本当ならそのまま新章に行くことも考えましたが、この前まで放送をやっていた ラブライブ!スーパースター!! の1話を見て感じたものがあり、この「蒼哭の竜詩編」が完結したらこの話を投稿しようと、1話が放送された7月頃よりネタを暖めて執筆しておりました。
スーパースターの放送は終わり、二期はまだ先の話なので、今更感はあるかもですが、楽しんでいただけたら幸いです!
それでは、番外編をどうぞ!
……ここは、日本の首都東京。
今日もまた、多くの人が行き交い、賑わいを見せている。
そんな中、茶色のロングコートを羽織った青年が原宿の某所を歩いていた。
青年は町外れのとある場所に辿り着くと、コートから剣のようなものを取り出し、それを抜刀する。
そして青年は、剣のようなものを地面へ突き刺した。
すると、そこから黒い塊のようなものが飛び出してくる。
それを、青年は剣のようなものを振り下ろすことで真っ二つに切り裂き、黒い塊のようなものは消滅する。
青年は剣のようなものを緑の鞘に納めると、それをコートの裏地へしまった。
「…キルバ、浄化はこれで終わりか?」
青年は左手に嵌めている指輪へ語りかける。
すると……。
『ああ、これで終わりみたいだぞ』
指輪がカチカチと音を鳴らしながら、くぐもった男性の声を発していた。
この青年…如月奏夜は、陰我をゲートに現れ人間を食らう魔獣であるホラーを狩る魔戒騎士である。
そんな奏夜の相棒が、左手に嵌められている指輪…魔導輪キルバなのだ。
「それにしても、ここは管轄外だけど、エレメントの浄化を頼まれるなんてな」
奏夜は、秋葉原と神田と神保町あたりを管轄としている翡翠の番犬所に所属している魔戒騎士なのだが、管轄外であるこの原宿でエレメントの浄化を行っていたのだ。
『仕方あるまい。この管轄の騎士がホラーとの戦いでみんな重傷を負ってしまったのだ。復帰するまでは近くの管轄である俺たちがフォローしなければなるまい』
どうやらこの管轄の魔戒騎士は、ホラーとの戦いによって重傷を負ってしまったとのことで、しばらくの間はエレメントの浄化を行える者はいないのである。
そこで、奏夜にここの管轄でのエレメントの浄化の仕事を番犬所から受けることになった。
奏夜がこの仕事を引き受けたのには理由もあるのだが……。
「…まぁ、確かにそうだな。こういう時こそ助け合わないとな」
奏夜もまた、そのことを理解していたため、受けた仕事は確実にこなそうと考えていた。
その時である。
「〜〜〜♪♪♪」
オレンジのような明るいセミロングの髪の少女が、ヘッドホンを装着した状態で歌っていたのだ。
そのまま通り過ぎてしまったため、奏夜がその様子を見ていたことには気付いていない。
「へぇ、あの子……」
奏夜は通り過ぎていった少女を見て何かを感じ取ったのか、穏やかな表情で笑みを浮かべる。
『おい、奏夜。いったいどうしたんだ?』
「ああ、さっき女の子が通り過ぎていっただろ?それを見てたらなんか懐かしい気持ちになってな」
『なるほどな…髪の色も似てたし、“あいつ“のことでも思い出していたって訳か』
「…ま、そんなところだ」
キルバはとある人物のことを、あえてあいつと呼称していたことに奏夜は苦笑いをしていた。
『さ、とりあえずはやることはやったんだ。行くぞ、奏夜』
「そうだな」
やるべき仕事を片付けた奏夜は、どこかへと移動していった。
それから数日後、原宿にある結ヶ丘女子高等学校にて、スクールアイドルが生まれようとしていた。
スクールアイドルとは、その字の如く、校内にてアイドル活動を行う者たちのことであり、そのスクールアイドルの甲子園ともいえる大会、「ラブライブ」が開催されて以降は爆発的人気を誇っている。
それを証拠付けるように、様々な学校でスクールアイドルが誕生し、まさにスクールアイドルの戦国時代と言っても過言ではない状態になってきているのだ。
そんな中、上海から結ヶ丘高校へ入った唐可可(タン・クゥクゥ)は、スクールアイドルへの憧れからスクールアイドルを始めようとしており、今まさに、同級生で自分に協力してくれている澁谷かのんを勧誘していた。
「…かのんさん!やっぱり…やっぱりやってみませんか?スクールアイドル」
「え?」
かのんは可可からのこの提案に困惑する。
昨日もかのんは可可からスクールアイドルの勧誘を受けたのだが、小学生の頃から舞台の上では歌えずそれを今も引きずっている過去があるためにスクールアイドルは無理だということを可可本人に伝えていたからだ。
「迷惑かと思って、言うかどうか迷っていたのですが…」
可可もそこは百も承知であり、再び勧誘すべきかしまいか迷っていた。
しかし……。
「…可可どうしても……どうしてもかのんさんと一緒にスクールアイドルがしたい!!」
可可は偶然かのんの歌声を聞き、その瞬間にこの人とスクールアイドルがしたいという思いが強くなっており、その強い思いを直接かのんにぶつける。
そんな可可の熱い言葉にかのんは一瞬ハッとするものの、すぐに表情を沈ませて……。
「…だからそれは…昨日も言ったでしょ?私、歌えないから。一緒に歌えないんじゃいるだけ迷惑になっちゃうよ」
すぐに可可に断りを入れる。
スクールアイドルというのは、踊るだけではなく歌も重要になってくる。
舞台の上で歌えないというのは、スクールアイドルとしては致命的だからだ。
だからこそかのんは、可可のサポートなら引き受けようと思っていたものの、自分がスクールアイドルになろうとは考えられなかったのである。
「かのんさんは歌が好きです。歌が好きな人を心から応援してくれます。可可はそんな人とスクールアイドルをしたい!」
それでも可可が諦めきれなかったのは、かのんが純粋に歌うことが好きだということがわかっていたからなのだ。
「お願いします!」
だからこそ、可可の勧誘はやや強引になっているのか、かのんに詰めよる。
「無理だって…」
「そんなことありません!」
「あるよ!!」
かのんは思わず感情を爆発させてしまったからか、可可の手にしていたチラシの山を叩き落としてしまった。
「…ご、ごめん…」
床に落ちたチラシたちを見てかのんはハッと我に返ったのか、申し訳なさそうに目を伏せている。
「がっかりするんだよ…。いざって時に歌えないと。周りのみんなもがっかりさせちゃうし、何より自分にがっかりする!そういうのはもう嫌なの!」
かのんは目に涙を溜めながら、自分の今抱えている気持ちをありのままにぶつけるのであった。
そんなかのんを見て、可可はなんて言葉をかけて良いのか一瞬わからなくなるが…。
「…応援します。かのんさんが歌えるようになるまで諦めないって約束します!だから、試してくれませんか?可可と、もう一度だけ始めてくれませんか?」
このように毅然とした態度で改めてかのんを勧誘する。
かのんはそんな可可の問いに答えることなく、顔を伏せたままヘッドホンを装着してそのまま踵を返して歩き出してしまった。
そんなかのんの背中を見守り、可可は寂しげな表情を浮かべながら床に落ちたチラシたちを拾い上げる。
(……いいの?私の歌を大好きって言ってくれる人がいて、一緒に歌いたいって言ってくれる人がいて…。なのに……)
かのんは心の中で葛藤していた。
可可が自分の歌声が好きで、一緒にスクールアイドルがしたいという強い思いは理解している。
だが、自分は人前では歌えない。
そんな自分はスクールアイドルをするのは無理である。
だからこそこれでいいのだ。
このように、かのんは割り切って自分の本当の気持ちに蓋をしようとしていたのだが……。
「……なぁ、本当にこれでいいのか?」
誰かに声をかけられてハッとしたのか、かのんは顔を上げて声のする方へ振り向いた。
そこにいたのは、茶色のロングコートを着た青年だったのである。
「……あなた、誰なんですか?」
女子校である結ヶ丘に男性がいるということもあったからか、かのんは目を細めて青年のことを警戒していた。
「…たいした者じゃない。俺は通りすがりのスクールアイドルのファンってやつさ」
その青年…奏夜は名前を名乗ることはなく、このようにおどけていた。
「たまたま君の歌声を聞かせてもらったんだがな。あの時、歌っている君はとてもキラキラと輝いていた。その姿はまるで、俺の知ってるとあるスクールアイドルのように……」
奏夜は懐かしそうにしみじみと語りつつ、かのんの歌声を評価する。
「あの、それって……」
そのスクールアイドルとは誰のことを言っているのか?
かのんはその疑問をぶつけようとするが、それを遮るかのように奏夜は再び語り出す。
「…俺が言いたいのはただひとつ。やるだけやってみたらいいんじゃないのか?だって君は……歌が好きなんだろう?」
そんな奏夜の言葉にかのんはハッとしていた。
人前で歌えないのは変えられない事実だ。
だが、自分は歌うことが嫌いではない。
むしろ好きではないか。
その気持ちを思い出したからである。
かのんは奏夜に一礼すると、ヘッドホンを外して踵を返すと、可可のいたところまで駆け出していったのであった。
「……」
奏夜は夢に向かって駆け出そうとしているかのんの背中を見て、かつて自分が関わっていたスクールアイドルのことを思い出していた。
今もなお、伝説として語り継がれているグループ。「μ's」のことを…。
『……おい、奏夜。お前、あの時のことを思い出してるのか?』
「……まぁな。あんな背中を見せられちゃ、どうしても思い出しちゃうだろ、あれは…」
奏夜は当時のことを思い出していたからか、穏やかな表情をしていたのだが、その瞳からはうっすらと涙が滲んでいた。
しかし、その涙をすぐに拭うと……。
「……頑張れよ……。君たちならきっと、新しい伝説ってやつを作ってくれるさ……」
かのんの背中に、当時のμ'sの片鱗を感じていたからか、奏夜はかのんにこのようなエールを送り、その場から姿を消したのであった。
それと同時に、かのんは可可のところへと戻ってきた。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
先ほどのところからここまで全力で駆け出したからか、かのんは息を切らしていた。
「かのんさん…」
可可はかのんが戻ってくるとは思わなかったからか、驚きを隠せずにいた。
(……小さい頃から、ずっと思ってた。私は歌が好き。ずっと歌っていたい。歌っていれば、遠い空をずっと飛んでいける。暗い悩みも、荒んだ気持ちも全部…力に変えて、前向きになれる。いつだって、歌っていたい……)
かのんが心の中でこのようなことを考えていたその時、不思議なことが起こった。
上空から1枚の白い羽根が降りてきたのだが、その羽根はかのんのリュックのポケットに収まったのだ。
そのことにかのんは気付いていないのだが…。
「……やっぱり私……」
かのんはこのように前置きをすると、自分の本当の気持ちを言葉として紡ぐ。
「……歌が好きだ!!」
自分は歌が好き。
その感情を爆発させたかのんは、そのまま歌い出すのであった。
使用曲 ~未来予報ハレルヤ~
この場で歌を歌っていたのだが、かのんはその後どこかへと移動し、可可はそれを追いかける。
その場所とはなんと、人通りの多い街中であった。
かのんは今から歌おうとしていたのだが、いつの間にかギャラリーが出来上がっていた。
しかし、かのんはそのことなど気にすることなく再び歌い始める。
その歌は短いフレーズではあったものの、かのんの透き通った歌声に、ギャラリーから大きな拍手と歓声が起こる。
「…かのんさん…!素晴らしいです…!」
「……もしかして私……歌えた!!?」
かのんは、今まさに、ギャラリーのいる中歌えたことに驚きを隠せずにいた。
それ以上に、歌えたという事実に喜び、気持ちは高揚していたのであった。
そんなかのんを、奏夜は遠くから見守っていた。
「…俺の目には狂いはなさそうだな…」
奏夜はこう呟くと、近くにあったとある店へと入っていった。
その店の名前は……。
「COFFEE HONOKA」
と書かれた店であった……。
「いらっしゃいま……あ!そーくんだ!!」
「よう!今日も繁盛してるな!」
奏夜とこの店の店主は顔見知りなのか、お互い親しげに話をしていた。
「そういえば、今日面白いものを見てな……」
そして、奏夜は店主に今日見かけて、これからスクールアイドルとして動き出すだろうかのんの話を始めるのであった…。
奏夜が近くの喫茶店に入って間もなく、かのんは可可にスクールアイドルを始める旨を伝え、この日は一緒に帰ることにした。
「…そういえば、かのんさん。どうして急にスクールアイドルをやろうと決意してくれたのですか?」
可可としては嬉しい限りなのだが、その前は強く断られていたこともあり、かのんがどのような心境の変化でスクールアイドルをやろうと決意してくれたのか知りたかったのだ。
「……通りすがりのスクールアイドル好きの人に背中を押されてね。私は歌が好きなんだってのを気付かせてくれたの」
「通りすがりの人ですか…」
可可は解せないと感じたからか、首を傾げている。
「あの人、茶色のロングコートなんて珍しい格好してたけど、いったい誰なんだろう…?」
「ちゃ、茶色のロングコートですか!?」
かのんの言った茶色のロングコートというのに心当たりがあるのか、可可は驚きを隠せずにいた。
「?可可ちゃん?」
「前に雑誌で読んだことがあります…!無名だったとあるスクールアイドルをラブライブ制覇まで導いた伝説のマネージャーがいたということを…!その人は茶色のロングコートを良く着ているということも書いてありました!」
「!?え?まさか、あの人、そんなに凄い人だったの!?」
「その人の名前は……」
可可は、スクールアイドルのマネージャーとしては有名人となっていた奏夜の名前を口にしていた。
こうして、新たなるスクールアイドルの物語が幕を開けるのだが、この物語を語るのは、まだずっと先である……。
……終。
番外編なので話的には短めでした。
今回の話で奏夜が登場しましたが、この牙狼ライブの物語が終わってから10年後という設定になっております。
まだこの小説が完結していないので、色々伏せている部分は多いですが。
そして、奏夜は歌えずに悩むかのんを導く役として再登場しました。
牙狼ライブ スーパースターをやるのであれば奏夜は登場するのでしょうか?
まだ、牙狼ライブ サンシャインすら始まっていませんが
今回は番外編というカテゴリーで出しているので、その辺の細かいところは気にせず楽しんでいただけたら幸いです。
ちなみに、次回も番外編を投稿し、その後に新章投稿予定です。
それでは、次回もお楽しみに!