王子の弟という頭の痛いお仕事   作:ドラオ

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厄日

「む、目覚めたようだな。なに、夢を見た? 赤ん坊のときの夢で、どこかのお城みたいだったと?」

 

ベッドの側に立つお父さんが一瞬の変化も見逃さずにぼくを捉える。一方でまどろみの中にいるぼくは瞬時に今までが夢だったのだと悟り、その不思議であまりにも鮮明な内容を口にした。それを聞いたお父さんの訝しげな表情を浮かべて訊き返す様を見ると、ただの夢と思っているようだ。

 

「うん。どこのお城だったんだろう」

 

その言葉を発した時に気づく、明瞭だったはずの夢は、記憶の中で既に曖昧になっていた。

 

「わはは、ねぼけているな。眠気覚ましに外にでもいって風にあたってきたらどうだ」

 

眠りから覚めきっていない体と、ぼやけてしまった夢に対するもやもやを解消するためにも、お父さんの言葉に従うべきだろうと思い、ぼくはゆっくりと立ち上がる。

 

「……そうする」

 

背伸びをしてから外に出てみると、朝日が眩しくぼくの体へ降り注ぐ。夏も近づく温暖な気候とだけあって、爽やかな空気を運んだ風はぼくの火照った体を冷まし、雑念を浄化してくれた。

 

しばらくして部屋へ戻ると、お父さんから来月の来客に備えてしばらくは食堂にも顔を出せなくなる旨を伝えられた。

 

「そういうことだから、お前は兄と仲良く食べていなさい」

 

「はい」

 

ぼくは、朝食のために食堂へ足を運ぶ。と言っても、いつもの、各国の貴族を集めてパーティを行えるほど広い食堂ではなく、召使いや料理人の使用する食事室兼台所、所謂ダイニングキッチンで食べることにした。あのだだっ広い部屋を数人だけで使うのは寂しくて仕方ないからだ。以前はもっと食卓も賑やかだったはずなのだが、お父さんは例のように忙しく、何よりもお母さんと弟が食堂まで降りてこない。お母さんは弟の方をお父さんの跡継ぎにしたいらしく、後継者として上の立場のぼくや兄ちゃんを目の敵にしている。そのため、食事の際も顔を見せることがほとんどない。

 

なぜお母さんがそれほど弟に拘るかと言うと、弟だけが彼女の実の子だからだ。義理の母であるため、影のぼくに対しての振る舞いは仕方がないのかもしれないが少々度が過ぎていると思う。

 

一方みんなの気になっているであろうぼくの本当のお母さんはというと、早くに病気で亡くなっていて、それもぼくが赤ん坊のときだったから顔もおぼえていない。いや、先程の夢に……

 

だめだ、やっぱり霞んでしまって人の顔までは読み取れない。

 

「食べなきゃ……」

 

ぼくは幾ら頭を絞っても答えは出てこないことを知ると、顔を横に何度も振って朝食に手をつけはじめる。

 

 

無言で食事を終えて立ち上がろうとしたら何かが背中でもぞもぞ動いている。なんだろうか。

 

「わっっっっっ」

 

叫んだのはぼくではなく、召使いのトムさんだった。彼は大のカエル嫌いで兄ちゃんにいつもイタズラされてる。あれ、この背中の感触、まさか……

 

「うわぁ……」

 

明らかな両生類の感触を肌に感じながら、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。こういった悪戯は日常茶飯事なのだが、未だに慣れる気がしない。それにしても、いつの間に仕込んだのやら。その技術の高さには呆れるばかりだ。

 

「ちっ、アレンの反応はあんま面白くないんだよなー」

 

「人のいやがるとこを見て喜ぶなんて意地がわるいよ!」

 

このヌルっとした気色の悪さ、味わってみないとわからないだろう。今度トムさんと協力してあの人にやり返してやろうか……

 

『いけませんよ。そんなことを考えては。』

 

ぼくの胸あたりから制止の声が掛かる。指輪だ。理由は知らないが、チェーンを潜らせて首からさげた指輪が勝手に話しかけてくる。この黄色に輝く宝玉の付いた指輪を通して誰かが語りかけてくるのか、あるいは魔物の一種なのかもしれない。

 

「えー、だって」

 

そうでもしないと被害者の気持ちは分からない、そう言おうとした。

 

『仕返しをするなどヘンリー君と程度が変わりませんよ』

 

「……わかったよ」

 

反論はせずに素直に従う。何故だか逆らえる気がしないんだ。

 

『よろしい。それでこそアレンですよ』

 

物心ついた時から首にかかっていたこの指輪。そのとても優しく包み込んでくれる声は、本当の母の温もりを知らないぼくの心を埋めてくれるものだった。同時に色々なことを教えてくれる先生でもあった。読み書きから計算、呪文や……時々マニアックなことまで教わった(スカンガルーの誕生日は袋から顔を出した日らしい)。

 

「んじゃ、トムのバク転も見れたし、オレは部屋に戻るかな」

 

兄ちゃんは頭の後ろに両手を組み、足を大袈裟に振り上げながら部屋を出ていった。

 

ぼくも無言で食器を流しに片付け、洗いも手伝った。こんな所を見られたらお父さんに何て言われるだろうか、などと考えながら帰り際に少し気になったので弟を訪ねた。

 

「あら、アレン。もうご飯は食べたの?」

 

「うん」

 

お義母さんは表面上はとても良く接してくれる。だが、時々垣間見る薄暗い感情は、ぼくに何を訴えているのだろうか。まさか……

 

いや、下らない妄想は止めにして今日は弟のデールと何かして遊ぶことにしよう。

 

ぼくはデールが朝ご飯を食べ終わるのを待ってから、お父さんにお土産として貰ったトランプというカードを持ってきて見せた。

 

「デール、トランプで遊ぼう」

 

「それなーに?」

 

「えっとね、これが……」

 

 

____________

 

 

「楽しかった?」

 

「うん!」

 

「それなら良かった。それじゃ、おばさん、デール、おやすみなさい」

 

「ふふふ、アレンは優しいし顔立ちも良いからきっと将来は、将来は男前……になるわね」

 

あれ、なんか顔怖いんですけどこの人。とりあえず握りこぶし作るのやめてもらってもいいですかね?

 

「アレンお兄ちゃん、今日はたのしかった。おやすみなさい」

 

「あ、うん」

 

デールを楽しませることができて良かった。自分の部屋に行く途中でそんなことを考えていると窓から差し込む光に視線を奪われる。夕焼けはとても綺麗だった。

 

明日も楽しく過ごせるといいなぁ……

 

 

こうして1日が呆気なく終わった。ぼくの6歳の誕生日とともに……

 

 

 

 

 

お気づきでしょうが、ぼくの名はアレンです。先日6歳の誕生日を迎えました。

そして、皆さんはご存知でしょうか、この国の覇権争いを。

 

 

ここ、ラインハット国の次期国王候補は3人。特に期待されているのが国王の長子で、ぼくの兄ちゃんでもあるヘンリーと、現王妃の息子でありぼくの弟のデールだ。どちらが王に相応しいのか、城の者ばかりでなく城下町に住む町民たちもその話題に興味津々だった。国王が元気な内にそのような話をするべきではないとの声もあったが、それは少数派であった。一体、年端も行かぬ子供に何を求めるというのだろうか……

 

 

 

特に祝ってもらえなかった誕生日から1ヶ月ほどたったある日。

 

珍しく食堂でお父さんと会うと、今日は西のサンタローズの村から訪ねてくる人がいると伝えられた。先月から準備していたのはこれのことだったようだ。

 

そう言われたものの、何か準備するべきなのか分からず、結局いつものように勉強や呪文で、指輪の相手をしているだけになってしまった。

 

 

昼になると、お父さんの言ってた通り、戦士の格好をした男の人がぼくと同じくらいの子を連れてやってきた。それに加えて猫らしき何かも連れていた。

 

あの人がパパスさんという人だ。はねた髪が特徴的で、腕や大胸筋はとてもたくましい。顔や防具のきずがどれほどの戦場を駆け抜けてきたのか物語っている。

 

2人と1匹は王座の間へ行ってしまったけど、少しすると男の子が戻ってきた。ヘンリー王子やアレン王子と遊んでもらいなさい、とのこと。

 

アベルと名乗った少年は父と旅をしている最中なのだとか。ぼくは猫のような何かをわしゃわしゃしながら話を聞きだしてみようとする。

 

「プックルが懐くなんて珍しいね」

 

話を振られたことよりも先に目に付いたをいうことは、よほど珍しいことだったのだろう。目を剥いて驚いていた。その表情は少し嬉しそうでもあったのだが、何故だかは分からない。

 

「この子プックルっていう名前なんだね」

 

「うん」

 

そんな他愛もない会話をしながら、ヘンリー兄ちゃんの部屋の前まで歩いてきた。おすすめは決して出来なかったのだけれど、兄ちゃんとも遊んでもらえといわれていたのを彼は守るつもりらしい。素直ないい子なんだなぁ……

 

「だれだお前は? あっ、わかったぞ! 親父に呼ばれて城に来たパパスとかいうヤツの息子だろう!」

 

初対面にも関わらずあいも変わらず偉そうな態度で兄ちゃんは客をもてなす。その姿を見て、ぼくはため息をひとつ漏らしてしまった。

 

「うん、アベルっていうんだ」

 

「オレはこの国の王子、ヘンリー。王さまの次にえらいんだ。オレの子分にしてやろうか?」

 

「えっ?」

 

アベルは突然の勧誘に驚いたようだったが、兄ちゃんにとってそれは当たり前の言葉で、挨拶代わりだった。

 

「気にしないで、いつもこんな調子だから」

 

ぼくがアベルに説明をしていると、兄ちゃんが急にアベルを指差して笑った。

 

「わははははっ。子分にすると思ったか? だれがお前みたいな弱そうなヤツを子分にするか! 帰れ帰れ!」

 

「え…」

 

いくらなんでも強引な兄ちゃんにぼくも少し戸惑ってしまう。もしかすると、同年代の来訪を案外喜んでいるのかもしれない。

 

少し歪んではいるが、これも良いものかなと、微笑みを送り部屋から出ようとアベルに声をかける。

 

「……いこ、アベル」

 

「う、うん」

 

部屋を出るとアベルが遠慮がちに尋ねてきた。

 

「ヘンリー王子ってああいう人なの? 王子っていうからにはもっと上品なのかと…」

 

「うっ……その言葉、けっこう僕にもダメージが来るんだけど」

 

「あっ、そういえばアレンも王子だったね」

 

2HIT!!

 

アレンは 気絶しかけた!

 

 

ぼくは城の案内をしながら、彼の旅の話を聞いた。どれも興味をそそるものばかりで、特に船旅ってどんなのかとっても気になる。ほら、ぼくって生まれてからずっと城の中で過ごしているじゃないですか。え、知らない?

 

 

一通り見てまわり、兄ちゃんの部屋前まで戻ってくると、パパスさんが困った様子で立っていた。

 

「どうしたのお父さん?」

 

「ヘンリー王子のお守りを頼まれたのだが、参ったことに嫌われてしまったらしい」

 

迷惑をかけてしまったことを兄ちゃんに代わってお詫びしなければ、と自然に思わされた。

 

「すみません……うちの兄が」

 

「歳の割にはしっかりした子だ。あなたがアレン王子ですか」

 

そういって目線をぼくと同じ高さにして頭をポンポンとなでてくれたのだけど、パパスさんはぼくを見つめたまま動きが止まってしまった。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「む、いや……なんでもありません」

 

虫でも付いているのだろうか。それなら言ってくれればいいのに。

 

「お父さん、ぼくがヘンリー王子のとこに行ってくるよ」

 

「おお、そうか! お前なら子供どうし友達になれるかも知れん。父さんはここで王子が出歩かないよう見張ってるから頑張ってみてくれ。頼んだぞ!」

 

ぼくは一度追い払われていることを思い出して口にする。

 

「さっきはだめだったけどね」ボソ

 

「しーーっ!」

 

そして再び兄ちゃんに緊張気味にアタックをかけるアベルだったが、兄ちゃんもアベルを実は待っていただろうし、心配はいらないと思う。

 

「なんだ、やっぱり子分になりたくて戻ってきたんだな? なら、奥の部屋の宝箱に子分のしるしがあるからそれを取ってこい! そうしたら、おまえを子分と認めるぞ」

 

今度はアベルも強引な発言に動揺せず、無言で奥の部屋へ行き、ぼくもそのあとに続く。

 

 

アベルは 宝箱を 開けた!

しかし 宝箱は からっぽだった……。

 

「……なにも入ってないけど?」

 

「あー、このパターンか……」

 

兄ちゃんの悪戯のレパートリーは数知れず、これもその内の1つだ。日々更なる悪戯の高みへと登るべく実験を進めているらしい。研究熱心なのは尊敬に値するが、その対象が悪戯なのはちょっと……

 

兄ちゃんの間違った方向への熱意に少し引きながら部屋に戻ると、予想していた通り、兄ちゃんは部屋から姿を消していた。もちろん、ただ部屋を出ただけではない。その証拠に、入り口に立っているパパスさんに聞けば通っていないことが分かるだろう。さて、兄ちゃんがどこに消えたかだが、先程座っていた椅子の下に隠し階だ……ん?

 

「あっ、階段」

 

えっ、そんなに早く見つけたらこのゲームの醍醐味が、ましてや30分かかったぼくのプライドが……

 

 

 

 

……で、そんなことを考えながら何故ぼくは連れ去られているのだろうか。

 

太い腕にホールドされて叫ぶ間もなく賊に兄ちゃんと何処かへ運ばれてしまう。

 

アレンと ヘンリーは 誘拐された!

 

______________

 

 

ガシャン!

金属音が部屋に響く、その音でぼくは目を覚ました。

 

いや違う、ここは部屋じゃない。遺跡……?

そうか、城の東には確か遺跡があったはずだ。 そしてぼくの目の前には鉄格子。どうやらここは牢屋のようだ。

 

牢屋の前にはたった今南京錠を施錠した盗賊が2人、何やら立ち話をしているようだった。

 

「よし、これで仕事は終わりだ。あとはさっきの部屋を借りて飲むぞ。しばらくは食うに困らねぇな」

 

こういった人物によくある、顔に切り傷をその男も身につけながら懐にあるらしい通貨をバンッと叩いて、にやけ顔をつくる。

 

「しっかし、王妃もひどいことをさせますね。こんな子供を殺せなんて」

 

その男に対して痩せ型の男が下手に出る所を見ると、傷顔の男は親分らしかった。

 

「実の子を国王にするためらしいな。まあ、光の教団とやらが買い取ってくれるから、殺さずに済んだ。流石に子供を殺すなんて良心が痛むからな」

 

盗賊に良心云々があるのか疑問だが、そんなことよりもお義母さんがぼく達を殺そうとしていた? そこまで憎んでいたのか……

 

「まったくですね……」

 

男達は話をしながら酒を飲みに行ったようで、話し声は段々聞こえなくなっていった。

 

 

『ひかりのきょうだん』。何のことだろう。気になることが多すぎて何を優先すべきなのかも分からない。取り敢えずここから出ることが先決か?

 

そばにはまだ気絶したままの兄ちゃんもいた。この緊急事態にも関わらず、すやすやと寝ている。なんでそんなに気持ち良さげに眠っているんだよ、とぼくは横たわっている悪戯小僧を揺り起こす。

 

「ここからはやく抜け出そう」

 

「でも、どうやるんだよ」

 

その言葉を聞いて少し考える。もう既に考えは浮かんでいたが、果たして上手くいくかどうか。

 

「メラ!」

 

ぼくの手から放たれた火の玉は鉄格子を溶かす。

 

「おお、いいぞ! これを繰り返せば…」

 

「「出れる!」」

 

______________

 

 

それから何度もメラで鉄格子を溶かしているが、中型犬なら通れそうなぐらいまでは溶かした。

 

「メラっ!……」

 

突然青ざめたぼくは、体を硬直させながら兄ちゃんの方を振り向く。

 

「MP、切れちゃった、みたい」

 

すると兄ちゃんは呆れたといった様子で足を踏み出した。

 

「だからお前は昔からもっと体を使えと言っているだろ!」

 

グイイィ…

 

熱されて柔らかくなった鉄格子は兄ちゃんが足で押すことによって曲げられていった。

 

てつごうしを やっつけた!

アレンは レベルが 上がった!

 

「よし、逃げよう!」




王妃(後の太后)の口調を多少いじっておりますが本編に影響はありませんのでご安心下さい。
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