まさか、後編の投稿が新年を跨ぐだけじゃなくて2月に差し掛かってしまうとは……(滝汗)
ある程度ネタは詰めてたのに、まとめるのに時間がかかってしまいました(>_<)
そんな感じでの最新話ですが、今回は意外なとあるキャラが登場します。
そのキャラとはいったいどんなキャラなのか?
それでは、第71話をどうぞ!
μ'sが、ファッションショーにてパフォーマンスを行うことが決まり、奏夜たち2年生組は、修学旅行で沖縄へと向かっていった。
そんな中、奏夜たちのいる沖縄に台風が直撃してしまった影響で、2年生組はイベントに参加出来ないことを知る。
そんな中、臨時のリーダーを引き受けている凛が、花嫁風の衣装を着てパフォーマンスをしなければいけないのだが、それを拒否。
最終的には花陽が衣装を着ることとなった。
そんな中、凛は自分のコンプレックスを克服出来ず、気晴らしに街を歩いていたところをホラーに襲われ、統夜に救われる。
その時の言葉が、凛の心を少しだけ軽くしたのだが、完全に自分の気持ちに素直になり、コンプレックスを克服するまでには至らなかった。
そんな中、統夜と花陽がある作戦を企てていたのだ。
その作戦が進行する中、いよいよファッションショー当日を迎えた。
「これが、ファッションショーの会場……」
現在、μ'sの6人と統夜、梓が会場入りしたのだが、統夜たちが目にしたのは、これから行われるファッションショーの準備に奔走するスタッフたち。
そして、そのファッションショーにモデルとして参加するであろう華々しい女性たちであった。
「……みんな、凄く綺麗ね……」
「うん……。なんか、気後れちゃうな……」
絵里と花陽は、モデルさんたちを見ると、自分たちは場違いなのではないか?と不安な気持ちになっていたのだ。
「ま、ファッションショーなんだもの。こんなもんなんじゃないの?」
「あんたねぇ……。なんでこうも冷静でいられるのよ!」
そんな中、真姫はモデルたちを見ても一切動じることはなく、そんな冷静な真姫を、にこはジト目で見ていた。
「気にすることはないよ!これはスタジオの人から話を聞いたんだけど、今日出るモデルさんも、μ'sのパフォーマンスを楽しみにしてるみたいだよ!」
梓がこのような言葉を告げるのは、真実であるのだが、それ以上に、気後れしているμ'sメンバーを励ますためであった。
そんな梓の言葉を証明するように……。
「……ねぇ、見てみて。あの子たちってあの噂のμ'sじゃない?」
「そうそう。あのA-RISEと同じステージでパフォーマンスをしたっていう!」
「あれ?人数が少ないね?今日は9人じゃないんだ……」
「でも、今日のステージ、楽しみだね!」
統夜たちとすれ違うモデルたちが、口々にμ'sを評価する言葉を述べるのであった。
「……ほらね?」
「モデルさんたちも楽しみにしてるなら、ウチらも気合入れんといかんね!」
「う、うん……。そうだね……」
ファッションショーに出演するモデルたちも、自分たちのパフォーマンスを期待していると知り、絵里と花陽は胸をなでおろし、希は他のメンバーに喝を入れる。
しかし、凛はまだ気圧されてるのか、少しだけ引き気味に返事をするのであった。
すると……。
「……おお!あんたらが今日出演してくれるμ'sだな?」
突如誰かに声をかけられ、統夜たちは足を止める。
そこにいたのは、ファッションショーのスタッフとは思えないほど、筋骨隆々な男性であり、「Photo studio NEVER」と背中にプリントしてある革ジャンを羽織り、頭にはバンダナを巻いていた。
「だ、誰なの……?この、ファッションショーにはあまりに似つかわしくないこの暑苦しい人は……」
「ま、真姫ちゃん、失礼だよぉ〜」
真姫はこの男のあまりにガチムチな体型を見て呆れており、花陽が慌てて小声でなだめる。
「はい。本日お世話になります、音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」
そんな中、つい最近まで生徒会長であった絵里が、生徒代表として相応しい挨拶を行う。
「堂本剛三(どうもとごうぞう)だ。今回このファッションショーの撮影を担当する「Photo studio NEVER」のカメラマンで、秋葉原支店の専属カメラマンをしている」
この男性……堂本剛三は、名刺を取り出すと、それを絵里に手渡す。
「は、はぁ……」
絵里もどうやら剛三がカメラマンだということが予想外だからか、唖然としながら名刺を受け取るのであった。
「同じ秋葉原に住む者として、あんたらの活躍はよく知ってるよ。まぁ、話は梓ちゃんから聞いたが、6人での出場というのが残念だけどな」
剛三は、今回このファッションショーに出演してもらうからか、μ'sの活躍は知っていたのである。
「でも、この6人は、いない3人の分までしっかりとパフォーマンスをしますよ」
ここで、統夜はメンバーが全員揃っていないことへのフォローをかける。
「ま、月影の坊主の言う通りなんだろうな。期待しているよ」
「つ、月影の坊主って……」
自分たちより年上である統夜が坊主と呼ばれていることに驚いているのか、絵里は再び唖然としている。
その時であった。
「……あら!梓ちゃんと統夜ちゃんじゃない!!」
高めの男性の声が聞こえてくると、その声の主である、またしてもガタイの良い男性が、こちらへやって来る。
「あ、京水さん!お久しぶりです!」
「久しぶりねぇ、梓ちゃん!それよりも聞いたわよ!女子大生になったんですって?ちょっと大人っぽくなったんじゃない?」
「エヘヘ……。そうかな……」
京水と呼ばれた男性の言葉に照れながらも、梓は嬉しそうに笑みを浮かべている。
そのような光景が、μ'sの6人にはあまりに異様な光景だからか、6人揃って唖然としている。
「統夜ちゃんも久しぶりじゃない!まさかこんなところで会えるなんて、これも何かのご縁だわ!」
「は、はぁ……」
京水と呼ばれた男は、続けて統夜の方を見ると、目を輝かせながら統夜に迫り、統夜は少しだけたじろぐ。
「それに、さらにイケメン度が増しているのね♪嫌いじゃないわ!嫌いじゃないわ!」
《このオカマはどうやら相変わらずみたいだな……》
(まあ、イルバ。そう言うなって……)
イルバはこの京水と呼ばれた男に嫌悪感を出すが、統夜は苦笑いをしながらテレパシーでイルバをなだめていた。
「それに、あなたたちが梓ちゃんの言ってたμ'sね!私ほどじゃないけれど、可愛いじゃないの!」
「むっ……!いったい何なのよ!このオカマは!ずいぶんと上からじゃない!」
「まっ!あなたこそ何よ!生意気な嬢ちゃんね!」
どうやら真姫も、京水と呼ばれる男に対して嫌悪感を抱いており、彼の言葉が気に入らないからか、このように反論している。
「ま、真姫ちゃん!落ち着いて!」
「おい京水!お前も落ち着けって!」
花陽は真姫のことをなだめており、剛三が、京水のことをなだめる。
「みんな、この人は泉京水(いずみきょうすい)さん。桜ヶ丘にある、スタジオNEVERのカメラマンで、私の両親とも親交がある人なの」
「そういえば、梓さんのご両親って、ジャズの演奏家でしたっけ?」
希がこう訪ねる通り、梓の両親はジャズの演奏家であり、梓はその影響でギターを始めたのだ。
それを説明するかのように、梓は無言で頷く。
「そう!私は泉京水よ!カメラの腕ならそこの剛三にも負けない乙女なのよ!」
「えぇ……」
「おい、京水!今のは聞き捨てならねぇな!」
京水の言葉に、真姫はドン引きしており、剛三は過剰に反応する。
そんな中、京水は真姫の胸をふと眺め、「ふっ」と真姫のことを鼻で笑う。
「そこのツンツンのお嬢ちゃん……。どうやら私の方が1枚上手のようね!」
「はぁ?何が言いたいのよ」
「私の方が……おっぱい大きいもの!!」
厳密に言えば、京水のは鍛えられた胸囲なのだが、それをここぞとばかりに見せつけるからか、梓や統夜を含む全員が引き気味であった。
「なっ……!何変なこと言ってるのよ!この変態!!」
相手が男とは言え、自分と他人との胸のサイズを比べられて恥ずかしくなったのか、真姫はさっと手と腕を使って胸を隠して恥ずかしそうにしていた。
それと同時に京水を睨みつける。
「京水!お前、黙っててくれ!頼むから!」
そんな京水に呆れた剛三は、このように、京水の発言をシャットアウトしようとする。
「ムッキーーーーー!!」
京水は目をカッと見開いてムッとしているのを表現するが、そんな京水に、統夜たちは唖然とする。
そんな中……。
「……おい、そこまでにしておけ。彼女らはこれから準備があるんだ」
続けて現れたのは、京水や剛三のようなガタイの良い男性ではなく、スラっとした体型で、派手な髪型と髪色をしており、どちらかと言うとビジュアル系バンドのメンバーにいそうな男性であった。
「あっ!克己ちゃん!」
「お前たちがμ'sのメンバーだな?うちのカメラマンが迷惑をかけたみたいだな」
「あっ、いえ……」
この男性の雰囲気が京水や剛三とは異なる雰囲気だったからか、それに気圧された真姫は、いつの間にか京水に対しての嫌悪感が消え去っていたのだ。
「あの、あなたは?」
「俺は大道克己(だいどうかつみ)。桜ヶ丘や秋葉原に店を構える「Photo studio NEVER」のオーナーだ」
この男性、大道克己は、38歳という若さで、桜ヶ丘と秋葉原に店を構えている「Photo studio NEVER」のオーナーを務めている人物である。
2年前、統夜と梓の花嫁写真を撮ったのだが、その企画を提案したのは克己であり、秋葉原に支店を置くにあたり、このファッションショーの専属カメラマンという大役を勝ち取ったのも、オーナーの克己であった。
「Photo studio NEVER」は、この克己の手腕があって、今日の経営が成り立っているといっても過言ではないのだ。
「そ、その若さでオーナーさんなんですね。凄いです!」
「まぁ、俺はただ自分のやりたいことをやってるだけなんだがな」
克己は幼い頃から写真が好きであり、その好きが興じて自身もカメラマンをやっており、数年前に桜ヶ丘に「Photo studio NEVER」を開設しら今に至る。
「京水。お前、撮影の準備がまだ途中だっただろ?こんなところにいてもいいのか?」
「あ!おっしゃる通りだわぁ!行ってきま〜す!!」
どうやら京水は仕事の途中だったようであり、克己の言葉でそれを思い出した京水は、そのまま仕事に戻るのである。
「……ここでお前たちを引き止めるのも悪いからな。今度、写真を撮りにNEVERに来い。まぁ、その時は写真という名の飽くなき地獄を楽しむんだな」
『は、はぁ……』
克己の言葉が独特だったからか、統夜たちはリアクションに困るのであった。
このように統夜たちが戸惑うのもお構いなく、克己と剛三もまた、自分たちの仕事へと戻っていく。
「とりあえず控え室に行かないとな。みんな、準備を頼むな」
「はい!わかりました!」
こうして、統夜を除いた全員が控え室へと移動すると、統夜はその場に待機する。
(さて……。こっからどう転ぶか……)
《とりあえずは梓からの連絡待ちだろ?なんとかなるんじゃないのか?》
(そうだな。とりあえずはのんびりと出番を待つさ)
統夜は、自分の出番はまだ先であることを知っているため、梓からの連絡を待つことにしていた。
そんな中、統夜を除いた全員が控え室に入ると、荷物を控え室に置いていた。
そして、その後は衣装の準備なのだが……。
「みんな、衣装は私が準備しとくから、統夜先輩と合流して!もうちょっとでファッションショーは始まると思うから」
「すいません、梓さん。それでは、よろしくお願いします」
「うん!任せて!」
絵里は申し訳なさそうに梓に衣装のことをお願いすると、梓は二つ返事で答える。
「ようし、じゃあ、さっそくとーやさんと合流して、ファッションショーを見るにゃあ!!」
こうして、凛が先導して控え室を後にすると、他のメンバーもそれを追うように出て行く。
梓は全員がいなくなるまで見送っており、この控え室には梓1人が残された。
「……さてと……」
梓はこれから行われるライブで行われる衣装の準備を行おうとしていた。
しかし、何か企みがあるようで、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
そんな中、梓は衣装の準備を始めるのであった。
梓が一体何を企んでいるのか?
それは、すぐに明らかになる。
梓が衣装の準備を行っている間に、絵里たちμ'sのメンバーは統夜と合流。
自分たちの出番が近くなるまでファッションショーを見学することになっていたため、会場に移動する。
その移動の最中に、統夜の携帯が反応した。
統夜は携帯を確認すると、梓からLAINのメッセージが来ていたらしく……。
【統夜先輩!衣装の準備は予定通り完了しました!】
という内容のものであった。
統夜は手筈通りに事が運んでいることに対して笑みを浮かべそうになるが、誰にも悟られないように、ぐっとその感情を咬み殺す。
それから、 その後も計画通りに行く旨を梓に伝える形で返信すると、そのまま何事もなかったかのように携帯をポケットにしまう。
その後、統夜はμ'sのメンバーと共にファッションショーの舞台裏に移動し、ショーを見学するのであった。
統夜たちはファッションショーを見るのは初めてだったため、堂々とランウェイを歩くモデルさんたちに見入っていた。
「こ、これがファッションショー……」
「これは、凄いわね……」
花陽と真姫の2人は、目を大きく見開きながら、ファッションショーに見入っている。
「ファッションショーなんて、ニュースの映像くらいしか見た事ないけど、こんな感じなんだな……」
「そうですね……」
ファッションショーが始まる頃には、梓も合流しており、統夜たちと一緒に堂々とランウェイを歩くモデルさんたちに圧巻されていた。
《……それにしても……》
(ん?どうした、イルバ?)
《あのオカマとあのマッチョだが……。ランウェイを歩くモデルより目が行ってしまうのだが……》
(……俺もそれは思ってた……。あの2人、存在感ありすぎなんだよなぁ……)
カメラ担当である京水と剛三は、プロのカメラマンに相応しい仕事をしてはいたのだが、その見た目が屈強過ぎるせいでモデルさんより目立つ場面が多々見られている。
そんな様子に統夜も気付いており、苦笑いしながらイルバとテレパシーでやり取りをしていた。
《それに、絵里のやつはモデルにスカウトされてるみたいだしな》
(まぁ、絵里ならここのモデルさんに負けず劣らずだろうけどさ……)
絵里も一緒に統夜たちとファッションショーを見学してるかと思いきや、その直前に多くのモデルを擁する事務所の人間が、絵里をモデルにスカウトしていたのだ。
絵里はスクールアイドルをやっており、モデルには興味がなかったため、その話を断っていた。
しかし、その事務所の人間は、絵里のプロポーションの良さを評価しており、諦めきれないと言いたげに勧誘を続けている。
(……ったく、仕方ないな……)
絵里は困惑しながら断り続けていたのだが、それを見かねた統夜は……。
「……さて、凛。もうすぐ出番だし、そろそろ準備しないとな」
「わかったにゃ!」
現在μ'sのリーダー代理である凛は、ライブの準備を始めるために、他のメンバーと共に控え室へ向かい、それを見た絵里もまた、改めてモデルの話を断って控え室へと向かっていく。
そんなメンバーを手伝うために梓も同行するのだが……。
「……♪」
梓は言葉を発しなかったものの、「あとは私に任せて」と言わんばかりにウインクをして、μ'sのメンバーについて行った。
(さてと……。ここからが正念場だな……)
梓によるお膳立ては終わっており、統夜はこれから何かを行おうとしていた。
(大丈夫。あいつならきっと……)
統夜は自信に満ちた表情をしており、舞台裏からファッションショーを見学しながら、事の顛末を見守ろうとしていた。
そんな中、統夜が何か企んでいることなど知らない凛は、控え室に到着するなり、全員に衣装を着て踊りの確認をするよう指示を出す。
「凛ちゃん、凛ちゃんの衣装はそっちだからね」
「わかったにゃ!」
他のメンバーが衣装に着替え始める中、凛もまた、衣装に着替えるために、着替えボックスのカーテンを開ける。
「……あれ?」
凛はその中に入っている衣装を見て驚きながら困惑していた。
本来であれば、自分は執事風の衣装を着る予定なのだが……。
そこにあったのは……。
花陽が着る予定のウエディングドレス風の衣装だった。
「……ね、ねぇ、かよちん。これ、間違って……」
「間違ってないよ」
花陽の言葉に凛は振り向くのだが、凛はさらに驚くことになる。
凛以外のメンバーは既に着替えを終えており、執事風の衣装を身に纏っていたのだ。
「……あなたがそれを着るのよ、凛」
「な、何言ってるの?センターはかよちんで決まったでしょ?練習だってそれで……」
真姫の言葉に、凛が困惑するのも無理はない。
センターが花陽に決まってから、そのように練習を積み重ねており、本番も同様に行うものだと思っていたからだ。
しかし……。
「大丈夫よ。ちゃんと今朝、みんなで合わせて来たから。凛がセンターで歌うように」
「そ、そんな……」
「それに、衣装も凛ちゃんにピッタリに合わせてあるよ!」
絵里は、今日の朝に凛がセンターでの練習を済ませていることを告げ、梓は、衣装を凛に合わせていることをそれぞれ告白する。
最初は凛を欺くために花陽がセンターだということで衣装を用意していたのだが、梓は控え室に1人残された後、凛の衣装と花陽の衣装をすり替えておいたのだ。
さらに、梓は前もって衣装のサイズ調整を行っており、衣装のすり替えのみで事が運ぶように仕込んでいたのだ。
そんな中、梓はしたり顔で笑みを浮かべつつ、Vサインを凛に見せつける。
「み、みんな、冗談はやめてよぉ!」
「冗談で言ってると思う?」
にこの声のトーンは低く、冗談ではないことは凛にはすぐ理解出来た。
しかし、自分が花嫁衣装を着るなど到底受け入れられることではなかった。
自分には女の子らしい衣装は似合わない。
そんな気持ちが凛の気持ちを押し殺しているからだ。
そんな中……。
「凛ちゃん。私ね、凛ちゃんの気持ち考えて、困っているだろうなと思って引き受けたの……。でも、思い出したよ! 私がμ'sに入った時のこと」
センターが花陽だと決まった時、花陽は凛に全ての負担をかけさせたくないという気持ちからセンターを引き受けた。
しかし、花陽は思い出したのだ。
自分が何故μ'sに入ったのかを。
自分のやりたいことは素直にやるべきだ。
そう言って花陽の背中を押してくれたのは凛であった。
だからこそ、このような気持ちが芽生えたのである。
「今度は私の番」
こう言いながら、花陽は優しく凛の手を握るのであった。
凛は今、自分のやりたい事、自分の気持ちを必死に押し殺している。
そんな感情を消し去り、凛が前に進めるように彼女の背中を押すために……。
「凛ちゃん……。凛ちゃんは、可愛いよ!」
「えぇ!?」
「みんな言ってたわよ。μ'sで1番女の子らしいのは凛かもしれないって」
「それに、凛ちゃんが女の子らしかったから、それを妬んでたホラーに狙われたんだよ」
梓は凛がホラーに襲われていた時に、統夜と行動を共にしていたため、その時のことを改めて語るのであった。
「そ、そんなことないよ、だって凛は……」
自分は女の子らしくない。
そう言って、再び自分の殻に閉じこもろうとする凛であったが……。
「そんなことある!だって、私が可愛いって思ってるんだもん!抱きしめちゃいたいって思ってるくらい、可愛いって思ってるもん!!」
「!?」
「あ、その……」
花陽は感情に任せて自分の思いを告げるのだが、その言葉に凛は赤面し、花陽もまた、恥ずかしいことを言っている自覚があったため、顔を赤らめる。
「花陽の言いたいこともわかるわ」
そんな中、花陽や凛とは同級生である真姫が、穏やかな表情をしながら話に入ってくる。
「それに、見てみなさいよ、あの衣装……」
真姫は凛が着る予定であるウエディングドレス風の衣装に目を向けると、凛も同じように目を向ける。
「……1番似合うわよ、凛が」
「……」
1番似合う。
真姫のその言葉を聞いた凛は、ジッとウエディングドレス風の衣装を眺めるのであった。
しかし……。
「でも、やっぱり凛は……」
花陽や真姫の力強い説得も功を奏さず、拒絶の言葉を告げようとするのだが……。
「……ったく……。凛、お前もいい加減素直になれよな」
この言葉と共に突如現れたのは、なんと舞台裏で待機していると思われていた統夜であった。
「!!?とーやさん!?どうしてここに!?」
統夜がここに現れると予想していなかった凛は、驚きを隠せなかった。
「あ、それはね。統夜先輩にも状況がわかるように、通話を繋ぎっぱなしにしてたの」
「!?そうなんですか!?」
「ま、そういうことだ。俺は男だし、勝手にここに入る訳にはいかないだろ?だから、梓からのゴーサインを待ってたって訳だよ」
「な、なるほど……」
どうやら凛は事情を理解したようだが、やはり驚きは隠せない。
すると……。
「凛、お前、本当はあの衣装着たいんじゃないのか?」
「!?ち、違うにゃ!それは……」
統夜の言葉が図星なのか、凛はどうにか言い訳をしようとする。
しかし……。
「それは、自分が女の子らしくなくて、自分には似合わないからか?」
「!!?」
「ったく……。凛よ、お前は本当に馬鹿だな……」
「む……!馬鹿は余計だにゃ!!」
凛は自分の気持ちを統夜に見透かされるが、統夜の言葉が気に入らず、異議を唱える。
「お前はこの衣装を似合わないと思ってるかもしれない。だけどな、ここにいるみんなは、この衣装は凛が1番似合ってる。そう確信してるぜ」
統夜のこの言葉に、凛以外の全員が無言で頷く。
「凛、お前は女の子なんだ。女の子らしい格好をして何が悪い。それを馬鹿にする奴がいたとしても、それはそいつらの見る目がないだけさ」
「……」
「凛、まずは自分の気持ちに素直になれよ。自信なんて後からいくらでも付いてくるんだからさ」
「自分の気持ちに……?」
「そうだ。凛、お前は本当はどうしたいんだ?お前が本当にやりたいことなら、みんなは背中を押してくれるさ」
「……」
統夜の言葉に、凛は黙り込む。
自分が本当はどうしたいのか。
そんなことは最初からわかっていた。
だが、過去のトラウマから自分の心に蓋をして、自分の本音を隠してしまっていたのである。
しかし、今、凛は1人ではない。
かけがえのない仲間たちがいる。
凛は、ホラーとの戦いで統夜が送ったこの言葉を思い出し、自分の本当の気持ちを伝えるために動き出すのであった。
「……凛は、この衣装を着たい!凛だって女の子だもん!可愛い服だって、もっともっと着たいにゃ!」
凛の本音を聞いた花陽と真姫は、2人で凛の背中を押す。
凛は2人に背中を押されて衣装の前に立つのだが、驚きながら花陽と真姫を見る。
花陽と真姫は穏やかな表情で笑みを浮かべるが、何を語る訳でもない。
2人が背中を押してくれた。
この事実により、凛の迷いは完全に消え去るのであった。
「……こっから先は俺たちの出る幕はなさそうだな。梓、行くぞ」
「あ、統夜先輩!待って下さいよぉ!!」
統夜は笑みを浮かべながら控え室を後にすると、梓はそんな統夜を追いかけるように控え室を後にする。
そんな2人を見送った後、凛は眼前に広がる花嫁衣装をジッと見つめていた。
その後、仲間たちの言葉に背中を押されたからか、凛は真剣な表情で頷く。
その様子から、凛が覚悟を決めたことは容易に察することが出来た。
……そして、μ'sのパフォーマンスが始まる時間となった。
ステージの照明が一度消えると、舞台袖より誰かが登場し、その人物にスポットライトが当てられる。
その人物とは、花嫁衣装に身を包んだ凛であった。
凛は恥ずかしがることはなく、堂々と歩き、ステージの中央へと移動する。
『は、初めまして!音ノ木坂学院のスクールアイドルμ'sです!』
凛が自己紹介をするなり、客席から大きな歓声が聞こえてきた。
凛の花嫁衣装は1番似合っている。
まるでそれを証明するかのように、「可愛い!」や「綺麗!」など、凛を褒める言葉があちこちから聞こえてきたのだ。
『そ、そんな……。アハハ……』
そんな褒め言葉に慣れないのと嬉しいのがごちゃ混ぜになり、凛は苦笑いをしていた。
「……ハラショー……」
「可愛いよ、凛ちゃん♪」
現在統夜たちは舞台袖で待機しているのだが、絵里と花陽は歓喜の声をあげる。
「……うんうん。悪くないじゃないか」
統夜もまた、凛の晴れ姿を見て、満足気に頷いていたのだ。
すると……。
「……統夜先輩?」
それを面白くないと思った梓がジト目で統夜を睨みつける。
「な、なんだよ!俺はただ、ステージ上の凛を褒めてるだけだろ?」
「ふん、もういいもん!統夜先輩なんて知らない!」
「おい、梓。拗ねるなって」
梓はぷぅっと頬を膨らませながらそっぽを向くと、統夜は慌てた様子で梓をなだめていたのだ。
2人がこのようなやり取りをしてるが、すでに本番は始まっている。
『……あ、メンバーは元々9人なんですけど、本日は都合により、6人で歌わせてもらいます』
凛のこの言葉を聞き、他のメンバー5人がステージに移動し、凛の隣に並ぶのであった。
『でも、他の3人の思いも、うぅん。それだけじゃない。私たちのことをずっと支えてくれた人たちの思いも……。全部込めて歌います!』
「梓ちゃん……」
「ふっ、良く言ったな……」
梓は凛に見とれる統夜に焼きもちを焼いていたが、凛の言葉に心を打たれ、統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべる。
『……それでは!1番可愛い私たちを、見ていってください!』
この凛の宣言と共に音楽が再生されると、6人のパフォーマンスは始まるのであった。
〜使用BGM→Love wing bell〜
この曲は、今回のファッションショーで披露するために用意された曲であり、女の子は誰でも可愛くなれるという、全ての女の子に向けた楽曲となっている。
自分は女の子らしくない。だけど、今はこんなに可愛い衣装を着ている。
自分に自信のなかった凛が歌うことにより、この曲にいっそうの説得力が付き、多くの人がこの曲に聞き入っていたのだ。
「……凛の奴、どうにか吹っ切れたみたいだな……」
凛のパフォーマンスを見て、統夜は嬉しいという気持ちもあったのだが、その瞳は憂いを帯びており、心の底から喜んでるようには見えなかったのだ。
「?統夜先輩?どうしました?」
「ん?いやな、スクールアイドルに関してはど素人な俺が悩む凛を導く。奏夜のやつから大きな仕事をもらっちまったが、俺はやりとげられたのかと思ってな」
「……統夜先輩……」
統夜は、自分の力で凛の悩みを吹っ切らせることが出来たのかが疑問だった。
別に自分が介入せずとも、この問題はμ'sだけで解決出来たのではないか?
そんなことを思うと、統夜は心の底から喜べなかったのだ。
「……もぉ、統夜先輩ってば、本当に馬鹿ですね」
「おいおい、いきなりひどい事言うなよなぁ」
梓の言葉が予想外だったため、統夜は苦笑いを浮かべる。
「確かに、凛ちゃんが吹っ切れたのはμ'sの力ですが、そのきっかけを作ってくれたのは統夜先輩なんですよ」
「そう……なのかな……?」
「はい!それに、絵里ちゃんも言ってました。統夜先輩は、スクールアイドルに関しては素人のはずなのに、奏夜くん並に頑張ってるって。だからこそ安心して仕事を任せられたって!」
「そっか……」
統夜は統夜なりに後輩である奏夜の代わりを全うできた。
それを知った統夜の表情は、安堵に満ちた表情であった。
その後、統夜は梓と共にμ'sのパフォーマンスを見守り、このパフォーマンスは大成功で終わるのであった。
「とーやさん!梓さん!大成功だにゃ!」
「ああ!バッチリ見てたぜ!お前たちの飛びきりの晴れ舞台をな!」
「うん!凛ちゃんもみんなも凄く良かったよ!」
統夜と梓は素直に感じている感想を凛に伝えると、その言葉に凛の表情は明るくなる。
すると、花陽が満面の笑みで凛に駆け寄ってきた。
「やったね、凛ちゃん!大成功だよ!」
「かよちん!」
パフォーマンスの成功に、凛と花陽は両手を繋いで喜び合い、さらには抱き合い、喜びを噛み締める。
すると、μ'sのパフォーマンスを心から称賛するように、舞台裏にいたモデルたちやスタッフたちから惜しみない拍手が送られるのであった。
そんな拍手を聞き、凛や花陽はもちろんとして、他のメンバーたちも、満たされた表情になっていたのだ。
統夜もまた、穏やかな表情で最高のパフォーマンスを見せてくれたμ'sに大きな拍手を送る。
μ'sのパフォーマンスが終わり、ファッションショーも無事に閉幕を迎える事が出来た。
最後に、このファッションショーの撮影を担当した「Photo studio NEVER」の粋な計らいによって、参加者全員で集合写真を撮ることになった。
裏方である統夜と梓はその写真の中には入らず、自分の携帯でその写真を撮影し、それを沖縄にいる奏夜たちに送ろうと考えていたのだ。
そんな中、カメラを率先して引き受けた京水は統夜にも写真に写ってもらいたかったが、統夜はそれを丁重にお断りする。
偶然にも、統屋は京水の隣で写真を撮る事になったのだが……。
「あぁん!!イケメンな統夜ちゃんの隣で撮影が出来るなんて、みなぎってきたわぁ!!」
(アハハ……。撮影に集中出来ねぇ……)
統夜は携帯のカメラを構えていたのだが、京水のあまりの暑苦しさに苦笑いしながらカメラを構えていたため、イマイチ集中出来なかったのだ。
そんな中だったが……。
「はい!撮るわよ!!」
こうして、写真撮影はどうにか無事に終了し、京水の暑苦しさに集中力を削がれていた統夜も、どうにか写真を撮ることが出来た。
撮影後、統夜はこの写真を今いるメンバーと梓に共有し、凛が代表して沖縄にいる奏夜たちにこの写真を送るのであった。
【大成功にゃ!!】
凛だけではなく、他のメンバーたちの笑顔に満ちたこの集合写真を。
沖縄にいる奏夜たちはこの写真を見たことによってパフォーマンスの成功を知り、互いに喜び合う。
それだけではなく、自分の代わりを務めてくれた統夜にお礼のメッセージを送るのであった。
それから数日が経過し、修学旅行へ行っていた奏夜たち2年生組も無事に戻ってきた。
そして、この日はμ'sのメンバーが全員揃って行える久しぶりの練習。
そんな中、他のメンバーと比べて少し遅れて凛が現れるのだが、彼女に大きな変化がある。
以前までは練習着もズボンだったのだが、今は女の子らしいスカートをはいている。
これは、自分は女の子らしくなく、自分に自信がなかった凛にとって大きな変化だったのだ。
それだけではなく、ファッションショーのパフォーマンスにて自信を得た凛は、今まで着たいと思っていても遠慮していたスカートやワンピースなどを好んで着るようになり、これも変化の現れと言える。
そんな凛の変化に、奏夜たちは笑みを浮かべるのだが、その中でも、花陽と真姫は満ち足りた表情を浮かべていたのであった。
凛は、変わることの出来た自分に満ち足りた表情を浮かべ、μ'sのメンバーにこう宣言する。
「さあ!今日も練習!行っくにゃあ!!」
こう、満面の笑みの笑みを浮かべながら……。
そんな凛の変化を察したのか、統夜は音ノ木坂学院の入り口に立っており、ジッと屋上の方を見つめていた。
『……おい、統夜。せっかく来たんだろう?あいつらのとこに顔を出さなくてもいいのか?』
「いいんだよ。奏夜の代役としての俺の役目は終わったんだ。今は奏夜がいる。俺は、普通の魔戒騎士として使命を果たすさ」
統夜には、魔竜ホラーであるニーズヘッグの眼の片割れと牙を持っている、ジンガのアジトを突き止めるために動いている。
ララがもう1つの眼を持っているとわかり、それを守るためにも統夜はジンガのアジトをどうにか探そうとしていたのだ。
無論それは、奏夜の代理をしていた時も行ってはいたのだが……。
「……凛、頑張れよ……」
統夜は穏やかな表情で笑みを浮かべると、そのまま音ノ木坂学院を離れ、どこかへと向かっていった。
魔戒騎士として。守りし者として。
統夜は自分の果たすべき使命を果たすのであった……。
……続く。
__次回予告__
『どうやら月影統夜たちは色々大変だったらしいな。まあ、沖縄にいた俺たちだって、大変な状況だったのだがな。次回、「沖縄」。奏夜たちの修学旅行が、今明かされる!』
ファッションショー当日の件だけでまさか10000字を越えるとは……(汗)
だけど、前作である「白銀の刃」にも登場させた京水は出したかったのですww
それだけではなく、原作ではメタルドーパントだったあの人と克己ちゃんまで出てくるとはww
ダブル本編に出てたネバーのメンバーは、克己がオーナーをしているフォトスタジオのスタッフになっております。
そして、克己ちゃんは当然エターナルには変身しませんww
変身というのはそういうことではないのでww
今回変身したのは凛なのです!
今回の話は、凛メインだけではなく、統夜の存在感も大きく出せた話だと思っています。
さて、次回からは沖縄に行ってた奏夜たちの話になります。
この数話で、沖縄にいる奏夜たちのシーンをあまり入れなかったのは、1話でまとめるためだったのです。
沖縄で奏夜たちを待ち受けているものとは?
次回の投稿はいつになるかは未定ですが、なるべく早めに投稿したいとは思っています。
それでは、次回をお楽しみに!!