3月末、私は春休みに入ってからあの動画、というより投稿者である男の言葉にすっかり取り込まれていた。他の動画も見て、私がどのように行動すればいいかを自分なりに研究した。と言っても、世間一般の女子高生の感覚から離れている私がどのような行動すれば比企谷君に振り向いてもらえるか。中々大きな壁と言える。その為にあの人の周りの女性達が比企谷君に接した時、彼がどのような反応をしていたか今一度思い出すことにした。
ます由比ヶ浜さんだが彼女は彼に対するスキンシップが多く、いつも何かと言ってる彼も顔を赤らめながらどこか照れている様子。そして何よりも彼女は自分から彼に好きという気持ちをアピールしている。周りの人から見れば、こちらも恥ずかしくなるくらいアピールしてるが当の本人は全く気付かない。もはや呆れたとしか言いようがない……。
次に一色さん。彼女は本当に要注意しなければならない。スキンシップだけなら由比ヶ浜さんより多いし、何より彼が妹好きということをうまく利用して、何かと二人きりの空間をうまく作っているし、理由をつけては一緒に買い物も行っている。もちろん由比ヶ浜さん同様、彼は文句を言いつつも必ず行ってくれる。何より彼女は私達に向けて、明らかに宣戦布告してきた。まるで自分が一番優位に立っていることを示したかのように。
他にもあげるなら川崎さん、城廻先輩、姉さん。あとは……海老名さんとか三浦さんかしら。鶴見さんと平塚先生は気にしなくて大丈夫……大丈夫よね? 他にも何人か気になる人いるけど簡単に挙げるならこのくらいかしら。
こうして考えると彼の周りは女の子が多すぎる、どう考えてもボッチとかいうレベルじゃない。いつの間にこんなたくさんの女の子と接するようになっていたのだろうか……。
とりあえず私は動画サイトを開き、動画の投稿者ケヤキさんのプロフィールから動画一覧を開く。
まず初めに私は自分の意識改革からと始めなければならないと思い、一つ目の動画をクリックする。
タイトルは【本当にその人の事が好きなのか?】
『はい、どーもこんばんは! 今日も皆さんの恋愛事情に少しでもお力になればと思ってます! さてさっそくですが今日のテーマは本当にその人の事が好きなのか? です。
まあこれに関してはそのまんまの意味と捉えてください。恋愛というのは正直な話、間違いもあります。その時はその人のこと好きだったけどしばらく経ったらなんかどうでもよくなってしまう……なんてことも皆さん身に覚えあるんじゃないでしょうか?』
そんなことはない。私が彼の好意を抱くようになってからその気持ちを忘れたことなんかひと時もない。
『なので、もう一度よく考えてみてください! その人の事が本当に好きなのか? そして何よりその人と付き合ってから自分がその人とどのような人生を送るのか。毎日こまめに連絡も取るのはもちろん、デートにも行くようになりますし、長期休みには旅行とかにも行ったりする機会もあるでしょう。あとは二人でホテ……ご想像にお任せします』
最後の言葉は何を言おうとしたのだろう? 今度調べてみよう。
付き合うことができたら、毎日連絡を取ったり、デートに行ったりする。願ってもないことだ。
『と、まあ色々言いましたが何より大事なのは好きな人と一緒に過ごしていく覚悟があるかどうか! それがあるならあなたはその人に片思いしているということです! というわけで、今日は本当に基礎中の基礎の話なので具体的な行動面の話は次の動画で。それでは皆さんの恋が一日でも早く叶うことを祈って』
一つ目の動画が終わった。本当にこの動画では大したことは得られなかった。ただ私が彼、比企谷八幡の事が好きということを再確認することができたので良しとしよう。
私は次の動画を開いた。タイトルは【好きな人に向けるアプローチ】
『はい、どーもこんばんは! 今日も皆さんの恋愛事情に少しでもお力になればと思ってます! はい、今日のテーマはですね、好きな人に向けるアプローチです。
正直すでにこれは行動を起こしている人もいると思います! しかし! 全員が行動に移せるわけではないと思います! その為に色々と簡単なものから応用のことまで一つ一つ教えていきたいと思ってます」
ようやく行動について学ぶことができる。これで私も一歩前に進むことができる。
『まずですね、自分の持っている武器を確認してください! 武器というのは好きな人との関係や環境等でして、例えば友達や同僚の関係、環境なら同じクラス、職場等色々あると思うのでまずそこを考えてください』
私と彼は……友達ではない。となると、知り合い? 同じ部活の部員? 考えてみれば私と彼ってどういう関係なのかしら。とりあえず部員ということで。
『で、武器を確認したらその武器を生かす方法を考えましょう。例えば同じクラスメイトだった場合ですが、好きな人と同じクラスってだけじゃ正直何も進みません! まずは友達という簡単な関係になるところから始めましょう。一番いい方法は自分の友人やその人の友人も巻き込んで友達関係になるのが一番です! 無理に自分だけで行動すると失敗しますからね』
なるほど。確かにこういうことに疎い私は一人で行動するよりも誰かの協力を得たほうがいい。しかし私が頼れる友達ともいえる存在ですぐ思いつくのは由比ヶ浜さんだ。こんなこと相談できるはずがない。彼女から見れば、もう友人関係なんてとっくの昔に成し得てることなのだから。と、なると一人で動くしかないか……。
『けど! 友人にそういうこと相談できないっていう人いますよね? そしたらこれはもうポピュラーな方法ですがその人を観察しましょう! とにかく観察して、その人と近づくためのヒントを得ます! もちろんそのヒントを得たからとってすぐに行動に移すのではなく、ヒントをうまく利用して近づくことが大事です!』
利用? どういうことなのだろう?
『例えばですね、好きな人が本が好きな場合、恐らくですが本を買いにいくので本屋に行く時があります。ここでその本屋に行ってすれちがうだけでもいいです! とにかくその人と目を合わすなり、簡単に挨拶するだけでもいいので行動してください! そうすることでその人の記憶の中に残りますから! それを続けていくと相手もあなたのことを少し意識するんです、どういう人なのかと。そこまで持ち込むことができるとその後、向こうから声をかけてくる可能性が高いのでこんな感じでヒントを利用していくことで。相手との距離が少しでも縮まるでしょう!』
確かに彼はいつも本を読んでいる。恐らくその本は本屋で購入するのだからその辺は小町さんに聞いて、店の場所を突き止めて、うまく偶然を装えば……よし、今度やってみよう。ただ会ったからと言って、彼の事だからその場で軽く挨拶して帰ろうとするだろう。もちろん引き留めてどこかでお茶するくらいはできるかもしれんがそんなんじゃ駄目だ。
もっと彼が私に意識するようにしないと……。
私はページを戻して、再び動画一覧に戻して次の動画を開く。
今度のタイトルは、【自分の意識変化】
『はい、どーもこんばんは! 今日も皆さんの恋愛事情に少しでもお力になればと思ってます! はい、今日のテーマはですね、自分の意識変化ですね!
皆さんは好きな人が自分のことを好きになるのに、ありのままの自分を出した方がいい! と、思ってるかもしれませんが自分のことを偽ることがまずいことではないんです! 何故ならその人の為に私はここまで変わることができた! ってことを証明することですから悪いことではないのです!』
なるほど、確かに普段の自分とは違う自分を出してみるのも悪くない。けど、私が偽るとしたらどんな感じにすればいいんだろう。
『例えばですが、好きな人にいつも強く当たっちゃったり、冷たくしている人は思い切って優しくなるのではなく、彼の周りにいる人に成りきってみるのはいかがですか?
特に彼と親しい友達よりも先輩や後輩とかのほうが却って、好感度あがるかもしれません」
彼の先輩。というより年上で思いつくのは、城廻先輩と姉さん、あと平塚先生ぐらいしかいない。年下なら後輩の一色さんが一番に思いつく。あとは小町さんもだけどあれは家族だし、鶴見さんはいくら彼でも手を出すようなことはない……はず。
と、なると姉さんと一色さんだけど、姉さんと彼はなんだかんだで悪い仲ではないはずだ。姉さんは彼の事をどことなく気に入っている、もちろんそういう意味ではないけれど。
ただ同時に多少の嫌悪感を彼は抱いているはずだ。姉さんが彼に密着しようとすると、彼はいつも嫌そうに離れる。姉さんみたいになるのは違うわね……。
一方で一色さんはいつもあざとさを武器に、彼と接している。前までは嫌そうな顔をしている時はあったが、最近はもう全然嫌そうじゃない。
そう考えると、私が真似るべきなのは一色さんだが、彼女のようにするってどうすればいいんだろうか。
私は部屋に置いてある姿見の前に立つ。
「せ、せんぱーい……」
とてつもない緊張感で誰もいないのに恥ずかしさを隠しきれない。よくもこんな恥ずかしいことを一色さんはやられものだ。ある意味尊敬する。というより、そもそも私が彼に対して先輩というのはおかしい。呼び方は比企谷君のままでいいとして……もう少し姉さんみたいに言ってみるとか。
「ひ、ひっきがやくーん……」
これも恥ずかしいが、さっきに比べればましだ。よしもう少しリズム良く。
「ひっきがっやくーん」
……不思議とさっきより恥ずかしさがない。よし、この春休みを使って、毎日練習してみよう。言い方は姉さんで、接し方は一色さんみたいにあざとくする。言うならば、二人のいいところだけを合わせた新しい私をこの春休みで作り上げるのだ。
× × ×
それから春休みは動画を見ながら、色々と勉強し、少しでも姉さんと一色さんに近づくために私は恥ずかしさを抑え、新しい自分を作り上げた。
そして、今日は始業式前日。
「ひっきがっやくーん、おはよ! 今日は部活終わったら暇? 私と一緒にお茶しよーよ! ね?」
姿見で毎日練習していたせいかもはや恥ずかしさもない。けど、それはあくまで鏡の前だからであり、実際に比企谷君がどういう反応するかわからない。もしこんな私を見て、嫌ってしまったらどうしよう……ううん。ケヤキさんも言っていた、両想いになるためには覚悟を持ってぶつからなきゃいけないと。
私はパソコンを開いて、動画サイトを開く。いつも通りケヤキさんの動画一覧を開いて、初めの方にある動画を開く。タイトルは【好きかどうかの判断】
『はい、どーもこんばんは! 今日も皆さんの恋愛事情に少しでもお力になればと思ってます! はい、今日のテーマはですね、好きかどうかの判断です!
皆さんが好きな人のことを本当に好きで、付き合いたいと思っているかわからなくなった時があると思います。でもこれは簡単なんです。
その人が他の人と付き合っていると考えて、それをどうでもいいと思うならその程度ということで、もし嫌というのならあなたはもうその人のことが好きなんです』
嫌だ。私は由比ヶ浜さん、一色さんが彼と付き合っていると考えるだけでもおぞましいくらい嫌だ。絶対に負けたくない、私が彼を好きな気持ちは嘘ではないのだから。
× × ×
「また今日からよろしくね! 比企谷君!」
空いた口がふさがらないとは小説の表現の一つと思っていたが、嘘ではなかった。
今、目の前にいる女の子は間違いなく雪ノ下雪乃。雪ノ下雪乃なんだけど……けどいくらなんでもこれは夢だ。こんな言葉づかいで、こんな笑顔なわけがない!
「どしたの? 比企谷君。早く行こうよ」
そう言うと、雪ノ下は俺の手を握って、昇降口の方へと引っ張る。
「ゆ、ゆきのん!?」
「お、おい。なんだよいきなり」
「何って一緒に教室行こうとしてるだけだけど? おかしい?」
くそ! その首を小さく傾げるのやめろ! 可愛いじゃねえか!
「いやべ、別に……」
「なら早くいこ! ね!」
「ね! ってお前国際教養科だからクラス違うだろ」
「でも途中までは一緒がいいじゃん! ね?」
だから、ね? って言われてもね……。
後ろの由比ヶ浜はただただ茫然としながら、その様子を見つめていた。
一体、雪ノ下雪乃に何があったのだろうか?
どーも。バレンタインですが先にあがったのでこちらを。もう片方はpixivの方にあげるかな。
何でゆきのんがああいうことになってしまったかはこんな感じです!
ちなみにまだまだ動画の影響で色々変わった部分があるので、それはまた次のお話で。では