牙狼ライブ! 〜9人の女神と光の騎士〜   作:ナック・G

87 / 97
お待たせしました!第77話になります!

前回の話で、まさかの剣斗が退場となってしまいましたが、今回はそんな剣斗を追悼する回となっております。

奏夜たちは、大切な仲間を失った悲しみから立ち直ることは出来るのか?

それでは、第77話をどうぞ!




第77話 「鎮魂」

ジンガの魔の手により、ララがさらわれてしまった。

 

奏夜たちは、ララを救い、魔竜の眼を取り戻すために、ジンガのアジトへ突入する。

 

しかし、ジンガは卑劣な手段を用いてララに封印解除の法術を使わざるを得ない状況に追い込み、ララは魔竜の眼の封印を解除してしまった。

 

そんな中、奏夜、統夜、アキトの3人は封印解除された魔竜の眼を手にしたジンガと遭遇。

 

魔竜の眼を取り戻すためにジンガに戦いを挑もうとするが、魔獣装甲を身にまとったアミリの奇襲を受けてしまう。

 

アミリの狙いは奏夜であり、奏夜の命を奪おうとするのだが、駆けつけた剣斗が奏夜の盾となる。

 

その結果、アミリの放つ光の槍は、剣斗の盾を貫き、体も貫かれてしまった剣斗はその命を落としてしまった。

 

その後、番犬所への報告を大輝、リンドウ、アキトの3人に任せ、他のメンバーは一度音ノ木坂学院へ戻る。

 

「……あっ!そーくん!それに、ララちゃん!」

 

穂乃果たちは、部室にて待機していたのだが、部室に奏夜たちが入ってくるのを見て、奏夜たちのもとに駆け寄る。

 

「良かった!無事だったのですね!?」

 

「うん。心配かけてごめんね?魔竜の眼はジンガに取られちゃったし、封印も解除しちゃったんだけどね…」

 

ララは自分が無事なことを穂乃果たちに伝えるが、自分のしたことを思い出し、その表情は曇っていた。

 

「封印を解除って……。そうなったら大変なことになるんじゃないの?」

 

真姫は、ララの持っていた魔竜の眼の封印が解除されるかどうなるか話を聞いていたため、不安げな表情を見せていた。

 

「……あなたたちの夢を、守るためよ」

 

「…え?」

 

ララの言葉に、穂乃果たちは首を傾げる。

 

「ジンガは、封印を解除しなければ私の故郷を潰すだけじゃない。みんなの目指すラブライブを中止させようとしてたわ。私のしたことは、魔戒法師としては間違ってたかもしれない……。だけど、私の一存でみんなの夢を潰したく無かったのよ……」

 

「ララちゃん……」

 

ララが、どのような思いで魔竜の眼の封印を解除したのか知り、これ以上は何も言うことが出来なかった。

 

『蒼哭の里を潰すことも、ラブライブを何らかの方法で中止させることも、ジンガのやつならばやりかねないだろうな……』

 

「ああ、あいつ、卑怯な手をつかいやがって……!」

 

イルバの分析に統夜は同意しつつも、ジンガに対して怒りを露わにしていた。

 

「……ところで、小津先生は一緒ではなかったのですか?」

 

奏夜たちは戻ってきたが、剣斗の姿はなかったため、海未は剣斗の所在を訪ねる。

 

その言葉を聞いた奏夜たちの表情は曇り、顔を伏せていた。

 

「……?小津先生は……どうしたの?」

 

「まさかとは思うけど、何かあったの…?」

 

剣斗のことを聞いた瞬間に奏夜たちの様子が変わったのを見たにこと絵里は、嫌な予感がしながらも、奏夜たちに訪ねる。

 

「……俺たちは、ジンガと対峙したのだが、その途中にあの女、アミリの奇襲を受けたんだ」

 

「!?やっぱり、あの女の人はホラーだったの!?」

 

『厳密に言えば違うが、今はその説明は省かせてもらう』

 

「奴らは俺の命を狙ってたんだ。そんな俺をかばって……剣斗は……っ!」

 

奏夜は顔を伏せてここで言葉を止めるが、穂乃果たちはその意味を理解したため、その顔がみるみると真っ青になっていく。

 

「そんな……小津先生が……!」

 

剣斗が命を落とした。

 

奏夜たちですらその事実を受け止めきれてないため、穂乃果たちがその事実を信じられないというのは当然である。

 

しかし、奏夜たちが嘘を言っていないことも理解していたため、たちまち部室は悲しみの空気に包まれる。

 

「……剣斗は、俺がμ'sにとって必要な存在だってことで、自らを犠牲にしてまで、俺を守ってくれたんだ……」

 

「そーくん……」

 

「俺はいつだってそうだ。誰かの犠牲によって生かされてる……。あの時、テツさんの犠牲で生き延びた時から、俺は何も変わっちゃいない……!」

 

「奏夜……」

 

奏夜が魔戒騎士になったばかりの頃、元魔戒法師のアスハは、全ての魔戒騎士を滅ぼすために、とある兵器を用いて魔戒騎士狩りを敢行する。

 

その際、奏夜もまたその兵器によって危機を迎えるのだが、その時奏夜の面倒を見ていた魔戒騎士テツが奏夜を逃がし、魔戒騎士狩りの秘密を番犬所に伝えるよう託した。

 

その結果、テツは命を落としてしまうのだが、その時の感情を奏夜は思い出していたのである。

 

『おい、奏夜。お前はいつまで剣斗の死を引きずっている?魔戒騎士の戦いはいつも死と隣り合わせなんだ。それはお前も覚悟のうえだろう?気持ちを切り替えなければ、次に死ぬのはお前だぞ!』

 

暗い表情の奏夜に、キルバは厳しい言葉を投げかけて叱咤激励をする。

 

しかし……。

 

「キー君!いくらなんでもそれは酷いよ!」

 

「そうだよ!魔戒騎士は命懸けなのはわかるけど、その言葉は今言うべきじゃないよ!」

 

キルバのあまりに厳しい言葉に、ことりと穂乃果が異議を唱える。

 

「確かに…。キルバの言ってることは間違ってないな」

 

「統夜さんまで!」

 

統夜は、キルバの言葉に賛同してると知り、海未が統夜に異議を唱えた。

 

「だがな。理解はしててもそう簡単に納得出来るものじゃないよ。剣斗の死を受け止めて、前に進む力にするのには少し時間がかかるってもんさ」

 

『やれやれ。お前も相変わらず甘いな、統夜。そんな悠長なことを言ってられる状況じゃないのはお前さんもわかっているだろう?』

 

「そうかもしれないけど、ジンガを止めなきゃいけないからこそ、その時間は必要だと思うわ。ジンガに捕らわれた私が言えたことじゃないかもしれないけど……」

 

「…ねぇ、奏夜。これからどうするつもりなの?」

 

剣斗が命を落としたのは理解したが、今後どうするかを知るために絵里が訪ねる。

 

「…とりあえずは剣斗の親父さんに今回のことを報告する。その上でお願いもあるからな」

 

「…俺も一緒に行くぜ。お前一人に負担はかけさせんさ」

 

「私も行く。こんな状況だからこそ、何かをしたいもの」

 

奏夜は剣斗の父親に会いに行こうとしており、それに統夜とララも同行することを告げる。

 

それだけではなく……。

 

「私も一緒に行くわ。おじ様に会いに行くのなら、私も何か力になれるかもしれないもの」

 

「私も、同行させてもらうわ、私じゃ何も出来ないかもしれないけれどもね」

 

真姫だけではなく、絵里も奏夜たちに同行する旨を伝え、奏夜は無言で頷くことでそれを了承する。

 

「ララ。お前の気持ちは理解しているけれど、とりあえず今は休んでてくれ。ダメージも残ってるだろうし、疲れもあるだろうしな」

 

「ごめん……。そうさせてもらうわ……」

 

ララとしても、剣斗の父親に今回のことを報告したい気持ちはあったものの、先の一件でのダメージや疲れは相当なものであることから、報告は奏夜たちに任せることにした。

 

こうして、奏夜たちは剣斗の父親に剣斗の訃報を報告するために、剣斗の家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏夜たちが剣斗の家を訪れたのは、新曲を作るために合宿を行った以来であり、以前のようにタクシーを使用して剣斗の家に向かっていた。

 

統夜は一応自家用車を所持しているが、現在はこちらに車を持ってきていないため、今回はタクシーになったのである。

 

既に剣斗のことは番犬所から話が入っていたのか、奏夜がインターホンを鳴らして名乗ると、すぐに執事の男性が出迎えてくれ、剣斗の父親のもとへ案内された。

 

奏夜たちが案内されたのは、以前剣斗の父親と対面した時と同じ部屋であり、奏夜たちが訪室した時、奏夜たちに背を向けており、顔を見せようとはしなかった。

 

「…あのっ、おじ様…!」

 

父親経由で剣斗の父親とは面識のある真姫が話を切り出そうとするが、奏夜がそれを制止する。

 

今回のことは自分の口で報告すべきだ。

 

そう判断したからである。

 

「……あっ、あの……!」

 

奏夜は剣斗のことを伝えようとするも、なかなかその言葉を口にすることは出来なかった。

 

剣斗は死んでしまった。それも自分をかばってしまった結果に。

 

そんな経緯があるからこそ、余計に言いにくかったのである。

 

「……何も言わなくてもいい」

 

剣斗の父親は、そんな奏夜の気持ちを汲み取っているのかいないのかは不明だが、ゆっくりと口を開く。

 

しかし、背を向けたままなのは変わらず、その表情は読み取れなかった。

 

「……剣斗は、自分の…そして、μ'sにとって希望である君をかばって命を落としたのだ。それこそ、人を守る魔戒騎士としてだけではない、誰よりも騎士道を重んじる小津家の人間として誇らしき行動なのだ…。だから、今はどうか……沈黙をもって弔って欲しいのだよ…」

 

剣斗の父親は全て承知のうえで奏夜にこう告げるのだが、悲しみの感情を隠し切ることは出来ず、その声は震えていた。

 

「……」

 

そんな剣斗の父親の言葉に、奏夜は胸を締め付けられる思いであったが、その思いを汲み取って、ゆっくりと頷いた。

 

「……おじ様、小津先生は私たちμ'sにとってだけじゃない。音ノ木坂学院にとっても素晴らしい先生だったのです」

 

「…ああ。理事長から話は聞いていたよ。生徒に慕われていた素晴らしい教師だと。だからこそ、剣斗の葬儀の手配は行っている。魔戒騎士としてだけではなく、音ノ木坂学院の教師としてな……」

 

魔戒騎士や魔戒法師が亡くなった場合は、その遺体は番犬所や元老院に収容され、葬儀に代わる追悼の儀を行うのが通例とされている。

 

しかし、剣斗は魔戒騎士としてだけではなく、音ノ木坂学院の教師としても誰からも慕われていたこともあり、剣斗の父親は、魔戒騎士としてだけではなく、小津剣斗としても音ノ木坂学院の生徒たちに最後のお別れをする機会を設けようと決意していたのだ。

 

「……そのお心遣い、大変痛み入ります…」

 

絵里としても、その提案をしたいとは考えていたものの、なかなか厳しいと判断したため話を切り出せなかったが、剣斗の父親の気持ちを汲み取り、深々と頭を下げた。

 

「……報告は番犬所から受けているが、ジンガというホラーは、強大なホラーを蘇らせようとしているのだろう?剣斗の心も連れて、どうかそれを阻止して欲しい……!息子の愛したこの街を…世界を…守ってやってくれ!」

 

剣斗の父親は、剣斗の訃報を聞いた時に、現在の状況も簡潔に聞いていたため、元魔戒騎士として、このように奏夜や統夜に託したのであった。

 

「……お任せ下さい…!俺たちは、これからも剣斗の心と共に戦っていきます……!剣斗の思いと共に、俺たちは前に進んでいきます……!」

 

統夜もまた、剣斗のことを大切な友であると思っていたため、彼を失ったことによる悲しみはあったが、魔戒騎士として使命を果たすため、声を震わせながらもこう告げる。

 

そんな統夜の言葉を聞いた剣斗の父親は、まるで今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのようにその場で泣き崩れていた。

 

息子を失った剣斗の父親の慟哭に、真姫と絵里はもらい泣きしそうになっているのか目に涙を貯めており、奏夜と統夜は、顔を伏せて俯いていた。

 

「……みんな、とりあえず行こう」

 

統夜が声を震わせながらこう促すと、奏夜たちはそのまま剣斗の家を後にして、音ノ木坂学院へ戻った。

 

そして、部室に残っていた穂乃果に現状を報告し、その日は解散する。

 

現状はラブライブに向けての練習をしている場合ではないという判断からである。

 

穂乃果たちが帰路につく中、奏夜、統夜、ララの3人は番犬所へ戻ると、改めて剣斗のことを報告。さらに、剣斗の家の出来事を報告していた。

 

「……剣斗のことは先程大輝やリンドウから報告は受けました。とても残念です……」

 

「はい……。剣斗は、俺をかばったせいで……!」

 

「奏夜。自分を責めてはいけません。今はそのことを後悔し、苦しむ場合ではないのですから……」

 

ロデルは奏夜を気遣いながらも、最悪な状況になった現状を鑑みていた。

 

「…番犬所としてもジンガの足取りを追ってはいるのですが、今のところは有力なものはありません」

 

「あいつの手には二つの魔竜の眼と魔竜の牙が揃いましたが、すぐにニーズヘッグが復活することはないでしょう。それらを用いて復活の儀式を行うハズです」

 

『それを行う場所を奴さんも探しているはずだ。もうあの場所へ戻ることは出来ないからな』

 

イルバの推測通り、今回の作戦で奏夜たちは、ジンガのアジトを突き止めて踏み込んだ。

 

新たな潜伏先を探していると考えるのが自然であろう。

 

「ニーズヘッグ復活の儀式だって、すぐに行えるものではないはずです。他のホラーの復活の時だって……!」

 

統夜は、魔戒騎士として、強大な力を持つホラーとの交戦経験を思い出しながら、その時の経験から、すぐにニーズヘッグが復活することはないと推測していた。

 

そのことには大輝やリンドウも同感なのか、無言で頷いている。

 

「そうですね…。だからと言って予断は許される状況ではありませんが、何か動きがあれば、すぐに報告します。皆さんはこれから起こるであろう激闘に備えて、体を休めて下さい」

 

現在は最悪な状況ではあるものの、ニーズヘッグ復活には猶予がある。

 

そのため、ロデルは奏夜たちを休ませる判断を下し、奏夜たちはそんなロデルの言葉を聞いて、解散。体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、この日は登校日であるため、奏夜はいつも通り登校した。

 

しかし、登校後すぐに、全校生徒たちは講堂へ集められた。

 

奏夜たちはどうして講堂へ集められたのか察していたのだが、他の生徒はいきなり講堂へ来るなど予想もしていなかったため、困惑していた。

 

全校生徒が講堂に集まったため、ステージに理事長であることりの母親が現れ、挨拶を始めた。

 

『本日皆さんに集まって頂いたのは、皆さんにとってとても残念なお知らせをしなくてはならないからです』

 

理事長はそのような前置きの後に顔を伏せるのだが、すぐに顔を上げて話を続けた。

 

『我が学院の体育教師として皆さんにも慕われていた小津剣斗先生ですが、昨日交通事故に遭い、亡くなられました』

 

理事長の口によって剣斗の死が伝えられると、生徒たちは驚きと信じられない気持ちが交差しており、講堂内はざわついていた。

 

剣斗が交通事故で亡くなったことになっていることに奏夜たちは驚いていたが、これは剣斗の父親や番犬所の計らいである。

 

剣斗が魔戒騎士であることを知っているのは奏夜たちだけであるため、戦いによって命を落とした等言うことは出来なかったため、そのように口実を作ったのであった。

 

『…本日は通夜があり、明日は小津先生の葬儀が行われますが、葬儀に関しては希望する生徒は参列しても良いと先生のご家族様からお話がありました。参加を希望される方は、後ほど自分のクラスの担任の先生にその旨をお伝えください』

 

剣斗の死後、剣斗の父親が速やかに対応を行ったからか、本日通夜で翌日には葬儀を行うことが出来た。

 

剣斗の訃報を伝える目的だった集会は終わり、生徒たちは自分の教室へと戻っていった。

 

その後は剣斗の葬儀の参列の有無の確認後は普段通りの授業が行われれたのである。

剣斗は教師として本当に慕われていたのか、ほとんどの生徒が翌日の葬儀に参列することとなった。

 

この日は、普段通りの授業が行われていたものの、剣斗の死を受け入れられない生徒が多く、とてもまともに授業が出来る状態ではなかった。

 

普段であれば、休み時間や昼休み、放課後は生徒たちの楽しげな話し声が飛び交うのだが、今日はあまりに衝撃的なニュースがあった為、剣斗の死を悼む声や、その事実に泣いている生徒が多く、悲しみに包まれていた。

 

それは、奏夜たちのクラスも同様であり……。

 

「……ねぇ、奏夜くん」

 

放課後になりすぐに、奏夜たちが日頃からお世話になっている、ヒデコ、フミコ、ミカの3人が奏夜に話しかけてきた。

 

「小津先生のことなんだけど……事故で亡くなるなんて、嘘だよね…?あんないい先生他にいないのに……」

 

「急にごめんね?奏夜くんは小津先生と親しかったでしょう?それで、何か知らないかなってさ…」

 

ヒデコとミカが奏夜におずおずと訪ねる通り、奏夜と剣斗が教師と生徒という立場を越えた友人だということは、音ノ木坂学院の生徒や教師ならばほとんどが知る話であった。

 

「……信じられないよな…?俺だって、信じられないよ……」

 

奏夜としては、剣斗が何故死んだのかを理解していたが、それを正直に話すことは出来ず、こう答えるのが精一杯なのである。

 

悲しみを誤魔化すため、奏夜は顔を伏せてその顔を見せないようにしていた。

 

「……!」

 

そんな奏夜の表情を見て、剣斗の訃報に嘘はないと改めて実感したのだろう。

 

フミコは声をあげずに涙を流していた。

 

そして、それに呼応するかのように、ヒデコとミカも涙を流し、3人は抱き合いながら泣いていたのだ。

 

「……」

 

そんな状況を見てられなかったのか、奏夜は教室を飛び出した。

 

「……そーくん……」

 

このやり取りの一部始終を見ていた穂乃果は、心配そうな目をしながら奏夜が出ていった方角を眺めていた。

 

「今は、そっとしておいてあげましょう。小津先生のことで、一番辛いのは奏夜なのですから…」

 

奏夜から剣斗の死の事実を聞いている海未はこのように穂乃果に声をかける。

 

「そう、だよね……」

 

「昨日話し合いをした通り、こんな状態では練習にならないと思いますので、今日は帰りましょう。本格的な練習は、明日以降になると思います」

 

「これから……どうなっちゃうんだろうね……?」

 

剣斗の死により、今後の活動に支障が出るのではないかと心配になったことりは、悲しげな表情でこのように呟いていた。

 

先程の海未の話の通り、今日は練習を行える状況ではないため、穂乃果たちは帰路に付き、学年の異なる他の6人もまた、奏夜のことを心配しつつも帰路に付いた。

 

「……」

 

その頃、教室を飛び出した奏夜は、屋上に来ており、そこから見える景色を眺めていた。

 

『……おい、奏夜。お前はいつまでそうしているつもりだ?』

 

奏夜が未だに剣斗の死から立ち直れていないと判断したのか、キルバは奏夜が1人になったこのタイミングで声をかける。

 

『剣斗がお前にとって大事な盟友だったのは承知している。だが、魔戒騎士の戦いはいつ命を落としてもおかしくない状況だ。あの時剣斗が飛び出して来なければ、命を落としていたのはお前だったんだ。それはお前もわかっているだろう?』

 

「……わかっているさ。わかってるからこそ、剣斗を救えなかった俺は……っ!!」

 

奏夜は両手をギュッと握りしめ、唇を噛み締める。

 

自分は本来あそこで命を落としていただろう。

 

しかし、剣斗がかばってくれたおかげで生きながらえることが出来たのだ。

 

奏夜としても、μ'sのために死ぬ訳にはいかないのは承知している。

 

だが、これ以上誰かの犠牲によって生きながらえることは、奏夜には耐えられない苦痛なのであった。

 

『お前の気持ちは承知しているさ。お前は魔戒騎士として多少は強くなったが、まだまだ未熟者だ。そんなんで戦いなぞしたら、お前は確実に死ぬだけだぞ。そんなことになったら、剣斗の犠牲が無駄になるということが何故わからない!?』

 

「…!」

 

キルバの的を得た叱責に奏夜は一瞬ハッとするも、何も答えることは出来なかった。

 

奏夜は悔しさや悲しみの感情を抱きながら、しばらく屋上で景色を眺めていた。

 

その後、奏夜は番犬所を訪れるが、ジンガは未だ動きを見せてない状態だったため、街の見回りは大輝とリンドウに任せ、奏夜は体を休めることになった。

 

そして翌日、剣斗の葬儀が始まった。

 

剣斗は小津財閥の会長の次男ということもあってか、多くの人が参列していた。

 

音ノ木坂学院の生徒はほぼ全員が参列していたが、全員が入れる程会場である場所の広さはなかったため、生徒会のメンバーである穂乃果たちが会場に入ることは許されたが、他の生徒は外で剣斗とお別れをすることになる。

 

剣斗の葬儀には、統夜だけではなく、統夜から今回の訃報を聞いた梓たちも参列していた。

 

特に紬は、父親経由で剣斗の父親と交流があったため、紬の父親と共に参列していたため、統夜たちとは別行動だったのだ。

 

葬儀の開始時間となり、会場となったお寺の住職がお経を唱え始め、そのお経はスピーカーを通して外にいる音ノ木坂学院の生徒たちにも聞こえるようになっていた。

 

お経を聞いていた生徒たちの中には、剣斗の死を受け入れられず、他の生徒と抱き合いながら涙を流す者や、目に涙を溜めたままお経を聞いている生徒など様々であった。

 

奏夜、穂乃果、海未、ことり以外の他のメンバーは外でお経を聞いており、全員が俯いており、剣斗の死を悲しんでいた。

 

それは、会場内にいる穂乃果たちも同様の様子である。

 

「………」

 

そんな中、奏夜は未だに剣斗の死から立ち直れておらず、自分の無力さを呪いながらお経を聞いていた。

 

(奏夜のやつ、相当思いつめてるみたいだな……)

 

そんな奏夜の様子を、統夜は遠くで眺めており、心配そうな視線を送る。

 

«まぁ、無理もないだろうな。あの小僧にとって剣斗は大切な盟友。しかも、自分をかばって死んだのだからな»

 

(そうだよな……。だが、俺だって本当のところは……)

 

統夜にとっても剣斗は大切な盟友の1人であったのだが、統夜は魔戒騎士になってから、仲間の死を何度も見てはいるものの、盟友と呼べる存在を失ったのは初めてであった。

 

統夜が魔戒騎士になる前の修練場では、ホラーの襲撃に逢い、共に魔戒騎士を目指していた仲間を失った過去はあるのだが、統夜はまるでその時のような感情を抱いていたのだ。

 

«やれやれ……。お前さんもまだまだ甘いな。だが、あの小僧みたいに思いつめてる訳じゃないし、俺からはこれ以上は何も言うまい»

 

統夜の魔導輪であるイルバは、統夜に対して厳しい言葉をかけようとしていたが、統夜の今の心境を理解していたため、何も言うことはなかった。

 

こうして、参列した誰もが剣斗の死を悼みながら、葬儀は終了したのである。

 

出棺からは剣斗の親族のみで行われることとなっていたため、音ノ木坂学院の生徒たちはここで解散となる。

 

奏夜たちは会場となったお寺を出て、そのまま帰路につこうとしていたのだが……。

 

「……穂乃果さん、奏夜君」

 

穂乃果と奏夜にとある人物が声をかけたのだが、その人物に2人は驚きを隠せなかった。

 

何故なら、その人物とは……。

 

「つ、ツバサさん……。それに……」

 

穂乃果と奏夜に声をかけたのは、A‐RISEの綺羅ツバサであり、後ろには、統堂英玲奈と優木あんじゅの2人もいた。

 

その格好は、UTXの制服である白い制服ではなく、黒を基調とした私服であった。

 

「小津先生のことを聞いて私たちもいてもたってもいられなくなったの…。残念だったわね…」

 

「ツバサさん、お気遣いありがとうございます…」

 

「ツバサだけじゃない。英玲奈とあんじゅも、来てくれてありがとな」

 

「いえ、気にしないでいいのよ?」

 

「小津先生の高名はUTXにも轟いていた。スクールアイドルであることを抜きにしても、惜しい先生を亡くされたと思っている」

 

「だからこそ、せめて葬儀だけでもと思ってね……」

 

A‐RISEの3人は、自らがスクールアイドルであることを抜きにして、剣斗のことを尊敬していたため、そんな剣斗に哀悼の意を表するために今回訪れたのだ。

 

「その言葉、剣斗もきっと喜んでくれてるさ」

 

音ノ木坂学院だけではなく、UTXにまで好評が伝わっていることを実感した奏夜は苦笑いを浮かべながらツバサたちに答える。

 

「今はとても辛いでしょうけど……」

 

「μ'sのみんなならば、それも乗り越えて素晴らしいパフォーマンスをしてくれると信じてる」

 

「それがきっと、小津先生への供養にもなると思うわ」

 

A‐RISEの3人は、今度は個人としての言葉ではなく、スクールアイドルとしての言葉を奏夜たちに送っていた。

 

「はい。ありがとうございます」

 

穂乃果はそんなA‐RISEの言葉に嬉しいと感じたからか、一礼をして気持ちを返した。

 

「それじゃあ、私たちは失礼するわね。また会いましょう」

 

2人に挨拶したところで、A‐RISEの3人はその場を後にした。

 

それとタイミングを同じくして……。

 

「…なぁ、お前ら」

 

統夜が奏夜たちに声をかけるのだが、そこには梓たちだけではなく、他の6人も合流していた。

 

父親と行動していた紬もまた、今は統夜たちと合流していたのだ。

 

「統夜さん……」

 

「今、この6人には話したんだが、スクールアイドルのμ'sとして、剣斗を追悼しようとは思わないか?」

 

「え?」

 

統夜からのまさかの言葉に、奏夜たちは驚きを隠せなかった。

 

「実はな、この前に魔戒騎士や魔戒法師を追悼するために曲を作ったんだ。もし、お前たちにその意思があるのならば、俺はこの曲をお前たちに提供しようと思っている」

 

統夜はかつて魔戒騎士としての最強を決めるサバックに参加したことがあるのだが、その時に先の魔戒騎士狩りで命を落とした魔戒騎士たちを弔うために曲を披露したことがあった。

 

それとは違う曲なのだが、穂乃果たちがμ'sとして剣斗を弔う気持ちがあれば、その曲を穂乃果たちに使ってもらいたいと考えていたのである。

 

「私たちとしては賛成なんだけど、あなたたちはどう思う?」

 

穂乃果たち以外である6人は、全員剣斗を弔う気持ちがあった。

 

そんな中、穂乃果は……。

 

「やりたい!曲があってもなくても、それはやりたいよ!だって、小津先生はスクールアイドル部の顧問で、μ'sの仲間なんだもん!」

 

「それに関しては私も同意見です!」

 

「私も!」

 

絵里の問いに間髪入れずに穂乃果たちは答えていた。

 

実は、μ'sとして剣斗の弔いをしようと穂乃果も考えていたからである。

 

「……俺も、みんなと同じ気持ちだよ」

 

それは奏夜も同様であるため、奏夜も賛成していた。

 

「わかった。そしたら、これを渡しておく」

 

統夜は、穂乃果に自分が作った曲の音源と歌詞が書かれた紙を手渡した。

 

「俺たちもやらなきゃいけないことがあるからな…。今日の夜にでも剣斗の弔いをやろう」

 

剣斗の追悼に使用する曲を穂乃果に託した統夜は、踵を返してその場を後にし、それに梓たちも続く。

 

「……とりあえず、学校に行きましょうか。私たちに今出来ることをやりましょう」

 

「そうね。そうしましょう」

 

海未の提案に最初に絵里が賛同しており、他のメンバーも頷く。

 

こうして、奏夜たちは音ノ木坂学院に向かい、部室で統夜から託された曲の練習をすることになった。

 

その頃、とある場所へ向かっていた統夜であったのだが、顔を伏せており、今自分がどのような表情をしているのか、梓たちに見せないようにしていた。

 

「……統夜先輩!待ってください!」

 

そんな統夜にいち早く気付いた梓は統夜を引き止めると、顔を伏せている統夜の顔を強引に上げさせる。

 

「……やっぱり……」

 

統夜は梓たちに気付かれないように涙を流しており、それを見透かしていた梓は呆れていた。

 

「……剣斗を失って、俺だって辛いさ。だが、今はそんなことは言ってられないんだよ。今は大事な使命を果たすため、前を向かなきゃ……」

 

統夜は慌てて流れている涙をぬぐうと、魔戒騎士として気丈な振る舞いをする。

 

「……統夜、お前は相変わらず水くさいなぁ……」

 

統夜は、自分の本音を隠すことがよくあるのだが、そのことをよく知る律は苦笑いを浮かべる。

 

「これは何度も言ってることだが、私たちの前では無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「そうだよ!そりゃ、今のやーくんはあの頃よりも大変かもしれないけど、私たちの前でくらいそのままのやーくんでいてよ!」

 

「澪ちゃんや唯ちゃんの言う通りよ。統夜くん、本当に辛かったわね……」

 

「…っ!」

 

大切な仲間たちからの暖かい言葉に、統夜の目から再び涙が流れそうになるのだが、統夜は強がりの姿勢を崩さず、目を背ける。

 

そんな統夜を、梓が優しく抱きしめるのであった。

 

「…統夜先輩…。私たちの前では強がらなくていいんですよ。私たちは、人を守る重い使命を持つあなたがありのままでいられるようにしたいんです…」

 

「…梓…みんな…」

 

そして、統夜を抱きしめる梓を4人が囲むようなかたちになり、4人もまた、統夜と梓を抱きしめる。

 

「……っ!」

 

梓たちが自分のためにここまでしてくれる。

 

そのことに胸を打たれた統夜の目からは涙が溢れ、まるで堰を切ったかのように涙を流していた。

 

「……うわあぁぁぁぁ!!剣斗……!けんとぉ…!!」

 

大切な盟友を失い、悲しいのは奏夜だけではなく、統夜もそうなのである。

 

しかし、自分は奏夜の先輩騎士であるし、ニーズヘッグ復活を阻止しなければいけないため泣いてはいられない。

 

そんなことを考えていたのだが、梓たちの優しさに触れ、剣斗の死を悲しんでいたのだ。

 

そんな統夜を、梓たちは優しく受け止めるのだが、統夜にもらい泣きをしたのか、一緒になって涙を流していたのである。

 

こうして、統夜は梓たちのおかげでありのままに悲しむことが出来たため、その後は奏夜たちがやろうとしている剣斗の追悼の準備のために動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜になり、奏夜たちは音ノ木坂学院の裏手にある今は誰も立ち入ることのない裏山に来ていた。

 

ここで剣斗の追悼を行うためである。

 

場所をここにしようと提案したのは奏夜たちであり、その連絡を受けて、統夜たちも駆けつけていた。

 

それだけではなく、ララ、リンドウ、大輝もその場にいたのである。

 

アキトも本来であれば来る予定だったのだが、調べ物があるため、剣斗のことを報告してすぐに元老院の手前にある魔導図書館へ向かったのであった。

 

「……とりあえず、俺たちの準備は整ってるぜ」

 

統夜はそう言いながら、ビデオカメラを用意していた。

 

これこそ、統夜が提案したことであり、剣斗追悼のために曲を披露し、それをμ'sの動画として流す。

 

これはμ'sとして名前を残すためではなく、あくまでも剣斗のためであり、剣斗のことを知る1人でも多くの人にこの動画を見てもらいたいという思いがあってのことであった。

 

「私たちも準備は出来ています!」

 

穂乃果たちは、音ノ木坂学院に戻った後は統夜から預かった音源を元に歌の練習を行っていたのである。

 

今回は剣斗を弔うための歌を披露するだけなので、振り付けはなしなのだが。

 

自分たちなりに剣斗の弔いをしたいという思いが強かった穂乃果たちは、半日足らずで曲をマスターし、今に至る。

 

「…わかった。それじゃあ、さっそく始めようか」

 

統夜はそう言うとビデオカメラを回し始め、動画を撮り始めた。

 

動画自体は曲を含めて10分程度のものであったのだが、録画終了後は奏夜たちが編集を行い、翌日の朝にこの動画を投稿したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~剣斗追悼の動画~

 

『……皆さん、こんばんは。私たちは、音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです』

 

穂乃果が最初にμ'sであることをなのるのだが、いつものように明るい感じではなく、憂いを帯びた表情をしていた。

 

『……今日は、皆さんに悲しい報告があるため、この動画を撮っております』

 

『私たちμ'sは、音ノ木坂学院のスクールアイドル部として活動しているのですが、その顧問をしてくれていた小津剣斗先生が交通事故で亡くなりました…』

 

海未が最初に前置きをした後、ことりが剣斗の死を報告する。

 

『小津先生は、いつも優しく、そして時には熱く……』

 

『私たちの活動を見守ってくれていました』

 

『そんな小津先生は、私たちだけではなく、多くの生徒からも慕われていました』

 

続いて、花陽、凛、真姫が剣斗の人柄の良さをこのように伝えていた。

 

『μ'sは一時期解散の危機もありましたが』

 

『そんな状況でも、小津先生は優しく私たちを見守り、再スタートをした時は誰よりも喜んでくれました』

 

そして、にこと希が、かつてのμ'sの危機を簡潔に語り、剣斗の存在の大きさを伝えていた。

 

『そんな小津先生の訃報を聞き、私たちはとても悲しいです。しかし、私たちはそれを乗り越えて前に進みます。それは、きっと小津先生も望んでいることだから……』

 

絵里が自分たちの心情を吐露すると共に、活動休止することなく改めて前へ進むことを宣言していた。

 

『小津先生には、心からご冥福をお祈りします』

 

穂乃果がこのように挨拶をすると、穂乃果たちは深々と頭を下げる。

 

『最後になりますが、そんな私たちの思いを、歌にして伝えたいと思っています』

 

『私たちの思いが、小津先生にも伝わるように……』

 

そして、海未とことりが統夜から託された曲を披露することを伝えた。

 

『この曲は、日頃から私たちを応援してくれているとある方が提供してくれました』

 

絵里が、今から披露する曲が自分たちが作詞作曲した曲ではなく、第三者から提供された曲であることを明かした。

 

さすがに、統夜の存在までは明かせないのだが……。

 

『……それでは、聞いてください』

 

 

 

 

 

 

 

『……十六夜の送り歌』

 

穂乃果たちが全員揃って曲名を披露したところで、統夜が用意していた音源を再生し、曲は始まった。

 

 

 

 

 

~使用曲…十六夜の送り歌~

 

 

 

 

この曲は、統夜が作詞作曲した曲なのだが、本来は統夜がホラーとの戦いで命を落とした魔戒騎士や魔戒法師を追悼するために用意した曲であった。

 

とは言っても、この曲をどこかで披露する予定はなかったというのも、今回穂乃果たちにこの曲を提供した理由になっているのだが。

 

統夜はこの曲を作詞作曲するにあたり、指令で立ち寄ったとある魔戒法師の里に伝わる鎮魂歌を参考にしていた。

 

その鎮魂歌が、統夜にとって心を打たれたからである。

 

そんな思いがあって完成したこの曲を、穂乃果たちが剣斗を弔うために歌っている。

 

スクールアイドルとして発表する曲ではないため、振り付けはなく、その場に立ち、心を込めて歌っていた。

 

歌っている間に穂乃果たちは剣斗のことを思い出していたからか、自然と目から涙が溢れており、それが相まって、フレーズひとつひとつに心が込められていたのである。

 

そんな穂乃果たちの歌を、撮影時、奏夜たちは剣斗のことを思いながら見守っていた。

 

こうして、穂乃果たちによる曲の披露は終わった。

 

『……小津先生。私たちはこれからも頑張ります。なので、見守っていてください…!』

 

穂乃果のこの言葉を最後に、この動画は終了したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動画撮影終了後、奏夜たちは解散となったのだが、奏夜はその場に留まっていた。

 

それを見ていた穂乃果たちは一緒に残ろうと考えていたのだが、絵里が今は一人にした方がいいと提案したため、穂乃果たちは奏夜をそこに残して帰路についたのだった。

 

しかし……。

 

「……そーくん」

 

それからおよそ20分後に、穂乃果は戻ってきたのである。

 

「穂乃果……。帰ったんじゃないのか?」

 

「そうなんだけどさ……。どうしても、そーくんのことがほっとけなくて……」

 

「そっか……」

 

穂乃果がまた戻ってきたことに奏夜は驚くが、すぐにまた顔を伏せる。

 

「そーくん……」

 

穂乃果自身も、今の奏夜の心情は理解しているつもりなのだが、それでも奏夜を1人にすることを良しとはしていなかったため、奏夜の隣に腰を下ろす。

 

「……」

 

奏夜はそんな穂乃果に一瞬だけ驚いたような表情を見せるものの、すぐにまた顔を伏せる。

 

「……穂乃果。悪いけど、1人にしてくれないか……?」

 

そして、奏夜は穂乃果の顔を見ずにこう伝えるのだが……。

 

「ヤダ」

 

「え?」

 

この答えは予想外だったのだろう。奏夜は顔を上げ、驚いた表情を穂乃果に見せていた。

 

「ヤダよ!そりゃ、そーくんが今1人になりたい気持ちはわかるよ?だけど、私はそんなそーくんのことがほっとけないんだよ……」

 

「穂乃果……」

 

「だからね?そーくん……」

 

穂乃果はこのように前置きをすると、奏夜を優しく抱きしめるのであった。

 

「ほの…か?」

 

「そーくん、辛かったね……。私の前では……うぅん。私たちの前では、無理しなくても…いいんだからね?」

 

穂乃果は奏夜をこのように諭すと、その頭を優しく撫でていた。

 

「そーくんはどんなに自分が辛い時でも私たちのことを支えてくれたんだもん。だからこそ、私は、そーくんを支えたいんだよ……」

 

「…!」

 

「……だからね?今は…今だけは…我慢しなくても、いいんだからね?」

 

「……っ!」

 

穂乃果の優しい言葉を受け、奏夜の目からは涙が溢れており、何を言う訳でもなく、穂乃果を抱きしめる。

 

「……悪い。しばらくの間だけでいいから……。このままでいさせてくれ……!」

 

奏夜はこう穂乃果に伝えると、堰を切ったかのように涙を流していた。

 

「うん、もちろんだよ」

 

穂乃果は優しい表情のまま奏夜を受け入れると、涙を流す奏夜を優しく受け止めていた。

 

「……ごめん……。ごめんな、剣斗……!俺の……俺のせいで……!!」

 

「うん。辛かったね……」

 

穂乃果は、奏夜の言葉を一切否定することはなく、優しく声をかける。

 

「……っ!!」

 

奏夜はその後も、剣斗を失った悲しみから、涙を流しており、穂乃果は奏夜が泣き止むまで、優しく奏夜を受け止めていたのであった。

 

そして翌日に剣斗追悼の動画は投稿されたのだが、その動画は瞬く間に再生数が伸びていき、剣斗を追悼するコメントや、μ'sを応援するコメントで溢れていた。

 

顧問である剣斗の死により、μ'sはさらに有名になることになったのである。

 

とは言っても、顧問の死という同情のみの気持ちも少なくはなかったが、A‐RISEと同じ舞台でのパフォーマンスや、ハロウィンでのパフォーマンスなど、剣斗のことがなくても、μ'sという存在は少しずつではあるが有名になったのであった。

 

こうして、奏夜たちは、剣斗の死という悲しい現実を受け止め、前へ進んでいくことを心に誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……続く。

 

 

 

 

 

 

──次回予告──

 

『まさか…あのジンガという男の抱える闇がここまで深いものだったとはな……。次回、「憤怒」。これが、奴の抱える怒りなのか…?」

 




今回は、奏夜だけではなく、前作主人公である統夜も弱さを見せた回となりました。

統夜もまた、過去に失ったものは多いものの、剣斗の死には相当堪えていた1人なのです。

今回、剣斗の追悼に使われた曲は、劇場版の牙狼 神ノ牙の挿入歌で使用された曲です。

実は、ここの曲の候補は他にもあったのですが、この曲があまりにイメージにピッタリだったため、今回採用となりました。

剣斗の死亡は、まさかのかたちでμ'sを有名にさせてはいますが、現在の知名度はアニメ二期の原作と同じくらいになっております。

そして、次回はジンガの過去が明かされます。

ジンガがどのようにしてホラーになったのか?

何故ニーズヘッグを復活させ、世界を滅ぼそうとしているのか?

それでは、次回をお楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。