戦国BASARAの佐助を、AOGの至高の一人として突っ込んでみた! 作:水城大地
とは言っても、殆ど時間は進んでいないと言う……
宝物殿内で突如発生した振動と、パンドラズ・アクターに声を掛けられると言う状況に、三人とも心底驚いていた。
直前まで、三人でパンドラズ・アクターの設定を色々と触っていただけに、この状況は心臓に悪かったのだ。
と言うより、本来なら自分の意志で動く事が無い筈のNPCであるパンドラズ・アクターから声を掛けられるなんて、誰も想像していなかったと言うのが本当だろう。
そんな三人の心境を理解しているのかいないのか、首を傾げながら問い掛けた姿で返答を待つパンドラズ・アクターに対し、最初に動揺から立ち直って返事を返す事が出来たのは、この三人の中で色々な意味で精神面が強い佐助だった。
「あー……うん、それが全く判らなくてな。
俺たちも、今から状況を確認しようとしていた所なんだよ。
パンドラは、何か状況を掴んでいるのか?」
スッとモモンガたちより一歩前に出て、パンドラズ・アクターに対峙しながら問い掛ければ、とても困ったような素振りで首を振る。
まぁ、今まで自分の意志で言葉を発する事が無かったNPCが、この状況を把握している方が佐助的には怖かったので、否定してくれて助かったと思っていた。
とは言え、佐助がパンドラズ・アクターの相手をしつつ本気で状況が掴めないと思っている間に、後ろの二人はGMコールやらログアウト関連やら調べていたらしい。
「……駄目ですね、GMコールをしようとしても、そのシステムコマンドが無くなっています。」
「俺の方も、ログアウトどころかシステムコマンドすら出ませんからね。
と言うか、既に終了時間が過ぎてるんですけど……」
ウルベルトとモモンガが確認した言葉を聞いて、佐助も手早く自分の状況を確認するが、彼らと状況は変わらないようだった。
本当に、どうなっているのか状況が把握出来なくて、困惑したように三人で顔を見合わせる。
状況を把握する為にも、王座の間に移動した方がいいだろう。
そう思い、佐助が視線をモモンガとウルベルトに向けると、彼らも同じ事を考えていたらしい。
一先ず、パンドラズ・アクターをこの場に残して王座の間の前に移動しようと、【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】で転移しようとして……出来なかった。
この宝物殿の奥の広間への転移は出来なくても、ここからの転移は出来る設定になっていた筈なのに、その力を発揮しない。
その状況に、三人は思わず動揺していた。
「ど、どうしましょう!
指輪で転移出来ないなんて……俺たち、宝物殿の中と言うか、サーバー内に閉じ込められてしまったんでしょうか?」
泡を食ったように、骸骨の眼孔の奥で赤い眼の光を点滅させるモモンガ。
「もしかしたら……思い出したかのように終了間際の駆け込みログインとか、色々サーバーに過負荷が掛かって運営がバグを出したのかもしれませんよ?
最終日だからって事で、運営の対応が甘かったとか。」
いやいや、流石にそれはないだろうと首を振るウルベルト。
彼としては、「運営が悪い」と言う事で済ませたいと思っているのかもしれない。
それに待ったをかけたのは、佐助だった。
「あー……それはないだろうね、ウルベルトの旦那。
今回、【ユグドラシル】が最終日って事で、割と運営側が警戒してたっていう話を、俺様は職場で小耳に挟んでるんだわ。
結構過疎ってたんだけど、それでも【ユグドラシル】は日本最大のVRMMOだったからさ。
この規模のサーバーにテロを仕掛けられたら、シャレにならないって事で色々と俺様が所属しているのとは別の部署に、協力依頼が来てたみたいだし。
そもそも、それだとパンドラが自分の意志で話している状況がおかしいでしょ。」
ウルベルトの言葉を否定した理由を述べれば、途端にウルベルトが渋い顔になる。
かつて、たっちと対した時のような険悪な雰囲気こそ流れないが、色々と今回ここに来るまでの経緯から思う所があるのだろうと言う事は、佐助本人も理解していた。
二人の間に入る様に、口を開いたのはモモンガである。
「だとしたら……一体、何がどうなっているんでしょうね。
【ユグドラシル2】のサービスが始まって、そのままデータが移行したと考えるには、流石に色々と無理があり過ぎますし。
……なぁ、パンドラズ・アクター。
NPCのお前の視点から、何か気付いた事とかないのか?」
つい、他の意見も聞きたくなったモモンガが、側にいたパンドラズ・アクターに対して問い掛ける。
普通なら、こんな事を質問しても自分で思考する事が出来ない筈のNPCであるパンドラズ・アクターに、まともに返事が出来る筈が無い。
しかし……既に自分の意志を持って行動をしているパンドラズ・アクターの反応は、彼らの予想を見事に裏切った。
そう、それまで口を開く事無く静かに三人のやり取りを聞いていた彼は、少し考える素振りをみせたかと思うと、一つだけ思い当たった事があるかのように口を開いたのである。
「……正直申し上げますと、モモンガ様たちが何をお話されているのか、私には理解の範疇に及ばない点が多々ございます。
全て【リアル】が関わる事と思います故、NPCの私では仕方が無い事とは思いますが……
ですが……一つだけ、先程から気になっている事がございます。
宝物殿は、どことも繋がる事が無い独立した空間として、ナザリックの中にありながら隔たれた場所として存在しております。
故に、アイテムか何かを使用しない限り、この場で風を感じる事はない筈なのですが……先程から、どこからか空気の流れが発生しているように感じるのです。
私の勘違いでなければ、ですが。」
パンドラズ・アクターの言葉に、真っ先に反応したのは佐助だった。
指先を舐めると、スッと眼前に翳してパンドラズ・アクターの言葉の裏付けをとる。
佐助の真剣な表情に、ウルベルトもモモンガもこの場は静かに待った。
この、何がどうなっているのか全く判らない状況下で、僅かなりとも情報を集める邪魔をするのがどれだけ危険な事なのか、理解出来ないほど馬鹿ではない。
「……確かに、宝物殿の中に風が発生しているね。
問題は、その風が吹いてくる方向が一ヶ所じゃないって事かな。
更に付け加えるなら、風に混じって土や草木の匂いもしっかりあった。
この宝物殿は、構造上から考えても自然に接する場所じゃないのに、だ。
……これはどう考えても、何か異常事態……そうだな、まるで別の世界に飛ばされたとか、そんな普通ではあり得ないが起きたと判断するべきだと、俺様は思うんだけど……情報が少な過ぎてそれ以上は何とも言えないかな。」
暫く間を置いて口を開いた佐助に、ウルベルトもモモンガも唖然とした顔をした。
まさか、この宝物殿に風が……それも自然の匂いが混じった風が吹いている状態など、どう考えてもあり得ない異常事態と言っていいだろう。
この状況では、確かに情報が少なすぎるという佐助の言葉は正しく、誰もが困惑した様子を見せる。
どうしたものかと、本気で悩み始めた三人に対して、思わぬ提案をしてきたのがパンドラズ・アクターだった。
「……あの……もし宜しければ、一旦あちらの席にお掛けになられてはいかがでしょうか。
現在の状況に関する情報を、御方々がお互いに正しく共有する為にも、一旦冷静になる必要がございます。
ですので、今からあちらのソファにお掛けになられて、何かにメモを取りながら話し合われるべきだと、具申させていただきます。
現状で、無暗にこの場を移動するのは危険かと思われますから、あそこソファセットを利用するのが、一番でしょう。
何より……そのように至高の御方々を立たせたままにしておくのは、宝物殿の領域守護者としての矜持に関わりますので。
もし、敵などの襲撃をお考えでしたら、この広間に通じる通路全てに召喚モンスターを壁役として一時的に配置してみれば宜しいかと思われます。
もちろん、我々をこのような状況に陥らせた相手に、召喚モンスターが可能とは考えておりません。
ですが……ほんの僅か一瞬、御方々が敵に対して体制を整えると程度の時間は稼げると、私はそう愚考いたします。
もし、それで宜しいとの事でしたら、私は皆様方にお出しするお茶の準備に入らせていただきたく思いますが、いかがでしょうか?」
首を傾げながらの問いに、思わず三人は顔を見合わせた。
確かに、こうして立ったままで話しているよりは、状況についてメモを取りながら一つ一つ丁寧に確認していく方が、余程建設的だろう。
お茶を飲むのだって、色々なステータス向上効果があるものを選んで出して貰えば、実際に効果が現在もあるのか確認出来て一石二鳥だった。
モンスター召喚にしても、実際に現状で召喚するとどんな感じになるのか、その状況を確認する為の実験と確認になるので、試してみるのは悪くない案だろう。
成程、パンドラズ・アクターから提案された内容は、どれも現状では最良の物だった。
「……そうだな、今は慌てるよりも冷静になるべきか……」
真っ先にそう呟いたのは、モモンガだった。
不思議と、パンドラズ・アクターからの提案に対して抵抗を覚えなかったからだ。
と言うより、何故かモモンガは目の前にいるパンドラズ・アクターに対して、自分の意志で動く事に驚きはしても、自分に対してパンドラズ・アクターが敵対する事はないと、漠然と感じていた。
もしかしたら、パンドラズ・アクターは自分が作ったNPCであり、先程まで設定を弄っていたからこそ安心だと、そう感じるのかもしれないのだが。
だから、三人の中でギルド長としてこの場を仕切る意味でも、冷静さを維持する必要を感じて、自分から二人に対しての確認の言葉を口にしたのである。
「一先ず、この場に居るもの全員でお互いに持っている情報を含めて状況を把握する必要はあるでしょう。
まぁ、一緒にこの状況に陥っている訳ですし、それ程所持している情報に差はないでしょうが……
パンドラの言う通り、あちらのソファに座って、自分たちの現状をメモに取りながら確認していきましょう。
ウルベルトさんも、北斗さんも宜しいですね?」
モモンガの確認を取る言葉に、ウルベルトも佐助も同意を示す。
何も把握できていない現状では、確かに冷静になってお互いの状況を把握していく必要があるのは間違いが無かったからだ。
全員揃ってソファに移動すると、パンドラズ・アクターがスッと頭を下げる。
「それでは、お茶の用意をしてまいります。
ついでに、私自身の自室の状況も確認してまいりますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか。」
それだけ告げて、その場から自室へ向かおうとしたパンドラズ・アクターの首根っこを捕まえたのは、三人の中で一番素早い佐助である。
まだ、この場所だって本当に安全なのか確認が取れていない状況下で、単独行動をさせるなんて危険な真似を、例えNPCだとしてもさせる訳にはいかない。
正直言って、この四人だけと言う戦力が心許ない状況下で、それを更に減らすなんて選択肢は、佐助の中に存在していなかった。
「ちょーっと、待った。
流石に、この状況下では自室であっても安全かどうか解らないでしょ?
それなのに、なんであっさりと単独行動をしようとするのかな、パンドラは。
もちろん、俺様達の為にお茶を用意して暮れようって思ってくれたのは嬉しいよ?
でもな、現状では戦力ダウンを招きかねない行動は流石に認められないんだわ。
それでなくても、パンドラ以外は魔法詠唱者が二人に忍者が一人なんて言うバランスの悪さなんだ。
ここで、パンドラに退場されるような状況になると、本気で困る訳よ。
それ位は、パンドラだって判るよな?」
なぜ、急に自分が止められたのか、佐助から言われるまで思い当たっていなかったらしい。
この宝物殿内での事なら、ある程度対処可能だという自負と、自室は特に特殊なエリアであるが故に、危険が無いと思い込んでいた事に気付いたパンドラズ・アクターが、申し訳なさそうに首を竦める。
むしろ、パンドラズ・アクターの中では、危険な場所への露払いの役目は自分が請け負うべきだと、そう考えている部分も存在したが故に、自分が単身で動く事に躊躇いが無かったともいうのだが。
とにかく、この判断が不味かった事だけはちゃんと理解出来たらしい。
「……申し訳ございません。
ですが、他の場所に赴くよりは危険は少ないと思われます。
それでもご心配だとおっしゃるなら、この場は召喚したモンスターに一度守りを任せて、皆様ご一緒に私の部屋の状況を確認しに赴かれませんか?
あそこは、モモンガ様や他の方々から頂いたアイテムが多数保管されておりますし、確認するべき点は多々あるかと思われます。」
パンドラズ・アクターとしては、ある程度安全だと言う前提で動いていたらしいが、流石に異世界に丸ごと飛ばされた空間が安全かどうかは、佐助には微妙だと思えた。
もちろん、パンドラズ・アクターの主張もある程度正しいとは思う。
そうでなければ、霊廟の奥にある世界級アイテムが消えていたり、そこに至る前の霊廟のアヴァラータがどういう状況になっているのか判らないからだ。
とは言え、流石に彼一人での単独行動を許すつもりはない。
「うーん……今のパンドラの提案をどう思う?大将とウルベルトの旦那は。
俺様としては、パンドラの提案は悪くないと思う。
どっちにしても、手持ちのアイテムを増やしておいた方が安全なのは間違いないし、まともな補給が出来そうなのは、この場所だけって感じだからね。」
迷ったら、みんなで意見を出し合うのは当然の話。
今までだって、そうやってギルドを運営して来たんだから、パンドラズ・アクターの提案を全員でどうするか考えるべきだと、それと無く促していく。
まだ、モモンガとウルベルトの二人は、どことなくこの状況にどうしていいのか困惑している部分が見えるからこそ、一応まだ冷静な佐助が主導権を握っているだけだ。
もう少しして、モモンガが落ち着いて物を考えられるような状況になったら、ギルド長である彼がこの場を仕切るべきだろう。
そんな事を考えつつ、佐助はモモンガとウルベルトに対して返事を促すような視線を向けた。
「そうですね……この際ですし、先ずはパンドラの自室にあるアイテムの方から確認をしていきましょうか。
確かに、現在ナザリックと宝物殿が上手く繋がっていない状況ですし、この状況下ではここで集められるアイテムがどれだけあるのか、それの確認作業は確実に必要でしょう。
それに、あそこは内側からロックすると外から遮断され、超位魔法も一撃は確実に耐える強度を持たせてあります。
中にはキッチン等もありますし、籠城だって出来る環境だと思いますよ。
ただ……その前に、霊廟の方に入って世界級アイテムやらギルドの皆さんから預かっている装備やら、回収してお置いた方がいいと思います。
パンドラの自室は、ロックを解除しなければ中に入るのは難しいですが、霊廟から先は条件さえ合えばさっくり入り込める環境ですし。」
モモンガが、パンドラズ・アクターの自室よりも世界級アイテムの回収を優先するべきだと主張すれば、それに同意するように頷くウルベルト。
まぁ、彼の場合は自分の最強装備が霊廟の中にあるのだから、そちらの回収は最優先事項だと思っているのだろう。
異常事態に備えて、自分の装備をきっちり揃えておくのは、最優先課題の一つだからだ。
「俺も、モモンガさんの意見に賛成ですね。
今の時点では、全く状況が把握出来ていません。
その中で、世界級アイテムや俺たちの装備を完全な状態にして備えるのは、最優先事項です。
もし、パンドラの自室を確認しに行っている間に侵入者が来て、俺たちが戻って来るまでに奪われる事態に発展したら、泣くに泣けませんし。
かと言って、戦力分断は下策だと言う北斗さんの意見も、現状では正しい。
現在、戦士職に属するのは北斗さんしかいない上に、その北斗さんだって壁役に適したビルドなのかと言えば、違いますからね。
出来るだけ、別行動を取るのは避けるべきでしょう。
ですので、先ず霊廟を経由して世界級アイテムを回収し、その上でパンドラの自室へと向かうのが一番いいルートでしょうね。
多分、その方が霊廟の中にある世界級アイテムが無事かどうか、気を揉みながら他のアイテムの確認をするより、余程作業効率もいいでしょう。」
そう、モモンガの意見を支持しつつ自分がやりたい事を口にするウルベルト。
このウルベルトの言葉は、確かに佐助たちが抱えている問題を正確に指摘していた。
この四人の中に、完全な戦士職で壁役が出来る者はいない。
一応、パンドラズ・アクターがギルドメンバーに姿を変えればその能力を発揮出来るが、本来の八割しか能力が使えない為に、ワールドエネミークラスが出てきたら、とても万全とは言い難かった。
やはり、この状況下で動くなら、全員揃っての方が間違いないだろう。
ある程度持ち直したモモンガが、今の意見を纏め終えたらしい。
最終確認の様に、全員の顔を見ながらその意見を口にした。
「では……皆さんの意見を纏めると、全員で行動するのは確定でいいでしょう。
ただし、最初に確認するのは、パンドラの自室ではなく奥の霊廟から。
世界級アイテムや仲間の装備を回収しつつ状況を確認、その後でパンドラの自室へ向かって中の状況を確認し、安全を確保すると言う事でいいでしょうか?」
モモンガの問い掛けに、誰も反対する事なく頷いて同意する。
ここまでは、誰も文句はないだろう。
だが、一つだけ霊廟に入るのには問題があった。
モモンガも、その事に気付いているのだろう。
困ったように、口元に手を当てて思案しつつ口を開く。
「さて……全員で霊廟に向かう事で決まった訳ですが、ここで一つ問題があります。
霊廟の中に設置した【アヴァターラ】を、どうやって回避するのか、と言う点です。
今までは、パンドラに【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】を預ける事で回避していましたが、今回は全員で動くので、それも出来ません。
装備していなくても、所持しているだけで襲ってくる以上、アイテムボックスに収納すると言う手も使えません。
召喚したモンスターに預けると言う手もありますが……【プレイヤー】よりも強いモンスターは召喚出来ませんし、余り良い手とは思えません。
そんな訳で、どうしたらいいと思いますか?」
モモンガの言葉に、ウルベルトもパンドラズ・アクターも、どうしたものかと悩む素振りを見せる。
当然だろう。
【全員で行動する】と決めたばかりなのに、この先の【霊廟】に向かう為には誰かが残らざるを得ない状況だと確認できてしまったのだ。
それを回避するのに、何かいい手段はないかと尋ねられて、迷わない筈がない。
短時間なら、大量に呼び出した召喚モンスターでも耐えられるのではないかと思わなくもないが、それよりも確実な手がある佐助が、困ったような顔をしながら手を上げた。
「あー……うん。
俺様なら、その問題も何とか解消出来ると思う。
その前に一つ、みんなに話さなきゃいけない事があるんだけど……聞いて貰えるかな?」
窺うように声を掛ければ、普段とは違う佐助の様子に思う所があったのだろう。
全員が了承し、佐助に話すように促してくる。
彼らから促されて、漸く安心したかのように佐助はゆっくりと口を開いた。
「まず、ここから話す話は絶対に嘘じゃないと言う事を、大前提に聞いて欲しい。
そうじゃないと、話が先に勧められないからね。
あのさ……俺様、実は前世の記憶があるんだ。
約六百年前の、戦国時代に生きた忍だった記憶が、ね。
しかも、俺様には前世の記憶と共に、その頃に持ってた能力とかも継承されてるんだ。
俺様が持つ能力の名は、【婆沙羅】って言う。
この婆沙羅にも、それぞれ攻撃魔法の様に属性があって、俺様が使える属性は【闇】なんだ。
それに忍の技を合わせると……こんな事も出来たりするんだ。」
クルリと、佐助がその場で側転をした瞬間、側転する前位に居た場所と側転して移動した先に全く同じ姿をした佐助が立っていた。
魔法もスキルも、発動させた形跡が無い事に驚く面々に対して、佐助は小さく首を竦める。
「これが、影分身。
俺様の意識を分けたような存在だから、ある程度まで自分で判断して行動する事も出来るし、それこそ影武者的な真似も出来る。
だから、こいつに指輪を付けさせて中に霊廟に向かわせたら、【アヴァターラ】が生きているかどうか確認出来るんじゃないかな。
あくまでも、【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの所持者を襲う】訳だし、影分身でも同じ効果があると思うんだ。
それで、こいつがもし襲われるようなら、もう一体出してそいつに指輪を預ければいいし、襲われないならこのまま移動すれば大丈夫でしょ。
あ、襲われた時の指輪の回収は、心配しなくてもこうして影潜りで指輪をこっちに引き寄せるから、そんなに心配しなくても問題ないからね。」
へらへらと、何でもない事のように笑って言う佐助に、モモンガもウルベルトも驚きで声が出ない。
特にウルベルトは、【リアル】の自分がどうやって現場から佐助の自宅に運ばれたのか理解して、顔色を無くしていた。
パンドラズ・アクターはと言えば、佐助の能力を目の当たりにして、キラキラと目を輝かせてどうやってもう一人の自分を構築しているのか、興味津々と言った様子で見ている。
ある意味、ちょっとした
「……では、北斗さんの、その……【婆沙羅】でしたか?
とにかく、北斗さんが持ってる能力を使えば、誰もが危険を冒さずに簡単に確認出来ると言う事で、間違いないでしょうか?」
佐助が見せた、普通では信じられないような状況を前に、冷静な問いかけをしてくるモモンガ。
やはり、本人は雑用を主としたギルド長と言っていても、様々なギルメンの問題を解決して来た経験から、混乱状態から立ち直るのは早いのかもしれない。
とは言え、先程から色々と信じられない状況が続き過ぎて、かえって冷静になっているのかもしれないが。
どちらにしても、このモモンガの順応力は他人よりもかなり高いと、佐助は考えていた。
「……流石は、モモンガの大将。
一先ず、【婆沙羅】で俺様が作った影分身に関しては、その認識で間違いないよ
ホント……何かと濃いギルメンを相手にしてただけあって、普通はもっと驚いた状態のままなのに、精神的な立ち直りとかも早いよな、うん。」
だからこそ、ついそんな声を漏らしてしまったのだが、それに対してモモンガから帰って来た答えは、佐助が思っていたのとは少し違っていた。
「それなんですけど……どうも、種族スキルの中にあった【精神鎮静化】が掛かっているみたいで、精神が高揚し過ぎると、一気に沈静化して冷静になるみたいなんです。
だから……北斗さんの事も含めて、この状況下で精神的に色々と振り切れそうになる度に、一気に鎮静化が掛かっているんですよ。
これに関しては、さっき情報交換をしましょうって言った時に話をしようと思っていただけで、黙っていた訳じゃないんですけど……ウルベルトさんも北斗さんも、異形種として何らかの種族スキルとかの影響が出ていないか、確認した方がいいんじゃないですか?」
自分の精神鎮静化の事を告げると共に、ウルベルト達にも大丈夫か確認した方がいいと提案するモモンガ。
確かに、異常事態が発生してから自分の身に何が起きているのか、きちんと確認する必要はあるだろう。
だが、それはもう少し安全が確保出来てからでも、それ程問題はない筈だ。
この異常事態……もしかしたら、別世界に宝物殿の区間だけ飛ばされたのかもしれないと言う、恐ろしい事態を想定するなら、余計に全員の装備を万全にするべきだと、佐助は考える。
そして、その意見はウルベルトも同じだったのだろう。
スッとモモンガから佐助、そしてパンドラズ・アクターへと流れるように視線を向けると、軽く手を上げた。
「モモンガさんの話は、一考に値します。
ですが、それなら余計に何が起こってもいい様に、俺の装備と世界級アイテムだけは確実に確保しておきたい。
いざと言う時に、身を守れる手段はいくつあっても足りませんからね。
そう言う意味でも、北斗さんのその影分身でしたっけ、それに先に斥候役を任せると言う事に、俺も賛成です。
これで、三人とも意見が合いましたし、モモンガさんが言った事も早めに検証した方が良さそうですから、今すぐ動いて貰ってもいいですか、北斗さん。
パンドラも、この場は北斗さんに任せるって事で構わないな?」
最後に自分の意見を口にしたウルベルトが、そのまま状況を纏めつつパンドラズ・アクターにも確認を取る。
それに対し、僕の自分が役に立てないこの状況を気にして視線を動かしていたパンドラズ・アクターは、それでもこの決定が一番彼らの考えに沿っていると判断したのか、頷いて同意を示した。
多分、自分の役割は別のところにあると、そう思い直したのだろう。
全員の同意を得られた事で、佐助はホッとしたように胸を撫で下ろしながら、ふとある事を彼らに言い忘れたと思い出す。
「それじゃ、俺様の影に指輪を渡して霊廟内に行って貰うわ。
あ、そうそう。
俺様が持っていた能力の事とかも説明したし、まだここが異世界かどうかはっきり分かった訳じゃないけどさ。
それでも、これからは俺様の事は猿飛佐助……そう、佐助って呼んで欲しいかな。
どうも、【婆沙羅】を普通に皆の前で使い出したら、北斗より佐助で呼ばれた方がしっくりくると思うんだよ。
猿飛佐助は、前世の名前であって【リアル】の名前じゃないから、普通に使っても問題ないからさ。」
影分身に指輪を持たせ、霊廟に向かったのを確認しながらにっこりと笑って佐助がそう言えば、モモンガもウルベルトも呆れたような顔をしていた。
彼らとしては、それなら最初から【猿飛佐助】で登録すれば良かっただろうに、と言いたいのだろう。
しかし、佐助がそれをしなかった理由はちゃんとあった。
「あー……言っていくけど、俺様の名前は歴史にこそ残っていないけど、戦国時代の忍を描いた小説の中には割と出てくる名前なんだぜ?
ただでさえ、敵味方問わずに【忍ばない忍】だのなんだの言われた俺様がそんな名前使ってたら、弐式の旦那と揉める火種待ったなしでしょうが!
そういう知識は、弐式の旦那以外でも持っていそうなギルメンは結構いたし。
何より、【猿飛佐助】の名前はネットで検索すれば、普通にwikiが見つかる位にはあったからね!
多分、【ユグドラシル】のプレイヤーにも、歴史小説に詳しい奴はそれなりに居たと思うよ?
そう言う奴らに、変に絡まれるのも面倒だったから、登録する時の名前は【北斗】にしたんですぅ。」
初心者時代、最初の無双のお陰でPKに散々付き纏われた経験が余程嫌だったのか、本気で嫌そうに顔を顰めている佐助に対して、モモンガたちは苦笑するしかない。
確かに、過去でもそれなりに有名(?)な名前なら、最初の段階で使用を避けるのは当然だった。
とは言え、最終的に【ユグドラシル】では【悪の華】と言われた【アインズ・ウール・ゴウン】の一員だった訳だし、それ程問題はなかった気もするが……それは言わない方が佐助の為なのだろう。
そんな事を考えつつ、先に問い掛けたのはモモンガだった。
「それでは、これから北斗さんの事は佐助さんとお呼びすればいいと言う事ですね?
新しい呼び名に慣れるまで、間違えるかもしれませんが……それ位は勘弁してくださいね。」
名前を変える事は問題ないが、呼び間違える可能性はあるなと苦笑しているモモンガ。
その横で、頷いたのはウルベルトだ。
「確かに、慣れるまでは呼び間違える事は、普通にありそうだな。
呼び易い名ではあるが、今まで散々北斗さんと言ってましたからね。
まぁ……暫くは四人だけで行動する事になりそうですし、その間に慣れればいいでしょう。」
今までの付き合いの長さを考えれば、それも仕方がない話ではあると言うウルベルトの主張に、佐助も反論するつもりはない。
こればかりは、どうしようもない事実だからだ。
一人、ぶつぶつと口の中で繰り返していたパンドラズ・アクターは、どこか満足そうな顔をすると佐助を見てにっこりと笑った。
「……ご尊名、拝命いたしました。
これから先は、私も北斗様の事を佐助様とお呼びさせていただきます。
それにしても……佐助様の力の一旦を拝見し、それに纏わるお話を聞かせていただけるなど……本当に、僕冥利に尽きますね!!」
うきうきと、どこか嬉しそうな様子を見せるパンドラズ・アクターの仰々しい物言いに、こればかりは仕方がないかと、三人は苦笑したのだった。
前書きにも書きましたが、ネタがあったのでつい……
今回の話で、佐助さんの婆沙羅に関して話しました。
ついでに、名前も変更。