「雪ノ下、違うんだ。そのこれは……」
比企谷君が焦った顔で私に弁解しようとしている。
でも比企谷君。さっきあなたは一色さんの事が好きって言ってた。そして一色さんも比企谷君の事が好きって言ってた。
つまり二人は両想い……。
「先輩。どうやらこの場じゃ返事は言えないと思うので返事が決まったら言いに来てください。待ってますから」
一色さんはそう言うと比企谷君に向かって微笑んでその場から立ち去って行き、私と比企谷君だけが残された。
こういう時どう言っていいかわからない。いつも通りに接すればいいんだろうか。でもあれ? いつも通りって言うけど私、比企谷君にどういう風に接していた? 笑ってた? 怒ってた?
私はどんなふうに話してた?
「雪ノ下。その……誤解なんだ。聞いてくれ」
「嫌よ。何も聞きたくない」
ようやく口が開いた。けどこんなことしか言えない。
「これは一色の依頼で、俺はあいつに頼まれて」
「聞きたくないって言ってるでしょ!」
こんな大声出したのいつ以来だろうか。姉と喧嘩した時でもこんな大声は出さない。
それだけ聞きたくない。そんな言い訳なんか聞きたくない。さっき言ってたじゃない、一色さんの事が好きって。あれが嘘なわけがでしょ?
それを誤魔化すつもりなの?
「……お願いだから聞いてくれ。違うんだ」
「違う? 何が違うか言ってみなさいよ」
我ながら呆れる言い方だ、聞けば絶対後悔するってわかってるはずなのに。
「俺が告白したことだ。一色が振った男に付きまとわれてるからそいつを諦めさせるために俺が嘘の告白をして、それで……」
それ以上は言わなかった。なるほど、彼女からの告白は彼から見ても予想外の事だったのね。けど話してくれた事で一つ腹正しく思うことがある。
彼は今、嘘の告白をしたと言った。嘘の告白を。
私がそれを聞いて脳裏に浮かんだのは去年の秋。同じ嘘は彼はついた。
もちろん今回は状況が違う。あの時は戸部君と海老名さんの依頼を解決しなければならないということからの告白だ。最も私はあんなやり方を今でも許してはいない。
今回は今の話を聞く限り一色さんが振った人が彼女を付きまとっているということ。それなら別に告白なんかしなくても他にも方法はあっただろう。なのに何で告白なんかしたんだろう。彼に告白させなきゃいけない理由は……彼女が比企谷君に告白したかったから。別に一色さんは修学旅行の件を知らないのだから彼に嘘告白させることには何も思わないかもしれない。
でも私は嫌だった。もうあんな真似はしてほしくない。あんな真似はしないとずっと信じてた。だから最初に告白を聞いた時は本当に彼女の事が好きだと思った。
でも……嘘なの? 比企谷君……あなたは何で……そういうことをするの?
「その……黙っていたことは謝るよ」
謝る? 謝ればいいと思ってるの? それに黙っていたことじゃない。私が怒っているのはあなたが嘘をついて告白したこと。確かに今回は一色さんに付きまとっている人を諦めさせるためなのだから自己犠牲というわけではないのかもしれない。
でもそれは全てが上手くいけばの話でしょう? もしこれでその人が変な噂を流したらあなたは学校での居場所を失くしてしまうかもしれない。本当に一色さんと付き合うことになるかもしれない。それでもいいの?
「……比企谷君」
「何だ」
「……あなたは……この解決方法でよかったと思ってるの?」
「え?」
こんなことを聞いてもしょうがないか。
私は黙って校舎の方へ振り返り、その場から立ち去ろうと歩き出す。
「ま、待ってくれ!雪ノ」
「来ないで!」
彼の足がぴたりと止まる。彼は今どんな顔をしてるのだろう。
でも彼の顔を見れない。だって私もこんな涙を流した顔を見せられないから。
× × ×
雪ノ下の姿が見えなくなってどれくらい経ったかわからなくなった時に予鈴が鳴る音が聞こえる。はっと気づくが授業なんか行く気にならない。
彼女が怒った原因は雪ノ下に怒鳴られ、足が止まった時に気付いた。
俺は何てことをしてしまったんだろう。こんなふうに解決することに対して何で何の疑問も持たなかったのか? 前とは違って自己犠牲じゃないからか?
そして一色が告白してきたこと。あまりの急な出来事に驚いたけどあれは嘘じゃない。彼女が本心で俺に伝えてくれたことだと思う。
「先輩。私は先輩の事が大好きです。私と付き合ってください。お願いします」
好き? あいつが俺の事を……好き?
そんなわけないだろ。あいつは俺の事をただ仕事ができるパシリとか買い物に付き合ってくれる荷物持ちとかとにかく都合よく使ってただけ……だよな。
でもあいつは前に言ってくれた。自分は本物が欲しくなったと。これがあいつの出した本物の答えなのか? でも俺みたいなやつが……何で? 葉山の事が好きなはずだ。まだ諦めないって言ってたし……。
答えがわからなくもやもやするし、苛々する。ひとまずこのまま授業出ても仕方ないのでサボることにしよう。けどその前にこのもやもやを解消してくれそうな人に聞いてみることにするか。俺は携帯を取り出して、電話帳からその人の名前を見つけて、着信ボタンを押す。すぐに電話口から声は聞こえた。
『ひゃっはろー! 比企谷君から電話なんて珍しいね? でもこの時間ってもう授業始まってる時間じゃ』
『雪ノ下さん』
喋っている雪ノ下さんの声を遮って、俺ははっきりと彼女の名前を呟く。こんな重い声は今まで出したことあっただろうか。
『一つ聞きたいことあるんですけどいいですか?』
『いいよ。どうやら真面目な話なようだし』
『ありがとうございます。では単刀直入に聞きますが……俺なんかを好きになってくれる人がいると思いますか?』
こんな質問をするなんてどれだけ自意識過剰なんだろう。
返答は少し間があったがきちんと返ってきた。
『どういう事情かは聞かない。でも一つだけ言えるのは君は自分のことを下に見過ぎている。少なくとも私は知ってるよ。君の事を好きだと思ってる人を』
その後に彼女はだからさと、つけ加えて、
『もうそろそろ気付かないふりするのやめなよ? 自分を言い訳しても結局は逃げられないんだからさ』
それだけ言って電話は切れた。携帯を下ろして空を見上げる。
雪ノ下さんが言ったことに対して何も思わない。だってそうだろ。
全部本当のことなんだから。
× × ×
翌日。俺は普通に学校に来た。昨日はあれから学校サボって、適当にブラついてた。もちろん補導されないか警戒はしたがおまわりさんとすれ違っても、何も言われないしそれどころ眼中にされない。影薄いのかな、俺。
由比ヶ浜や小町からは色々聞かれたがもちろん無視。言えるわけがないのだから。
そして今日を迎え、何事もなかったかのようにいつも通り登校する。朝礼も終わり、授業の準備をしようとしたところでその人は俺の机の元に来て、腕を組みながら見ろして立っていた。
「さてと昨日休んだ言い訳を聞こうか?」
「い、いやその……風邪といいますか」
「そうか、風邪か。ではあれか。昨日目つきが悪いうちの制服を着た高校生が昼間から街をうろついていたという通報と何の関係もないのだな?」
「すいませんでしたぁ!」
バレてないと思ったのは俺だけでどうやらきちんと報告済みでした。
「まあいい。その話はあとだ。それより雪ノ下から今日連絡あったか?」
「いえ来てないですけど」
俺だって連絡取りたいがアドレスも電話番号も知らない。小町に聞こうにも絶対理由聞かれるから話せないし。
「今日来てなくてな。何の連絡もないし、こちらから連絡しても繋がらない。なので放課後様子を見に行ってくれないか?」
「……はい」
俺が答えると先生はそのまま教室を出て行った。すぐに俺は立ち上がり、由比ヶ浜の机の元へと行く。
「ちょっといいか?」
「うん?どしたの?」
「雪ノ下休みらしいんだけど……何か聞いてないか?」
「ううん。何も」
由比ヶ浜にも連絡してないか。こうなったら見に行くしかないか。もちろん俺一人じゃ入れてくれないだろう。なので、
「今日授業終わったらあいつの家に様子見に行かないか?」
「うん! でもゆきのん何で休んでるんだろう……」
頼むから昨日の事と無関係であってほしい。
そう願わずにはいられないがいずれにせよ俺は彼女に謝らなければいけない。
そして……聞かなきゃいけないことがある。
お久しぶりです。
ここ数日旅行とかで海外行ってたのでほとんど更新してませんでした。
てなわけで久々の更新です。
少しアンチめいたことになってますが
一応物語上ではアンチのつもりで作ってるつもりはありません。
今後のストーリー上でもこんな感じのシーンが
出てくる可能性はありますがそれはあくまで物語上の演出だと
考えて頂ければと思います。
またいつもコメント、評価のほうありがとうございます。
今後共よろしくお願いします。