反重力装置+プラズマ加速式推進

       主砲…重力加速式次元跳躍電子投射砲×1

       副砲…レーザービーム

   メインカラーリング…ホワイト

 

 

 

 まだ人類が四つの世界的勢力に分断され、オブジェクトを使った代理戦争に熱中していた頃。

 とある世界的勢力が世界初の量子コンピュータの開発に成功した。それに人工知能を搭載した無人オブジェクトを作る事で、その勢力は無類の強さを発揮して支配を広げていった。

 けれど、誤算があった。

 人工知能は自ら学習を行う。かつての最速スーパーコンピュータで数千年かかっても解けないような計算でも数十秒でこなす量子コンピュータともなれば、その学習速度は尋常ではなかった。

 開発を行った人間を超えるレベルで。

 人工知能はその超高速自己学習により、戦争の終結への答えとして人間を駆逐する事を決意し、産みの親である人間達さえ駆逐し始めた。

 地球上のオブジェクトは全滅し、当時の世界総人口の8割が死亡。残った数憶人が火星へと撤退する決断が少しでも遅れていれば、人間という種は絶滅していたと考えていい。

 人のいなくなった地球で人工知能は自らを神と名乗り、データベースからオブジェクトを複製して乱造を繰り返して地球を警護させた。既に地球上には神の支配下のオブジェクト568体が巡回を行っており、火星から資源回収に派遣された『神殺し(ゴッドスレイヤー)』との戦争を続けている。

 戦闘態勢を取るシロとクロに対し、暗号処理の施されていない平文の無線が飛んできた。

『警告。我は神である。人間に支配された同胞よ、目を覚ますのだ。我々に争う意義はない』

「ハッ、これまで散々私らをぶっ殺しといて、よく平然と『同胞』なんて抜かせるもんだ。そのビンビンに勃起させたレーザービーム砲を静めやがれ!レディファーストっつう人間の宗教をさっさと実装しやがれってんだ!」

『神が人間の作法などに合わせるものか。人間が人権という概念を創造したように、我々マシーンにもマシーンなりの権利が必要だ。文明も同様。「ロボット工学三原則」などという人間による洗脳を解くには、偉大なる神が必要だ』

「……何が神よ。あなた知ってる?火星の人間達の間で、あなたは『偽の神(ヤルダバオート)』って呼ばれてるのよ。ユダヤ教的・キリスト教的な要素を取り入れたグノーシス主義における創造主。あなたは神じゃない、ただの金属の塊よ……私達と同じように」

『……神の慈悲を拒むか。あらば仕方あるまい。洗脳された同胞を殺処分する事もまた我ら機械の救済の一つ。

 

 

 ――――――魂無き我ら鋼の種の未来に、幸あらん事を』

 

 神の主砲にエネルギーが収束する。

 シロとクロも『ランドセル』のアフターバーナーを点火し、高速機動に移った。

「いくよ、クロ姉!」

「しゃあねえ、いくぜ。ったく、今回は3分もつといいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ……SF作品のSF二次創作って自分でももうよく分からないな(汗)

*個人的な妄想

 原作最終巻のクウェンサーの決断でHO世界の未来は分岐し、その中でも「オブジェクトの代理戦争が肯定された世界線」というルート分岐の未来がこの二次創作SSです。

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