雪ノ下雪乃は素直になりたい。   作:コウT

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好きだから迷う Ⅱ

「初めまして……比企谷八幡です」

「初めまして、雪乃の父です」

「こんばんは、比企谷さん。お久しぶりです」

「お、お久しぶりです」

 

 

 緊張しているせいか思ったように話せないし、早口になってしまっている。

 つい先程、雪ノ下に今日のミッション内容を伝えられ、唖然としているところにいきなりやってきた雪ノ下ご夫妻。すぐにテーブルに座り、俺の目の前にお父様。その隣にお母様。そして姉である雪ノ下さんが俺の左隣で、右隣が雪ノ下だ。こうして現在雪ノ下家の花火大会鑑賞イベントに急遽参加になってしまった。

 

 

「いやーいつもは忙しくて中々顔を見せることはできないのだが今年は雪乃も参加すると言うし、それに比企谷君も来てくれるということだからうまく時間を調整したんだよ」

「き、恐縮です」

「この人、一度でいいから会って、話をしてみたいってずっと言うものだから。ごめんなさいね、比企谷さん」

「いえこちらこそお呼び頂いて……」

 

 

 こういう時ってどういう風に話せばいいのかわからないし、むしろ話を振った方がいいのかもわからん。ま、まあでも失礼はないと思うし大丈夫なはずだ。

 

「あ、比企谷君。そろそろ花火上がるわよ?」

「あ、ああ。ありがとう雪ノ下」

「いえ……あと一応私以外も全員雪ノ下だからその……」

 

 顔を赤らめながらちらちらとこちらに送る視線。何を言いたいかはわかるが雪ノ下家全員に囲まれているこの状況で隣にいる雪ノ下を名前で呼ばなければならない。

 そしてその事に勘付いたのは俺だけではなかった。

 

「あ、比企谷君。私も雪ノ下なんだけど?」

「雪ノ下さんは雪ノ下さんでいいじゃないですか」

「そしたらお母さんとお父さんも雪ノ下さんだよ? それともお義母さんとお義父さんって呼んでもいいんだよ?」

 

 この人はこの場で何を言っているのだろうか。花火が打ち上がる轟音すら頭に入ってこない。恐る恐るそのお義母さんとお義父さんの方へ顔を向けるとお義母さんは「あらあら」と笑っている様子だったがお義父さんは真顔だった。

 ひいいいい! どうすんだよ、これ! お義父さん、俺の事めっちゃ睨んできてるんだけど!

 

 

「どうしたの? 比企谷君。さっきから顔色が悪いわよ」

「い、いや平気……ゆ、雪乃…..さん」

 

 

 何とか雪ノ下の下の部分だけ呼ばないように雪乃と発した。当然ながら恥ずかしいし、聞いている雪ノ下も顔を赤らめてそっぽを向いた。そして呼んでしまってから気付き、ふと正面に目を向けるとお義父さんが笑っていた。そう笑っているのだ。笑っているのに何故かおぞましいものを感じる。

 ははは、そりゃあ自分の娘が他の男に名前で呼ばれてるのを見れば、世の父親はこうなるな。ちなみにうちなら小町が彼氏をつれてきた瞬間にその彼氏を五体満足で帰さないだろう。

 

 

「さて……それじゃあ私はご挨拶があるから一度離れますね。陽乃、雪乃。あなた達もいらっしゃい」

「はーい。じゃあね、弟君」

「ごめんなさい……すぐに戻れると思うから」

 

 

 そうして女性陣の方々は席から離れていき、俺とお義父さんだけが残された。

 花火はどんどんと打ちあがり、今は演出の一つで花をモチーフにした花火が上がっている。とりあえず俺は真剣に花火を見た。お義父さんには失礼だと思うけど少なくともこの空気で発言するのはどう考えても地雷だからだ。

 

「……比企谷君」

「は、はい!」

「雪乃から聞いたのだが君はこれまで部活動の一環で色んな人を救ってきたということだがよければ聞かせてくれないか? 今まで君がどのように救ってきたのか興味あるんだ」

 

 ま、まじですか? 俺にこれまでの黒歴史を語れとおっしゃるんですか!?

 何とか助け舟を出してもらいたいがここには俺とお義父さんしかいない。いやでもねぇ……。

 

 

「言いたくないのなら別にいいんだが……」

「い、いえ! そういうわけでは」

「そうか。ではお願いできるかな」

 

 もうここまで来たら仕方ない。話をしてる最中はいつでも逃げる準備だけはしておこう。特にここ最近の話をする時は要注意しながら見ておかないと。

 そうして俺の奉仕部での武勇伝が語られることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう……つまりあれだな。ちょっと前に娘がヒステリック気味になったのは君が原因で、現在も娘のマンションに入り浸っているにも関わらず、自分の気持ちを伝えずにずるずると引きずっている状況ということかね」

「本当にすいませんでしたぁ!」

 

 お義父さんのドスの効いた声に圧倒され、残念ながら逃げることはできず、かと言って話を辞めることもできないので現在に至るまですべてを語らせて頂いた。

 

 

「しかし今は娘を大事に思ってくれている。そして娘からもう一度信頼されるように努力をしている。なるほど……」

 

 ご理解してくれたようだったがさっきよりも空気が重くなった。しかしお義父さんはその空気に臆することなく、口を開く。

 

 

「私は雪乃に本当に甘くてね。何というか――頼られるとどうしても駄目なんだ。妻には止められているけれど買ってと言われれば何でも買うし、連れて行けと言われればどこにでも連れてくし」

 

 でしょうね。娘にマンションを用意しちゃうくらいですし。

 

「陽乃は家に帰ってくるから日頃の話とかも聞けるのだが、雪乃は一人暮らしを始めてからほとんど帰ってこなくてね……。雪乃が高校でどういう生活を送っているか気になってはいたが今まで陽乃からの話しか聞けなかったんだ。だから今日は君とどうしても話したかった」

「……俺なんかじゃ全部は伝わりませんよ。俺とあいつは友達じゃありませんから」

「だとしてもだ。雪乃が君の事を特別視しているくらいはわかってる。君達二人がどういう関係なのかは私が口を挟むことではない。でも彼女の事を理解して、彼女の為に動ける人は君だと思っているんだ。比企谷君」

 

 

 さっきのドスの効いた声とは違い、急に優しくなった声に思わず聞き入ってしまう。

 

「こういうことを言うのは恥ずかしいものだが娘の事をよろしく頼むよ。比企谷君」

「――はい」

 

 

 声と共に向けられる真っ直ぐな視線。その視線を逸らすことなく、答えた。

 まあ俺にしては上出来だと思う。娘をよろしく頼むって言われたんだから。

 と、後ろの方から雪ノ下が近づいてくるのが見える。

 

 

「お待たせ。どうやらお話は済んだようね、お父さん」

「ああ。時間をもらって悪かったね」

「いえ。じゃあ比企谷君、行きましょうか」

 

 そう言って、雪ノ下は手を差し伸べてくる。さっきとは違うがそのまま手を握って、立ち上がると雪ノ下は歩き始めた。そのまま席を離れて、どんどん進んで行く。

 

 

「どこに行くんだ?」

「そうね……あまり人がいないところかしら。気にならない方がいいわよね?」

「そうだな」

 

 薄暗い中、雪ノ下の笑った表情が見え、とっさに自分の口元が緩む。

 さっきあんなことを言われたせいか、余計に彼女の事を意識すると恥ずかしくなってくる。

 

 

「このあたりでいいかしら」

 

 そう見渡すと周囲には誰かいる気配もなく、目の前にはぽつんと置かれたベンチが一つ。並んで座るとちょうどアナウンスが流れ、花火が打ち上がり始める。

 

「お父さんと何を話したのかしら?」

「世間話だよ」

「そう。私もお母さんと世間話をしてきたわ。まだ慣れないけれど昔と比べれば、大分話せた気がするわ」

「そうか」

 

 花火の明かりで雪ノ下の顔をはっきり見える。花火を見上げる彼女はいつも以上に綺麗で、色っぽくて……は。いかんいかん、落ち着け、落ち着け。さすがに俺が同じことをすれば台無しだぞ。

 

「比企谷君」

「何だ?」

「そろそろはっきりさせましょう。あの時のお願いが叶ったのかを」

 

 花火の音が響く。色鮮やかな花火が続々と打ちあがっていく。今、打ち上げられているのは牡丹という種類の花火らしい。雪ノ下も俺もその花火を見上げ、お互いの表情はまだ見ない。

 

 

「じゃあ……俺から言うわ」

「ええ。どうぞ」

「お前は――素直になれたと思う。お前の気持ちは一緒にいる時、十分に伝わってくるから、一緒にいるのも恥ずかしい時があるくらいだし」

「それくらいあなたの事が好きってことよ」

「……まあとにかくだ。前みたいに偽ったお前なんかよりも俺は今のお前の方が――好きだ」

「ありがとう。私も好きよ、比企谷君」

 

 続いて打ち上がる花火は大きい円の中に小さい円が描かれている。芯割というらしい。

 

「次は私ね」

「ああ」

「私はもう十分あなたのことを信頼している。あなたが私に信じてもらおうとするために少しずつお互いの距離を縮めていき、積極的に接してくれようとしてた。本当に嬉しかった。だから今ならちゃんと言えるわ」

 

 花火の打ち上がった音が大きく響くがその花火を正面からは見れない。 ようやく俺達は互いに向き合ってたのだから。

 

「私はあなたの事が大好きよ。これからも色々と迷惑かけると思うし、嫌なところを見せてしまうかもしれないけれどあなただから見せれるのよ? 比企谷君」

 

 

 

 そうやっていたずらっぽく微笑む彼女に答えるように微笑んだ。少しずつ距離を近づいていき、顔との距離がゼロになるギリギリのところで目を閉じて――。

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

「今日は実家に帰るから、ここでお別れね」

「ああ。まあ帰ったら適当に連絡くれ」

「ええ。それじゃ」

「じゃあな」

 

 

 手を振り続ける雪乃を手を挙げて、見えなくなるまで見送っている。

 視界からいなくなったのを確認すると、駅の方へと歩き出す。さっきまでの時間は本当に現実だったのか。今でも実感がわからないが一つだけ確かなことは言える。

 

 

 

あいつは特別だと。

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 と、気分よかったところにふと肩を掴まれる。振り向くとスポーツブランド物の黒いTシャツを着た男が険しい顔でこちらを睨んでいた。

 

 

「えーとどちら様ですか?」

「……雪ノ下さんに言い寄る害虫が」

「は?」

 

 

 言われていることが全然理解できないけれど声だけはどこかで聞いたことがある声で、それが誰の声かはある程度の予想がついた。

 

 

「高杉……か?」

「知ってるんだ。俺の事」

「そりゃまあ有名人ですから」

「昔の話だ。雪ノ下さんに振られた後に俺は動画配信を辞めた」

「はあ? お前告った後も配信してただろ?」

「してねえよ」

 

 

 嘘を吐いているようには見えないがもしそうなら数か月前にあんなことにならなかったはずだ。しかしこの場で重要なのはそこではない。

 

 

「で、何の用だ?」

「決まってるだろ。これ以上雪ノ下さんに近づくな。俺はまだ彼女を諦めてはいない」

「あっそ。でも俺みたいな害虫があいつの近くにいても、そんなに気にならないだろ?」

「気にはならねえよ。でもうっとおしいんだ」

 

 

 言ってることが矛盾してるので相手にするだけ無駄。そう思えば簡単だがこいつが雪ノ下に近づかせるのは危険だ。

 

「だったら駆除してみろよ。あいにく今までもそういうふうに言ってくる奴は遠回しにいたけど直接言ってきたのはお前が初めてだからな。その度胸だけは買ってやるよ」

「強気になるなよ? 学校中の嫌われ者の癖に。何でお前なんかの周りに雪ノ下さんや由比ヶ浜さんがいるのかが意味わかんねえよ……!」

 

 

 

 

 挑発には乗ったかは微妙だが少なくとも雪ノ下に害が及ばないようにするには少しでも遠ざけるしかない。もちろんこんなやり方はまた彼女達に切られるかもしれないがこいつを雪乃には近づけさせたくない。だからこれはあいつを助けるためというより自分の為。

 

 

 俺自身がこいつと雪乃を会わせたくないと思っているから。

 

 

 

 





久々の予告ですが
次の章でラストになります。

もう少しイチャつく二人を見たいですがあんまり長過ぎるのも
蛇足と思ったので何とかうまくまとめられたらいいと思ってます。

いつも評価、コメントの方をありがとうございます。

今後共お読み頂けましたら幸いです。


では
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